【管理組合は占有者である】最高裁判断によって顕在化する高経年物件の「地雷原」と実務の変容

2026年1月22日、最高裁第一小法廷(岡正晶裁判長)は、日本におけるマンション管理実務に激震を走らせる判断を示しました。

共用部分である外壁の亀裂を原因とする天井からの漏水被害において、管理組合が民法上の「占有者」にあたるか否かが焦点となった裁判です。

過去に判例が存在しないこの問題について最高裁は、「管理組合は『占有者』にあたる」との初判断を示したのです。

これまでは法人化しない限り、管理組合は法人格を持たない「権利能力なき社団」とされ、物理的な支配を伴う「占有」の主体となり得るかについては議論が分かれてきました。

裁判例は見受けられるものの規範となる最高裁判例は存在しない不安定な状態でしたが、本判決によりその解釈に終止符が打たれたのです。

本件は、具体的な損害賠償額算定のため東京高裁へ審理が差し戻されましたが、私たち不動産業者は占有に関する民法の定め、特に第186条(占有の態様等に関する推定)から同法第191条(占有者による損害賠償)までの規定および同法第717条(土地の工作物等の占有及び所有者の責任)について学び直す必要があります。

今後は民法第717条に基づく適用範囲の変化が予想され、資金の枯渇などを理由に適切な修繕が実施されていない「自主管理」や「高経年(築古)」マンションが抱える潜在的リスクが顕在化する可能性があるためです。

本稿では最高裁判決が不動産業界に与える多角的な影響を整理し、私たちが区分所有者から相談を受けた際、あるいは管理組合に対して提示すべき具体的なソリューションについて考察します。

民法第717条の構造と「占有者」認定により生じる責任

民法第717条第1項では、工作物の設置または保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じさせた時は、まず「占有者」が賠償責任を負うと定めています。

ただし、占有者が「損害の発生を防止するのに必要な注意をしたとき」は責任を免れ、所有者がその責を負うと定めています。

これまでは管理組合が占有者か否かが曖昧であったため、被害を受けた区分所有者は共用部分を所有する全区分所有者全員を相手取り裁判を行う必要がありました。

このため実務上は「損賠賠償請求権は行使できない」との説が優勢だったのです。

しかし、最高裁が「管理組合は占有者である」との判断を示したことで、今後は管理組合が損害を防止するための措置を適切に講じていたかどうかが判断基準となります。

このため、管理組合はこれまで以上に適切な管理を行う必要に迫られます。

長期修繕計画の適切な策定や実施はもちろん、部分的な損壊等が発生していないか定期的に確認し、問題が確認された場合には区分所有者に被害が及ばぬよう、大規模修繕を待たず適切な修繕を実施しなければ免責を勝ち取ることができないと想定されるからです。

民法第186条~191条の再確認と「占有」の質

不動産業者が正確に理解すべきは、占有が単なる状態ではなく「法的効果を伴う行為」である点です。

そのため、最高裁の判断を正確に理解するには民法第188条から第191条の規定を正確に読み解き見解を深める必要があるのです。

●第186条(占有の態様等に関する推定)
第1項で占有者は「所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する」と定めています。
通常、管理組合は所有の意思を有さないため、この条文だけを根拠とすれば管理組合は自主占有者と評価されにくいとの見解が成り立ちます。

実際、先述した裁判では被告である管理組合が政府の担当者による法律の解説書を引用し、「管理組合を共有部分の占有者と考えるのは無理と明言されている」と主張していました。

しかし、最高裁はこの主張を見解の一つに過ぎないと退け、管理組合は共有部分の占有者であると判断したのです。

ただし、昭和58年に「外形的・客観的にみて占有者が他人の所有権を排除して占有する意思を有していなかったと解される事情が証明されたときは、占有者の内心のいかんを問わず、その所有の意思は否定される」との判例が存在するため、事案によっては管理組合が占有者と見なされない可能性がある点について留意が必要です。

私たちが助言する際には断定ではなく、「諸事情を総合的に勘案したうえで、管理組合が共有部分の占有者と見なされる可能性がある」と説明するに留めておく必要があるでしょう。

●第188条(占有物について行使する権利の適法の推定):「占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定する」と定められています。

