【しらなかったでは済まされない】不動産業者なら確実に抑えておきたい消費者契約法について

「消費者の利益を一方的に害する条項は無効」という定めは、不動産業者であれば誰もが理解しているはずの基本的な法理です。しかし、これは宅地建物取引業法によるものではなく、消費者契約法第10条で定められた規定です。

具体的には、次のような定めです。

『消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする』

この規定は、不動産業に携わる者にとって重要です。不動産取引では、宅地建物取引業法や民法、建築基準法、都市計画法など、理解しておくべき法律が多く存在しますが、消費者契約法の理解も不可欠です。

特に、消費者の正当な利益を損なうような不当な内容の特約条項を無効とする消費者契約法第8条から第10条は、確実に理解しておくべき重要な規定です。

なお、契約を無効とする規定は民法にも存在します。例えば、民法第1条2項の「信義則」は、権利の行使や義務の履行に際して、相互に信頼を守り誠意をもって行うことを求めています。また、民法第90条の「公序良俗」では、国家及び社会の秩序や一般利益、道徳的観念に反する行為を無効と規定しています。

このように民法にも無効規定はありますが、消費者契約法は消費者保護に焦点を当てた規定です。消費者と事業者の間には、情報の非対称性や交渉力に差があるため、そこから生じる不利益から消費者を守ることを目的として規定されているのです。したがって、民法とは目的が異なる点に注意が必要です。

これによらず私たち不動産業者には、関連法規が制定された目的まで理解し、適切に業務を遂行することが求められています。ほとんどの不動産業者はこの点を理解しているはずですが、実際には消費者契約法に基づき無効が主張されるトラブルが依然として多いのです。

これら事例では、意図的な法令違反だけではなく、法律の理解不足や説明責任が十分に果たされていないことが原因である場合も多いのです。

今回は、不動産業者が確実に理解しておくべき消費者契約法の規定について解説します。

民法と消費者契約法はどちらが優先される?

新人研修などでよく、「民法にも似たような規定もありますが、どちらを優先すれば良いのでしょうか?」という質問を受けます。

民法は「一般法」です。一般法とは、特定の事項について広く適用される法律であり、例えば民法は、私人間の権利や義務について規定しています。しかし、民法はあくまで一般的な規定であり、特定の分野や事項について細かくは定められていません。そのため、特定の分野に対する詳細な規定として「特別法」が存在するのです。

一般法と特別法が異なる規律を設けている場合、「特別法優先の原則」により、その事柄に関しては特別法が優先されます。この場合、一般法の適用が排除されるのです。

これは法原則であり、法律同士に矛盾や重複がある場合でも適用されます。さらに、「後法優先の原則」もありますが、一般法と特別法の関係性においては、制定時期の前後にかかわらず特別法が優先されます。

したがって、私人間の権利・義務に関して幅広く規定している民法の理解は重要ですが、それと同様もしくはそれ以上、特別法についての理解を深めることが、不動産業者に重要なのです。

断定的判断には注意が必要

民法第521条では、「何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる」と規定されています。これは、「契約自由の原則」とよばれるもので、日本における契約の基本的な考え方です。

しかし、消費者と事業者では情報の非対称性や交渉力に差があるため、この原則だけでは消費者が不利益を被る契約が発生しやすくなります。そこで、「消費者契約法」により、消費者の利益を一方的に害する特約などの効力を否定しているのです。

不動産取引を巡る裁判では、消費者契約法第10条の規定に基づいて契約の有効性が争われることも多いのですが、それ以外にも業者として理解しておくべき規定があります。それが「消費者契約法第4条」で規定された「不実告知」と「断定的判断の提供」です。

消費者契約法第4条のポイント

第1項:重要事項について事実と異なることを告げる「不実告知」の禁止。

第2項:物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し、将来における価格、将来において当該消費者の受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供することの禁止。

「不実告知」とは、事実と異なる情報を提供することです。これは意図的な場合もあれば、調査不足や誤った認識により情報が伝えられるケースもあります。

「断定的判断の提供」とは、将来の変動が不確実な事項について、確実であるかのように説明することです。以下のような営業トークが、これに該当する可能性があります。

「将来、このエリアは開発される可能性が高く、将来的な値上がりに期待できます」

「人気のある地域なので入居者が途切れることはなく、安定した賃料収入が得られるのは、ほぼ確実です」

「将来的に転売すれば、数百万円の利益が得られるかもしれません」

「例え価格が下がっても、損失を出すことはありません」

これらの営業トークは、将来の可能性に基づく説明であり、一見すると問題がないような印象を受けるかもしれません。しかし、このような根拠の薄い内容について、不動産業者が断定的な説明をした場合、消費者が誤解を受ける可能性が高まるのです。

たとえ詐欺的な意図はなくても、業者が「将来における変動が不確実な事項(金利動向、開発計画、不動産市況の展望、将来的な価格の推移)について、断定的な判断の提供」をすると、消費者契約法に基づき契約が取消されるリスクが高まります。

不動産業者には、正確な情報提供のみを行うことが求められるからです。

このようなケースで消費者契約法が適用されている

消費者契約法に基づく裁判例は数多く存在しますが、以下に挙げた事例では、契約の取り消しなどが認められています。消費者保護の重要性が浮き彫りになっています。

1:不動産投資の勧誘により、2件を購入した買主との契約が取り消された事例(東京地判平24.3.27)

