収益か、稼働率か――賃料増額マネジメントの最前線

賃貸管理会社として現入居者に対する賃料値上げを進める業務は、管理実務の中でも特に神経を使う領域である。

新規募集賃料を引き上げる業務とは異なり、すでに契約関係にある入居者との条件変更交渉となるため、法的整理、心理的配慮、そして収支バランスの見極めという三つの視点を同時に持たなければならない。

単に「相場が上がっているから上げる」という発想で進めると、交渉は硬直化し、結果として退去や紛争に発展するリスクが高まる。

したがって値上げ業務とは、価格改定ではなく関係性を維持しながら収益を最適化するマネジメント業務だと捉える必要がある。

まず大前提として、普通借家契約における賃料は貸主側が一方的に変更できるものではない。

借地借家法上、賃料増額はあくまで協議事項であり、通知を出しただけでは効力は発生しない。

ここをオーナーが誤解しているケースは非常に多く、管理会社の最初の役割は法的前提を正しく整理することにある。

市場賃料が上昇している事実は重要な根拠ではあるが、それだけで増額が当然に認められるわけではない。

周辺成約事例、同一物件内の募集条件、設備更新状況、修繕履歴、固定資産税や管理コストの上昇など、複数の材料を組み合わせて合理性を構築する必要がある。

実務において最初に行うべき具体的対応は、物件単位ではなく部屋単位での賃料ギャップ分析である。

現在賃料と新規募集賃料の差額を可視化し、どの住戸から着手すべきか優先順位を付ける作業が欠かせない。

長期入居で賃料が据え置かれている住戸、設備更新済みで市場競争力が高い住戸、逆に設備が陳腐化している住戸では、同じ増額幅を提示しても受容度がまったく異なる。

したがって一律値上げではなく、住戸属性ごとの戦略設計が求められる。

次に重要となるのがオーナーへの事前シミュレーション提示である。

値上げが成立した場合の増収額だけでなく、退去が発生した場合の原状回復費、広告料、空室期間、フリーレントなどを織り込んだ実質収支を示すことで、オーナーの期待値を現実ラインへ調整する。

ここを丁寧に行っておかないと、「もっと上げられるはずだ」という過度な期待が交渉を難航させる要因となる。

入居者へのアプローチは更新時期を起点に設計するのが基本となる。

更新案内発送のタイミングで賃料改定の打診を行うことで、契約条件見直しの一環として受け止められやすくなる。

通知文書には単なる値上げ依頼ではなく、背景説明を丁寧に織り込む必要がある。

例えば周辺賃料の上昇、修繕実施内容、防犯設備の更新、共用部維持コストの増加など、入居者が負担増を理解できる材料を具体的に示すことが重要だ。

抽象的説明では納得感は生まれない。

通知後の実務対応としては、問い合わせ対応フローを事前に整備しておくことが有効である。

電話・メール・書面それぞれの回答トーンを統一し、感情的対立を避けるコミュニケーションを徹底する。

特に電話対応では、いきなり金額交渉に入るのではなく、まず居住満足度や困りごとをヒアリングする姿勢が重要となる。

ここで設備不満や騒音不満が顕在化するケースも多く、値上げ単独ではなく環境改善とセットで再提案する余地が生まれる。

具体的な交渉手法として実務で多用されるのが段階的増額提案である。

例えば本来5,000円増額したい場合でも、初回は2,000円とし、次回更新時に再協議とする方法だ。

また設備更新と引き換えに増額合意を得るケースも現実的である。

エアコン交換、温水洗浄便座設置、宅配ボックス導入など、入居者の体感価値を高める投資と組み合わせることで心理的抵抗は大きく下がる。

それでも合意に至らない場合は据え置き更新という選択肢も現実解となる。

ここで重要なのは感情的判断を避け、退去発生時の再募集収支と比較して合理性を検証することだ。

賃料是正は一度に行う必要はなく、退去入替時に市場賃料へリセットすることで全体収益は時間をかけて改善していく。

法人契約やサブリース契約では対応方針が異なる点にも注意が必要だ。

法人契約では社宅規程や賃料上限が設定されている場合が多く、個人契約より交渉余地が限定される。

サブリースではマスターリース条件が優先されるため、転貸賃料だけを見ても意味を持たない。

契約形態別に交渉余地と意思決定構造を整理しておく必要がある。

トラブル予防の観点では、交渉記録の保存が不可欠となる。

通知日、提示金額、説明内容、入居者反応、再提案内容を時系列で管理することで、万一調停や訴訟へ発展した場合にも合理的交渉プロセスを立証できる。

記録を残すという行為自体が交渉品質を高める効果も持つ。

さらに実務的な工夫として、値上げ対象住戸を一斉通知するのではなく、反応を見ながら段階的に進める方法も有効である。

初期反応データを蓄積することで、物件ごとの受容ラインが見えてくる。

市場賃料上昇局面であっても、入居者の可処分所得が同様に伸びているわけではないため、受容度には必ずバラつきが生まれる。

現入居者への賃料値上げは単なる賃料調整業務ではない。

オーナー収益最大化、入居者満足度維持、稼働率確保という三要素の均衡点を探る高度なマネジメント領域である。

市況が上昇している今だからこそ、強引な是正ではなく、根拠整備、段階設計、関係維持を軸とした丁寧な交渉プロセスが管理会社の評価を大きく左右する。

値上げの成否そのものよりも、どのようなプロセスで進めたかが、長期的な管理品質を決定づけるのである。

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