【意識調査が示す顧客行動変容】デジタル・トラスト時代に求められる戦略思想

不動産情報サイト事業者連絡評議会(RSC)が先般公表した「不動産情報サイト利用者意識アンケート」の調査結果は、デジタル変革期における不動産取引の顧客行動変容を鮮明に示しています。

質問は、物件を契約するまでの期間や問い合わせた不動産会社数、物件数のほか、IT重説やオンライン契約の利用ニーズなど多岐に渡りますが、特筆すべきは契約するまでに問い合わせた物件数が5.5件と、前年調査から1.1件増加した点です。

さらに、契約するまでに訪問した不動産会社数が全体平均で2.5社と、前年から0.3社増加していることからも、情報収集の容易化に伴い、顧客が多くの選択肢を比較検討し、企業を厳しく吟味する行動様式が定着している傾向を伺えます。

不動産会社を選定する際の重視点についても、興味深い変化が見られます。

最も重視されたのが「写真点数」であり、次いで掲載物件数や動画に続いていることから、インターネット上でどれだけ有益な情報が得られるかを基準に、業者を選択している傾向が伺えます。

つまり、オンライン上におけるリアル情報と空間的な理解に必要な情報の提供が深く求められているのです。

不動産情報サイト事業者連絡評議会(RSC),不動産情報サイト利用者意識アンケート,不動産会社を選ぶポイント

さらに、「不動産会社に対する口コミ情報」が前年比6.1%増加し、重視するポイントの上位に浮上した点が、デジタル時代における信頼性(トラスト)の構築が物件情報と同等に重視されている証と推測できます。

一方で、「店舗がアクセスしやすい場所にある」が2年連続で減少し、2025年調査では4位に転落しました。

IT重説だけでなく、内見、交渉、契約の締結までをオンラインで完結できる環境が整備されつつある現在、もはや「来店型店舗の利便性」という従来の差別化戦略は、相対的に低下していると推察されます。

今後の事業戦略においては、立地や店舗面積といった物理的な優位性ではなく、デジタル上のサービス品質と専門性による差別化の必要性が明確になったといえるでしょう。

このような観点から回答結果を詳細に検証していけば、自ずから今後必要とされる対策が見えてきます。

本稿ではアンケート結果を参考に、インターネット広告で取り入れるべき内容や、デジタル技術を駆使して顧客満足度を高め、成約率を引き上げるために必要な知見と配慮について提言します。

情報リッチネス戦略:デジタルリアリティの追及

RSCの利用者意識アンケートにおいて、「写真点数の多さ」が不動産会社選定の最重要項目となり、次いで「掲載物件数」、「動画」と続いた結果から、顧客がオンライン上で確認できる「物件のリアル」を深く追及している姿勢が伺えます。

このような顧客の行動変容に対応し、問い合わせの「質」と「件数」を引き上げるためには、従来の物件概要を羅列する形式から脱却し、情報リッチネスを追及した具体的な広告作成および掲載基準を確立することが急務となります。

1. 写真掲載基準:情報量とアングルによる視覚的訴求力の向上

顧客による比較検討行動の増加は、情報の「量」と「質」が信頼担保の第一歩となり得ることを示唆しています。

それを実現するためには、以下のような工夫が必要です。

●掲載枚数の引き上げとコンテンツの標準化:写真のカテゴリ(例:リビング全景、水回り3点、玄関、収納、外観)を標準化し、全物件にわたり網羅的な視覚情報を提供することで、顧客の比較検討を支援します。

●高品質な撮影技術:広角レンズを用いた撮影を基本とし、採光や開放感を最大限に引き出すアングル選定と明るさ補正を徹底することで、高い視覚的訴求力を確保します。

●「生活シーンの提案」による自己投影の促進:家具や小物の配置例、窓から見える景色を意識的に加えることで、住んだ後の生活を具体的にイメージできる情報の提供を追及し、顧客の「自分ごと化」を促進します。これにより、感情的なエンゲージメント(企業と顧客の強い絆)が深まります。

2. 動画・VRコンテンツの採用と専門ベンダーとの連携

写真では伝えきれない、「空間の繋がり」や「動的情報」を提供するためには、動画とVRコンテンツの導入が差別化の必須要件となります。

●物件ウォークスルー動画の標準化:リビング、居室、水回り、収納、玄関までをシームレスに繋いだウォークスルー動画は、顧客の関心度が高く、空間把握の精度を高めます。また、「不動産会社のミカタ」がミカタストアで紹介している「みらいえ360」などのソリューションを利用すれば、パノラマ・VRビューを手軽に提供でき、顧客満足度の向上に期待できます。

みらいえ360

さらに、人的・技術的なリソース不足で自社撮影や編集が困難な場合には、「Live Search Req」のような撮影・画像ラベリングサービスを提供する専門ベンダーに依頼することで、顧客に対する物権訴求力が飛躍的に高まるでしょう。

