【改正建築基準法でも解決しない】義務化された省エネ性能と世界基準のギャップ

「改正建築物省エネ法(脱炭素社会の実現に資するための建築部のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律)」は、2022年(令和4年)6月に公布され、2025年(令和7年)4月1日から施行されます。

これにより、2025年4月1日以降に建築確認申請が行われるすべての住宅・非住宅については、断熱等級4への適合が義務付けられます。新築物件に限らず、建築確認の申請が必要な増改築についても断熱等級4への適合が求められます。

改正に伴い、建築士や建築会社は対応に追われていましたが、施行が目前に迫った現在は落ち着きを見せています。しかし、私たち不動産業者はどうでしょう。

例えば、省エネ基準適合の義務化により、建築コストや工程への影響、既存住宅の改修ニーズの高まり、断熱等級について詳細な説明が求められることが想定されます。

そのほかにも、断熱等級が引き上げられた理由や、断熱性能と健康の因果関係、さらには日本の断熱性能が世界基準に対してどの程度の位置にあるのかといった顧客からの質問に対し、的確に説明できる準備は整っているでしょうか。

今回は、施行が迫る省エネ基準適合義務化に向けて、確実に抑えておきたいポイントを抜粋し解説します。

断熱等級と省エネ基準

建築物の断熱性能とは、簡単に言うと「建物からの熱の逃げやすさ」と「建物への日射熱の入りやすさ」の2点で示される指標です。

専門的に言うと、前者が「UA値(外皮熱貫流率)」、後者が「ηAC値(冷房機の平均日射熱取得率)」です。この2つの数値が小さいほど、省エネ性能は高くなります。

日本の国土は南北に細長く地域によって気象条件が異なるため、全国を8つの地域にわけ、地域ごとUA値とηAC値の基準値を定めています。

計算方法まで覚える必要はありませんが、これが断熱性能の基本となるので、確実に押さえていきたいポイントです。顧客に説明する際には、専門用語の使用を避け「外気温の変化による影響の受けにくい建物性能の指標です」と表現するのが良いでしょう。

時々営業の中で、「断熱性能」と「省エネ基準」を混同して説明しているケースを見かけます。たとえば、「この住宅は省エネ基準に適合しているため断熱性能が高く、冷暖房費が割安です」といった説明です。省エネ基準には断熱性能が含まれているため、この説明自体が完全に誤りというわけではありませんが、厳密に言うと、省エネ基準は「外皮性能(断熱性能)」を向上させると同時に、「一次エネルギー消費量」を削減するためエネルギー効率の高い設備機器を導入し、その結果どれだけエネルギーを削減できたかで判断される指標です。

つまり、断熱性能が高くなることで外気温による影響を受けにくくなり、さらに省エネ設備機器(例:高効率冷暖房機器)や創エネ設備(例:太陽光発電)を導入することで、基準値を超えるエネルギー削減が実現できるのです。

2025年4月1日以降義務化される省エネ基準はあくまでベースラインであり、政府は段階的に誘導基準やトップランナー基準へと引き上げを行い、遅くとも2030年までには新築時における義務基準をZEHレベルに引き上げることを目指しています。また、2050年までには、住宅のストック平均でZEH・ZEB水準の省エネ性能が確保されるよう、誘導を強化する予定です。

義務基準としての段階的引き上げは、建築価格に直接的な影響を与えます。建築資材や人件費の高騰により、建築費は上昇していますが、今後、省エネ基準の見直しが行われるたびに建築費が上がっていく可能性もあります。住宅を斡旋する私たち不動産業者は、このような点をしっかりと理解しておく必要があります。

断熱性能の違いで、冷暖房費はどれくらい差がありますか?

改正建築物省エネ法が施行された背景には、地球温暖化の防止や枯渇するエネルギー資源への対応、カーボンニュートラルの実現といった目的があります。「地球温暖化を防止するためには建物性能の引き上げが不可欠であり、これは世界的に取り組むべき喫緊の課題」といった趣旨の報道が頻繁に行われているため、この点について説明を求められることは少ないでしょう。

したがって、顧客が気にするのは、「断熱性能の違いで冷暖房費にどの程度の差が生じるのか」という点です。

実際にハウスメーカーの営業担当は、顧客から『月々の冷暖房費はどれくらいですか?』と頻繁に質問されているでしょう。確かに、断熱性能の違いによって冷暖房費に差が生じるのは事実ですが、具体的な削減額については一概に判断できません。

なぜなら、冷暖房費は断熱性能だけでなく、設備機器の性能や間取り、吹き抜けの有無、設定温度の違いなど、様々な要因によっても変化するからです。

新築物件の場合は、シミュレーション上の暖冷房光熱費が目安として提示されるため、それを示すことで概ねの予測はできます。また、性能ラベルが提示される物件であれば、目安となる光熱費を確認することが可能です。

国土交通省が公開している省エネ住宅に関するパンフレットによると、同一地域で同規模の物件を比較した場合、省エネ基準とZEH基準では、年間で6~12万円の光熱費の差が生じるとしています。しかし、これはあくまでシミュレーションによる試算であり、実際の生活において必ずしもその範囲で収まるとは限りません。

