地方自治法第260条の二から同条四十八で、市区町村の住民が地緑(ちえん_住む土地から生ずる人の繋がり)に基づき構成する団体、いわゆる「地緑団体」について定められています。
地緑団体と言われても響かないかも知れませんが、自治会、町内会、町会などと言われれば合点がいくでしょう。
これらは名称が異なっても、すべて地方自治法に基づき組織された地緑団体です。
設立された団体は市町村長の認可を得ることで、規約範囲内の権利を有すると同時に義務を負うことが定められています。
団体構成の目的は、地域的な共同活動(住民相互の連絡や環境整備、集会施設の維持管理など)を円滑に行うためです。
これらの団体は、認可地緑団体として法人格を有している場合もありますが、ほとんどは法人格を持たない任意団体です。
したがって法律上、何の権利能力も有していません。
もっとも、法人格を有し権利能力があっても加入を強制できません。
法人格の有無によらず、団体への加入は原則として任意だからです。
まれに分譲マンションの管理組合と混同している方を見受けますが、こちらは区分所有法(建物の区分所有等に関する法律)第三条(区分所有者の団体)に基づき形成された団体です。
管理組合を構成すること自体は任意とされていますが、構成要件は「区分所有者全員」との定めがあることから、既に構成されている場合には加入を拒むことができません。
地縁団体との違いについて理解しておく必要があるでしょう。
これを理解していただいたうえで皆さんに質問です。
顧客から、「いきなり自治会役員を名乗る方が訪問してきて加入を迫られました。加入は義務ですか?」などと質問された場合はどう答えれば良いでしょうか。
さらに役員から、「加入しないなら町内会で清掃管理しているゴミステーションを利用しないでくれ」と言われたり、「自治会で運営している祭りへの参加は認めない」と言われたり、およそ嫌がらせとも受け取れるような対応をされたなどと相談された場合です。
今回はそのようなトラブル事例の紹介と同時に、地縁団体の役割について解説します。
日本の地縁団体数
総務省の調査(平成30年4月1日現在)によれば、全国の地縁団体数は296,800団体とされています。
日本の市区町村数は、2023年12月1日現在、総務省調査によると1,883市区町村とされています。
地方行政と密接な関係性を維持しつつ独自の地域コミュニティを形成する地縁団体は、市区町村のおよそ85%をカバーする規模で存在しているのです。
しかし、所在はしているものの、加入者の減少や活動の担い手不足などにより、対応能力の減退が懸念されています。
総務省が600の市区町村に対して実施した調査によると、地縁団体の加入平均数は減少傾向にあります。
加入が減少している原因は、住民のライフスタイルの変化、地域社会におけるつながりの希薄化です。
特に加速が叫ばれるデジタル化が障害になっているようです。
従来の「回覧板」では連携もうまくいかず、電子メールやSNSの活用が検討されていますが、役員の高齢化によりデジタル知識が追いつかないのでしょうか、電子メールやSNSなどを実装している地縁団体数は10%を超えた程度です。
このように、運営自体が困難となっている地縁団体が増加する一方で、地域によっては防災や高齢者・子供の見守りなどの課題を解決するため組織された「地域運営組織」が活動することで注目を浴び、移住者増加などに貢献しているケースも見られます。
地域運営組織は、地縁団体やその連合体が母体となる形で組織されるケースが多く、福祉活動団体や防犯・防災関係団体、老人クラブや子ども関係団体などが参画して様々な活動を行なっています。
具体的な活動として祭り、運動会、音楽会などが多く、それ以外にも各種交流事業や健康づくり、防災訓練などが行われています。加入者減少により単独運営の困難な地縁団体が構成員となり活動しているのです。
このような地域運営組織数は年々増加しており、令和4年の総務省調査によれば全国で7,702団体確認されています。
しかし全国の市区町村数を勘案すれば、運営されているのはごく一部の地域に過ぎません。
地場密着で活動している不動産業者には、地域コミュニティの希薄化や居住ニーズ・ライフスタイルの多様化、消費者の不動産リテラシー(与えられた材料から必要な情報を引き出し活用する能力)の向上などに即応し、対応する能力が求められます。
そのためにも地縁団体について理解を深め、適切な距離感を保ちつつ良好な関係性を維持していく必要があるでしょう。
加入・非加入は自由だが
地域活性化のために不可欠な地縁団体ですが、行き過ぎた活動によりトラブルが発生するケースがあります。
冒頭で紹介した「加入しないのなら、町内会で清掃管理しているゴミステーションを利用しないでください」と言われたケースなどはその典型でしょう。
地縁団体は、加入者相互の福祉・助け合いを目的で設立されており、原則として権利能力を有しません。
したがって強制加入団体には該当しないのです。