ただし、サービスの提供エリアやコスト効率を考慮し、類似サービスを含めた比較検討は必要です。

物件写真のイメージ

3. 周辺環境情報に視覚的拡充

情報リッチネスは物件単体に留まらず、暮らしの利便性を判断する周辺情報にまで拡張されるべきです。

その際には、有益情報だけでなくウィークポイント(鉄塔の近接、交通量の多さなど)も隠さず報告することで、顧客の信頼性を高めます。

アンケート結果でも、物件のウィークポイント開示を評価する顧客が相当数存在している事実は、透明性が信頼醸成の強力な手段であることを示唆しています。

不動産情報サイト事業者連絡評議会(RSC),不動産情報サイト利用者意識アンケート,特に重視するポイント

また、物件情報以外に必要だと思われる内容の回答結果にも配慮し、物件情報を提供する前には事前に詳細を把握し、必要に応じて報告すると良いでしょう。

不動産情報サイト事業者連絡評議会(RSC),不動産情報サイト利用者意識アンケート,物件情報以外に必要だと思う情報は?

それ以外には、以下のような情報の提供が検討されます。

●地図とストリートビューの統合:単なる静的な地図ではなく、物件周辺のストリートビューのリンクを行い、物件周辺の雰囲気や施設(スーパー、学校、駅、病院など)までの導線を視覚的に確認できるようにします。

●周辺施設のスナップショット:最寄りの生活関連施設写真を複数枚掲載することで、立地の魅力を具体的に補完します。

このような「情報リッチネス戦略」は、広告の見栄えに留まるものではありません。

顧客が自らのニーズに合致した物件をインターネット上でより深く、より正確に理解することを可能にします。

これにより、成約確度の低い問い合わせや内見を減らし、結果的に不動産会社の業務効率化と成約に至る顧客の質向上に貢献する、極めて戦略的な投資となり得るのです。

口コミ情報とサービス品質の可視化

RSCの利用者意識アンケートにおいて、「不動産会社に対する口コミ情報」の重視度が、前年比6.1%増加しています。

この重要度増加は、顧客が物件情報に次いで不動産会社の信頼性を重視していることを示しています。

不動産情報サイト事業者連絡評議会(RSC),不動産情報サイト利用者意識アンケート,特に重視するポイント

デジタル空間における専門性、迅速な対応、誠実さを積極的に可視化する「デジタル・トラスト戦略」の構築が、成約率の向上の「鍵」となるのです。

1. 口コミ情報の積極的な収集と開示の基準

口コミ情報は、顧客の生の声として強力な信頼醸成ツールとなり得ます。

しかし、匿名性の気軽さから、根拠のないネガティブレビューが投稿される可能性があるのも事実です。

そのため、戦略的に活用するための基準構築は不可欠です。

●全プロセスにおけるフィードバックの依頼:契約締結後だけでなく、物件紹介後、内見対応、引き渡し時など、顧客接点の各フェーズでフィードバックを依頼する仕組みを導入し、多角的なサービスの評価を収集します。

●第三者プラットフォームの活用と連携:GoogleビジネスプロフィールやSUMOなどの不動産情報サイト、その他信頼性の高い第三者の口コミプラットフォームを積極的に活用し、自社ウエブサイトと連携させることで、中立的な外部評価による信頼性を担保します。

●ネガティブレビューへの誠実な対応
否定的な評価に対しては、テンプレートではなく、具体的な状況と改善策を明記した誠実で迅速な返信を公開します。
これは、企業のリスク対応能力を示す、最大の信頼性向上機会となります。
また、根拠のないネガティブレビューに対しては、法的対応も含め毅然と対応する姿勢を示すことも重要です。

2. サービス品質と専門性の可視化

●応答時間の目標設定と公開
問い合わせに対する「初回応答時間」や「物件を提案するまでの時間」など、対応の迅速性を示す具体的なKPI(重要業績評価指標)を策定し、その達成目標をウエブサイトで公開します。
例えば、「問い合わせから1時間以内の初回連絡を原則とする」といった宣言は、顧客に安心感を与えます。

●取引事例の具体化
年間取引量だけでなく、築古物件や境界問題を有した物件販売など、「難易度の高い取引事例」をケーススタディとして掲載します。
これにより、企業の専門性や問題解決能力を具体的に示します。

このようなデジタル・トランス戦略は、顧客の比較検討の大半がデジタル空間で完結する時代において、「この会社なら安心して相談できる」という安心感を醸成するために不可欠です。

情報リッチネス戦略(物件のリアル)とトラスト戦略(会社のリアル)の両輪を進めることで、顧客の信頼度が最大化され、結果的に成約確度の高いリードの獲得に繋がるのです。

オンラインサービス変革:非来店型顧客体験の高度化

RSCの利用者意識アンケートにおいて、「店舗がアクセスしやすい場所にある」という重要度が年々低下している事実は、内見、交渉、クロージング、契約締結などの全プロセスがデジタル化され、来店を必要としない「非来店型オペレーション」への完全移行が不可避となりつつあることを示唆しています。

