【内見しない場合は要注意】未内見承諾書の法的効果と契約時の注意点

電子契約により、当事者が一堂に会することなく契約を締結できるようになりました。売主と買主が合意すれば、直接顔を合わせることなく、契約から決済、引き渡しまでを完了することが可能です。さらに、ZoomやGoogle Meetなどのビデオ通話サービスを活用すれば、現地に行かずとも物件の状態をある程度確認できます。

こうした時代背景から、内見をせずに契約が締結されるケースも増えています。売買契約においては依然として少数派ですが、賃貸契約ではその数が増加しています。

とはいえ、内見をせずに契約を締結することは、当事者に不利益が生じる可能性があります。実際に現地で確認しなければ実感できないポイントは無数にあるため、入居後に不満やトラブルが生じる可能性も高まるのです。そのため、一般的な不動産業者は可能な限り内見を推奨するでしょう。

しかし、遠方に居住している購入者や賃借人、または内見のために時間を割けない場合など、希望により内見を省略することはあります。内見は可能な限り実施すべきではありますが、契約における絶対条件ではないからです。

購入者や賃借人が内見せずに契約を希望する場合、業者としては要望を尊重するほかありません。しかし、内見を省略することでトラブルが発生する懸念もあるため、そのリスクを軽減するために特約を設けることが一般的です。

ただし、特約条項を定める際には、宅地建物取引業法、民法、消費者契約法などの法令をじ遵守して、契約当事者に不利益を与えないように配慮する必要があります。

実際、ある不動産業者から『特約内容に納得できないと主張され、契約が締結できなかった。打開策となる表現はないか?』との相談を受けました。同様のトラブルを経験された方も多いのではないでしょうか。

今回は、内見なしで契約を締結する場合に定めるべき特約条項と、それに伴い発生する可能性があるトラブルについて解説します。

国民生活センターも注意喚起している

内見せずに契約を締結する場合でも、不動産情報に掲載されている間取りや内外観写真は確認されることでしょう。しかし、注意すべきは、そこから得たイメージと実際の物件とのギャップです。

株式会社リクルートが実施した2023年「賃貸契約者動向調査(首都圏)」によると、オンライン内見のみで成約した方は21.6%、対面内見と併用した方は29.0%に達しています。

不動産情報にはオール電化やオートロック、追い焚き機能、エアコンなどの設備が列挙されますが、資料だけでは、実際にそれら設備がどのような状態であるかまで確認できません。また、前面道路の交通量や窓から漏れ聞こえてくる音、マンションの場合には上階からの音や隣室からの音なども実際に足を運ばなければ確認できません。

熟練した不動産業者でもオンライン内見や提供された物件情報だけでは、物件の状態を完全に把握することはとできません。一般の方なら尚更です。オンライン内見では精度が大きく落ちることを考慮する必要があるのです。

売買では稀ですが、賃貸物件では提供された図面と実際の間取りが異なることで発生したトラブルが報告されています。これも、内見を実施しなかったことによる弊害ですが、それ以上に多いのが退去時における原状回復に関してのトラブルです。

国土交通省は「原状回復ガイドライン(再改訂版)」で、原状回復の負担割合区分を具体的に示していますが、このガイドラインは入居前に部屋の状態を確認し、書面に残しておくことが前提とされています。内見をしていない場合、証拠を示すことが困難になります。

国民生活センターは内見の重要性を強調し、入居前の状態を証拠として写真に記録することを推奨しています。

人気エリアの賃貸物件は、空室が出た場合すぐに申込まないと埋まってしまうため、内見できない場合があります。また、入居者が居住中である場合や退去後に修繕工事を実施している場合も、内見を実現するのは困難でしょう。

それでも、不動産業者としては、現実とイメージのギャップがトラブルの原因となりうることを理解し、そのリスクを軽減するために必要な対策を講じる必要があります。

未内見による問題が増加

電子契約やリモート内見の利便性は認識しつつも、多くの不動産業者は対面での実施を望んでいるのが実情です。電子契約やリモート内見に伴うリスクを、最も深く理解しているのが不動産業者だからです。

