【外国人との不動産取引】そのポイントと成功の秘訣について

地域性もあるのでしょうが、日本における外国人の不動産購入件数が増加しています。

筆者が活動する北海道においても、国際的なスキーリゾートとして知られるニセコ地区などは、もはや日本とは思えない様相です。

積極的に開発を推し進めているのは海外資本で、ホテルや施設利用者の大半も外国人です。

必然的に従事するスタッフも英語が必須とされますから、外国人スタッフの割合も増加します。

ニセコによらず海外投資家にとって日本の不動産は魅力的なようです。

一番の理由は円安による割安感でしょう。

従来、日本の不動産を購入するのは比較的規模の大きな海外資本でしたが、最近では日本の空家を購入し、外国人向けの民泊として利用を検討する個人投資家が増加しています。

2024年3月22日に出入国管理庁が2023年末時点の在留外国人数を、過去最高の341万992人であると発表しました。

それだけをとっても、住まいの提案に関し外国人の存在を無視できないと分かります。

海外メディアでは、日本の安価な住宅を購入して活用する方法などが、その成功事例と共に取り上げられ、投資熱も加速しています。

収益不動産を積極的に扱う不動産会社の多くが、「外国人からの物件問い合わせが増加した」と口を揃えて言っているのですから、それは事実なのでしょう。

もっとも国際体に投資用・事業用不動産の売買を扱うJLL(ジョーンズラングラサール)のレポートによれば、海外投資家による不動産購入としてのインバウンド需要は近年、減少傾向にあるとされています。

ですが依然として海外投資家の注目度が高いのは間違いありません。

そのためSUUMOを始めとする大手不動産情報サイトでは、国際化に対応し市場を拡大することを目的に多言語対応を行なっており、外国人顧客が日本の不動産情報にアクセスできる環境を整備しています。

このような現状ですから、これまで外国人と取引経験のない皆さんのもとに、突然、外国語での問い合わせが入っても不思議ではありません。

その際、"Due to our current language capabilities and lack of experience, we are unable to provide services to non-Japanese clients at this time."(現在の言語能力と経験不足から、現時点では日本国外のクライアントに対応できません)と断るのは、あまり得策とは言えません。

自社の取引件数を活性化させるためには、外国人との不動産取引について備えておく必要があるのです。

その際、一番の障害となるのは言語です。

そもそもの話しとして、自社に語学堪能な社員がいるのか、また日本人であっても難解な契約書の約款や重要事項の説明について、理解させられるほどの語学力を有しているのかと言った問題があります。

不動産業者の集まりでも、「先日、いきなり英語での物件問い合わせがあって困ってしまったよ。英語に堪能な社員もないし、断るしかないよね」なんて話を耳にします。

無論、断るのは皆さんの自由です。

弁護士とは違い、宅建業者には具体的な理由がなくても依頼を断る自由が認められています。

ですがこれからの時代、不動産ビジネスを展開していくうえで外国人との取引を避け続けることはできないかもしれません。

そこで今回は、皆さんが外国人顧客と取引する際に必要なサービスやコミュニケーション、契約方法などの疑問について解説したいと思います。

契約書や重要事項説明書の英文対応は必要ない

外国人との契約だから一連の契約関連書類を英文で作成し、不足している語学力を補うために通訳を手配する必要があると考える方は多いのですが、結論から言えば必要ありません。

無論、それらを手配すること自体、問題ではありません。

必要なのかと問われた場合の回答です。

外国人が取引当事者であっても、売買対象は日本の不動産です。

原則として国内に所在する宅地・建物の売買や賃貸契約などの法律行為については、すべて日本の法律が適用されます(当事者による準拠法の選択がない場合_法の適用に関する通則法_第八条第3項)

国際取引による契約行為については、一つの国、つまり地域の法律を準拠法として定める必要があります。

そもそも馴染のない国の法律に従えば、不測の事態が生じます。

そこで、「本契約は日本法に準拠している以上、不動産取引については宅地建物取引業法及び日本の各関連法規に則り締結される」ことを前提に契約が締結されるのです。

公益社団法人不動産流通推進センターが毎年まとめている「不動産業統計集」を見ても、トラブルの主要原因は重要事項説明が40.4%(R3年)であるとされており、これは例年見られる傾向です。

日本人を相手に、標準書式を利用して説明しても、「説明を受けていない」、「知らなかった」などのクレームが入るのです。それだけ、一般の方にとって重要事項説明書などに記載されている内容は難解だということです。

そのような文書を外国語訳として準備し、さらに通訳を介して外国語で説明したとしても理解は得られるでしょうか?

