【国道交通省が詳細データを公表】道路陥没リスクの可視化と、変容する不動産評価・資産価値のゆくえ

2025年1月28日に埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故、交差点を左折してきたトラックが突如として口を開けた路面に吸い込まれる衝撃的な映像を記憶している方は多いでしょう。

この事故で74歳男性の尊い命が失われましたが、遺体が発見されるまでには3ヶ月以上の期間を要したのです。

八潮市に設置された原因究明委員会の中間取りまとめ(2025年9月4日公表)によれば、現場はN値0~1という極めて軟弱な「シルト質細砂」地盤であり、地下水位もGL-2m程度と高かったようです。

直接的な原因は、硫化水素による下水道管の腐食に起因すると推定されていますが、これは特異な一例ではなく、どの地域でも発生する可能性がある現象です。

国土交通省の『道路の陥没発生件数とその要因』によれば、道路陥没は全国で毎年1万件近く発生していることが分かります。

国土交通省,道路の陥没発生件数とその要因

陥没が発生する主要因は「道路排水設備」や「下水道の劣化」など水に関わるインフラの老朽化・損傷と報告されていますが、恐るべきは『要因未確定』の事案が毎年、常に一定数存在しているという事実です。

道路陥没発生件数の内訳

私たち不動産業者は、地中に潜むこの「伺いしれないリスク」に対して無知であってはなりません。

2025年12月26日、国土交通省は2023年度と2024年度に発生した道路陥没事案約22,000件の詳細データをホームページで公表しました。

本稿では、不動産のプロフェッショナルとして公表された膨大なデータをいかに顧客の生命と資産を守るための「盾」として利用すべきか、その実務的な知見について詳述します。

見えない脅威「道路陥没」のメカニズムを正しく理解する

まず私たちは、「道路陥没」をいう現象を工学的な観点から再定義する必要があります。

八潮市の事例で確認された「シルト質細砂」は、砂と粘土の中間的性質を持つ土壌です。

この地質は水を含みやすく、かつ水流によって容易に流出しやすいという特性を持っています。

シルト質細砂

通常、地中の埋設管に亀裂が入ると、そこから地下水と共に周囲の土砂が管内部へと吸い込まれます。

このプロセスが数カ月、あるいは数年単位で繰り替えられることで地中に「空洞」が形成されます。

この空洞が路面直下まで拡大して耐えきれなくなった瞬間に、何らの予兆もなく突然に路面が崩落するのです。

地盤陥没のプロセス

実際、八潮市の事例では、崩落はトラックが通過しようとするわずか4秒前であったことが確認されています。

これでは、どれだけ注意しながら運転していても防ぎようがありません。

特筆すべきは、日本におけるインフラの多くが1960年代から70年代の高度経済成長期に整備されているという事実です。

一般的な下水道管の法定耐用年数は50年とされていますが、これは会計上の基準に過ぎず、実使用年数は材質や環境で大きくことなります。

また、2040年には約34%が法定耐用年数を超過するため早急な対策が急務とされていますが、財政的な問題や人口減少による影響で更新が追いつかない自治体は多く、国道と比較して都道府県や市町村管理の道路で陥没事故発生件数が多いのも、その影響と推測されています。

現行調査基準では「鉄筋露出」、「骨材露出」、「表面が荒れている」の3つの区分で判断されており、硫化水素起因か否かを判断する基準は存在していません。

しかし、硫化水素濃度と腐食の程度に相関関係がある点については疑う余地がないとされ、さらに軟弱地盤であるほと空洞の発達や拡大の進行に影響が生じやすいことも証明されています。

私たちが案内に赴く市街地の足元で、刻一刻と空洞化が進んでいる可能性は否定できないのです。

公表データの戦略的分析

2025年度末に公表された約22,000件のデータは、各種ハザードマップや地盤データ、人口動態調査と同様に、購入判断に影響を与えかねない貴重な情報です。

顧客の安全性という観点に基づけば、「リスク地図」そのものといっても過言ではありません。

「路面陥没発生件数(都道府県別)」及び「道路陥没発生箇所の詳細」は、いずれも国土交通省のホームページでXLSX形式にて公表されています。

https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/ijikanri/dourokanbotsu.html

「路面陥没発生件数(都道府県別)」及び「道路陥没発生箇所の詳細」,国土交通省

「路面陥没発生件数(都道府県別)」では、陥没件数を国道、都道府県道、市町村道に区分しています。

件数別では、新潟県が総計2,274件(23年度1,352件、24年度922件)と最も多く、次いで北海道が総計2,067件(23年度999件、24年度1,068件)、さらに愛知県、広島、鳥取、山口の4県も総計1,000件を超えています。

このデータを一目見れば、全ての都道府県において陥没の多くが、市町村管理の道路で発生していることが理解できるでしょう。

令和6年度 路面陥没発生件数

「道路陥没発生箇所の詳細」では、道路管理者ごと路線名、地名、要因施設、大きさ(深さ、縦断方向、横断方向)が確認できます。

令和6年度における道路陥没の発生箇所

取扱物件の周辺調査ではこちらのデータが有効ですが、この貴重なデータを単なる記録として眺めるのではなく、以下3つの視点で分析することが不動産プロフェッショナルとしての第一歩となります。

1. 発生地点の「クラスター化」を特定する

国土交通省は今後、地質や地下埋設物の状況、陥没データまでを盛り込んだ道路下の情報を一括表示するデジタル地図を整備するとしていますが、公開の具体的な時期は明らかにされていません。

