2024年は第七次国土調査事業十箇年計画、いわゆる国土調査の中間期にあたります。
国土調査は、昭和26年に施行された国土調査法及び、昭和37年に施行された国土調査促進特別措置法に基づき実施される、科学的かつ総合的な地積調査です。
調査の目的は、国土を高度にかつ合理的に利用するための基礎データ整備と、地積の明確化を図ることです。
国土調査が行われた地域については、私たち不動産業者が受ける恩恵も大きい。
なぜなら、国土調査による測量結果は、法14条地図として反映されるからです。
地積測量図が存在しない土地を売買する場合、売主負担で測量を行うか、公簿で取引をするかを選択しますが、後者の場合において境界が不明瞭な場合、実測した際の地積増減問題が生じます。
理想は測量してからの取引ですが、その費用は決して安いとは言えません。
一般的な住宅地の現況測量で10~20万円程度、確定測量なら少なくても30~50万円程度は必要になります。
さらに道路や水路との境界が不明瞭であれば、市区町村等の立会が必要とされ、その分、費用も増大します。
隣地所有者の所在が不明な場合においては、さらに費用が増加するでしょう。
このような費用負担を売主が嫌うため、やむなく公簿取引で契約しているのが実情でしょう。
しかし、国土調査が実施されれば、土地の所有者は費用を負担せず、無償で測量成果の恩恵を受けることができるのです。
不動産業者としても、土地の境界問題や増減請求などで右往左往することがなくなるのですから、有り難い話です。
しかし国土調査の進捗率は、調査開始から70年以上を経てもはかばかしいものではありませんでした。
具体的には令和5年度末時点の全体進捗率は53%(優先実施地域に限定した場合は80%)です。
70年以上を経て、全体の約半分。全ての調査が完了するまで、これから70年以上必要なのかと考えてしまいます。
しかし、国土調査が一気に加速する可能性がでてきました。
それが準則第30条関係の「土地境界みなし確認制度」の新設(令和6年6月28日施行)です。
今回は新たに創設された「土地境界みなし確認制度」についての解説を中心に、国土調査の今後について解説します。
土地境界みなし確認制度とは
原則として筆界調査は、土地の所有者及びその他利害関係人などの確認を得て実施されます。
これは、調査主体が行政でも個人でも変わりありません。
しかし、所有者の所在が不明な場合や、調査実施に協力を願う通知を送付しても反応がない場合はかなりの手間が必要になります。
これが、国土調査の円滑な実施を妨げる原因でした。
そこで今回、準則第30条関係として「土地境界みなし確認制度」が新設され、所有者等に筆界案を送付して確認を求め、それにたいする回答が期限までに得られなかった場合、当該所有者等が筆界を確認したものとみなして調査することを可能にしたのです。
具体的な流れとしては、まず対象となる土地所有者にたいし図面や写真、現地立会の確認通知が複数回送付されます。
それによって意思表示が確認されない場合は、筆界案(ひっかいあん)が送付され、それを起算日として20日間、意見の申出等がない場合には「確認を得たものとみなして」調査が実施されます。
その成果は境界が確認できた土地として、登記情報に反映されます。
この方法により、国土調査の加速化が期待されるのです。
忘れてならない、船測法による地籍測量適用区域の追加
改正されたのは土地境界みなし確認制度だけではありません。
近年の測量技術の進展を踏まえ、航測法による地籍測量の適用区域も追加されました。
航測法とは、高精度の空中写真や航空レーザー測量から得られるリモートセンシンクデータを活用した測量手法です。
この手法は第七次国土調査十箇年計画で方向づけが行われ、令和2年度に改正された地積調査作業規定準則に基づき正式に採用されたました。
流れはそれほど複雑ではありません。
まず、現行の公図など、土地筆界に関する情報を可能な限り収集します。
そのうえで、航空レーザー測量や過去の空中写真などから得られた地形・植生・土地利用等の情報を解析し、境界・境界木・境界を示す目標物などを調査します。
さらに現地確認を実施し、現地精通者の証言等に基づく筆界情報や、所有者等が筆界を確認するうえで参考にしている情報を収集します。
