【本人確認方法の見直しは必須か】犯収法施行規則の改正とハンドブック第5版が示す新たな防衛策

宅地建物取引業者が「犯罪収益移転防止法(以下、犯収法)」上の特定事業者として、マネーロンダリングおよびテロ資金供与対策の重責を担うようになったのは、2008年3月1日に犯収法が全面施行されてからです。

その後、社会情勢の変化や手口の巧妙化に伴い2011年に改正法が施行されました。

これにより、本人確認の徹底が十分になされていると思われている不動産業者は多いのですが、残念ながらそんなことはありません。

実際、2027年(令和9年)4月1日には施行規則の改正が予定されるなど、本人確認等の厳格化がこれまで以上に求められる時代が目前に迫っているのです。

「これ以上の厳格化を求められれば、不動産業者の負担が多くなるばかりだ」との声も聞こえてきそうですが、国際的な政府間会合であるFATF(金融活動作業部会)が2021年に実施した「第4次対日相互審査」において、日本はマネーロンダリングおよびテロ資金供与対策において「重点フォローアップ国」とされました。

これは、G7の中で最低ランクとなる実質的な「不合格」との評価です。

言い換えれば、私たちが日頃実践している本人確認や犯罪収益供与を防止するための取り組みは、世界基準において最低レベルと評価されているということです。

2028年(令和10年)8月には、「第5次対日相互審査」が控えています。

前回の汚名を雪ぎ、テロ資金供与に加担しないとの目的を達成するためには、犯収法の特定事業者にさらなる厳格化が求められるのも致し方ありません。

実際、円安を背景に外国人投資家等を中心とした不動産取引件数が増加するなど、私たちは「歴史的な転換点」にあると言えるでしょう。

そのうえ、テクノロジーの進化によって本人確認書類等の偽造は巧妙化し、真贋を見抜くのも容易ではありません。

しかし、2027年(令和9年)4月1日からは改正犯収法施行規則が施行され、オンライン本人確認の手続き等が大幅に厳格化されるのです。

従来は、主に個人・法人の別、反社会的勢力に帰属していないか、外国籍であるか否かなどの顧客属性や、非対面性、多額現金取引、支払い原資不明など取引形態に不自然な点がないかが重要視されてきましたが、今後は北朝鮮、イランなど国や地域についても詳細に確認したうえで、特定事業者作成書面(リスク評価書)を作成する必要に迫られるのです。

リスク評価書作成要領については、2026年度中に国土交通省が作成して周知するとしていますが、いずれにしても、犯収法を遵守するためには取引に直接関与する営業部門だけでなく、管理部門や監査部門など全従業員への啓蒙と知識拡充が不可欠です。

このような背景を受け2026年1月に、本人確認手続編、疑わしい取引の届出編、Q&Aの三冊からなる「宅地建物取引業における犯罪収益移転防止のためのハンドブック(以降 ハンドブック)」第5版が、「不動産業における犯罪収益移転及び反社会的勢力による被害防止のための連絡協議会」から公表されました。

宅地建物取引業における犯罪収益移転防止のためのハンドブック

本稿では、近年増加傾向にあるオンライン取引時の本人確認追加事項と「カード代替電磁記録」の具体的な確認方法、および令和9年4月1日に施行が予定されている「画像」や「写し」を利用した本人確認方法の廃止を中心に、ハンドブックを参考に解説します。

特定事業者の義務

犯収法で求められる義務を適切に履行するためには、何が義務とされているかを正確に理解する必要があります。

特定事業者の義務

具体的には、取引時の本人確認、確認したことを証する確認記録の作成・保存、取引記録、疑わしい取引の届出の4つです。

これは犯収法の基本ですから、実務に従事されている皆様はよくご存じかと思います。

しかし、宅建業法上の分類で整理すると、義務付けられている取引は、宅建業者自らが買主・売主となる場合と取引の代理・媒介を行う場合に限られており、交換や賃貸の代理・媒介は含まれていない点については、あまり認知されていません。

しかし、代理や賃貸借の取引先が犯罪収益に加担している可能性を勘案すれば、自主的に記録を残すと同時に、疑わしい取引であると懸念される場合には、積極的に情報を提供することが望ましい姿勢だと言えるでしょう。

また、犯収法のパブリック・コメントでは、複数の宅建業者が関与する場合には本人確認を行った業者名を取引記録に記載して保管すれば良いとされています。

しかし、取引実績があり信頼に足る業者ならいざしらず、そうではないのなら、自社で重ねて本人確認を行うのが有効な対策だと言えるでしょう。

本人確認の劇的な変化

施行規則の改正によって実務上最大の変更点となるのは、本人確認書類の取扱いと確認事項の変更です。

実務では対面取引の割合が多いと思いますが、その際、本人確認書類は運転免許証、パスポート、マイナンバーカード等の顔写真付き証明書類の「提示のみ法」で確認すれば足りると認識されています。