今回の判決趣旨が広く浸透すれば、占有者としての権利行使が容易になると同時に義務の履行がこれまで以上に求められると推察されます。

例えば、占有者による損害賠償(第191条)や占有保持の訴え(198条)などです。

●第191条(占有者による損害賠償)
占有物が占有者の責に帰すべき事由によって滅失した、あるいは毀損した場合における賠償責任に関する定めです。
所有の意思がない占有者は善意か悪意かによらず、損害の全てを賠償する義務があるとされていることから、高経年マンションが増加傾向にある現在、管理組合がもっとも留意すべき定めです。
管理組合の「不作為(なすべきことをしなかったこと)」が、この条文に直結するからです。

自主管理・築古マンションが抱える地雷

今回の判決は、特に「自主管理」や「高経年」マンションに対して厳しい現実を突きつける結果となりました。

管理組合は、これまで以上に建物全体はもとよりラウンジやバー、プール、大浴場、敷地内の公園など全ての共用部分や敷設について、これまで以上に厳格な管理責任が求められるためです。

1. 資金不足は通用しない

例えば、「修繕積立金が不足していたため、長期修繕計画を延期した」との経緯があったとしましょう。

その結果、先述の事件と同様の被害が区分所有者に生じ、管理組合が提訴された場合、裁判所が「管理組合は占有者として果たすべき注意義務を怠った」と判断される可能性があるのです。

管理組合としては、占有者としての管理責任を充足しかつ区分所有者との不必要なトラブルを回避するため、資金が不足したなら修繕積立金を一気に値上げして対応する、あるいは一時金を徴収してでも実施する必要が生じるのです。

資金繰りの失敗は経営上の問題ではなく、法的な賠償リスクに直結するからです。

2. 記録なき管理の脆弱性

自主管理物件は特に注意が必要です。

多くの物件で定期点検や補修履歴についての記録が属人化され、情報共有が徹底されていないケースを見受けるからです。

さらに、必要不可欠な書類が不足している、あるいは多数の不備が確認される事例も少なくはないのです。

端的に表現すれば、法的エビデンスが極めて脆弱な状態です。

これでは、区分所有者に提訴された場合に勝ち目はありません。

適切に管理していたとの挙証責任(立証する責任)は、占有者たる管理組合にあるためです。

不動産業者が提示すべきソリューション

近年は、土地や工事価格の高騰によってマンションの新築分譲価格が高騰し、その影響を受け既存分譲マンションの取引件数が増加しています。

また、取引件数の増加に伴い、管理費や修繕積立金の額はもとより、管理組合が適切に機能しているかを、長期修繕計画や実施状況、積み立てられた額などを自ら調査して判断される方も増えています。

「マンションは管理を買え」との不動産格言もあるのですから、これは良い傾向だと言えるかもしれません。

しかし、それだけに管理組合が果たす役割は重要です。

特に、今回の最高裁判決によって管理組合が占有者であると見なされる可能性が高まったため、これまで以上に適切な修繕計画を策定しかつ実施する必要があるのです。

私たち不動産業者は、このような実情を背景に、管理組合や区分所有者、あるいは購入検討者に対して以下3つの柱を提示して説明できるように理論武装しておく必要があります。

1. 「リーガル・メンテナンス」の徹底と証拠化の支援

私たちは、修繕を建物の長寿命化対策のみが目的であると捉えず、占有者の「免責要件」を具備するために不可欠な法的防衛策(リーガル・メンテナンス)と位置づけ、管理組合、区分所有者、購入検討者それぞれに対し、必要に応じてアドバイスする必要があります。

管理組合に対しては、これまで主流とされてきた目視主体の点検から、デジタル技術や専用機器を採用したより高度な調査への移行を促します。

また区分所有者や購入検討者に対しては、管理組合が占有者であるとの見解に基づき、その権利と義務について説明するのです。

特に、内見立会時に外壁のクラックや浮きが確認された場合には、管理組合に対して「占有者責任の顕在化」を助言する配慮が必要でしょう。

2. リスクヘッジとしての「保険設計」再定義

管理組合が占有者であると判断される可能性が極めて高くなった以上、私たちには管理組合が加入している保険契約の内容を精査し、必要に応じてサポートあるいは助言する必要性が生じました。

