【2025年以降の既存住宅市場を読む】媒介業者が抑えるべき住宅の省エネ性能

住宅の新築や購入を検討する際、多くの方は価格を筆頭に、立地、利便性、建物や土地の面積、間取りなど、多岐にわたる要素を考慮します。

しかし近年、エネルギー価格の高騰を背景に、断熱・気密性能への注目が急速に高まっています。

かつては大手ハウスメーカー各社が自社商品の性能を全面に押し出し、中小工務店もこれに追随する形で、新築市場は性能の優劣を競い合う状態が続いていました。

しかし、2025年4月1日に施行された改正建築基準法により、この状況は一変しました。

これまで適用された4号特例が廃止され、一般的な住宅の大半が新2号(200㎡以下の平屋は新3号)に分類されることになったからです。

これにより、建築確認申請時の審査は省略されず、簡易な構造計算(許容応力度計算)に加え、「建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律(建築物省エネ法)」に基づく省エネ図書の提出が不可欠となりました。

つまり、優劣を競わずとも、新たに建築されるすべての住宅が、最低でも省エネ基準を満たす状態となったのです。

さらに、遅くとも2030年までには、現行の省エネ基準をZEH(ゼロエネルギハウス)・ZEB(ゼロエネルギービル)水準まで引き上げることが予定されています。

2024年からは建築物の販売・賃貸事業者に対して、販売等の際に省エネ性能の表示が求められるようになりました。

ただし、現時点では努力義務であるため、まだ十分に浸透しているとは言えません。

また、所定のラベルを掲載した場合でも、宅地建物取引業者にはラベルの内容や性能による優位性について、詳細に説明することが義務とされてはいません。

そのため、「一次エネルギーって何ですか?」と質問されても答えられず、なぜ性能の違いによってエネルギー消費量が変化するのかといった説明も、満足にできない方が多いのです。

しかし、現行法においても、新築時や建築確認申請書の提出を必要とする規模の増改築においては省エネ基準への適合が義務付けられており、2030年にはZEH・ZEB水準への引き上げが予定されているのですから、知らないでは通用しない時代が目の前まできているのです。

この流れを踏まえると、売買・賃貸を問わず媒介業者には、断熱・気密性能に関して専門的な知見を備えておくことが不可欠と言えるでしょう。

そもそも、住宅性能が重視される現代において、自らが手掛ける物件に関し詳細に説明することは当然の責務です。

少なくても、以下の点については顧客に明確に説明できるだけの知見が求められます。

●住宅性能が重視される背景
●性能によるエネルギーコストの変化
●高性能住宅に住まう際の注意点

これらの知識は、顧客への適切な情報提供だけでなく、今後の住宅市場の変化に対応するためにも不可欠です。

本稿では、これらの内容について詳述します。

省エネ性能が注目される背景と歴史的変遷

建物の省エネ性を語るうえで欠かせないのが、「外皮平均熱貫流率(Ua値)」と「一次エネルギー消費量(BEI値)」です。これらに加え、本来であれば「隙間相当面積(C値)」も重要な要素とされます。

つまり、隙間がなく断熱性能の高い住宅に、省エネタイプの冷暖房機器や照明、家電などを導入すれば、快適な暮らしと省エネが両立できるという考えです。

しかしながら、重要であるはずの「隙間相当面積(C値)」は、省エネ基準やZEHの要件とされていません。

これは、構造(木造と鉄骨造)の違いによって一定水準の確保が困難であることや、木造であっても気密性能を担保するには手間がかかることが要因です。

また、気密測定は工事が一定段階まで進捗していなければ測定できず、検査機関がその実施を掌握することが難しいことも理由と推定されています。

例えば、冬季間の暖房が必須である北海道の研究データによると、1980年前後まで住宅全体の隙間合計は新聞紙一枚程度の大きさでしたが、1990年後半にはA4用紙一枚程度まで減少し、近年では施工精度の高い建築会社であれば名刺1枚以下の隙間にまで減少しています。

この状態は衣類に例えると分かりやすいでしょう。

最高品質のダウンジャケットを着用しても、サイズが合わずに襟元や袖口から冷気が侵入すれば肌寒さを感じます。

同様に、どれだけ断熱性能の高い断熱材を使用しても、家の隙間が大きければ本来の性能を発揮することはできません。

そのため、施工精度に自信がある建築会社は、全棟気密測定を実施しています。これは顧客にとっても重要な判断材料になるでしょう。

高気密・高断熱住宅が意識されるようになったのは、1970年代のオイルショックがきっかけと言われています。

原油価格が高騰したことで、エネルギーの効率的な使用が注目され、それを受け1979年に「省エネ法」が制定されました。

そして翌年の1980年には、建築分野において、「省エネルギー基準」が制定されたのです。

住宅性能の歴史において、この出来事がターニングポイントの一つとなったのは間違いありません。

しかしながら、省エネ法はエネルギー資源の有効利用とエネルギー消費の抑制を目的に制定されたものの、当初は事業者に義務を強制する措置は講じられませんでした。

この状況が大きく変わる契機となったのは、2021年10月22日に「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」が閣議決定された後です。