この考え方は、不動産業界のIT化が遅れていると揶揄される原因となっています。しかし、事はそれほど単純ではありません。どれだけ言葉を尽くしても、実際に物件を内見するのと比較して、得られる情報には格段の違いがあります。これは電子契約でも同様です。対面であれば臨機応変に対応できる場面でも、モニターごしではうまくいかないことがあります。

実際、令和4年に東京地裁で未内見承諾書を受けとった上で賃貸借契約を締結した媒介業者に対して、調査説明義務違反が認められ、損害賠償が命じられたたいう裁判例があります。

その事例では、分譲賃貸のマンションを初めて借りる借主が、媒介業者から「学生が物件を探している時期なので、急いで申込みが必要」と説明を受け、内見をせず申込みを行い、未内見承諾書を差し入れました。その後、賃貸借契約が締結されました。

未内見承諾書の概要は、以下の通りです。

●借主は、事情により未内見で契約を締結することに同意し、以下を承諾する証として本書を差し入れる。

1. 実際の賃借物件が募集図面と相違する場合は、現状を優先とする。
2. 前項の事由やイメージとの相違に基づき、賃貸借契約の無効または取り消しを主張しない。

契約締結後、借主は物件に訪れました。しかし、居室はフローリングであると説明を受けていたのにカーペット敷きで、隣室はゴミ屋敷のような状態であることが判明しました。借主はその事実を確認後、入居することなく賃貸借契約を解除し、媒介業者の説明義務違反に関するクレームを主張しました。

媒介業者は媒介手数料の返金に応じましたが、借主は賃料や礼金、慰謝料、弁護士費用(合計約45万円)の支払いを求めて訴訟を提起しました。裁判所は、居室がカーペット敷きであった点、隣室がゴミ屋敷状態であった点いずれもが住環境に重大な影響を与えるとして、これを看過した状態で媒介を行った業者の不法行為を認定、30万円の支払いを命じたのです。

この事件は、内見(リモート内見を含む)を実施していれば、防止できた可能性が高いでしょう。それ以前に、媒介業者が下見を行い、図面との相違や隣室の状態を事前に説明していれば、トラブルを回避できた可能性が高いと思われます。

しかし、繁忙期には多くの人が内見を希望しないと思い込み、管理会社から提供された写真だけで説明を行った結果、トラブルが発生したのです。さらに、「未内見承諾書」を差し入れてもらえば問題は生じないと過信していた可能性もあります。

ただし、「未内見承諾書」については、記載内容や手順に十分な配慮が必要であり、消費費契約法の規定に基づき無効とされる可能性があることについても留意しなければなりません。

未内見承諾書の記載例と取得手順

次の誓約書は、筆者が消費者から「業者にとって都合が良いことばかり記載されているように感じるが、この書面に署名・捺印しても問題は生じませんか」と相談された内容です。

承諾書の法的な有効性は、記載された状況や内容、関連法規などによって異なります。例えば、買付証明書や売渡承諾書は、法的な拘束力を有しないとされます。これは実務上の商慣習として交付される書面だからです。一般の当事者間同士で差し入れたなら、有効性が認められる余地はありますが、媒介業者が関与している場合は宅地建物取引業法の規定が優先されます。つまり、法的な有効性はないと判断されるのです。

この考え方は、判例実務上ほぼ確立しています。

それでは、参考に提示した「未内見承諾書」の記載内容を考察したいと思います。この書面では、消費者が自らの意思で内見を希望しないこと、現況優先であること、図面や説明と実際の物件に相違があっても異議を申し立てない旨が明確に記載されています。この場合、締約不適合責任の免除を了承したと受け取られる可能性があるため、相談者には「不安があれば契約を締結しないことをお勧めします」とアドバイスしました。

「未内見承諾書」に記載する内容について十分に配慮し、消費者に対して適切な説明を行った場合、この書面が有効と判断される可能性はあります。ただし、調査義務が免除されるわけではありません。

内見ができない場合でも、消費者に建物外観や共用部分、周辺環境等の確認を促し、業者自身も周辺環境や騒音トラブルなどを調査した上で、過不足なく説明することが求められます。そのうえで、「未内見承諾書」を差し入れてもらえば、不要なトラブルを防止できる可能性は高まります。