●占有者としての賠償カバー範囲:管理組合が加入している保険の多くは「マンション総合保険」で、そこに漏水事故等の発生を保証する「個人賠償特約」、さらに共用部分での事故発生に備えた「敷設賠償責任特約」が付保されているケースが一般的です。

しかし、筆者の知る限りではありますが、自主管理マンションでは、火災保険にのみ加入しているケースも思いのほか多いのです。

これでは、区分所有者に提訴され、裁判所から損害賠償の支払いが命じられた場合には、資金調達に困難が生じる可能性があります。

すくなくとも、保険の見直しは必須でしょう。

重要事項説明時において義務とはされない調査項目ではありますが、区分所有者や購入検討者に不利益が生じることがないよう支払限度額や免責事項などを精査し、賠償水準(資材・人件費高騰を反映した復旧費用)に見合っているか確認しておく必要があるでしょう。

●管理組合役員賠償責任保険の検討
通常の管理形態でも必要ですが、自主管理物件の場合は特に、この保険への加入が必須だと言えるでしょう。
管理組合が賠償責任を負う際、その原因が理事会の不適切な判断(修繕の不当な先送りを起案するなど)に基づくとされた場合、理事が個人的に責任を問われる可能性があるからです。

ボランティア同然の役員が金銭的リスクを抱えるのは合理的とはいえません。

何より、リスクを警戒するあまり理事の担い手がいなくなってしまいます。

なり手不足を解消する観点からも、この保険への加入が必須です。

3. 「プロフェッショナル管理」への移行と出口戦略の提示

国土交通省によれば、2024年末で全国に約713万戸分譲マンションが存在するとされ、そのうち築40年以上の高経年マンションは約148万戸あるとされています。

国土交通省,2024年末,マンションストック総数

さらに、10年後は高経年マンションの数が倍に達するとされているのですから、老朽化に伴う漏水事故の発生が今後さらに増加する懸念があります。

今回の最高裁判例を根拠に管理組合への賠償請求が続出すれば、財務面で破綻する管理組合が頻出する可能性もあるのです。

自主管理や築古マンションが抱える最大のリスクは、情報の非対称性と専門性の欠如です。

そのため、私たちは専門家として、いつ相談されても悩むことなく以下の出口戦略を提示できるように備えておく必要があるのです。

●第三者管理方式の検討
賛否の分かれる第三者方式ではありますが、依頼先を慎重に検討し、かつ契約内容を精査したうえで採用すれば理事の負担を大きく軽減できます。
マンション管理士であれば占有者責任を正確に理解し、適切に対応すべき措置を検討し提案してくれるでしょう。

●適切な評価に基づく売却・買い替えの提言
今後、物理的・資金的に占有者責任を全うできないほど老朽化、あるいは管理体制に問題のあるマンションは、購入検討者からこれまで以上に敬遠される可能性があります。
管理組合に意見を求められた際には、賠償リスクが顕在化する前に早めの対策が必要だと助言し、売却希望者や購入検討者に対しては、想定されるリスクを前もって説明する必要があるでしょう。

まとめ

2026年1月22日の最高裁判決は、一見すると管理組合に過酷な負担を強いたようにも見受けられます。

しかし、個人レベルではメンテナンスの施しようがない共用部からの影響で被害を受けた区分所有者を救済する意味において、妥当な判断だと言えるでしょう。

これまでの「全区分所有者に対して損害賠償請求しなければならない」という法解釈自体が不条理で、現実味のない見解だったからです。

ただし、本判決により被害者救済の途が大きく開かれた一方で、管理組合の責任は否応なしに増加しました。

適切な管理を行っているマンションはこれまで以上に正当な評価を受けられる一方、そうではないマンションは再販が危ぶまれるほど評価を下げ、資産価値が大きく減少する可能性もあるのです。

私たち不動産業者は、単なる媒介者という立場に甘んじてはなりません。

民法上の占有法理を正しく理解し、管理組合が抱える法的リスクを正しく指摘できる「軍師」の役割が求められているからです。

管理不全が法的な「地雷原」となった今、私たちが提供する情報の質と、管理組合に対する深いコミットメントこそが、顧客の資産と生活を守る最後の「砦」となるのです。

最高裁判決を契機に、日本のマンション管理が真の意味で「成熟」へと向かうように、私たち不動産のプロフェッショナルが率先して声を挙げていく必要があるのではないでしょうか。

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