【売れない理由は物件のせいではない】負動産案件のマネジメント実務

不動産媒介業は「物件を販売する仕事」と理解されがちですが、実務上それは必ずしも正確ではありません。

媒介業務の本質は、所有者の意思決定を支援し、出口を設計することにあります。

その性質が最も顕在化するのが「売れない物件」、いわゆる負動産案件です。

レインズで物件を検索すると、長期間売却されず半ば放置されているような物件を目にすることがあります。

掲載内容が変わらないまま更新のみが繰り返されている物件です。

販売価格が相場よりも高い、立地や間取りが悪い、現状有姿渡しなど販売条件が良くない、再建築不可あるいは違法建築物件であるなど理由は様々ですが、売主に販売したいとの意向がありながら売却できず、固定資産税や維持管理などのコストが発生するだけのお荷物と化した物件があります。

こうした物件は「負動産」と揶揄されます。

成約時報酬型である媒介業務の性質上、長期化が見込まれる案件ほど対応が難しくなる傾向があります。

しかし、発想の転換やたゆまぬ努力で「負動産」を再生し、実績を上げる業者も存在します。

一体、何が違うのでしょうか。

条件の良い物件を適正価格以下で売り出せば、さほど努力をせずとも販売できます。

しかし、そのような好条件の販売依頼が、常に訪れるとは限りません。

実際、媒介実務の大半は、少なからず問題のある物件を販売する作業です。

そして、本当の真価を問われるのは、売れない物件、つまり「負動産化」した物件を販売できるか否かであり、言い換えれば、売れない物件への向き合い方自体が、業者の真価を問う試金石とさえ言えるのです。

他社で販売できずに手こずった物件を自社で販売できれば、当然に評価は上がりますし、顧客からの信用も得られ紹介件数の増加にも繋がるでしょう。

ひいては、利益の拡大にも寄与します。

本稿では、「売り出しから3ヶ月以上、反響がほぼない物件」を負動産と定義したうえで、その発生原因と初動対応の問題を検証し、さらには出口戦略に関する活動指針について解説します。

なぜ負動産は生まれるのか

負動産と呼ばれる物件は、必ずしも特殊な不動産ではありません。

極端に立地が悪い、あるいは著しい瑕疵が存在するような物件ばかりではなく、一般的な住宅地に所在する戸建住宅や区分所有マンションであっても、売却が長期化するなど、本稿で定義した「負動産化」している物件は少なくありません。

その原因の多くは、物件そのものではなく売却の開始段階にあります。

厳密には、査定段階における交渉によって、必然的にもたらされた結果とも言えるのです。

「相場より、少しでも高くかつ早期に売却したい」これは、売主なら誰しも持つ希望です。

一般的に査定額は、「概ね3ヶ月以内に成約が見込まれる価格水準」です。

そのため、査定価格は近傍同種物件の販売・成約事例を参考にする取引事例比較法を基本に、物件ごと固有に存在する個別性評価を調整して算出されます。

個別性評価シート

しかし、一括査定が普及した現在では、より早く、より高い査定額を提案しなければ他社に競り負けるとの意識が先行し、本来の市場性を超えた査定額で媒介契約が締結されることがあります。

これが、後の長期滞留を招く最初の分岐点となります。

業者としては、「まず査定額で売り出しを開始して、反応がないことを根拠として段階的に販売価格を下げれば良い」と考えがちです。

しかし、売主の多くは査定価格を「売れる見込み額」ではなく物件の「資産価値」として受け取ります。

媒介契約締結の局面では、売却可能価格よりも売主の期待に整合する価格提示が選択されやすくなります。

この時点ですでに、売却が難航する条件が整ってしまうのです。

販売開始直後は一定の閲覧数や問い合わせがあるため、売主は「いずれ売れる」と認識します。

しかし実際には初動1~2ヶ月で購入検討層はほぼ一巡し、成約に至らなかった物件は市場において比較対象から外れ、急速に鮮度を失っていきます。

そして3ヶ月を経過する頃には「価格は高いまま」「反響は減少」「売主の期待は維持」という状態が生じ、負動産化の入口に立つのです。

ここで重要なのは、負動産は突然発生するのではなく、販売開始後およそ1ヶ月以内にその兆候が現れるという点です。

具体的には、閲覧数はあるが内見に至らない、内見はあるが再内見や検討打診がない、価格交渉の打診がない、といった現象です。

これは市場が「高い」あるいは「販売条件が適切ではない」と判断しているシグナルです。

にもかかわらず、この段階で価格改定や条件調整の提案を行わず、販売活動の量を増やす対応に終始すると、売主は「営業努力で解決できる問題」と認識し、修正の機会は失われます。