模範的な条項について教えてください

前項で解説したように、承諾書の法的有効性は、記載内容や作成時の状況によって異なります。内見を勧めても顧客が応じず、契約を締結する意向を示した場合、その判断は顧客自身の意志に基づくものです。業者としてはその意志を尊重するほかなく、適切な調査・説明責任を果たしたうえで、「未内見承諾書」に記載を求め、契約の締結に応じる必要があります。

ただし、「未内見承諾書」のフォーマットは不動産保証協会などから提供されていないため、各社が独自に作成しています。そのため、記載内容に問題がないか不安を抱く業者も多く、筆者にも内容の精査が依頼されます。

多くは契約書の特約条項に関する相談ですが、それ以外にも承諾書、覚書、確認書、同意書など様々な書面について相談を受けることがあります。

その際、宅地建物取引業法、民法、消費者契約法などの観点から法的に問題が生じないよう、記載内容を校正しますが、時に、書面を作成する目的と名称に違和感を覚えることがあります。つまり、書面名称に関する理解が不十分なのです。私たちは、文書の形式や目的を最低限理解しておくことが重要です。以下に、よく作成される文書の違いについて説明します。

◯承諾書:相手方の申し出や提案に対し、その内容を理解し受け入れる意志を示す書面
◯合意書:当事者間で特定の事項について合意した内容を明確にする書面
◯同意書:特定の行為や状況に対して賛成または許可する意志を示す書面
◯覚書:当事者間で合意した内容や確認した事項を、後日のために記録しておく書面
◯確認書:特定の事実や状況を確認し、その内容を記録する書面
◯誓約書:特定の行為を行う、あるいは行わないことを約束する書面

これらの書面は、いずれも私文書として取り交わされることが多いため、名称は目安に過ぎません。重要なのは記載内容です。書面の内容や作成された状況によって、その法的効果は大きく異なります。

その観点から、「未内見承諾書」を作成する場合、以下の模範的な条項を盛り込むことをお勧めします。

掲載した第2項について、修繕や交換、損害賠償できる権利を放棄する旨の記載と、契約不適合責任を請求できる旨の記載が相反しているように思われるかもしれません。しかし、この表現は、通常の劣化や軽微な不具合の請求権を放棄しつつ、契約の目的を達成できない重大な不具合については請求権を有するという趣旨です。つまり、請求できる範囲を明確にするための表現です。

あくまで調査義務を果たし、適切な説明を実施したうえで、例示した条項を盛り込んだ「未内見承諾書」を差し入れて貰えば、後日紛争を防止できる可能性が高まります。

まとめ

オンライン内見や電子的契約が広く普及するには、まだ相応の時間を要するでしょう。既に取り入れている先進的な業者はありますが、その数は少数派です。

国土交通省の調査によると、電子契約を希望する顧客は増えているものの、依然として対応していない業者が多く、システム導入済みの会社でも、対面取引と違い臨機応変に対応できないという課題があります。また、事前承諾の煩わしさや、共同媒介における非対応業者との調整など課題も多く、様々な理由から「結局は紙が一番」と感じる業者が多いのです。

電子契約を実施した顧客の満足度は高いとされていますが、業者側には改善すべき点も多いのが現実です。オンライン内見も同様で、本来注目すべきポイントが営業担当の知見で左右されるなど、多くの課題が残されています。

不動産契約のリスクを十分に理解している業者は、利便性だけでオンライン契約に飛びつくわけにはいきません。特に、成人年齢の引き下げにより、18歳で親の承諾なしに契約できるようになったのは大きな変化です。若年層は経験則に乏しく、イメージ優先で意思決定をする傾向があるからです。

私たちは、適切な調査や説明責任を果たしている限り、糾弾されることはありません。しかし、トラブルを防ぐにはもう一歩踏み込んだ対策が必要です。特に「未内見承諾書」などの私文書に関しては、正確に理解し、適切に利用することが不可欠です。業界全体で新たな技術や手法に対応しつつ、消費者の保護について考慮することが求められているのです。

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