表現や言い回しを少し間違えただけで、余計なトラブルの原因になりかねません。

実際に外国語訳の書面の要否について、令和3年3月に東京地裁で争われた裁判(東京地裁令和3年3月11日 ウエストロージャパン)があります。

この事件は買主である外国人が通訳を同行してきたことから、マンション分譲業者が日本語で重要事項説明を行ないました。

その結果、説明内容についての認識に相違が生じ、買主が「十分な説明を受けていない」として損害賠償を請求した事案です。

裁判所は「宅地建物取引業者は当該通訳の資質や翻訳内容の正確性、さらに説明内容が買主に理解できるように通訳されているかを判断することは困難である」としたうえで、「宅地建物取引業法においては、日本語を理解していない外国人に対しての重要事項説明を、外国語で行うことまで規定されていない。よって、法的義務があると解することはできない」として、原告の損害賠償請求を退けています。

このケースでは買主である外国人が、自ら通訳を手配したのでこのような判断に落ち着きましたが、例えば被告(マンション分譲業者)が通訳を用意していれば、違った結果に結びついたかも知れません。

「通訳者の選択や、通訳された内容の正確性などに関しての危険については、自ら引き受けるものである」としているからです。通訳を手配しなければならないと考えるのは、自身に語学力が不足しているからです。

したがって、自身が日本語で説明している内容が、正確に通訳されているかどうかを判断できません。

ですが私たちが通訳を手配した場合には、日本の法律や不動産に関して難解な定義などの説明が正確に通訳されているかについての責任は、手配した側が負うことになるからです。

つまり日本語が理解できない外国人購入者にたいしては、自ら通訳を手配してもらうのが正解なのです。

責任はあくまで、購入者に負ってもらうと言うことです。

また契約書や重要事項説明書についても、宅地建物取引業法で義務とされていない以上、無理をして英文書式などを準備する必要はありません。

誤解を与える表現を用いた場合、その責任は作成した側の責任となるからです。

用意するのであれば、参考資料として提示する程度に留めるべきでしょう。

国際対応マニュアルを活用する

前項では外国人と日本の不動産を取引する場合において、こちらから通訳を擁立することは避けるべきと論じました。

その理由についても解説した訳ですが、それでは相手方が同行した通訳にたいし、何らかの措置は必要でしょうか?

国土交通省は平成29年8月に、特に外国人との取引対応の経験が少ない不動産業者向けとして、取引対応時に参照できる基礎的資料の一つとして『不動産事業者のための国際対応マニュアル』を公開しています。

マニュアルでは外国人との不動産取引に関し注意すべきポイントが、細かく記載されています。

取引の予定がなくても、今後、発生する可能性はあるのですから、一度は目を通しておくと良いでしょう。

https://www.mlit.go.jp/common/001201742.pdf

例えば本人確認についての注意点。「犯罪による収益の移転防止に関する法律」に基づき、宅地建物取引業者には、契約締結に先立って本人特定事項、取引目的及び職業(法人の場合は事業内容や実質的支配者の確認)などを確認し、その記録を残すことが義務付けられています。

これは契約当事者が外国人であっても同様です。

日本国内に住居を有しない場合、パスポートや外国政府・国際機関が発行した書類により確認することになりますが、顔写真が確認できない書類を提示された場合、追加としてどのような手順が必要か理解しておく必要があります。

また両手や片手など、媒介に関する商習慣は日本独自のものです(諸外国の多くは、日本の代理に相当します)から、その違いについて予め説明しておかなければ、契約締結時に思わぬトラブルに巻き込まれます。

同様に海外における不動産取引に関する商習慣の違いから、日本の媒介業務に関して詳しい説明を求められることがあります。

そのため、海外の不動産取引に関しての法制度について、予め知っておくと良いでしょう。

海外不動産の法制度については国土交通省の海外建設・不動産市況データベース(https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/kokusai/kensetsu_database/)

