
AIの進化は、あらゆる業界の働き方を大きく変えつつある。
不動産業界も例外ではなく、特に賃貸仲介業務においては、AIによる自動化・効率化の波が確実に押し寄せてきている。
たとえば、ポータルサイトへの物件入力の自動化、問い合わせ対応のチャットボット化、ユーザー情報の自動整理、電子契約の導入など、従来人が時間をかけて行っていた業務の多くが、AIや関連テクノロジーの活用によって短時間かつ高精度で処理できるようになってきた。
正直、1年前と比べても大きく進化しているように個人的に感じる。
しかし、いっぽうでこの変化に対して、不安を抱く営業メンバーも少なくない。
「AIに仕事を奪われるのではないか」「人が介在しない営業になるのではないか」といった声は現場でも聞かれる。
実際、一部の業務はすでにAIによって代替されており、「人の手が必要な部分」は縮小しているようにも見える。
しかし、それは営業メンバーの存在価値が低下しているということでは決してない。
むしろ、AIが進化したからこそ、人間にしかできない実務の価値がより明確に浮かび上がってきている。
これからの時代において、営業メンバーが真に力を注ぐべき仕事とは何か。
それは、AIにはできない、人間だからこそ担える役割を見つめ直すことから始まる。
まず、賃貸仲介業務において最も重要な能力の一つは、ユーザーの感情に寄り添う力である。
物件選びという行為は、単なるスペックの比較ではない。多くの場合、ユーザーの人生の転換期と深く結びついている。
進学や就職、転勤、結婚、離婚、出産、介護など、そこには様々な感情が伴っている。
希望や期待だけでなく、不安や迷い、場合によってはストレスや焦燥も含まれている。
そのような感情に寄り添い、言葉にされないニーズを読み取り、信頼関係を築いていくプロセスは、AIにはできない人間的な営みだ。
AIは入力された条件に基づいて物件を提示することはできても、「なぜその条件を希望しているのか」という背景にある事情までは理解できない。
営業メンバーがそこに目を向けることで、真にフィットした提案が可能になる。
たとえば「駅から10分以内」という条件を提示された場合、それが単に通勤時間の短縮を求めているのか、それとも夜道の安全性を重視しているのかによって、提案するエリアも物件の種類も変わってくる。
このように、表面に見える条件の奥にある「感情の文脈」を読み取る力こそ、賃貸仲介実務の本質であり、今後ますます重要になる領域である。
次に、物件に対する“肌感覚”を伝える力も営業メンバーにしかできない価値ある仕事だ。
図面や写真、さらには動画やVRといった視覚情報はAIが整理・提供できる。
しかし、実際に物件を訪れたときの空気感や、周囲の音、建物の匂い、人の流れ、日差しの入り方など、五感を通じて得
られる情報はAIでは感じ取れない。
営業メンバーは、そうした情報を的確な言葉で補足し、ユーザーに臨場感をもって伝える役割を担っている。
これは、単なる情報伝達ではなく、「暮らしのイメージ」をユーザーの中に浮かび上がらせる創造的な仕事だ。
たとえば、「この物件は写真だと明るく見えるが、実際は前の建物が近くて、室内はやや暗く感じます」「この周辺は夜になると非常に静かで、女性の一人暮らしでも安心できると思います」といった具体的な補足は、ユーザーの判断を大きく助ける。
こうした情報の質こそが、営業メンバーへの信頼につながり、結果として成約率の向上にも直結する。
また、ユーザーの背中を押す「提案力」も、AIにはできない領域だ。
賃貸物件を選ぶとき、多くのユーザーは複数の選択肢の間で迷い、決め手に欠ける状態に陥る。
すべての条件が完璧に合う物件はほとんど存在せず、どこかで妥協や判断を迫られることになる。
営業メンバーは、そのときに冷静に情報を整理し、ユーザーが納得して決断できるように導くことが求められる。
「この物件は少し家賃が高めですが、周辺の相場を考えると今後の値上がりリスクは低く、長期的に見て安心できる選択だと思います」といった言葉は、ただの説明ではなく、営業メンバーとしての見識と責任を示す提案である。
こうした判断力と説得力もまた、経験と人間理解に基づく実務であり、営業メンバーの強みである。
トラブル対応の力も、AIでは再現が難しい実務の一つである。賃貸仲介の現場では、契約直前の条件変更、入居後の設備不具合、近隣トラブル、管理会社との連絡不備など、予想外の問題が日常的に発生する。
そのような状況において、どのようにユーザーに説明し、どう対応するかは、営業メンバーの力量にかかっている。
AIは手続きや情報処理はできても、「納得できる謝罪」や「感情のケア」はできない。
問題が起きたときに、顔を見せて丁寧に説明し、相手の立場を理解しながら解決に向けて動く力。
そこに誠意があれば、たとえ完全な解決ができなくても、ユーザーは安心し、信頼を寄せてくれる。
営業メンバーにとって、トラブル対応は避けたい業務かもしれないが、むしろ信頼構築の最大のチャンスであり、今後さらにその価値は高まるだろう。
そして最後に、地域とのつながりを活かす実務の重要性がある。
地元のオーナーや管理会社、店舗、住民との関係性は、AIには持てない営業資産である。
地域密着型の営業メンバーであればあるほど、「この大家さんは柔軟に交渉に応じてくれる」「この物件は昔から住んでいる人の評判が良い」「このエリアは来年に大型商業施設ができる予定がある」など、ネットでは拾えないリアルな情報が提案に生きてくる。
地域に深く入り込み、人と人との信頼関係の中で物件を紹介できる営業メンバーは、他には代えがたい存在となる。
特にAI時代においては、画一的な情報よりも、ローカルで個別性のある価値にこそ注目が集まる。
営業メンバーは地域と共にあり、地域の未来を語れる存在でなければならない。
このように、AIの発展は確かに多くの作業を自動化し、効率化を進めている。
しかし、それによって営業メンバーの仕事が奪われるわけではない。
むしろ、AIが担える業務が明確になったことで、人間が担うべき実務の価値がより際立っている。
感情に寄り添う力、現地感覚のある情報提供、決断を支える提案力、誠意ある対応、地域との信頼関係。
これらは、どれもAIには真似できない、人間の営業メンバーだからこそできる仕事である。
今後、AIとの共存は避けられない。そして、それは営業メンバーにとってチャンスでもある。
AIに任せられる業務は任せ、自分はより本質的で創造的な仕事に集中する。
そうすることで、営業メンバーは単なる「仲介者」ではなく、「人生の相談相手」としての役割を果たせるようになるだろ
う。
AIに怯える必要はない。
むしろ、AIによって自分たちの仕事の価値が明確になる時代に、胸を張って前に進むべきだ。





