【高付加価値賃貸経営の羅針盤】人口減少時代を勝ち抜くペット共生型物件戦略

近年、都心部における地価上昇を背景に、賃料増額請求に関するご相談が急増しており、不動産業界における喫緊の課題となっています。

近傍同種の賃料水準との不均衡を根拠とする賃貸人による増額要請は、確かに合理的な側面を持ちます。

しかしながら、賃貸人・賃借人双方からの相談に応じる私たちは、その見解や対処法の相違に対応の難しさを感じています。

一方で、地方圏、特に人口流出が顕著な地域においては、賃料を引き下げても入居者の確保が困難な物件も少なくありません。

賃貸物件の入居率向上に向けた最も安易な選択肢は賃料の引き下げですが、これは周辺物件と比較して著しく安価となる一定期間に限り、限定的に効果を発揮する対策に過ぎません。

周辺物件が追随すれば、市場全体の賃料相場が下落し、収益率の持続的な低下という負のスパイラルに陥る可能性を孕んでいます。

このような場当たり的な対策ではなく、物件に付加価値を付与する戦略こそが、より持続的な成果をもたらす結果に繋がるでしょう。

その具体的な方策として「ペット可」物件への転用が頻繁に検討されます。

しかしながら、既存入居者との摩擦、臭気や騒音による近隣トラブル、原状回復費の高額化、さらには物件的価値の低下といった潜在的なリスクを慎重に検討する必要があります。

加えて、単に「ペット可」としただけでどれほどの競争優位性を確立できるのか、その効果について検証が不可欠です。

そこで、昨今注目を集めているのが「ペット共生型賃貸」です。

これは、単にペット飼育を許容する物件に留まりません。専用庭や広々としたベランダといったペットが遊べる環境の提供、居室内でのペットスペースの設置、さらには飼い主同士の交流を促す共有スペースの設置など、ペットとの暮らしに特化した設備・空間設計をしているのが特徴です。

物件によっては足洗い場や汚物処理水洗まで完備し、まさに「ペットとの共生」を提供する本質的な価値を提供しています。

この特異性こそが、周辺相場より高額な賃料設定であっても、入居待ちが生じるほどの高い需要を創出しているのです。

このような成功例に触れ、大規模な改修投資を行ってでもペット共生型賃貸への転換を検討される賃貸オーナーもいらっしゃいます。

しかし、安定した収益を確保するためには、単なる「ペット可」物件とは一線を画す、多岐に渡るリサーチと事前準備、専門的な配慮が不可欠となります。

本稿では、このような背景を踏まえ、ペット共生型賃貸が真に最適な選択肢となりうるのか、その採算性と潜在的なリスクについて、多角的な視点から詳細に検証してまいります。

市場トレンドと需要の変化

戦後、日本は多産多死から小生少死へと人口構造が大きく転換しました。

1975年前後までは合計特殊出生率が人口置換水準前後の2.1倍ほどで推移してきたものの、1970年代後半から20歳代女性の晩婚化、1980年代以降には30歳代女性の未婚率が上昇し、以降出生数は下降の一途を辿っています。

近年では、経済的な不安や価値観の多様化、子育て支援の不足といった複合的な要因が未婚率の上昇に拍車をかけ、加えて、2019年から順次施行された「働き方改革関連法」は、その狙いとは裏腹に、「同一労働同一賃金」という名のもとに非正規雇用の待遇改善が期待された一方で、雇用形態間の格差を温存・助長したとの批判的な見解も一部に存在します。

これらの社会経済的背景は、出生数の劇的な減少として顕在化しています。

厚生労働省が2025年6月4日に公表した人口動態統計(概数)によれば、2024年の出生数は過去最小の68万6061人となっています。

さらに、1人の女性が生涯に生む子供の数を示す合計特殊出生率も9年連続で低下し、「1.15」と過去最低を更新しました。

これは、人口を維持するために必要な2.07の約半分に留まる水準です。

国立社会保障・人口問題研究所が2020年の国勢調査確定数を基に行った全国将来人口推計では、2060年には日本の総人口が1億人を下回り、2070年には8,700万人まで人口が減少すると予測されていますが、これは合計特殊出生率が1.36を維持できるという仮定に基づいたものです。