不動産情報サイト事業者連絡評議会(RSC),不動産情報サイト利用者意識アンケート,店舗がアクセスしやすい場所にある

オンライン契約等の導入率は、売買より賃貸物件が先行しています。

売買を専門にしている企業の多くは導入を時期尚早と考えているでしょう。

しかしながら、顧客の意識動向が変化している事実を無視してはなりません。

顧客満足度を高め、事業の効率性を向上させるためには、デジタル技術を活用したシームレスでストレスフリーのシステム構築が、もはや不可欠といえるのです。

1. 内見プロセスのデジタル・トランスフォーメーション

●リモート内見の標準化:顧客の自宅や任意の場所と、現地担当者をオンラインウェブ会議システムで繋ぎ、リアルタイム・リモート内見を行うサービスを標準化します。

●セルフ内見の導入
スマートロックなどのIoTデバイスを活用し、顧客が都合の良い時間に単独で物件を内見できるセルフ内見を実現します。
ただし導入には、セキュリテイ管理や物件情報提供(デジタルパンフレットなど)をシームレスに行うための専用アプリやWebインターフェースが必要です。

●バーチャル・コンシュルジュ:360°VRツアー内に、物件の設備仕様や周辺情報に関するFAQや説明動画を埋め込み、内見中における顧客の疑問を即座に解消することで、担当者とのやり取りを効率化します。

RSCの利用者意識アンケートにおいて、購入や賃貸借契約をする際特に重視するポイントは以下のとおりです。

不動産情報サイト事業者連絡評議会(RSC),不動産情報サイト利用者意識アンケート,購入や賃貸借契約をする際特に重視するポイント

これらの情報をFAQ方式でテキスト化しておけば、内見中の顧客の疑問が即座に解消され、担当者とのその後のやり取りが効率化できるのです。

2. 交渉・契約前手続きのオンライン化

価格や条件交渉といった属人性の高いプロセスにおいても、デジタル技術を用いて透明性と迅速性を確保できます。

実際、アンケート結果では不動産会社に求めるものとして、正確な物件情報の提供以外に、「問い合わせに対する迅速な対応」が挙げられています。

これを実現するためにオンライン化の導入は不可欠といえるでしょう。

不動産会社に求めるもの,問い合わせに対する迅速な対応

デジタル技術を用いたい業務効率の向上と、顧客コミュニケーションの迅速化を実現する方法としては、以下のようなものが考えられます。

●オンラインウェブ会議システムを利用した顔の見える交渉
交渉や条件調整は、電話やテキストベースのやり取りではなく、オンラインウェブ会議システムを利用して実施します。
これにより、担当者の誠実さや専門性を顧客に伝えやすくし、信頼関係の構築を維持します。

●契約条件のデジタルワークフロー:交渉で合意した条件(価格、契約締結予定日、引き渡し時期、付帯設備など)を即座にデジタルフォームで共有し、電子署名による承認プロセスを実施することで、書類郵送や来店の手間を軽減し、交渉から契約までのリードタイムを大幅に短縮できます。

●IT重説の質を向上させる
IT重説実施前に、顧客が事前に資料を閲覧し、不明点を入力できるデジタル事前質問シートを案内します。
これにより、重説当日は顧客の疑問にフォーカスした説明が可能となり、顧客の理解度と満足度を高めます。

3. 非来店型オペレーションの構築と評価

非来店型サービスで顧客満足度を維持・向上させるには、バックエンドのオペレーション最適化と、デジタル特有の「おもてなし」が必要です。

●一気貫通の顧客管理(CRM):顧客の問い合わせ、内見、交渉履歴などのデータを一元管理するCRM(顧客管理システム)を導入し、パーソナライズされた対応を可能にします。

●デジタル・コンシュルジュ・サービス
契約後の手続き(ライフラインの手配など)に関する情報を、パーソナライズされたポータルサイトやチャットポッドを通じて提供します。
これにより、サービスは契約後も継続しているという安心感を顧客に提供すると同時に、顧客対応に要する時間を削減できます。

●デジタル・カスタマー・サクセス(CS)の測定:従来の対面サービスで測定していた満足度とは別に、オンライン対応の迅速性、リモートツールの使いやすさなど、デジタル・サービスに特化したCS指標を測定し、継続的な改善を図ります。

これらの変革を通じて、不動産会社は来店型店舗に求められる立地という制約から解放され、より広範な顧客に対して質の高い、効率的なサービスを提供することが可能となるのです。

まとめ

本稿で検証した通り、RSCの利用者意識アンケート結果は、デジタル技術を駆使した情報リッチネス戦略、デジタル・トラスト戦力、オンラインサービス変革という三位一体の戦略が、不動産ビジネスにおける成約率を引き上げるために不可欠であることを示しています。

顧客が「問い合わせに対するレスポンスの早さ」を高く評価している事実からも、デジタル技術による業務効率化は避けて通れません。

不必要なシステム導入は避けるべきですが、自社の商圏や人的資源を勘案し、業務効率化と顧客満足度の向上に資すると判断されるシステムについては、先行投資として積極的な採用を検討することが、今後の競争力を確立する「鍵」となるのです。

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