【政治が及ぼす不動産市場の力学】政権と政策から読み解く需給の変化

2026年1月27日に公示され、2月8日に投開票を迎える衆議院選挙に注目が集まっています。

「人々の生活に直結する予算編成を優先すべきではないか」といった声も多く聞かれたものの、「国民に信を問う」との理由から、憲法に規定された、いわゆる「7条解散」が選択されました。

不動産に限らず、営業が顧客と打ち解けるための雑談において、「政治・宗教・プロ野球」は長年ビジネスシーンでタブーとされてきた話題です。

立場や価値観の違いが表面化しやすく、不要な摩擦を生みかねないことがその理由です。

しかし、不動産市場を「経済」だけで語ろうとすれば、必ず説明がつかない歪みは生じます。

歴史的背景やその深層に目を向ければ、その裏側には、常に「政治」の影響が横たわっているのです。

金融、税制、都市計画、人口政策、さらには安全保障に至るまで、時の政権が下す意思決定は、時間差を伴いながらも確実に不動産の需給構造と価格形成に影響を及ぼしてきました。

これは、個別の政策を詳細に論じるまでもなく、日本における不動産の歴史そのものが証明しています。

その典型例が、1980年代後半のいわゆる平成バブルです。

プラザ合意による急激な円高を背景に、景気後退を回避するため断行された超低金利政策がトリガーとなり、市場に供給された大量の資金は行き場を失い、不動産市場へ流入しました。

その結果として地価は急騰し、過熱した市場が形成されたのです。

その後、1990年に銀行等に対する不動産向け融資への行政指導(総量規制)が発せられると、需給のバランスが一気に崩れ、価格は急落し、バブルは終焉を迎えました。

同様に、現在における不動産価格の高止まりについても、人件費や円安による資材価格の上昇といった要因だけでは説明しきれません。

安倍政権下で進められた金融緩和政策、いわゆるアベノミクス、タワーマンションを巡る税制の歪み、安全保障政策を背景とした資金の動きなどが、市場に少なからぬ影響を与えていることが否定できないのです。

このように、不動産市場と政治の間には、明確な因果関係が存在するのです。

顧客との会話に適さないからといって、業界に身を置く者が無関心であってよい理由はありません。

不動産業は政策と市場、さらには人の動きに基づき、価格形成の要因として読み解く仕事だからです。

本稿では、政権や政策の変化が不動産市場にどのような力学をもたらすのかを、実務家の視点から整理していきます。

とりわけ、今回の選挙を一つの節目として、その先に想定される市場環境の変化が、日々の提案や意思決定にどのような影響を及ぼし得るのかを考察していきます。

金融政策という「即効性」をもたらす政治判断

不動産市場に最も直接的かつ即効性をもって影響を及ぼすのが、金融政策です。

金利水準、金融緩和・引き締め方の方向性、さらには金融機関に対するスタンスが、政権の経済観に色濃く反映されるからです。

低金利政策は住宅取得や投資を後押しし、不動産需要を喚起します。

一方、金利の引き上げは借入余力や意欲を削ぎ、需要を冷却します。これは極めて単純な理屈ではありますが、実務で重要なのは「実際に金利が動いたかどうか」よりも、「市場がどのように受け止めて行動したか」です。

政権がインフレ抑制を重視する姿勢を示せば、たとえ政策金利が据え置かれたとしても、不動産投資家を筆頭に市場は先行して引き締めにかかります。

不動産取引においても、買い手の動きが鈍るため、売り急ぐ方から順に価格調整を迫られることになるのです。

逆に、景気対策を最優先とする政権下においては、緩和政策への期待が資金を市場に呼び込み、不動産価格を下支えします。

不動産業者にとって重要なのは、政策決定そのものではなく、政権が発信するメッセージの方向性を読み取ることです。

首相はもとより経済官僚による発言、政策文書の言い回し一つひとつが、市場心理を通じて取引現場に影響を及ぼすからです。

税制改正が及ぼす市場の行動原理

税制は、ある意味で不動産市場における「行動の計画図」と言えます。

税制改正により保有・取得・売却の前提条件が変化することで、市場構造を徐々に書き換えていくからです。

相続税や固定資産税の改正は、否応なく保有コストを意識させる結果を生み、不動産の流動化を促す可能性があります。

一方で、住宅ローン控除や各種の減税措置は、取得するタイミングを前倒しさせる効果と持ちます。

特に、期限付きの優遇措置は「今、購入するのが得だ」といった理由を生み出す一方で、終了後に需要の空白を生むことが多いのです。

市場価格と相続税評価の乖離が著しい高層マンションに対して、評価額を適正化する計算ルールが導入され、相続または贈与の開始が令和6年(2024年)1月1日以降に発生した場合、適用されます。