そのため、顧客に対して断熱性能の違いによる優位性を説明する際には、「断熱性能が向上すると冷暖房効率が良くなり、一般的には光熱費が削減されます。しかし、実際の費用は居住環境や生活習慣によって異なります」といった慎重な表現が求められます。断定的な説明をすると、実際の光熱費と差が生じた際にクレームにつながる可能性があるため注意が必要です。

また、断熱等級4への適合が義務化されても、顧客に対してエネルギー消費性能評価書や省エネ性能ラベルを発行する義務はありません。また、旧法では省エネ基準に適合する住宅を建築する際、建築士による説明が義務付けられていましたが、建築物省エネ法改正により、「説明するよう務めなければならない」という努力義務に変更されています。

国土交通省は、エネルギー消費性能評価書などの資料を活用して説明することを推奨していますが、建築士に求められているのは努力義務に過ぎません。そのため、顧客が営業に対して、エネルギー性能向上に関する説明を求める機会が増える可能性があります。

そのような要望に応えるため、営業には相応の知見が求められるのです。

断熱性能と健康の因果関係

省エネ性能は光熱費削減に注目されがちですが、断熱性能の違いが人体に与える影響についても理解を深めておく必要があります。

例えば、年齢や性別、世帯所得や生活習慣などを考慮した研究成果によると、朝の室温が18度未満の住宅に暮らす人は、コレステロール値が基準範囲を超えていたり、心電図に異常所見が確認されたりするケースが多いとの報告がされています。

また、室内の温度差が著しい場合には、ヒートショックを引き起こすリスクが高まります。それ以外にも、捻挫や骨折、さらには難聴などの危険性が増すとされています。

住宅の室温が低くすぎたり高すぎたりする原因の一つは、快適な室温を維持するために多くのエネルギーが必要となり、冷暖房費が高額となるため、住人が機器の使用を控えてしまうことにあります。

その点、省エネ基準を満たす、あるいはそれ以上の断熱性能があれば、快適な室内環境を維持するために必要なエネルギー量を抑えられ、冷暖房を適切に使用しやすくなります。

このような断熱性能と健康の関係についても、理解を深めておくことが重要です。

世界基準から見れば遅れている

2025年4月から省エネ基準が義務化されることもあり、日本が断熱先進国であると誤解している方もいるようです。しかし、残念ながら日本の断熱性能は世界基準から見ると後進国に位置づけられています。

インターネット上では、窓の性能のみを比較して「日本は世界基準と比較して断熱性能が劣る」とする記事が散見されます。しかし、断熱性能が低いのは窓だけではありません。外壁や屋根、導入されている設備機器を含めた省エネルギー性全般において、日本は後進国だと見なされているのです。

例えば、断熱先進国であるEU諸国では、多くの国が最低の断熱基準を等級6以上と定めています。

フランスでは、この基準が「人命を守るために必要な最低限の性能」であると明言しています。

2025年4月から義務化される新築住宅のUA値(外皮熱貫流率)は、東京で0.87W/㎡・kですが、フランスでは0.36W/㎡・k、イギリスは0.42W/㎡・k、ドイツは0.4W/㎡・kが最低基準となっています。つまり、日本で義務化される断熱性能は、断熱先進諸国と比較すれば半分にも満たない水準なのです。

さらに、日本とは異なり、新築よりも既存住宅の有効活用を推奨する欧州(EU+英国)では、エネルギー性能評価書が①3年間の推定光熱費、②改修実施後の節約額を判定する方式で統一されています。ランク数は7~10段階と国によって異なりますが、いずれも日本より厳しい基準が設けられています。

特に、世界に先駆け2006年にEPC(エネルギー性能証明書)の導入を本格化させたフランスでは、売買物件だけではなく賃貸物件に対しても広告時における性能ラベルの表示が義務付けられています。

また、エネルギー性能でGランク以下の物件は賃貸としての運用が禁じられており、Eランク以下の物件を売買する際にはエネルギー性能検査員による監査が義務付けられています。

日本では、省エネ基準の適合義務化に対し「強要しなくても良いのではないか」と疑問視される意見もあります。しかし、断熱先進国と比較すると、日本の基準は極めて低く、加えて断熱性能が低い物件でも売買や賃貸が行えるのです。このような現状を認識すれば、日本が欧州諸国から断熱後進国と見なされていることを理解できるでしょう。

まとめ

個人が所有する不動産の省エネ性能に関して、国がどこまで制限を設けるべきかについては賛否両論あります。

しかし、新築住宅については2030年を目処にZEH水準への引き上げが計画されており、それ以降は太陽光パネルの設置義務化も検討されています。それに先駆け、東京都は2025年4月から、大手ハウスメーカーなどが供給する新築住宅である場合など一定要件を満たす場合の設置を義務付けました。

段階的な省エネ性能の引き上げは、新築住宅だけでなく、一定規模の修繕や増築・改修工事にも適用されます。

また、今後、欧州諸国のように、売買・賃貸を問わず広告時に性能表示が義務化される可能性もあります。さらに、既存住宅の販売時には、住宅性能評価書の提示が義務化される時代が訪れることも考えられます。

このような未来を見据え、私たち不動産業者は省エネ性能に関する知識を早期に学び、対応する準備を整えておくことが重要です。省エネに関する最新情報を把握し、顧客に対して適切なアドバイスをできるように務めることが、今後ますます求められるようになるからです。

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