この長期戦略の趣旨は、「2050年までのカーボンニュートラルの実現」です。

そのうち建築分野については、2030年までに新築住宅・建物がZEB・ZEH水準の省エネ性能を確保すること、そして2050年までにはストック平均として同水準の性能確保が目標とされています。

2025年4月に改正建築基準法が施行され、物件種別を問わず、原則として新築の際は「省エネ基準」への適合が義務付けられました。

そして、2030年までにはその水準がZEB・ZEH水準まで引き上げられることになります。

今回の改正建築基準法では、新築のみならず、建築確認申請の提出が必要とされる規模の改修・増築についても省エネ基準への適合が義務付けられました。

その結果として、中古住宅についても、有している性能が注目される時代に突入したと言えるでしょう。

断熱等級とエネルギーコストの相関関係

建物の断熱性能を図る指標として「断熱性能等級」という用語が広く用いられますが、類似する概念として「外皮性能等級」もあり、これらがしばしば混同されがちです。

例えば、省エネ性能ラベルでも外皮性能ではなく断熱性能と表記されていることが、この混乱を助長する要因となっています。

外皮性能とは、建物の外壁、窓、床、屋根など、室内と室外を区切る部分の断熱性能や日射遮蔽性能を表す指標であり、断熱性能の上位概念といえます。

不動産業者としては、これら両者の違いを正確に理解したうえで、顧客に伝わりやすい表現を用いるように配慮すべきでしょう。

外皮性能等級の評価は、従来の5段階から7段階へと2022年10月に見直されました。

さらに、直近の2025年4月18日に開催された社会資本整備審議会建築分科会では、現行の等級6(ZEH水準)を上回る等級8を新設する見直し案が示されました。加えて、一次エネルギー消費量についても、現行の6段階から8段階への見直しが審議されています。

この見直し案では、2030年以降は新たな等級基準を導入することも検討されています。

具体的には、ZEH水準が新たな等級1に相当し、それを上回る性能を有するものが等級2から3、つまり三段階に変更することが検討されています。

このような見直し案が審議される背景には、令和5年の実績で新築住宅における等級6(ZEH水準)取得割合が約86%に達したことによる影響が大きいと見られます。

一方で、既存のストック住宅の全てがその水準に達しているわけではありません。実際、依然として等級4以下、すなわち省エネ基準に達していない住宅の数が圧倒的に多く存在します。

しかしながら、この見直し案が可決されれば、2030年以降はZEH水準を下回るストック住宅は性能ラベルを取得できなくなるのです。

これにより、中古住宅に一定以上の断熱性能を求める消費者の選択肢は限定され、結果として不動産取引に甚大な影響を及ぼす可能性があるのです。

性能ラベルの有無と査定評価

省エネ性能が高い住宅は、将来的な維持コストを低減し、環境負荷も抑制できます。

何より冷暖房光熱費が削減できるため、不動産としての評価も高まります。その性能を客観的に示すのが省エネ性能ラベルです。

当然ながら、省エネ性能ラベルを有する住宅は、それだけで査定額が向上します。

しかし、ラベルの発行方法には自己評価と第三者評価の2種類あるものの、自己評価ラベルを発行できるのは、販売事業者から提供を依頼された設計者に限られます。

そのため、省エネ性能ラベルを有していない中古住宅の場合、第三者評価機関に依頼する必要があるのです。

住宅性能評価書を既に有していれば、比較的容易に発行元の第三者評価機関に依頼し、性能評価ラベルを発行してもらうことが可能です。

評価機関によって費用は異なりますが、およそ1万円以内で済むケースが多いでしょう。

ただし、評価書がない場合には、評価機関や評価項目によって10万円から30万円程度の費用が必要となります。

もっとも、これは必要とされる性能を有していることが前提であり、必ずしも評価が得られるとは限りません。

そのため、評価に活用できる設計図面や情報がない場合、あるいは設計仕様が図面や書類から把握できない場合には、「省エネ部位ラベル」の発行を検討するのも一つの方法です。

省エネ部位ラベルは一般的な認知度が低いものの、特定の部位における省エネ性能の高さを示すことができます。

具体的には、外皮性能に関わる窓、玄関ドア、外壁、そして一次エネルギー消費性能に関わる節湯水栓、高断熱浴槽、給湯器、太陽熱利用、太陽光発電、空調設備などが個別に評価対象となります。