これにより、いわゆる「タワマン節税」が封じられました。

このようなタワーマンションを巡る税制の歪みが象徴するように、制度設計のわずかな綻びが、特定の不動産に資金を集中させる結果を生み出すこともあるのです。

これは市場の合理性というよりは、政策が産んだ副次的な作用と言えるでしょう。

不動産業者は、税制を「節税トーク」として利用するのではなく、その制度がいつ、どの層の行動を変えるのかを読み解く必要があります。

税制改正が発表された瞬間よりも、実際に行動変化が表れるタイミングの方が重要だと言えるでしょう。

都市政策と規制が決定づける「場所的価値」

不動産の価格は、その立地によって大きく左右されます。

そして、その立地的価値を長期的に決定づけるのが、都市政策と各種規制だと言えるでしょう。

再開発の推進、用途地域の変更、容積率の緩和、インフラ投資など、これらはすべて政権や自治体が描く都市像の反映であり、「どこに人と資本を集めるか」との意思表示です。

典型としては、スマートシティプロジェクトが挙げられます。

AIやIoT、5Gなどの最先端技術を活用し、交通渋滞、高齢化、エネルギー不足など都市が抱える課題を解決することで、住生活の利便性や生活の質を向上させる持続可能な街を造ることがプロジェクトの目標である一方で、これに伴う再開発により地価や賃料を押し上げる要因となっている傾向が見受けられます。

スマートシティプロジェクト箇所図

先行モデルプロジェクトとして、北海道札幌市など複数都市で計画されていますが、これらの地域はいずれも、再開発による期待感から地価が上昇傾向にあります。

さらに、国が最終的に目指すのは「デジタル田園都市国家構想」ですから、選ばれたエリアは成長し、選ばれなかったエリアは相対的に取り残される結果を生み出すのです。

スマートシティプロジェクト

このような二極化は、人口減少社会においてさらに顕著となっていくでしょう。

目端の利く不動産業者として重要なのは、すでに発表された計画そのものよりも、「なぜその地域が選択されたか」を考えることです。

背景には必ず、産業政策、防災、国際競争力といった複合的な意図が隠されています。

それらを理解できれば、次に計画されるエリアと、計画から漏れる可能性の高いエリアが見えてくるのです。

人口政策と市場の底流

不動産市場の根底にあるのは、常に人口動態です。

出生率対策、地方創生、外国人労働者の受け入れなど、人口政策は即効性こそありませんが、長期的な需給構造を決定づける要因となります。

例えば、外国人労働者や留学生の増加は、都市部の賃貸市場を下支えします。

一方で、地方移住政策や二拠点居住の推進は、これまで評価されなかったエリアに新たな需要を生む可能性を持ちますが、それらの多くが補助金や制度に依存しているため、政策が転換されれば需要が一気に低迷する危険性を孕んでいます。