もしくは日本貿易振興機構(JRTRO)のウエブサイトで情報を取得できます。

それ以外でも外国人との不動産売買・賃貸契約時には、以下のような点について注意すると良いでしょう。

●契約時の専属的合意管轄裁判所は日本とする。
※日本の不動産について取引を行うのですから、合意管轄裁判所についても日本とすることが大切です(自国の裁判所を合意管轄裁判所にして欲しいとの要望は、以外にも多いものです)

●契約締結時の説明について「日本語で行う」との確認書を、予め作成し取得しておく。
※口頭でその旨を伝達していたのに、契約締結当日に「なぜ通訳も用意していないんだ」とクレームになる話はよく耳にします。契約書面については日本語による説明を行うとの確認と、通訳が必要な場合には自ら選出し同行する旨を作成し、予め取得しておくと良いでしょう。

●通訳が立ち会う場合には、契約書や重要事項説明書に通訳者のサインを求めると同時に、契約当時者である外国人から、あらかじめその旨の委任状を受領しておく。
※先述したように、通訳者の選択や、通訳内容の正確性などに関し私たちが判断できるものではありません。紛争に備える意味でも、予めの委任状の取得と契約書等への通訳者のサインは徹底したほうが良いでしょう。

●海外からの送金手続きについて把握しておく。
外国人が国内に銀行口座を有していない場合、海外からの送金に拠る決済になります。そのため入金予定銀行にたいしては「被仕向送金」の依頼が必要ですし、外国人が日本の不動産の売主である場合には「仕向送金」の依頼が必要となります。どちらも通常の送金手続きではありませんから、取引銀行に確認しての事前準備が肝要です。

●エスクローサービスの利用を検討する。
※物件の引渡と決済の安全性を担保するため、売買代金や登記費用、媒介報酬などを予め信託させ、条件が成就した段階で金銭決済を行うのが「エスクロー」です。日本では三菱UFJ銀行・三井住友銀行・みずほ銀行・りそな銀行などがこのサービスを提供していますが、サービス内容や利用条件、手数料にも違いがありますので、利用を検討する場合には予め調査しておく必要があります。

●税金に関しての説明と、納税管理人についても説明を行う。
日本の不動産を取得するには、契約時の印紙税や登記時の登録免許税のほか、それ以降に納付を要する不動産取得税や固定資産税の納付を要します。購入者が外国人であっても、納付期限などが猶予される訳ではありません。そのため、海外に在住している外国人が税務申告や納税を行うためには納税管理人を専任しておく必要があります。また納税管理人を定めた場合には、不動産の所在地を管轄する税務署長に「納税管理人届出書」を提出する必要があります。これらを怠っても媒介人の責任が追及される訳ではありませんが、税務署から「お尋ね」がくることはあります。予め説明して対処するよう説明しておくと良いでしょう。

●登記に必要な住民票・印鑑証明に代わる書類を把握しておく。
※国によっては日本と同様の住民登録制度を有しており、その場合、当該国が発行した公的な登録証明書が利用できます。それ以外の場合、宣誓供述書を準備して、各国の所属公証人による認証を得ておく必要があります。時間のかかる作業となりますので、予め当該大使領事館に確認しておくと良いでしょう。

●司法書士選びも一工夫が必要
※ご存じのように、日本の登記における公信力(登記された情報が、信頼性の高いものであると認められる効果)については諸説あります。ですが海外では、公信力のある登記制度を採用している国もあります。その違いについては、司法書士に説明してもらうのが一番でしょう。登記についての必要書類にも違いがありますから、外国人と取引をする際の司法書士については、取引に長けた司法書士に依頼するのが最良です。

 

活用できる公開情報は大いに利用する

外国人との不動産取引は売買だけではありません、むしろ賃貸の方が圧倒的に多いでしょう。

その場合、生活習慣の違いによる軋轢や、それを不安視する賃貸人の受け入れ拒否などの問題が生じます。

そのような賃貸に関する外国人との賃貸契約については、国土交通省から公開されている『外国人の民間賃貸住宅入居円滑化ガイドライン』(https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000017.html)を参考にすると良いでしょう。

ガイドラインは外国人の民間賃貸住宅への円滑な入居を目的に、賃貸人、仲介業者、管理会社にたいする実務対応マニュアルとして作成されていますが、契約書見本(入居申込書、重要事項説明書、賃貸住宅標準契約書等)は英語、中国語、韓国語など日本を含めれば14カ国後で提供されています。