しかし、これだけでは「なりすまし」を完全に防止することはできません。加えて、改正後はさらなる厳格な確認が求められているのです。

自然人取引の場合には本人特定事項のほか、取引を行う目的と職業を明確にして確認記録等に記載する必要がありますし、法人の場合には加えて、実質的支配者の確認が義務付けられるのです。

本人確認書類の取扱いと確認事項の変更

さらに、ハイリスク取引であると思慮される場合には、資産及び収入の状況についても確認しなければなりません。

特に、外国籍の方と取引する場合には安全性を担保するため、厳格に調査する必要があるでしょう。

ハイリスク取引,本人確認

また、本人確認書類としてよく利用される顔写真つき証明書についても、それぞれ以下のような注意が求められています。

●運転免許証
対面取引では「提示」で足ります。
ただし、偽造されていないかの確認は必須です。
非対面取引の場合は改正後、提示に加えICチップ情報の表示や確認などの徹底が必要となります。
マイナ免許証であれば、警察庁から提供されている「マイナ免許証読み取りアプリ」で免許情報を開示できますが、本人が登録した暗証番号の入力が必要です。
当然、暗証番号を失念した場合は開示できません。
このため、改正後は運転免許証ではなく、顔写真つき証明書の主流がマイナンバーカードとなる可能性が高いでしょう。

●マイナンバーカード
現行法では、本人特定事項が記載されているカード表面の提示のみで足りるとされており、マイナンバーが記載されている裏面の提示は必要ありません。
なお、通知カードは本人確認書類とみなされないため注意が必要です。

マイナンバーカード

しかし、厳格に確認するならICチップの格納情報を開示して、整合性を確認しておきたいものです。

デジタル庁から無料で提供されている「マイナンバーカード対面確認アプリ」を利用することで、提示された券面情報とICチップ情報に格納されている情報の一致性を精査できます。

アプリで開示されるのは、氏名、住所、生年月日、性別、有効期限といった基本情報だけですから、暗証番号の入力は必要ありません。

また、目隠しフィルムに入れたまま情報を取得できるため、不必要な情報が目に入る危険性もありません。

不動産業従事者は自身のスマートフォンにダウンロードして、活用されることをお勧めします。

デジタル庁,マイナンバーカード対面確認アプリ

●パスポート
令和3年2月4日以降は住所記入欄が廃止されているため、提示のみでは足りず、追加的措置が必要です。
具体的には、他の顔写真付き確認書類の提示や、公共料金の領収書などの提示を受けて確認する必要があります。

なお、国民年金手帳や各種健康保険被保険者証については、根拠法令の改正により新規発行が停止されたため、犯収法上の本人確認書類から削除されています。

このため、補完的措置が必要とされている点に注意が必要です。

オンライン取引(非対面取引)は特に注意が必要

対面取引の場合には、顔写真付き証明書の提示とヒアリングによって「なりすまし等」の危険性を、ある程度まで防止できます。

しかし非対面取引の場合には、画面に証明書等をかざしてもらう「提示」では、通信環境や解像度によって画像が不鮮明となる可能性が高く、真贋を見極めるのは極めて困難です。

このような背景から令和9年4月1日には、「提示のみ」による本人確認は禁止される予定となっています。つまり、非対面取引の場合には、補完対策が必要なのです。

改正犯収法施行規則

対面取引であれば、国税や地方税の領収書・納付書、社会保険の領収書、電気・ガス・水道等の公共料金の領収書を提示してもらうことで対応可能です。

しかし、画像が不鮮明な非対面取引の場合、その方法では足りません。

有効なのは、取引関係文書を転送不要郵便として書留で送付する方法です。

転送不要郵便を利用すれば、届出先に受取人が居住していない場合は差出人に返送されてくるため、その住所に確実に居住しているか否かが判断できます。

ただし、この方法は契約前に実施する必要があるため即効性はありません。

そのため、事前準備が整わない場合は、写真付き本人確認書類提示と同時に「カード代替電磁記録」としてのICチップ情報を提示あるいは送信してもらう必要があるのです。

犯収法規則6条1項1号ホ

犯収法規則6条1項1号ヘ

ただし現在までデジタル庁からは、送付用アプリが提供されていません。

また、民間企業から提供されたアプリはあるものの、セキュリティ面で信頼性に欠けるといった欠点もあります。

マイナンバーカード対面確認アプリ,情報の読み取り

そのため実務上は、顧客に「マイナンバーカード対面確認アプリ」等を利用してICチップ情報を読みこんでもらい画面に提示してもらい、その画像をスクリーンショットで記録するなどの対策が現実的でしょう。