不動産業者としては、「政策によって需要が生まれた」のか、「需要があるから政策が組まれたのか」を冷静に見極める必要があるのです。

理念と実態を混同した判断は、将来的なリスクが内包されている危険性があります。

選挙と市場心理

選挙が不動産市場に与える影響は、必ずしも即座に現れるとは限りません。

変化するのは、むしろ市場の「空気感」だと言えるでしょう。

政権交代の可能性が高まれば、投資家はそれまで以上に慎重な姿勢を取り、意思決定を先送りする傾向が顕著となります。

一方で、現行路線の継続が見込まれれば、安心感が取引を後押しして、期待感からそれまで以上に取引が活性化するケースもあるのです。

今回の衆議院選挙においてすべての政党が不動産に関する公約を掲げているわけではありませんが、執筆時点では次のようなものが確認されます。

自由民主党:外国人による住宅や土地の取得・所有について法律やルールを見直す。

●外国人による住宅・土地取得の実態把握
●不動産の所有者情報を把握し、それを管理するために必要な制度の整備

中道改革連合:賃貸住宅に関する公的支援の拡充

●主に若者や学生を対象とした家賃補助
●住居確保に必要な情報提供制度の拡充

日本維新の会:副首都構想による都市機能の分散

●首都機能の一部を地方に移す「副首都構想」の実現
●大阪のみならず、札幌や福岡なども視野に入れた分散化

国民民主党:住居費の負担軽減と不動産の有効利用

●中低所得者への家賃補助制度の実現
●投資目的の住宅を対象に、空家税の導入

参政党:外国人の不動産取得規制

●外国人総合政策庁の新設
●外国人への不動産取得規制
●不法滞在対策と連動して実施する土地や住宅の管理

れいわ新選組:空家・空室の有効活用と家賃補助

●空家等を借り上げ、公共住宅として活用する
●家賃補助制度の創設

日本共産党:家賃補助を中心とした住まい確保

●恒久的な家賃補助制度の創設
●家賃負担を軽減するために必要な継続的支援の実施

このように、いずれの政党が与党となった場合でも、公約が実現されることで少なからず不動産市場に影響を及ぼす内容です。

しかし、不動産市場は、これらの公約以上に「予見可能性」によって動く側面が強いのです。

今回の衆院選もまた、これまでの市場が「変わるのか、続くのか」という根源的な問いを投げかけていると言えるでしょう。

その答え次第で、資金の動きや取引件数が変わるのです。

実務家としての視点

不動産実務者が政治を学び、各政党の動きを注視するのは政治を語るためではありません。

政権や政策の変化で影響を受ける市況について、顧客に適切な「判断材料」を提供するためです。

重要なのは支持・不支持を表明することではなく、「この環境下で、どのような選択をするのが現実的か」といった提案を、実現するために必要な力を養うことです。

政治は、不動産市場に影響を与える前提条件であり、避けて通ることはできないのです。

これまで本稿で整理してきたとおり、不動産市場は「政治的中立空間」ではなく、常に政策と制度設計の影響下にあります。

とりわけ選挙を挟む局面では、実務家として以下の視点を意識しておく必要があります。

1. 金融政策は「金利水準」ではなく「方向性」を読み取ること

市場が反応するのは、現時点の金利そのものよりも、「今後どう推移していくか」です。
選挙後の政権基盤や政策継続性は、金融当局のスタンスに影響を与え、その期待値が不動産価格に影響を及ぼします。
提案や助言をする際には、短期的な金利論ではなく、中期的な資金環境の変化を前提に据える視点が求められます。

2. 税制を「節税手法」ではなく、「行動変化」として捉える

税制改正の本質は、特定のスキームを封じることではなく、市場参加者の行動に影響を与える点にあります。
タワーマンションを巡る税制の見直しが示すように、制度変更は実需層に対し、時間差を伴って需給構造の変化を及ぼします。
顧客に説明する際には、目先の得喪ではなく、「どのような層が、いつ影響を受けるか」を整理したうえで臨む必要があるのです。

3. 都市政策・人口政策が「エリアの序列」を再編する要因との視点を持つ

国による成長戦略や都市構想は、すべての地域を等しく押し上げるものではありません。
選ばれるエリアと、相対的に取り残されるエリアとの差は、今後さらに拡大していくでしょう。
このため、立地評価においては、成約事例のみならず、政策の射程に入っているかどうかという視点を加える必要があるのです。

4. 選挙は結果より、不確実性の解消プロセスに注視する

市場が嫌うのは、特定の政権や政策そのものではなく、先行きが見通せない状態です。
選挙を経て政権の方向性が定まること自体で、市場心理が安定する局面は少なくありません。
選挙戦後において顧客心理がどの段階にあるかを適切に見極め、過度な期待や過剰な警戒を是正する役割が、実務家には求められるのです。

政治を語ることと、政治を読むことは別物です。

不動産業に携わる者にとって重要なのは、是非を論じることではなく、政策と市場の連動を冷静に把握し、その影響を顧客の意思決定に落とし込むことにあります。

選挙という節目を、単なるイベントとして消費するのではなく、市場構造を読み解く材料として活用できるか否かが、今後における提案力の差となって表れるのです。

不動産のプロフェッショナルとして責務を全うしたいのなら、目の前の物件を売ることだけに専念するのではなく、変化する環境の中で価値を見極め、意思決定を支援することが必要です。

これを理解して実践する限り、政治の変化が及ぼす影響は脅威ではなく、読み解くべき情報源となるのです。

まとめ

日本における政治離れは特に若年層で顕著と言われがちですが、実際に前回の衆院選投票率55.9%のうち、20代は36.5%と、50代62.9%、60代71.3%の投票率と比較して大きく下回っています。

ですが一部の研究機関によれば、「中高年の政治離れがより深刻」とされています。

実際、近年の投票率を見ていくと、国政・地方選挙ともに中高年の投票率が年々減少しているのが分かります。

背景には小選挙区比例代表並立制による影響や、中高年層の若年化があると言われているものの、政治に対する不信感の根強さが主要因ではないでしょうか。

特に階級意識の低さが影響していると推察されるのです。

どの政党が政権を取っても自身の生活は変わらないという、諦めの結果です。

しかし、政治が不動産市場に少なからぬ影響を与えるのは間違いありません。

いずれかの政党を支持する、あるいは投票に出向くか否かは誰に強制されるものではありません。

しかし、不動産のプロフェッショナルを標榜するのであれば、政治がもたらす不動産市場の影響力を看過せず、情報を集めて考察し、顧客に有益な提案を行うことが責務であることを忘れてはならないのです。

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