また賃貸人向けに外国人を受け入れる際のポイントをまとめた『大家さん、不動産事業者のための外国人の受け入れガイド』も参考になるでしょう。

これには外国人受け入れに際し、活用できるサイトをまとめた「お役立ち情報」も掲載されていますので、プリントして賃貸オーナーに渡すと良いでしょう。

それ以外にも、日本で部屋探しをする外国人向けに提供されている『部屋探しのガイドブック』も14カ国語で公開されていますので、こちらも活用したいものです。

また退去時の原状回復については、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が策定された以降も、依然として国民生活センターなどに相談が多数寄せられていますが、商習慣や生活スタイル、言語がことなる外国人との間においてはさらなるトラブルが懸念されます。

そのため日本における原状回復の考え方をまとめた『賃貸住宅を退去する時の原状回復のポイント』、及び入居時と退去時の物件状況を確認するための『入退去時の物件状況及び原状回復確認リスト』についても14カ国後で提供されています。

遵守すべきは日本語の法令

受け入れ経験のない賃貸人が外国人の入居に懸念を示すのは、生活習慣の違いなどによるトラブルの発生を懸念するからです。

実施に外国人入居者とのトラブル傾向を見ると、騒音、違法駐車・駐輪、ゴミ出しが上位となっており、管理面では家賃滞納、敷金精算・原状回復、賃料見直しの順で多くなっています。

このようなトラブルを事前に防止するには、事前のルール説明を徹底することが大切です。

また、契約書等に記載されている各専門用語は一般の日本人でも難解なものですから、それらを適切に表現するため不動産用語や日本の法令の英語訳を準備しておくと良いでしょう。

その際には法務省から公開されている日本法令外国語訳データベースシステム(https://www.japaneselawtranslation.go.jp/ja)が参考になります。

また先述した『不動産事業者のための国際対応マニュアル』にも、不動産用語・表現の参考英訳集が掲載されています。

契約当事者が通訳を手配したとしても、法律などに関しての訳が適切であるとは限りません。

法律用語に関しての知見がなければ適切に置き換えられないからです。

そのような場合に備え、契約締結時には参考英訳集をプリントするなどして準備しておくと良いでしょう。

ただし、注意点が一つあります。

法的な効力を有するのは、日本語の法令自体だということです。

外国語に訳した契約書等を準備した場合も同様ですが、英訳はあくまで参考資料に過ぎません。

日本語と多言語による説明は、必ずしも一対一の対応にはならないことに留意する必要があります。

外国人向けに不動産情報サービスを提供する民間企業が実施したアンケート調査結果が、国際対応マニュアルに掲載されています、それを見ると、外国人は説明を受けても、とくに不動産の所有・利用に関する権利の種類(区分所有や借地など)や租税、各種費用のほか重要事項説明について難解だと回答しています。

これらは日本人でも理解が難しい分野ですから、外国人なら尚更でしょう。

ですが将来的なトラブルを回避する意味でも、当事者の理解が少しでも及ぶよう対応する必要があるのです。

まとめ

筆者はこれまで複数回、外国人を買主として売買契約を締結した経験があります。

これ自体は別段、珍しいことではありませんが、物件価格が相応に高額であったことと、購入者が手広くビジネスを展開している方々であったことも影響したのか、かなりのハードネゴシエーター(交渉において非常に強硬な立場を取る人物)ばかりでした。

重要事項説明時には、一言一句にたいする詳細な説明を求められ、あげく「その解釈は日本の法令自体に問題がある」と糾弾され、重要事項説明と契約書の説明だけで一日およそ7時間、それを3日間続け、ようやく契約を締結できた思い出があります。

極端な例かも知れませんが、厳格な契約社会である他国においては自身の権利や考えを主張するのは当然であり、納得できない契約は締結できないとの考えは程度の違いはあれど一般的です。

グローバル社会が進展する現在、私たち不動産業者も日本人だけを相手にする事業展開だけではやがて疲弊していく可能性があります。

たとえ自身の言語力に自信がなくても、日本の不動産を外国人に販売(賃貸)する分には、今回、解説したポイントを理解して事前準備を怠らなければ、別段、難しいものではないのです。

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