現状の出生率が予想値を下回る状況では、人口減少が予想よりも早く進行する可能性が極めて高いと言えます。

このような出生率の低下は、家族構成数にも明確な変化をもたらしています。

1970年に3.41人だった1世帯あたりの平均人数は、2020年の国勢調査で2.21人にまで減少しています。

さらに、一般世の約4割を単独世帯が占めるに至っています。

この傾向が加速すれば、3LDK以上のファミリータイプ型物件の需要は一層低迷する可能性が高いでしょう。

実際、近年の新築分譲マンション市場では、建築資材や分譲価格の高騰などの要因もありますが、需要の低迷を背景に4LDKタイプの供給がほとんど見られなくなりました。

少子高齢化と世帯人数の減少に起因するファミリータイプの需要低迷、そして将来的な競合物件の供給過剰を勘案すれば、不動産経営において早期の差別化戦略が極めて重要であることをご理解いただけると思います。

ペット市場の現状と将来性

国内のペット市場動向は、賃貸経営における差別化戦略を検討する上で重要な指標となります。

犬の登録頭数は、狂犬病予防法に基づく登録義務があることから公式データが存在し、2009年度の688万頭をピークに、2021年度末には610万頭まで減少傾向にあります。

一方、猫については登録制度はありませんが、一般社団法人ペットフード協会の「全国犬猫飼育実態調査」によると、2009年以降も高い水準で推移し、2021年には894.6万頭、2024年には915.5万頭と近年でも微増しています。

しかしながら、この総飼育頭数の傾向だけで市場全体を判断するのは早計です。

同調査における「新たに飼育された犬・猫の頭数」に注目すると、2019年74万頭から2021年には89万頭まで増加し、2022年も86万頭と、人間の出生数に迫る勢いで推移しています。

これは、既存のペットが高齢化する一方で、新たにペットを迎え入れる層が一定数存在することを示唆しています。

確かに、人口減少というマクロトレンドを考慮すれば、将来的にペット飼育総数が減少する可能性は否定できません。

しかし、単身世帯や二人暮らし世帯の増加、高齢者世帯におけるペットの存在価値の高まり、そしてペットを「家族の一員」として捉える認識の浸透といった社会構造や価値観の変化により、新規飼育需要は下支えされるとの予測が成り立ちます。

このような背景を総合的に勘案すると、総飼育頭数が現状維持または微減傾向にあるとしても、ペットとより深く関わり、可能な限り快適な環境を与えてやりたいと願う層のニーズは依然として根強く、そのような方々にとって「ペット共生型物件」は、単なる選択肢ではなく、むしろ強く望まれる居住空間となる可能性を秘めています。

ペットを家族と認識する層は、そのニーズを充足できるのであれば、賃料や物件価格が割高であっても容認する傾向にあります。

このため、今後もペット共生型物件の需要は、特定のニッチ市場として確実に定着するとの予想が成り立つのです。

これは、価格競争に陥らない高付加価値物件としての確立を狙う上で、非常に有望なターゲット層と言えるでしょう。

ペット共生型物件に設置される設備

ペット共生型物件への転用は、単なる「ペット可物件」とは一線を画す、相応規模の改修を伴います。

特に既存物件の場合、新築のように設計段階からの最適化が難しいからこそ、効果的な設備投資が成功の鍵を握ります。

室内においては、ペットの快適性と安全性を確保し、かつ物件の価値を維持するための配慮が不可欠です。

具体的には、滑りにくく傷がつきにくい床材への変更は必須であり、既存のフローリングを活用する際には、ペット用フロアコーティング(UVコーティングやガラスコーティングなど、機能性と費用対効果を慎重に検討)の採用が欠かせません。

さらに、ひっかき傷に強く、消臭効果も兼ね備えたペット対応タイプへの変更も、物件の長期的な維持管理や快適性に寄与します。

また、共有部においても、ペットとの共生を謳う物件ならではの設備導入が差別化を強化します。

例えば、散歩帰りの利用を想定した足洗い場、毛の手入れができるグルーミングルーム、臭気対策を施した汚物ダスト、そしてペット同乗を示すサイン付きエレベーターの採用といった細やかな配慮は、入居者にとって大きな魅力になります。