これにより得られた情報を総合的に解析し、筆界案と地積調査票を作成し所有者等と協議した結果、その成果として地籍図・地籍簿が作成されるのです。
従来この方法は、精度区分乙二区域(山林及び原野並びにその周辺)及び、乙三区域(乙区域のうち特段の開発が見込まれない区域)に限定されていました。
しかし今般の改正により、農地及びその周辺区域である精度区分乙一区域にまで拡大されたのです。
国土調査により得られる恩恵
国土調査が進展することにより、私たち不動産業者は様々な恩恵を得られます。
具体的には、以下のようなものです。
境界トラブルの解消
根拠を明示するほどの資料が存在しないことで所有者間の思い込や勘違いが発生し、それにより諍いが生じていることが多いものです。
土地境界みなし確認制度では、図面や写真など可能な限りの情報を収集したうえで、専門家による筆界案が提示されることで、トラブルの解消に期待できます。
また地積が明確になれば、それ以降のトラブルが未然に防止できます。
土地の有効活用の促進
地積が不明瞭であるため、再開発事業などの有効な利活用が検討されないケースは多いものです。
地積が明確になることで、土地取引や開発事業の活性化に期待できます。
これにより土地の利用価値も向上しますから、地域全体の経済活動にも貢献することができます。
災害復旧の迅速化
地震による土砂崩れや水害などにより地形が変化しても、地積が明確であれば円滑に復旧が可能です。
最寄りの基準点から座標値を算出して境界を復元することが可能だからです。
災害時の復旧作業が迅速に行われ、被災地の早期復興に期待が持てるのです。
国土調査の進捗状況
国土調査の進捗状況については、令和5年度末時点で全体進捗率が53%(優先実施地域に限定した場合は80%)と解説しました。現在実施されているのは第七次国土調査事業十箇年計画です。
令和4年度末時点の実績を見れば分かりますが、関東では千葉と神奈川、関西方面では大阪、奈良、京都などの進捗率が著しく低いことを確認できます。
第七次計画においては、より調査の実施が困難な都市中心部へと対象地域の重点化を図っていますが、かなり難航しているようです。
実態としての土地取引は都心部の方がはるかに件数も多いのですが、公募取引で行うことが慣習化されており、地積調査の必要性や効果について理解が進んでいないのです。
そのため地積調査実施に向けた機運が高まらないのです。
しかし私たち不動産業者が、先述したような国土調査により得られる恩恵について言及することで、多少なり貢献することは可能です。
ご存じない方も多いのですが、法務局に備えられている地図、いわゆる14条地図(不動産登記法第14条第1項で備え付けが定められた地図。旧17条地図)約432万枚のうち、その7割以上は国土調査による地籍図です。
私たちが不動産調査で取得している地籍図の多くが、国土調査の成果である点について理解する必要があります。
第6次国土調査事業十箇年計画の実績事業量は約1万k㎡でしたが、第七次はその1.5倍もの進捗を目指すよう事業量が設定されています。
これは、先述した土地境界みなし確認制度や船測法による地籍測量適用区域の追加を見越したうえで設定された目標量です。
しかし基本調査こそ順調に進捗しているものの、それ以外の目標値に関しては達成が難しい見込みです。
国土調査の恩恵は、私たち不動産業者も受けられますが、もっとも享受できるのは所有者です。
積年の境界問題が解消できる可能性もありますし、自然災害が発生して地形が変化しても、個人財産の明示として必須の、土地境界が明確に復元できるからです。
まとめ
今回は土地境界みなし確認制度についての解説を中心に、国土調査の進捗状況と課題について解説しました。
国土調査が実施されれば、私たち不動産業者が受ける恩恵は非常に多いものです。
しかし、それ以上に恩恵を受けられるのは所有者です。何より所有者は費用負担せず、無償で自治体が地籍測量をしてくれるのです。
そのため、土地所有者などから「地積調査の説明会が開催されるようなんだけど、参加した方が良いの?」などと相談を受けた場合には、積極的に協力するよう説明する必要があるのです。
そのために私たち不動産業者は、国土調査とは何か、地積が明確になることで所有者にどのような恩恵があるのかなどについて、地積調査の流れを含め理解を深めておく必要があるのです。