【契約不適合責任免責の限界】古家付き土地の地中埋設物トラブルにおける実務判断

最近、まるで万能であるかのように築古物件の販売資料で見られるようになった「契約不適合責任を免責」する旨の記載。

売主が個人の場合には、構造上主要となる部分の契約不適合など、買主が契約の目的を達することができない状態であることを知りながら、または通常の注意をもってすれば知り得たにもかかわらず告げなかった場合を除き、特約は有効と解されるのが一般的です。

ただし、売主が宅地建物取引業者で買主が個人である場合には、契約不適合責任を完全に免除(免責)する特約は「無効」とされます。

これは、宅地建物取引業法第40条(担保責任についての特約の制限)によって、民法の契約不適合責任に関する規定より買主の不利となる特約をしてはならないとされているためです。

もっとも、契約不適合責任を引き渡し日から2年以上とする特約は認められています。

このような解説からも理解できるように、契約不適合責任は決して万能ではないのです。

この点についての詳細な内容は、「不動産会社のミカタ」に記事を寄稿しておりますので興味がございましたらご一読ください。

では、不動産業者が売主となる場合、経年変化による問題の発生が予見される築古物件の契約不適合責任を、2年以上際限なく負うのかといえばそんなことはありません。

あらかじめ物件状況報告書等で問題のある箇所を具体的に告知し、当該状態を前提として契約を締結すれば、その部分は契約内容とされ、契約不適合には当たらないと解されるためです。

過去の裁判例においても、このような合意は有効と判断されています。

つまり、契約不適合責任条項を免罪符として扱うのではなく、個別に状態を適切に告知し、売主・買主合意のうえで契約を締結することが重要であり、その範囲においては契約内容に基づき、個別具体的に法的な評価がなされることになるのです。

しかし、このような法理を正確に理解せず、契約不適合責任を免責にすれば何ら責任を負わないと誤解して契約を締結することで、不動産実務において様々な問題が発生しています。

実務上は「責任を負うか否か」よりも先に、「誰にクレームがくるか」が問題になります。そして多くの場合、最初に連絡を受けるのは売主ではなく媒介業者です。

実際の現場では、最初に鳴る電話は売主ではなく担当営業の携帯であり、そこから紛争が始まるケースが大半です。

例えば、筆者に先日寄せられた相談では、古家付き土地として現状有姿取引(契約不適合責任免責条項付きで契約を締結し、すでに引き渡し済み)を行った売主から、「買主が解体をしたところ地中埋設物が発見され、その費用を請求されているが応じる必要はあるのか」との相談を受けました。

