【あらためて検証したい】特定保守製品の継承と媒介業者の説明責任

現代の住宅には、キッチンや浴室、トイレといった基本設備に加え、太陽光発電システムやパワーコンディショナー、さらにはHEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)や蓄電池といった、高度な制御を要する付帯設備が一般化しつつあります。

これらの機器については、決済時までに適切な取扱説明書が譲渡されなければ、新所有者はその機能を享受できないばかりか、誤った設定や利用によって生じる不利益を被る恐れもあるでしょう。

また、浴室にミストサウナやジャグジー機能が設けられている、あるいは録画機能付インターフォンが設置されているなど、操作の複雑な多機能設備が付帯されている物件もあるでしょう。

新築時には一括管理されたファイルとして引き渡されるこれらの資料も、既存住宅の流通現場においては売主の不注意による紛失や破棄が散見されます。

媒介業者の実務において、紛失した取扱説明書の再取得まで実施する商習慣はなく、「現状有姿」の理屈を援用し「売主様が取扱説明書を紛失されたため、お引き渡しできません」と説明し、買主も釈然としないまま甘受しているのが実情です。

ただし付帯設備の中でも、長期使用に伴う経年劣化が重大事故に直結するリスクを高める「特定保守製品」については、この「慣習的な免責」が通用しない可能性があります。

消費生活用製品安全法(以降、消安法)の定めにより、製造・輸入業者はもとより、販売事業者(特定保守製品取扱事業者)や関連事業者、さらには所有者に対しても、それぞれ適切な役割を果たす義務と責任が課されているからです。

ここで留意すべきは、媒介業者も広義の「販売事業者」として製品の標準使用期間、保守点検の必要性、そして所有者情報の提供(登録・変更)の必要性などについて、新たな取得者(買主)へ説明する法的・道義的責任を負うという点です。

不動産保証協会等が提供する「付帯設備表」には特定保守製品の記載欄が設けられており、そこで注意喚起がなされています。

特定保守製品について

しかし、「万が一事故が発生した際は人命に直結する危険性」を孕む重要事項であるにもかかわらず、形式上は「売主から買主へ説明すべき事項」とされ、媒介業者の説明義務から切り離されているのが実態です。

売主から買主へ説明すべき事項,重説

これは法理上、媒介業者の責任を回避する意味合いにおいて有効に機能します。

実際、法を拡大解釈すれば媒介業者の説明責任は際限なく広がるため、どこかで区切りを設ける必要があるからです。

実務でも詳細な説明はなされず、ただ形式的に書面が引き渡されるケースが大半でしょう。

ですが、それで取引に関与したプロフェッショナルとして責任を果たしたと言えるのでしょうか。

本稿では、既存住宅における特定保守製品の説明責任と媒介業者が留意すべき事項について、主にリスクマネジメントの観点から詳述します。

特定保守製品の再定義と宅建業者の立ち位置

屋内式ガス瞬間湯沸器等による死亡事故が相次いだことを背景に「長期使用製品安全点検制度」が創設されたのは2009年のことです。

その後、製品の設計改善や技術向上に伴い、2021年には対象品目の絞り込みが行われ、現在の対象品目は「石油給湯器」と「石油ふろがま」の2品目のみです。

特定保守製品

ですが、指定から外れた7製品についても法定点検を限定的に残す経過措置が設けられています。

特定保守製品の指定から外れた7製品

築古物件には指定から外れた7製品が設置されているケースが多いため、経過措置に該当するか否かの確認は必須です。

対象となっている場合には、除外された7製品についても法定点検や所有者への周知が不可欠なのです。

消費生活製品安全法施行令の一部を改正する政令の経過措置

しかし、付帯設備表で記載が求められているのは設備名称と内容、故障や不具合についてであり、機器本体に「特定保守製品」のシールが貼られている場合に限り所有者情報の変更やメーカー点検について説明するとされています。

特別特定製品を除く特定製品

ですが、設置箇所によってはシールを確認できないケースもあり、さらには何らかの理由で剥がされている場合もあるでしょう。その場合、買主は機器の危険性を認知せぬまま使用し続けるのです。