契約自由の原則により地縁団体の規約、例えば入退会について自由に決定できると誤解されているケースが見受けられます。
確かに地縁団体の規約については、必ずしも地方自治法の規定に則ることを義務付けられていません。
しかし「正当な理由がない限り、その区域に住所を有する個人の加入を拒んではならない(地方自治法第260条の2第7項)」と定められています。
したがって加入が団体の活動を著しく阻害するなど、社会通念上明らかである場合を除いては拒むことができません。
同様に公序良俗に反することから、本人の退会意志にたいして制約を課すことも許されません。
判例でも、権利能力のない社団である県営住宅の自治会会員は、いつでも一方的意思表示により退会できると判示された事例を確認できます(平成17年4月26日集民 第216号639頁)
また地縁団体が運営管理していることを理由として、未加入者の使用を制限する権利は有していません。
地縁団体の活動は、祭り、運動会など華やかなものばかりではありません。
例えば街路灯の維持管理や害虫駆除、ゴミステーションや公園の清掃など、市区町村への依存では快適な環境が維持できない分野にも及びます。
活動に必要な人的資源は加入者のボランティアで賄われ、清掃道具や交換する電球などの実費は、会員が負担している会費で賄われます。
したがって非加入者がなんらの負担もせず、快適な住環境を享受していることに不満を持つ方が存在するのです。
例えば、ゴミステーションの清掃当番は加入者の持回りで行われている場合、非加入者が利用すれば「協力もせず恩恵だけ受けている」と不公平感を抱いてしまうでしょう。
こうした事情から、「加入者以外はゴミステーションを利用するな」と言い出すケースが起こるのです。
強制はされないが、コミュニケーションの必要性については検討が大切
以前、賃貸マンションに居住している方から「入居してから気がついたんだけれど、賃料の他に町内会費を負担しているようなんだけれど、これって支払いしなければならないのですか?」と質問されたことがあります。
賃貸契約を締結する時点で気がついても良さそうですが、賃貸契約書に町内会費の負担が記載されていたのであれば、これまで支払った分を負担するのは仕方がありません(錯誤を主張することは可能ですが、あまり現実的ではないでしょう)。
しかし前述したように名称によらず地縁団体の加入及び退会は任意です。
現状、町内会費を負担しているのなら、本人が意図せず町内会に加入している状態です。
したがって管理会社や賃貸人に退会する旨を宣言すれば、以後、負担する必要はないでしょう。
もっとも、家賃の他に地縁団体の会費などを徴収しているケースでは、賃貸人が地元に居住して生活している場合がほとんどです。
地縁団体の活動内容を勘案したうえで、賃借人も負担が必要だとして契約自由の原則に基づき賃貸契約書に記載しているのでしょう。
したがって退会を宣言する前に、相談するのが無難です。
地縁団体のほとんどは、無報酬で快適な生活環境を維持するため活動しています。
ですが、あくまで任意団体であり、様々な性格の人々で構成されています。
したがって地縁団体の中には、役員報酬規定を設け時間給を取得したり、行事の度に懇親会と称し、会費で飲食費を賄ったりしているケースも見受けられます。
また役員が会費を横領した事件も珍しくはありません。
役員が持回りのケースでは、新任役員に町内会費の集金業務が回され、回収できない場合、自己負担するケースが常態化しているとの話も聞いたことがあります。
年齢や価値観も異なる人間同士のコミュニティですから、問題が生じるのも仕方がありませんが、私たち不動産業者は法的な外形部分と地縁団体の必要性を勘案したうえで、適切なアドバイスができるよう備えておきたいものです。
まとめ
筆者は、「町内会に加入した方が良いですか?」と質問された場合、活動状況などを調査して問題があるケースを除き加入を推奨しています。
質問される方のほとんどは、新規の住宅購入者です。
賃貸居住者の方は地域貢献に関する意識が希薄な傾向も高く、あまりそのような質問をされることはありません。
物件を購入して居を構えれば、通常、そこを終の住処とします。
自信が快適な住環境を享受するためは、程度の差はあれ地域との関わりが避けられません。
基本的に地縁団体は、どこも加入者減少が悩みの種ですから、新規加入は歓迎されます。
加入すると役員就任や集団清掃活動など、プライベートな時間が割かれる可能性はありますが、ワークライフバランスを考慮しながら適度の距離感で活動していけば良いでしょう。
人間が生活するうえで、他者との関わりを完全に避けることは困難です。
仕事の都合上、役員を引き受けるのが困難なら誠意をもってその旨を説明すれば良いでしょうし、代わりといっては何ですが、時間的に余裕がある時は積極的にゴミ拾いなどの行事に参加すれば良いのです。
結局は、人と人の関わり合いを良好にすることで、快適な生活が得られるということです。