依頼した媒介業者からは「現状有姿渡しで、さらに契約不適合責任を免責にしておけば、何か問題が生じても一切責任を負う必要はない」と説明されていたとのことです。

この種の説明は実務上しばしば行われていますが、紛争が生じた場合は「誤った法律解釈による説明」と評価され、媒介業者自身の説明義務違反が問題化する可能性があります。

実際に売主は、仮に自分が賠償責任を負うのなら、誤った説明をした媒介業者に損害分を請求したいとの意向を口にしていました。

売主・買主ともに個人であるため、契約不適合責任免責の特約は有効と解されます。

しかし、地中埋設物の問題は、売主が当該事実を認識していたか、または通常求められる注意を尽くせば把握し得た事情であったかが問題となり得ます。

買主は「地中埋設物の存在を知っていれば購入していなかった」と主張し、撤去費用を請求してきたのです。

このような問題が発生した場合、私たちはどのように解決へと導けば良いのでしょうか。

本稿では、このような契約不適合責任免責に基づくトラブルの対処法について解説します。

相談事例の検討

序章で取り上げた相談は、本稿の出発点となり得る極めて典型的な事例です。

個人売買において「古家付き土地」として売買契約を締結し、契約書には原状有姿および契約不適合責任免責条項が設けられており、引き渡しも既に完了しています。

ところが、買主が建物解体工事を行ったところ、地中からコンクリートガラや基礎片などの埋設物が大量に発見され、撤去費用の負担を売主に求めてきたというものです。

売主としては当然「契約不適合責任を免責としている以上、責任はない」と考えます。

実際、契約書の文面を見ればそのように思うのも無理からぬことです。

しかし結論から言えば、免責条項があるからといって直ちに売主の責任が否定されるわけではありません。

ここに、契約不適合責任を巡る最大の誤解があるのです。

ご存じのとおり、契約不適合責任とは、引き渡された目的物が「契約の内容に適合しない」場合に生じる責任です。

したがって、問題の出発点は「欠陥があるか」ではなく「契約上予定されていた状態であるか否か」にあります。

たとえば雨漏りが発生している建物でも、その存在を明確に告知し、それを前提として価格が設定され契約を締結した場合、それは契約内容どおりの取引です。

この場合、契約不適合責任は発生しません。

逆に言えば、免責特約とは「欠陥があっても責任を負わない」という魔法の条項ではなく、契約不適合責任が問題となる範囲を限定するに過ぎないのです。

言い換えれば、免責条項はリスクを消す条項ではなく、リスクの所在を明確化する条項に過ぎないということです。

つまり先述した相談事例において重要なのは、契約不適合責任の免責条項があったことではなく、「地中埋設物の存在が契約内容に含まれていたか」という1点に尽きるのです。

そして実務上は、この点が売主のみならず媒介業者の説明義務を判断する核心となります。

実際の紛争では、買主はまず「説明をした担当者」に対して責任を追及し、その後に売主へ矛先が向かう傾向にあります。

したがって媒介業者にとって本件は“売主の問題”ではなく、“自社の責任問題に発展し得る事案”なのです。

地中埋設物によるトラブルが特殊なのは、建物の不具合とは異なり、買主が内覧によって認識することがほぼ不可能である点です。

そのため裁判例の傾向では、次のような事情がある場合、売主の責任が肯定されやすくなります。

●過去に建物の建替えや解体履歴がある
●古い基礎や井戸、浄化槽などの存在が推測できる
●擁壁や造成工事の履歴がある
●売主または親族が長年居住していた

このように、重要なのは売主が実際に知っていたか否かではないという点です。

不動産取引においては、売主に一定の調査・説明義務が課されると解されており、通常期待される注意を尽くせば把握が可能であった事実を告げなかった場合、免責条項があっても責任が認められる余地があるのです。

特に注意すべきは相続物件です。相続人は「知らない」と回答することが多く、おそらくは実際に知らないのでしょう。

しかし、長年における被相続人の居住履歴や近隣事情から知り得たと評価されるケースも事実上少なくありません。

相続人が「知らない」と回答した場合でも、媒介業者はそれをそのまま重要事項説明の前提にして良いわけではありません。

売主の回答をそのまま転記しただけでは、調査義務を尽くしたとは評価されない可能性があるからです。

この時に問題とされるのは契約不適合責任そのものではなく、信義則上の説明義務違反です。

古家付き土地取引における現状有姿渡し、つまり現状のまま引き渡す旨の文言は、売主が地中埋設物の有無について保証しないとの意味を持ち得ます。

つまり、買主がそのリスクを承知したうえで購入したものと解釈できるのです。

ですが、現実の紛争においては「どの程度のリスクまで承知していたか」が争点になります。

相談事例でも買主が「事前に埋設物の存在を知っていれば購入していなかった」と主張しているように、限定的とはいえ売主による処分費の負担が発生する懸念は残されるのです。

ここで重要なのは告知の「量」ではなく「具体性」です。

「不明」「現況優先」といった記載だけでは、リスクを買主が認識していたと評価されにくい傾向にあるのです。

なぜ免責条項があっても責任が認められる余地は残るのか

免責条項は、あくまで契約不適合責任を排除する特約です。

それに対し説明義務違反は、契約不適合責任とは別の法理です。

民法第1条第2項では「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない」と規定しています。

いわゆる「信義誠実の原則」であり、私法関係における基本原則です。

つまり、契約不適合責任を免責する旨の特約があったとしても、それをもってすべての責任から免れるわけではなく、信義則に基づき経験則や慣習、契約の趣旨に基づき責任を負う可能性があるのです。

そして地中埋設物の存在は、土地の利用可能性や解体費用に直結する重要事項に該当します。

実際に裁判実務では「契約不適合か否か」より先に、「説明すべき事項であったか」が判断される傾向にあるのです。

そのため、

●旧建物の解体を自ら行った。
●地中に構造物があることを知っていた。
●隣地の工事で同様の埋設物が発見され、所有地にも存在する可能性を懸念していた。

などの事情が認められれば、免責条項の有無にかかわらず損害賠償責任が認められる可能性があります。

これは、信義則に反したことを理由に請求される損害であり、契約不適合責任が根拠ではない点に留意する必要があります。

つまり、免責条項で防げるのは「契約不適合責任」だけであり、「説明義務違反に対する責任」は防げないという構造を理解することが極めて重要なのです。

実務上の判断基準

不動産実務者が留意すべき判断基準は、以下の3つに集約されます。

  1. 売主の認識可能性
    売主が当該事情を認識していた、あるいは通常期待される注意を尽くせばの把握可能であったか。
  2. 買主の取引判断への影響
    その事実を知っていれば買主が契約しなかった、あるいは価格交渉を行ったと評価できるか。
  3. 告知の有無
    物件状況報告書、告知書等によって取引過程で開示されていたか。