負動産対策の本質は販売技術ではありません。

初動段階での状況説明と意思決定支援、つまりプロセス設計そのものにあるのです。

販売活動では解決できない真の理由

売れない物件においては売主から急かされ、とかく販売活動の量を増やしがちです。

時に、写真の撮り直しやコメントの追加、ポータルサイトへの追加掲載、オープンハウスの実施などの営業努力が積み重ねられます。

しかし、ここで認識すべきは、反響がない理由の大半が露出不足ではなく、査定交渉時から生じた認識の齟齬に起因していることです。

つまり、「市場評価と売主認識の乖離」という根本的な問題を解決しなければ、状況は改善されないのです。

このため必要なのは、売主への状況説明です。

閲覧数、周辺成約事例、競合物件の条件、内覧者の反応など、客観的情報を継続的に提示して「売れない理由」を売主と共有することで事態の改善が可能となります。

ですが、頭では理解できても営業担当者がこのような対応に躊躇することは少なくありません。

媒介契約取得時に「この価格と販売条件であれば早期売却が可能です」などと説明した場合、初動説明が売主の期待形成に影響している可能性があるため、担当者は修正の提案を切り出しにくくなるからです。

しかし、現状を放置すれば無意味に販売期間が長期化し、その結果、売主は不信感を募らせていきます。

売主と媒介業者双方の目的は「いち早く適正価格で売却すること」に尽きるのですから、根本的な問題の解決をいち早く実施する必要があるのです。

価格改定や条件変更の進め方

価格改定や条件変更は「交渉」ではなく、さらに言えば「説得」でもありません。

売主に市場の現実を理解してもらうための情報を提示し、かつ必要な助言を添えることで、自ら判断できる状態を整える作業です。

売主が価格改定や条件変更を拒否する理由の多くは、価格や条件そのものではなく心理的要因にあります。

取得価格や近傍同種物件の引き渡し条件、あるいは「安く売ったと思われたくない」といった感情面が判断を左右しているのです。

このため、単に情報を提示して説得するだけでは売主の納得は得られません。

重要なのは、現在の価格や条件のまま販売を継続した場合の将来予測、例えば以下のような情報を具体的に示すことです。

●市場滞留期間の平均
●価格や条件を維持した場合の想定販売期間
●維持費の累計

これらはあくまで一例ですが、売主の心情を理解して適切な情報を提示することで、売主は価格や条件変更を“損失”ではなく“選択”として捉え始めます。

つまり、価格改定や条件変更が成立するか否かは、営業力ではなく提供する情報の“質”によって決まるのです。

出口戦略の制度設計

売却だけが唯一の正解ではないのが負動産の特徴です。

理論的には、適切な価格や条件で需要と供給をうまく合致させれば、どのような物件でも販売できるはずです。

しかし、立地や交通至便性、買物至便性が極端に劣る築古物件や地方物件、あるいは市街化調整区域や未線引き、山林や田畑などは需要自体が限定的です。

このため、売却相談に応じる時点から「売却できない場合の選択肢」を検討しておくことが重要です。

●買取業者への打診
●賃貸化による維持費の軽減
●建物を解体しての土地販売
●借地としての活用
●相続土地国庫帰属制度の利用
●空き家バンク・無償譲渡サイトへの登録

このような複数の出口を検討することで、売主の判断は大きく変わります。

「売却が難航する可能性は高いですが……」と逃げ口上を口にしながら売却のみを提案する業者と、複数の出口戦略を提案してくる業者では、売主から得られる信頼度は明確に異なります。

結果として物件の取引に関与できなくても、紹介が得られる、あるいは将来的に他の不動産を取引する際に声がけされるなどの余録が生まれます。

まとめ

極論ではありますが、価格も適正で条件の良い物件を販売するのに営業力は必要ありません。

何もしなくても買主が現れ、取引が成立するからです。

しかし、売れない物件に対する対応は会社や営業担当者の姿勢と実力が表れます。

売却に至らなかった場合でも、状況を整理し、次の方針を示し、売主との関係性を維持できるなら失敗ではありません。

むしろ、後の紹介や相談に繋がるケースが少なくないのです。

不動産会社の評価は、取引件数の多寡のみで決まるものではありません。

一般には取引件数が業者評価の指標と捉えられがちですが、負動産を所有し販売に苦慮している方々は口コミ情報などから得られる評判をより重視します。困難な案件にどう向き合ったかという、実績を重視するのです。

すなわち負動産実務とは、不動産の売却業務ではなく、所有者の問題を整理して解決手段を構築するコンサルティング業務そのものと言えるのです。

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