皆さんは『不動産情報ライブラリ』を、お試しになりましたか?
不動産情報ライブラリは、国土交通省が2024年4月1日に運用が開始された、不動産取引の際に参考となる各種情報を表示できるWebGISシステムです。
目的は円滑な不動産取引を促進することですが、一元表示できる情報が秀逸です。
一物四価(一つの土地にたいし、公示、固定資産評価、相続税評価、実勢、4つの価格が存在することの意)はもちろん、周辺公共施設や防災情報のほか、都市計画、将来推計人口まで表示できます。
これらの情報は、インターフェイスを行き来すれば不動産情報ライブラリによらず取得できる情報ではありますが、手間が省けるので業務効率が上がります。
しかもパソコンだけではなく、スマートフォンやタブレットによる閲覧にも対応しています。
物件調査や商談時など、アイディア次第で様々な活用が可能になります。
ですが、一般の方がこのような情報を簡易的に入手できる環境が提供されることで、私たちには、それらの情報について正確に説明できるスキルが求められます。
情報格差の是正や均一化は社会的希求ですから、抗う余地はありません。
しかし基礎的な知識に欠けていれば、偏った認識や思考の単一化が懸念されます。
例えば不動産情報ライブラリで近隣の取引価格情報を閲覧した顧客から「自分で調べてみたけれど、近所に〇〇万円で契約されている事例があるじゃないか」と言われた場合などです。
この場合、不動産の売買事例はあくまで目安であり、時期や条件、間取りや築年数などの諸条件により変化することを、一から説明しなければなりません。
「売買事例=近隣相場」ではない、私たちなら当然に理解していることです。
ですが一般の方は、「近隣がこの価格で売れたならウチもこれぐらいの価格で……」と、単純に考えてしまいがちです。
誰もが利用できる秀逸なプラットフォームだからこそ、私たちは有効に活用すると共に、顧客が利用した場合に備えておく必要があるのです。
不動産情報ライブラリの利用方法
不動産情報ライブラリへは下記URLから利用できます。
https://www.reinfolib.mlit.go.jp/
登録不要(ただしAPIデータを利用する場合は利用者登録が必要です)で利用でき、冒頭で解説したようにパソコンだけではなくスマートフォンやタブレットでも利用できます。
消費者が旅行などの出先で、「この辺りの不動産って幾らぐらいするんだろう」とか、「防災関連は大丈夫なのかな」とか、「近くに公共施設はあるのかな」などの情報が瞬時に得られるのです。
提供される情報は価格、地形、防災、周辺施設、都市計画、人口情報となっており、私たちが調査する際にも有効な情報が提供されています。
日頃から各種のプラットフォームを活用している皆さんなら、感覚的に利用していればすぐに使いこなせるようになるでしょう。
国土地理院から公開されている「重ねるハザードマップ」でも同様の表示はできますが、洪水や土砂災害、地形分類など、あくまで国土地理院が管轄している情報を重ねて表示できるに過ぎません。
小学校区や医療機関、避難施設や陰影起伏など、必要な情報だけを重ねて地図上に表示できるのですから、調査業務ばかりではなく、内見時において顧客に情報提供するのに有効なのです。
なぜ不動産情報ライブラリが公開されたのか
不動産の購入・賃貸を問わず、消費者は価格情報以外に、周辺公共施設や学区、防災に関する情報を重視して選択していることが多いものです。
不動産情報ライブラリを利用しなくても、これらの情報は様々な主体から様々な形式で公開されています。
私たちは物件調査や査定を行う際、それらを拾い集めてきました。
有償である査定システムの普及が進んだのは、そのような煩わしさを伴わず、短時間で査定額を算出できるからです。
不動産のプロですら、調査には相応の手間が必要です。一般消費者なら尚更でしょう。
安全な不動産取引を活性化させるためには、正確な情報の提供が不可欠です。
そこで一元管理された情報が、パソコンだけではなくスマートフォンやタブレットを利用して、必要な時、瞬時に得られるプラットフォームの構築が急がれたのです。