さらに、敷地の状況が許せば、ドッグランの設置などは物件の話題性を高め、集客に絶大な効果を発揮するでしょう。

これらの設備導入は初期投資を伴いますが、その充実度こそが物件の注目度を高め、競合物件との明確な差別化を実現します。

不動産業者の皆様は、相談に対するアドバイスの際、想定賃料を基に各設備の費用対効果を綿密に検討し、最適な収支計画を策定する必要があります。

ここで特に留意すべきは、中途半端な設備投資では費用対効果が得られないという点です。

「ペットは家族の一員」と捉え、たとえ価格が割高であってもペット共生型物件を探す層は、設備やサービスに一切の妥協を許しません。

そのため、単なるペット可物件とは一線を画す、専門性と充実度を兼ね備えた設備の導入こそが、高付加価値物件として成功を確実にする不可欠な要素となるのです。

管理体制やルール造りも重要

高付加価値の設備を充実させることは、ペット共生型物件の魅力を高める上で不可欠です。

しかし、それだけでは入居者の満足度を最大限に引き出し、物件価値を長期的に維持することはできません。

効果的な管理体制の構築と、明確なルールの整備こそが、その真価を発揮させる鍵となります。

特に、物件管理を外部に委託する場合には、ペット共生型物件の管理経験を有する、専門性の高い管理会社の選択が不可欠です。

専門知識を持つ管理会社は、ペット特有のトラブル対応や共有施設の運用ノウハウ、適切なメンテナンスに関する知識を有しており、入居者に対してきめ細かなサポートを提供してくれます。これにより、物件の円滑な運営が可能となるのです。

当然、充実した共有設備の維持管理は管理会社の負担を増大させ、それに伴い管理費も増加しますが、これは物件の高付加価値に伴う必要な投資と捉えるべきです。

また、入居者がペットと快適に共生し、かつ退去時におけるトラブルを未然に防ぐための具体的なルール策定も極めて重要です。

例えば、鳴き声や臭いに関する配慮事項、共有部の利用マナー、災害時対応など、多岐にわたる項目を網羅して、入居前には徹底した説明を行うことが肝要です。

特に、賃貸物件において顕在化しやすい原状回復費用の問題は、ペット可物件においても共通の課題です。

国土交通省が策定した「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に基づき、経年変化と居住者負担の明確な線引を賃貸借契約時に明記することで、退去時における無用なトラブルを大幅に抑制することが可能です。

ここで特筆すべきは、ペットが付けたクロスや床の傷、臭いの付着は一般的に賃借人負担とされますが、ペットとの共生を前提とした場合、これは避けられない現象であるという点です。

その全てを賃借人負担とした場合、入居を躊躇する層が出ることも考えられます。

このため、特約で消毒費用の負担額や、クロス・床を交換する場合の判断基準などを明確にし、原状回復に関する条件を契約書に明記することで、入居者はより安心して契約できるでしょう。

不動産業者は、ガイドラインについての理解を深め、管理規約や特約について具体的な見解と適切なアドバイスを提供し、契約当事者の相互理解を促進することが求められます。

まとめ

人口減少と単身世帯・核家族の進行は、特に地方圏の賃貸物件において、やがて供給過剰状による熾烈な競争を招くでしょう。

公共交通機関への近接性や買物至便性といった優位性を持つ物件であればまだしも、主要駅から徒歩20~30分圏内にあるような平凡で特徴のない物件では、賃料を下げる以外の選択肢が見当たらない状況に陥ります。

実際に、賃料を下げても入居者が現れないという事態が、既に顕在化している地域も存在しています。

そのような地域では、出口戦略として物件売却を試みても買い手が見つからず、大幅な値下げ要求に直面し、結果として収支が破綻しているケースも散見されます。

冒頭で解説した通り、今後はこれまで以上に人口減少が加速し、同時に単身世帯や核家族世帯が増加するという避けられない事象が進行します。

この不可逆的な変化に適応し、賃貸運営を継続するためには、早期の対策検討が不可欠です。

多様な選択肢が存在する中で、本稿では「ペットを家族と見なし、快適な共生関係を標榜する層の増加」に着目し、ペット共生型物件への転用について解説しました。

これが、極めて有効な差別化戦略の一つとなり得るからです。

もちろん、大規模な転用には相応の費用を伴い、管理規約やルールの策定も容易ではありません。

しかし、一般的な「ペット可物件」が大半を占め、大型犬不可や飼育頭数制限といった制約が設けられている現状において、制限を緩やかにし、かつ快適な共生に必要な間取りや共有設備を有する物件は、市場において明確な競争優位性を確立できるでしょう。

ただし、高付加価値物件としての魅力を最大限に引き出し、入居者満足度を高め、長期的な収益を確保するためには、単なる設備投資に収まらず、「ソフト面」である管理体制やルールの整備が不可欠です。

不動産業者には、現在そして未来の市場変化を敏感に察知し、常に有効な提案ができるよう、知識と戦略のアップデートに努めることが期待されているのです。

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