当面は詳細データを地図上にプロットする作業が必要となるでしょう。

実際に作業を実施すると、陥没事故が特定のエリアに集中する「クラスター」傾向が見受けられることに気が付きます。

これは埋設管の設置年次や地質的特性、過去の震災による影響などが要因と推察されます。

道路の陥没を懸念する顧客に対しては、媒介物件に接する道路や通勤・通学路との照合が不可欠です。

2. 「要因未確定」事案の背景を探る

空洞化の発生を誘引するのが、下水道管や排水施設である可能性は高いものの、震災による液状化などそれ以外の要因も存在します。

「下水道管に起因する大規模な道路陥没事故を踏まえた対策検討委員会」では、下水道施設の健全度を区分するとともに、施設の評価単位、健全度に応じた対応を見直す案も検討されていますが、現状では現行区分が踏襲されています。

下水道施設の健全度の区分

そのため、診断困難なケースは全て「要因未確定」とされているのです。

これでは、顧客が日常使用する道路が安全か否かの判断ができません。

そのため、陥没事故が多発しているエリアでは特に、行政による点検・調査がどのような頻度で実施されているかを確認する必要があるのです。

陥没事故,調査

3. 地質データとのクロスリファレンス

道路陥没のおよそ9割は50cm未満の浅いものですが、今回公表されたデータによれば、深さ1m以上の陥没が2年間で500件発生していることが分かります。

八潮市の事例が示す通り、N値が極めて低い軟弱地盤での陥没は被害が甚大化します。

私たち不動産業者が調査を実施する場合には、国土交通省の公表データと国土地理院の「活断層図」、重ねるハザードマップの「地形分類図」、各自治体の「液状化マップ」を重ね合わせ、土地の潜在的な脆弱性を立体的に把握することが重要となります。

国土地理院の「活断層図」,重ねるハザードマップの「地形分類図」,各自治体の「液状化マップ」

特に、旧田園地帯や斜面を造成した大規模造成地では、地震発生時の盛土崩壊や宅地地盤の陥没、地盤沈下の危険性も併せて精査すべきでしょう。

これらは前述したデータと各種地図に加え、国土地理院の「空撮写真」や「旧版地図」で確認可能です。

国土地理院の「空撮写真」や「旧版地図」

宅地建物取引業法では、地盤の脆弱性や道路陥没の危険性について顧客に説明する義務は設けられていません。

しかし、顧客の快適な生活と安全を守るのが私たちの使命であると考えれば、説明責任があるのではないでしょうか。

不動産調査時の新基準

近年における宅地建物取引業法改正の流れからは、重要事項説明の枠を超えた専門性が、私たち不動産業者に求められていることが分かります。

したがって、現地調査時には以下のポイントを精査するため、必要な観察眼を養う必要があります。

●路面のバッチワーク状の補修跡
短期間で何度も舗装がやり直されている箇所は、道路下で小規模な陥没や土砂流出が繰り返されているサインです。
国土交通省の公表データを確認し、要因や深さ、縦断方向、横断方向を確認する配慮が必要です。

●道路空洞化の外形的予兆
道路下4mまでの空洞化なら「地中レーダー探査」で発見できますが、それを超える場合はボーリング調査の併用が必要になるなど、大掛かりな調査が必要となります。
しかし、広範囲なひび割れや不自然な路面沈下、くぼみ、傾斜などの外形的予兆を観察することで、危険性を察知できます。

そのような予兆が確認され、空洞化が懸念される場合には迷わず国土交通省(または各道路管理課)に連絡する配慮が必要です。

道路の異状を発見したらLINEで通報

人口動態を勘案して物件提案が不可欠となる

道路の陥没が発生した場合、その補修責任は道路管理者に帰属します。

しかし、先述したように陥没道路の多くが市町村管理道路で発生しています。

人口減少に歯止めがきかず税収が枯渇する市町村では、迅速な復旧工事が行われず通行止めが長期化する懸念があるのです。

国立社会保障・人口問題研究所では、日本の人口は2056年に1億人を割り、2070年には8,700万人を割り込むと推計していますが、厚生労働省の人口動態統計では2024年の合計特殊出生率が1.15(約70万人)と統計史上最低を更新しており、2040年に1.43とした研究所の推計は「極めて楽観的」だと指摘する声も増加しています。

厚生労働省の人口動態統計

京都大学の森知也教授が過去のデータを基に今後の変化を推計したところ、多くの地方で全国平均を上回るペースで人口が減り、大都市への人口集中がさらに加速する可能性の高いことが明らかとなりました。

消滅可能性自治体は、2020年から2050年までの30年間で、子供を生む中心となる年齢層の20~39歳の若年女性人口の減少率が50%を超えると予測される自治体と定義されていますが、予測を上回る速度で現実化する可能性が高まっているのです。

森教授によれば、インフラ整備を適切に実施するためには3万人以上の人口が必要不可欠であり、それを下回る場合は費用や人的資源の問題から従来のサービス水準を維持するのは極めて困難としています。

上下水道や道路などのインフラは、その多くが1950年代から70年代に整備されています。

国土交通省は、2039年に建設から50年が経過する下水道管が34%に達すると予測していますが、その時点で資金が枯渇している自治体は更新作業がおぼつかず、道路が陥没する危険性が飛躍的に高まると推測されるのです。

私たち不動産業者は、「売れるから売る」というビジネスライクな考えではなく、将来的なインフラ維持の可能性まで見据え、顧客に不利益を押し付けない提案であるか否かを、真剣に考えなければなりません。

まとめ

今後、地質や地下埋設物のデジタル地図化が整備されれば、物件周辺道路下の状況が成約率や価格に影響を与える時代が到来するでしょう。

しかし、それ以上に留意すべきは顧客の安全です。

陥没が懸念される地域の不動産を斡旋するか否かの判断は個々に委ねられますが、リスクが懸念される場合には、客観的なデータを提示して適切な判断を促すことが、私たちの責務と言えるでしょう。

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