ただし、この方法は便宜的な措置であり、犯収法で容認された方法ではありません。

決済前までに対面で再確認するなどの措置が必要不可欠です。

しかし、外国籍の方や法人ではこの方法が使えないため、他の対策を検討する必要があります。

外国籍の本人確認

日本では外国人等の不動産購入に大きな規制や制限はありませんが、それだけに不動産業者が担う役割は重大です。

顧客個人の確認はもとより、その背景にある「地理的リスク」への洞察が求められるからです。

●高リスク国・地域の特定:北朝鮮やイランのほか、政府間機関であるFATF(金融活動作業部会)で強化モニタリング対象とされている国の国籍保持者、あるいはこれらの国に実質的支配者が存在する法人との取引には、最大限の警戒が必要です。

外国籍の本人確認,高リスク国・地域の特定

●個人の本人確認
外国籍の方と不動産を取引する場合、本人確認も含めさらなる厳格な手順が求められます。

これまで解説してきた各種確認方法のほとんどが適用できないため、パスポートや外国政府・国際機関の発行書類で確認するほかないからです。

外国籍の本人確認,個人の本人確認

●資金源泉の精査
私たちは常に「なぜ、これだけの資金調達をできるのか」という視点を持つことが大切です。資金源泉に疑念が生じる場合は取引に関与しない。これが組織と自身を守る知的防衛策となります。

さらに、購入目的によっては、不必要なトラブルが誘発される可能性もあります。

筆者が暮らす北海道では土地を取得した外国法人が、無許可で大規模開発や森林伐採を行い大きな問題となっています。

本人確認や重要事項説明等を適切に実施すれば、法的には媒介業者の責任を追及されることはありません。

しかし、購入目的を適切に把握せず取引に関与した道義的責任に言及される可能性はあるでしょう。これにより信用が大きく失墜する可能性があるのです。

法人取引における留意点

取引当事者が法人の場合は対面・非対面いずれの場合でも、以下2つの要件を満たせば良いとされています。

①代表者等から、法人の名称及び本店等の所在地に関する申告を受ける。

②登記事項証明書等の本人確認書類を提示してもらい、申告と記載内容が一致しているかを確認する。

ただし、非対面取引で、かつ代表者等が代表権を有する役員として登記されていない場合には、前項に加えて記載された住所宛に、取引関係文書を転送不要郵便として送付して確認する必要があります。

また、対面・非対面いずれの場合でも、取引に関与する当事者(担当者など)に対し、自然人と同様の確認が義務とされている点に注意が必要です。特に権限については、入念に確認する必要があります。

法人取引,代表者等の権限委任の該当事由

さらに確実性を求めるなら、契約締結前までに「実質的支配者」が誰かを把握しておくことが肝要です。

確認すべき実質的支配者の対象者

令和4年1月から「実質的支配者リスト制度」の運用が開始されています。

あくまで法人からの申出に基づく制度ではありますが、法務局にリストが保管されている場合には、法務局で写しを交付してもらえます。

交付費用は無料ですから、法人取引の際は存在の有無について確認されると良いでしょう。

実質的支配者情報一覧の写し

まとめ

不動産業者がもっとも遵守すべきはクライアントの利益を追及することです。

しかし、その前提には遵法精神が必須であり、さらには自身を守る配慮も重要です。

自らが騙されることを防止することで、結果的に顧客の安全が担保されるからです。

このような意味において、犯罪行為に巻き込まれないための防衛手段、すなわち本人確認や取引の正当性に関する徹底した確認は、必須だと言えるでしょう。

つい先日の2026年1月15日、大阪市内の土地と建物の所有者になりすまし、不正に所有権の移転登記をしたとして司法書士と不動産会社元代表の2名が逮捕されました。

警察は、事件の背景に「地面師」グループの関与があるとみて捜査を進めています。

司法書士は不動産登記の専門家です。

このため、私たち不動産業者は司法書士に全幅の信頼を寄せ、通常はその言質を疑いません。

専門家が悪意を持って行動した場合、犯罪を予見するのは極めて困難だと言えるのです。

前項の事件でも、不正に移転された土地・建物の購入を持ちかけられた不動産業者は、相場より明らかに安値で販売する行為に疑念を抱き、さらには「すぐに決済をしてくれるなら価格を割引する」と言われるなど、挙動不審な態度に違和感を覚えます。

結果的に購入せず事なきを得たと報じられていますが、司法書士が同席していても安易に信用せず、自身の直感に従ったことで詐欺被害を防止できたと言えるでしょう。

本人確認の徹底は、犯収法で特定事業者とされた媒介業者の義務です。

しかし、不正取引には一切関与せず顧客を守る、ひいては自身をトラブルから守るために必要不可欠な対策であるとも言えるのです。

手続きが煩雑だからと省略せず、最低限として定められた手順を遵守すると同時に、疑わしい取引の場合はより以上に厳格な確認を行うことが必要だと言えるのです。

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