【要件クリアが鍵】相続土地国庫帰属制度の現実と対策

令和5年(2023年)4月27日に開始された「相続土地国庫帰属制度」は、所有者不明土地や管理不全土地の発生を予防するために創設されました。

この制度が導入されたことで、「遠方に住んでいるため適切な管理ができない」、「売却したくても買い手がいない」などの理由で土地を持て余している方に、国庫へ帰属させる道が開かれたのです。

法務省の速報値によると、令和6年11月30日現在、累計申込件数は3,008件に達しています。

このうち、帰属が認められた件数は1,089件(約36%)、却下は51件(約1.7%)、不承認は43件(約1.4%)、取下げは452件(約15%)、審査中は1,373件にのぼります。

取下げ及び審査中を除いた帰属率は約92%に達しています。これだけを見ると、制度を利用できる可能性が非常に高いことが分かります。しかし、「申請が認められれば」です。

制度開始から1年半以上が経過した時点での申請件数が3,008件である点に着目すると、利用は限定的であるとの現実が浮かびあがります。

平成28年(2016年)度の地積調査(563市区町村における約62万筆が対象)によれば、登記簿上の所有者不明土地は全体の約20%に達し、これを面積に換算すると約410万haに相当します。

これは国土全体の約20%を占める広さであり、さらに管理不全土地を含めると、その面積はさらに増大することが推測されます。

この深刻な状況を改善するために、令和6年(2024年)4月1日からは相続登記の義務化が過料つきで施行されています。しかし、この制度が進んでもなお、相続土地国庫帰属制度の申請件数が伸び悩んでいるのが現状です。もっとも、実際には申請したくても事前相談で却下されているケースが多いと推測されます。

実際、筆者は制度開始から現在まで70件以上、相続土地国庫帰属制度に関する相談に応じてきました。しかし、是正を行い申請できた土地は、1割にも達していません(4件申請し、うち2件は帰属、残りは審査中です)。

法務省によれば、対面・電話による相談件数は制度開始直後をピークとして、それ以降、毎月1,500件前後の水準で推移しているとされています。単純計算で制度開始から、3万件前後は相談が寄せられているのです。

推定相談件数に対する申請率は10%。つまり、およそ9割の方が相談した時点で申請を諦めざるを得なかった可能性があるのです。

相続土地国庫帰属制度は、管理不全土地や所有者不明土地の増加を抑制するための有効な手段であり、申請要件をクリアできれば高い帰属率が見込まれます。しかし、これが容易ではありません。

今回は、私たちが相談を受け相続土地国庫帰属制度の利用を提案する前に覚えておきたい申請要件について、実例を踏まえ解説します。

申請に必要な基本要件

相続土地国庫帰属制度が利用できる要件は、「相続土地国庫帰属法(相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律)」で規定されています。

具体的には、以下に該当する場合は申請が却下、不承認となります。

A. 申請の段階で直ちに却下とされる5項目(法第2条第3項)

1. 建物が存在する土地
建物が存在する状態で法務局に相談することは可能ですが、申請時には解体され、更地状態となっている必要があります。

2. 担保権や使用収益権が設定されている土地
留置権、先取特権、質権、抵当権の典型担保権のほか、地上権、永小作権、地役権などの権利関係は、抹消してからでないと申請できません。

3. 所有者以外が使用している土地
使用貸借されている土地、道路、墓地内、境内地、水道用地やため池などについては申請が認められません。

4. 土壌が汚染されている土地
土地が特定有害物質に汚染され、法務省令で定める基準値を超えている場合には申請が行えません。

5. 境界が明らかではないため争いが生じている土地
測量や境界確認書の提出は必要ありませんが、法務局が隣接所有者に確認した際に問題が生じている場合、却下されます。

B. 不承認事由5項目(法第5条第1項)

1. 一定の勾配・高さのある崖地
勾配30度以上かつ高さ5m以上の崖地が対象ですが、それ以下でも管理に過分な費用・労力が必要と判断された場合には不承認となります。

2. 土地の管理や処分を阻害する工作物等が存在する場合
廃屋、ブロック塀、放置車両、樹木などの有体物が敷地内に存在する場合。

3. 地中に障害物が存在する場合
建物の基礎、建築資材、古い水道管、浄化槽などが埋まっている場合。

4. 隣地所有者と揉めている状態で、訴訟によらなければ管理・処分ができない土地
境界問題が発生している土地や、他の土地に囲まれて公道に通じていない土地(袋地)も対象外です。

5. その他、通常の管理や処分に過分な費用・労力がかかる土地
土砂崩れ、地割れ、陥没、水害の危険性がある土地や鳥獣、病害虫、その他の動物(クマやイノシシなど)の生息地、整備が必要な森林などが該当します。

これらは申請自体が認められない、または申請しても不承認とされる基本要件です。私たち不動産業者はこれらの要件を正確に理解しておく必要があります。いずれかに該当する場合、申請前に是正すれば承認を得られますが、実際には多大な時間と費用が必要となるケースが多い点に留意すべきです。

法務局への事前相談は必須?