全体としての省エネ性能や目安光熱費が記載される省エネ性能ラベルには劣りますが、部位ごとの省エネ性を示すことで、購入検討者へのアピールに貢献できるでしょう。

省エネ部位ラベルの発行は、省エネ性能を裏付ける資料(設計図書や製品取扱説明)の確認に加え、設置されている設備機器等の製品ラベルから、求められる性能を有しているかを確認し、その情報を「一般社団法人住宅性能・表示協会」のサイトに入力することでラベルが発行されます。

特定の講習受講の有無を記載することは可能ですが、それは任意であり、結果として誰でも発行依頼できてしまうのが現状です。

ただし、故意に異なる内容を入力した場合には勧告を受ける可能性がありますので、自らの責任において誠実に入力する必要があります。

加えて、正規の省エネラベルに比べて信頼性が大きく劣る点には留意が必要です。

高性能住宅に住まう効果

省エネ性能の優劣は、エネルギーコスト削減、すなわち冷暖房光熱費の低減にばかり着目されがちです。

しかし、効果はそれだけに留まりません。

健康面や資産価値の向上といった側面についても理解は不可欠です。

具体的には、以下のような多岐にわたるメリットが挙げられます。

●ヒートショックの低減:室内間の温度格差が解消されることで、ヒートショックのリスクが大幅に低減されます。

●アレルギー改善:結露が抑制され、カビやダニの発生防止にも期待できます。これにより、アレルギー症状の改善につながる可能性があります。

●精神的安定:快適な室内環境が維持されることで睡眠の質が向上し、精神的な安定にも寄与します。

●資産価値の向上:将来的な省エネ基準の厳格化に対応しているため、売却時や賃貸転用時において、相対的な資産価値の優位性に期待できます。

●税制優遇:省エネ性能が高い住宅ほど、住宅ローン減税や固定資産税の軽減などい、税制上の優遇制度が充実しています。

●災害時のレジリエンス:省エネ性能は、究極的には室内環境維持の能力に直結します。外気温の影響を受けにくいため、災害発生の停電時においても効果を発揮し、太陽光発電や蓄電池を組み合わせることで、いざというときでも快適な生活を維持することが可能となります。

このように、住宅が有している基本性能だけでも相応の効果は得られますが、その効果を最大限に発揮するためには、適切な住まい方も重要です。

例えば、夏場はカーテンやブラインドを積極的に利用して日射を遮り、冬場は日射を積極的に取り入れることで、冷暖房費を効率的に抑制できます。また、家人が不在の際には各居室の内部ドアを開けておくことで、冷暖房の効率を高めることが可能です。

さらに、サーキュレーターを併用すれば、空気の循環が促され、冷暖房効率は一層向上します。

このような実践的なアドバイスこそ、顧客に喜ばれる情報です。新築住宅の営業においては、他社との差別化を図るため、とかく「外皮平均熱貫流率(Ua値)」や「一次エネルギー消費量(BEI値)」といった数値ばかりを熱心に説明しているケースも見受けられます。

しかし、顧客が最も気にしているのは、具体的にどの程度の光熱費が必要なのか、そして快適な生活を送るために必要なポイントは何か、という実生活に直結するアドバイスです。

したがって、宅地建物取引業者は省エネに関する基礎知識を拡充するだけでなく、顧客の具体的な生活に寄り添った提案やアドバイスができるよう、知見を深めていく必要があるのです。

まとめ

本稿では、住宅性能が重視される背景、今後の制度設計の変化、性能によるエネルギーコストの違い、そして高性能住宅に住まう際の注意点について解説しました。

建築に直接携わらない宅地建物取引業者は、省エネ性能についてそれほど理解を深める必要がないと考えられがちです。

しかし、新築時に求められる省エネ性能の引き上げは、必然的に既存住宅市場にも影響を及ぼします。

もはや、「新築分譲業者でないため理解が及んでいません」という言い訳は通用しない時代が目前に迫っているのです。

「外皮平均熱貫流率(Ua値)」と「一次エネルギー消費量(BEI値)」の計算方法まで理解する必要はありませんが、それぞれの意味や単位、性能の優劣によって得られる効果の違いを把握していれば十分でしょう。

加えて、実生活に即したアドバイスが行えることが理想です。

不動産取引に関わる皆さまが、これらの知識を身に着け、顧客へ適切かつ具体的に情報提供を行うことが、これからの時代における信頼構築とビジネスの発展に繋がるのです。

【今すぐ視聴可能】実践で役立つノウハウセミナー

不動産会社のミカタでは、他社に負けないためのノウハウを動画形式で公開しています。

Twitterでフォローしよう

売買
賃貸
工務店
集客・マーケ
業界NEWS