不動産情報ライブラリは、私たちも有効に活用できるプラットフォームですが、それ以上に一般消費者にとって有益でしょう。
例えば物件購入や転勤などの際、重視する情報が瞬時に手に入るからです。
消費者が不安を感じる防災情報等、必要な情報が一元的に提供されることにより、地域経済の活性化に必要な不動産取引が推進されることに期待が寄せられているのです。
またデジタルトランスフォーメーションによる生産性向上や業務効率化にも貢献が期待されているのです。
一般の方が情報を得ることで派生する問題
情報格差により、機会の不平等や意思決定に関する質の低下、社会的格差が生じます。
また、デジタル化が進展する現在においては、情報リテラシーに格差が生じることで機会損失が避けられなくなります。
健全な社会が維持されていくためには、情報格差の是正が不可欠である。
不動産情報ライブラリは、そのような格差を是正するために構築されたプラットフォームです。
それ自体は有益であり否定するものではありませんが、受け取る側の基礎知識が欠けている場合、提供された情報の曲解や、誤解を招く恐れがあります。
とくに不動産情報ライブラリで提供されている成約事例情報については留意が必要でしょう。
これらの事例が、近隣の相場であると単純に捉えられる可能性があるからです。
私たちが査定時において、相場感を把握するため利用するのはレインズや自社物件の成約事例でしょう。
もっとも、成約金額は時期や規模、築年数や物件の状態、字型や方位など、購入者が意思決定する諸条件により変動します。
これを理解しているからこそ私たちは、通常の査定において取引事例比較法を採用して近隣の成約事例を収集し、事情補正や時点修正のほか地域や個別要因を比較評価して算出するのです。
これができるのも、レインズで提供される成約情報の確度が高いからです。
不動産情報ライブラリでも成約価格が提供されますが、それは「RMI(レインズ・マーケット・インフメーション)」に連動した情報です。
RMIは、国土交通省がレインズの成約情報を、物件を特定ができないよう加工した上で公開しているプラットフォームです。
知りたいエリアの成約価格を知ることはできますが、提供されるのはごく一部の加工された情報のみです。
参考にする程度ならよいのですが、少なくても取引事例比較に必要な情報としては不合格です。
これを理解できていなければ、査定額が不当に低いのではないかなどのクレームが生じそうです。
この点については注意が必要でしょう。
これによらず情報格差はもはや存在しないのに等しい。
例えば聞き慣れない用語があれば、検索エンジンやデジタル辞書アプリ、AIアシスタントなどを活用すれば瞬時に調べることが可能です。
難解な場合は生成AIを活用すれば、分かりやすく答えてくれる。
SNSで情報交換する方法もあるでしょう。
情報格差の解消は時代の趨勢ですから、今後ますます加速していくでしょう。
営業マンはそれに対応していかなければなりません。
情報が簡単に手には入る時代となり、知識量を誇ることはできなくなりました。
重要とされるのは、実務経験から得た深い知見と、日々の学びにより培われた専門性です。
ですから、単に情報を詰め込むことに意味はありません。
求められているのは、消費者に必要な情報を分かりやすく伝える能力です。
そのためには提供する情報の意味を正しく理解し、顧客の抱える問題や課題にたいし最善の解決策を見出す必要があるのです。
まとめ
情報格差が解消されていく時代、求められるのは「真のプロフェッショナル」です。
不動産業に限らず、どの分野においても同様でしょう。
もはや詰め込み式に増やす情報量は意味を持たないのです。得られた情報を活用し、高い付加価値を生み出せる営業マンが求められているのです。
有益な情報を適切に活用し、実践的な技能と組み合わせ独自のスタイルを構築していく。
そのために日々、自らを研鑽し、実践を通じて学び続ける姿勢を意識する必要があります。
それにより情報過多の時代においても、惑わず生き抜けるプロフェッショナルに近づけるのです。