判決のポイント
◯市場価格に関する客観的な情報が提供されていなかった。
◯非現実的なシミュレーションを提示した。
◯「ローン返済が月々の小遣い程度で済む」と誤認させる情報提供が行われた。
◯不利益となる事実を告知しなかった。

これらの点に問題であるとして、消費者契約法に基づき契約が無効とされました。

2:敷引きのうち、賃料3ヶ月を超える部分が無効とされた事例(西宮簡裁 平23.8.2)

判決のポイント
◯賃借人に債務不履行がない場合における、敷金を返還しない特約の有効性。
◯敷引金額の上限。
◯敷引き額と設定家賃、更新料、礼金等との関係。

本件では上記ポイントが考慮され、賃料3ヶ月を超える部分の敷引きは、消費者に不利益を与えるものとして無効とされました。

3. 瑕疵担保責任について、引渡から3ヶ月以内とした特約の有効性が争われた事例(東京地判 平22.6.29)

判決のポイント
◯民法で1年以内とされている瑕疵担保責任期間を3ヶ月に短縮したことが、有効とされるか。

瑕疵の発見が困難である土地について期間を短縮することは、売主が事業者である場合、消費者契約法第10条の規定により無効と判断されました。

4. 建売住宅にあらかじめ設置されたLPガス設備について、中途解約に伴うLPガス会社からの補償費請求が無効とされた事例(東京高判 平20.12.17)

判決のポイント
◯LPガス設備の所有権。
◯補償費の性質。

この事例では、物件引渡後におけるLPガス配管や設備の所有権者が曖昧であったことから、物件引渡と同時に物件所有権者に移転したと判断されました。それによりLPガス会社の請求が、消費者契約法第9条1号で規定された損害賠償金に該当するとして無効とされたのです。

しかし、LPガス使用物件では、ガス供給会社が無償で工事を実施し、配管、設備について所有権を有しているケースがあります。そのようなケースでは、本件裁判例は参考にできません。解約時の違約金有無について正確に調査し、その説明を行うことが重要です。

これらの裁判例は、不動産取引において事業者が消費者に対しどのような責任を負うのかが明確に示されています。不実告知や断定的判断の提供には注意が必要なのです。

注意すべきポイント

不動産業者が消費者に対して説明や情報提供を行う際は、正確性と透明性が不可欠です。ここでは、説明時に特に留意すべきポイントについて解説します。

1. 明確な根拠のない発言を避ける。

「このエリアは将来的に値上がりしますか?」といった質問をよく寄せられますが、例えば「これまでの値動きを考えれば、その可能性はありますね」と安易に答えてしまうと、消費者が、担当者は将来の値上がりを断定したと受け取る可能性があります。

模範的な解答としては、「市場の動向次第では価格が変動する可能性はあります」との表現です。同じような内容に見えても、消費者に与える印象は大きく異なります。

2. リスクに関する説明の徹底

リスクに関する説明を避けたがる営業マンは多いものですが、これは危険な行為です。例えば、ローン返済や投資物件の空室リスク、不動産市況低迷による価格下落の可能性など、消費者が不安に感じる部分こそ正確かつ詳細に説明しなければなりません。

各種アンケート調査の結果を見ても消費者は、「不安要素を解消してくれる」担当営業を求めているのです。

リスクについての説明を適切に行うことで、消費者からの信頼を得ることができ、長期的な関係構築にもつながるのです。

3. 情報提供の透明性を確保する

不動産業者は、消費者に対して正確かつ信頼に足る情報を提供する責任があります。特に契約不適合責任や法的な制限に関する説明は、意図的に省略してはなりません。

消費者契約法に反する不実告知や断定的判断の提供を避けるのは当然として、説明が不十分な場合は消費者が後から不満を抱くことが多いため、丁寧に十分な説明を心がける必要があります。

また、専門用語を使用する際は、分かりやすい言葉に置き換えて説明することも重要です。そのように配慮すると同時に、理解の程度を確認しながら説明することで消費者との信頼関係が高められ、トラブル防止に繋がるのです。

まとめ

営業研修でロールプレイングを行った際、こちらの質問の意図を汲み取らず的はずれな説明を一方的にするケースがよく見受けられます。そういったタイプは営業成績が振るわない傾向が高いものです。

反対に、実績を挙げ続ける営業担当者ほど日頃は寡黙で、ここぞというタイミングで必要な説明を的確に行うといった特徴があるものです。

知識が豊富であっても、専門用語の使用は最小限に抑え、誰にでも理解できる形で説明をおこなうため、分かりやすく説得力があります。これは、消費者に信頼される営業担当の理想像と言えるでしょう。

そのような優れた営業担当者は、リスクに関しても適切な説明を行います。今回の消費者契約法の解説や裁判例からも分かるように、誠実に説明責任を果たしていれば、法律に抵触することがほとんどありません。

問題が生じるのは、売るために事実を婉曲するような表現を用いたり、将来の不確実な事柄をあたかも確定した事実であるように説明したからです。これが誤解を生み、トラブルの原因となります。

事業者と消費者には明らかな情報格差があります。この格差を踏まえ、誠実に業務をすることが消費者の信頼を得る鍵であり、法に違反しない営業活動の基本となるのです。

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