この三点の総合評価によって、売主や媒介業者の責任が判断されることになります。

実際の紛争では、契約書そのものよりも、取引過程の記録や聞き取りメモ、メールのやり取りが重要な証拠となる場面が少なくありません。

とりわけ、LINEやSMSのやり取りは裁判で証拠採用されることが多く、立証が困難な口頭説明よりはるかに重視されます。

担当者による何気ない記載の一言が、責任認定の根拠となる例もあるのです。

特に「大丈夫です」「問題ありません」「聞いたことはありません」といった断定的な表現は、裁判に発展した場合「保証的な説明」として扱われる危険があります。

現状有姿渡しの特約がある以上、地中埋設物の存在は契約上の「不適合」と扱われにくいのは事実ですが、買主が取引過程の記録等で信義則に反した説明がなされたことを証明し、かつ売主が当該事実を認識していた、あるいは通常求められる注意を尽くせば把握できたとの立証を行えば、責任を認められる可能性があるのです。

そして、相談事例のようなトラブルにおいて実務上もっとも問題となるのは、売主より媒介業者です。

なぜなら、買主はまず媒介業者に対して説明義務違反を主張するからです。

さらに、宅地建物取引業者は専門家として高度な注意義務を負うと判断されやすく、売主より重い責任を負うと評価されるケースもあります。

特に注意すべきは次の場面です。

●古家付き土地
●相続を原因に取得され、その後長期間空家の住宅
●建替え前提の取引

これらは地中埋設物の典型的発生類型です。

したがって、媒介業者は売主に対し形式的な聞き取りを実施したという事実だけでは、説明責任を果たしていないと評価される可能性があります。

「聞き取りをした」ことと「調査義務を尽くした」ことは同義ではない点に注意が必要です。

このため、以下のような事実関係を確認すると同時に可能な範囲の調査を実施し、その記録を残すことが重要となります。

●過去の建物配置の記録(建替えが行われている場合)
●解体履歴の確認
●近隣での工事状況の聴取
●井戸・浄化槽の有無を確認

さらに、説明義務違反が契約不適合責任とは別の法理であることを正確に理解し、免責条項を厚くするのではなく、告知を厚くすることに配慮するのです。

契約書を強くすることより、記録を残す方が紛争予防効果は高いと言えるからです。

具体的には、

●売主に対し、物件状況報告書には可能な限り詳細に記載することを促す。
●懸念が残る箇所について「不明」で済ませない。
●聞き取り内容を記録し、保管する。
●買主に対する説明記録の保管。
●可能であれば「地中埋設物の可能性」について口頭説明を行い、その旨を書面に残す。

これらを確実に行うことで、当該事情を契約内容に組み込むことができ、紛争の予防効果が大きく高まります。

さらに万一紛争が発生した場合には、初動での対応が極めて重要です。

責任を否定するのではなく、事実確認と記録収集を優先し、売主・買主双方の主張を整理することで解決可能性が大きく変わります。

特に、引き渡し後のクレームに対してその場で法的見解を回答してしまうと、後に発言内容が責任認定の根拠とされる可能性があるため、即答せず事実確認を優先する姿勢が求められます。

まとめ

本稿では筆者に寄せられら相談事例を参考に、契約不適合責任の見解について掘り下げてきました。

不動産取引において契約不適合責任の免責は重要な条項です。

それだけに限界を正確に理解しておく必要があります。

契約不適合責任が問題となるか否かは、最終的には契約内容によって判断されます。

そして契約内容を形成するのは、契約書の条項だけでなく、取引過程における説明と告知です。

免責条項に依拠するのではなく、適切な情報開示によって紛争を未然に予防することこそが、不動産実務における最も有効なリスク管理と言えるでしょう。

不動産トラブルの多くは、法律の問題というより「記録の問題」です。

つまり、契約書の不備ではなく、契約前の説明過程にあることが少なくないのです。

そして、その説明過程を証明できるかどうかが、責任の帰属を左右する結果となるのです。

契約書の一文よりも取引や説明過程の記録が紛争の帰趨を左右することが、決して珍しくはないことを、私たちは深く理解する必要があるのです。

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