相続土地国庫帰属制度の利用を検討する際には、まず前述した要件に該当していないかを確認し、問題がある場合はそれを是正する必要があります。この制度では、法務局が事前相談に応じる仕組みを提供していますが、相談は申請の必須条件ではありません。

ただし、相談には相応の知見を有する担当者が対応し、持参した資料をもとに見解を示してくれるため、顧客にたいしては、審査手数料の14,000円(土地一筆あたり)を無駄にしないためにも、相談を勧めるのが望ましいでしょう。

なお、相談は本人もしくは家族、親族に限定されているため、第三者である不動産業者は単独(同席は可能)で行えません。

相談はインターネットによる予約制です。相談方法としては法務局または地方法務局(本局)での対面方式、電話相談、ウエブ相談のいずれかを選択できます。ただし、相談内容は以下の対応に限定されます。

◯制度の利用が可能かどうかの確認(問題がある場合の是正方法を含む)
◯作成した申請書類に漏れがないかの確認

相談時間は1回あたり約30分で延長はできません。このため、相談者が持参した資料の範囲内で担当者が見解を述べるにとどまる点には注意が必要です。事前に必要書類や疑問点を整理し、効率的な相談を心がけることが重要です。

是正できるかがポイント

相続土地国庫帰属制度は、有識者から「要件が厳しすぎる」との批判も少なくありません。これは、高齢化や人口減少に伴い、『土地を適切に管理・処分できなくなったことにより管理不全土地が増加する』、これを防止することを目的に制度が創設されたからです。

この趣旨に基づき、単純に土地の権利を国に移転する前に、管理不全状態を解消することが求められるのです。そのため、制度を利用する際には、却下や不承認要件を是正する必要があるのです。

筆者が制度開始後に相談を受けた山林の事例では、生い茂る樹木の伐採が必須とされました。伐採と整地の見積もりは8,000,000円に上り、さらに抜根を希望する場合は追加費用が必要とのことでした。加えて、隣接地からの越境が問題となりました。

法務局に相談したところ、「越境している枝木も剪定してください」との指示がありました。

しかし、隣地の所有者を調査した結果、所有者に辿りつけない、いわゆる「所有者不明土地」であることが判明しました。

令和5年(2023年)4月1日に改正民法が施行され、「境界線を超える竹木が共有の場合、各共有者がその枝を伐採できる(民法第233条第2項関係)」と規定されました。しかし、このケースは越境している枝木は境界線上の樹木に由来するものではありません。

この場合は、改正民法第233第3項に基づき、「所有者を知ることができない、又はその所在を知ることができない」、または「急迫の事情があるとき」に該当するとして、相談者が単独で伐採できると解すことはできます。

しかし、後日紛争が生じる可能性を完全には否定できません。また、隣地が所有者不明の状態では、法務局が隣地所有者に境界関係について確認できません。

このため、法務局に再度相談したところ、「所有権の在否や帰属、その範囲について争いがないことを証明できれば申請は可能」との回答でした。

しかし、実務上所有者が不明な状態で、「争いがない」ことを証明するのは困難です。このケースでは伐採費用や所有者不明に関する法的手続きの手間を考慮し、相談者は申請を断念しました。

このような事例は珍しくありません。

廃屋がある場合には解体して更地にする必要があり、過去に一度も問題が発生したことはなかったのに、申請前に隣地所有者と境界確認を行った際、「ここではなく、向こうの太い木が境界だ」と主張されるケースが頻繁にあります。

管理ができないから国に帰属を願うのですから、境界などどこでも良さそうなものです。しかし、感情的な対立から相隣トラブルが発生することも珍しくはないのです。

まとめ

相続土地国庫帰属制度は、「申請自体は難しくないが、要件を満たすのが非常に困難」という特徴を持っています。しかし、一旦要件を満たせば、土地の国庫帰属が認められる可能性は高いといえます。これは、これまで多数の相談に対応してきた筆者の経験からの見解です。

実務においては、制度の要件を説明しただけで申請を断念されるケースがほとんどです。これは、要件を満たすために多大な費用や労力が必要と予測されるため、そこまでして土地を国に引きとってもらうメリットが見いだせないと考える方が多いからです。

そのため、相続土地国庫帰属制度に関する相談を受ける際には、制度概要を正確に理解し、顧客の状況に応じた適切な助言を行うことが求められます。特に、詳細を十分に把握していないまま「相続土地国庫帰属制度を申請されてはいかがですか」などと軽々しく提案することは避けるべきです。顧客の信頼を損なうだけではなく、不適切な助言が将来的なトラブルを招く可能性があるからです。

顧客の意思決定をサポートするには、制度の概要や注意点を丁寧に説明し、顧客自身が選択肢を理解した上で最善の判断を下せるように支援することが重要です。

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