これでは、いつ事故が発生しても不思議ではありません。

そのため、私たちは顧客の安全に留意する観点から確実に特定保守製品であるか否かを確認し、そのうえで適切な対応を講じる責任があるのです。

中には、「そこまでの調査を実施して説明する義務があるのか」と思われる方もいるでしょう。

確かに、消安法の運用解釈上、媒介業者が直ちに「販売事業者」としての義務を負うとは言い切れません。

消安法の規制対象は主に製造事業者や輸入事業者とされているからです。

しかしながら、媒介業者は民法上の準委任契約に基づき善良なる管理者としての注意義務を負っています。

そのため、人命に影響を与えかねない重要な事項について調査し、説明する義務があると解されるのです。

何より、顧客の安全を脅かしかねない状況を看過してはなりません。これは、法的義務ではなくとも道義的責任です。

実務における「リスク」の正体

私たちが日頃利用している不動産保証協会等から提供された付帯設備表には、先述したように特定保守製品に関する記載欄が存在しています。

しかし、実務においては「売主がチェックを入れ、買主がサインする」という事務手続きに終始しているのが現実です。

媒介業者が記載内容を精査せず、さらには説明を省略して書面を交付するのみで処理した場合、後に経年変化による事故が発生した際、買主から「専門家としての適切な助言や指導がなかった」と責任を追及される隙を与えることになります。

さらに昨今のスマートホーム化により設置件数が増加したHEMSなどは、単なる「設備」ではなく「精密なIT機器」の側面を強めています。

取扱説明書がない、あるいはログインIDが不明であるといった状態は、新所有者が本来得られるはずの利益を損なう「経済的損失」を意味します。

「正常に稼働しているから問題ない」という旧来の現状有姿に基づく考え方は、ソフトウェア制御が不可欠な現代付帯設備において通用しなくなりつつあるのです。

特に、新築物件については2025年4月1日から省エネ基準適合が義務化されており、さらに2030年にはZEH水準の義務化が予定されています。

東京都が先行した太陽光発電の搭載義務化もやがて全国的なスタンダードとなっていく可能性は極めて高く、媒介業者には省エネ性能はもちろん、設備機器についての知見を深める努力が不可欠となっているのです。

プロフェッショナルとしての具体的実務指針

現代社会において不動産取引は複雑化しており、媒介業者には従来の物件の取引に留まらない以下のような広範かつ高度な役割が期待されています。

●コンサルティングスキル:顧客のライフステージや資産状況に合わせた不動産戦略を提案する、高度なコンサルティング能力。

●専門知識の活用:法律、税務、建築、ファイナンスといった幅広い分野の専門知識を駆使し、必要に応じて各専門家と協力しながら顧客の複雑な課題解決をサポートする役割。

●多様なニーズへの対応:サステナビリティへの配慮や高齢者向けのバリアフリー対応など、変化し続ける社会的ニーズに対応した物件情報やソリューションの提供。

●地域社会への貢献:空家問題の解決、地方創生プロジェクトへの参画、災害時の復興支援など、地域に根ざした社会貢献活動。

このような役割が期待される一方で、業務に基づく責任が際限なく拡大する危険性も内包しています。

そのため、業務に従事する際は漏れ落ちのない「仕組み」化が必須となるのです。

本稿で取り上げた設備機器については、以下のような対策を推奨します。

  1. 設備情報の「棚卸し」
    売却依頼を受けた段階で付帯設備表の記載を求め、同時に主要設備の「型番」と「製造年月日」を、設備本体の銘板やシールで確認します。また、取扱説明書の有無についても確認し、紛失している場合にはメーカーHPからPDF版をダウンロードする、あるいはURLを「物件資料」として共有するなどの配慮をルーチン化します。
  2. 特定保守製品の詳細確認
    設置から10年以上経過している製品については、標準使用期間が終了していることを買主に伝えると同時に、売主に点検記録の有無を確認します。
  3. 所有者登録の変更
    付帯設備表を事務的に引き渡すのではなく必ず補足説明を行い、特に特定保守製品については口頭で説明を行うと同時に、確実に所有者登録の変更がなされるように促します。
  4. 標準使用期間を超過した特定保守製品
    標準使用期間の超過、あるいは迫っている製品については、有償点検の受診を推奨した事実を重要事項説明書の「その他重要な事項」欄に記録として残します。

まとめ

不動産流通の主役が新築から既存住宅へとシフトする中で、物件の価値は「立地」や「広さ」といった静的要素に加え、省エネ性能や設備などの情報が正しく承継されたかという動的な要素に影響を受けるようになります。

特に、特定保守製品の取り扱いを「売主・買主間の自己責任」として処理するのではなく、人命に影響を与えかねない重要な事項として適切な説明責任を果たす必要があるのです。

このようなコンサルタント的アプローチが結果として私たちへの法的リスクを最小化し、顧客からの揺るぎない信頼を勝ち取る第一歩となるのです。

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