
不動産仲介の現場では、ホームページやポータルサイトで情報を発信しても反響が伸びず、内見が入っても成約に至らない「長期滞留物件」が発生することは少なくありません。
所有者は「価格を下げれば売れる」と単純に捉えがちです。
しかし、必ずしも価格だけが長期滞留化する原因でないのは実務に従事されている皆さんならご存じのとおりです。
長期滞留物件の中には、「お金をもらってもいらない」といった物件も確実に存在するからです。
ですが、見せ方や用途、ストーリー設計を見直すことで需要が生まれる可能性があります。
こうしたアプローチは「再商品化(リポジショニング)」と呼ばれ、近年、付加価値を創出して長期滞留物件を販売する手法として注目されています。
本稿では、長期滞留物件の共通パターンを整理・分析し、価格以外の売れない理由を改善するための方法、具体的にはストーリー設計や付加価値リノベーションなど実際に取り組める再商品化の方法について解説します。
長期滞留物件の共通パターン
長期間売れない物件にはいくつかの典型的なパターンがあります。
無論、立地やエリア、再建築不可物件であるなど物件に問題がある場合は需要が少なく販売に苦慮しますが、それらの問題も媒介契約締結以前に販売方針を定めて必要な対策を講じていれば、ある程度緩和できます。
ここでは、幾つかの代表例を整理します。
1. 情報の露出に問題がある物件
例えばポータルサイトでも、以下のような事例が数多く確認できます。
◯室内写真が暗く印象も悪い
◯間取り図が不鮮明
さらには一部地域や業者によっては、レインズに間取りを掲載しないことが常態化しているエリアも確認されます。
これでは、共同媒介の相手先も顧客に紹介しようと思いません。
2. ターゲットが曖昧
立地条件や面積、間取りなどの諸条件を勘案すれば、おのずからどのような購買層を中心に情報発信すれば効果的か判断できるものです。
にもかかわらず、ターゲットが曖昧なまま情報を発信しているケースが見受けられます。
ターゲットが明確ではない物件は、検討層に刺さりません。
結果として「魅力のない物件」として埋もれてしまいます。
3. 販売条件が複雑な物件
意外に多いのが、販売条件が複雑化している以下のような物件です。
◯残置物の処理が買主負担
◯境界未確定
◯建物未登記
◯越境があり、その問題が解決されていない
これらは、あらかじめ問題を把握して解決に尽力していれば、販売開始までに解決できる可能性のある場合が大半です。
売主が費用負担を懸念するなど理由はあるのでしょうが、買主から敬遠されがちです。
4. 市場ポジションのズレ
市場には価格についての「適正値」が存在します。
これは「ポジション価格帯」と言い換えても良いでしょう。
つまり、値付けそのものではなく「何と比較対象しているか」という視点が欠けているのです。
例えば、以下のようなケースです。
◯投資家向け物件なのに、実需層が検索するエリア帯で販売している
実需不動産の購入を検討する顧客がポータルサイトで価格帯を条件に検索した場合、上記のような物件も抽出されるでしょう。しかし、訴求力は得られません。
5. ストーリーが明確ではない
顧客は「将来の生活を具体的にイメージできるか」を重視します。
にもかかわらず「古民家」「店舗付き住宅」などの文言を並べても物件が有する魅力を伝えることはできません。
例えば、次のようなフレーズを用い、かつそれを想起させる写真を複数掲載した場合の印象はどうでしょう。
◯現代に受け継がれる「伝統工芸」の極致を体感
◯季節の移ろいを肌で感じられる「呼吸する家」
◯囲炉裏を囲み家族の絆を深められる特別な居場所
◯足を踏み入れれば別世界。店舗・アトリエに最適な存在感
◯職住一体の快適性。通勤時間をゼロにして得られる家族と自分のゆとり時間
◯オンとオフが心地よく溶け合う家
◯街の風景や地域とつながる、新しい暮らしのカタチ
事実を端的に露出するのではなく、どのような暮らしができるか想起させるストーリーを添えることで、物件訴求力は飛躍的に高まるのです。
売却ストーリー設計の重要性
長期滞留物件を動かす、あるいは懸念される物件を販売するためには、単に広告量を増やしたり価格を見直すだけでは十分とは言えません。
重要なのは、その物件を「どのような価値を持つ商品であるかを市場に提示する」という視点です。
不動産は本来、単なる「建物」や「土地」ではなく、そこに暮らす人の生活や事業活動を支える基盤です。
購入者は物件そのものを評価すると同時に、その物件を購入することで得られる生活や価値を想像しながら意思決定を行っているのです。
したがって、媒介業者は物件の物理的な条件や法的制限などを説明するに留まらず、物件を購入することで得られる暮らしや価値を具体的に示す必要があるのです。
これは、物件が持つ「背景、想い、暮らしのイメージ、付加価値」を物語(ストーリー)形式で構成し、買い手の情緒に訴えかけて購入行動を促すマーケティング手法で、一般には「売却・購入ストーリー設計」と呼ばれています。
具体的には、以下のような観点からストーリーを構築します。
◯情緒的な価値の訴求(共感):「なぜ物件を手放すのか」「なぜこの価格を設定したのか」といった背景を語ることで、買い手の共感を呼び感情的な納得感を生み出す手法です。例えば「庭で子供と遊んだ思い出」や「丁寧に管理した思い入れ」などをアピールすることで、大切に住まわれてきたという歴史を継承できます。
◯差別化と独自性の確立:物理的なスペック(築年数や面積など)だけでなく、デザインや歴史などのストーリーを付加価値として、他物件との差別化を図る手法です。「なぜこの素材を選んだか」「閑静な住宅地で朝の散歩が心地よく、すれ違う住人も皆笑顔で挨拶してくれる」といった情報を提示することで付加価値が生まれます。
このようなストーリー設計を行うには、以下のプロセスが必要です。
- 徹底的なヒアリング:所有者の思い出や売却理由、物件の強みや特徴を引き出す。
- ターゲットの明確化:
ビジネスライクに考えれば、誰が購入してくれても良いでしょう。
しかし、そのような発想ではターゲットがボヤケます。
媒介業者が「どんな人に住んで欲しいか」「どのような購入検討層に刺さる物件が」を具体的にイメージすることで、ターゲット層が明確になります。 - ストーリーの構成:
徹底的なヒアリングを行い、かつターゲット層が明確になれば物件の魅力はおのずから明確になります。
それに基づきストーリーを構成します。
その際には買い手にとっての「幸せ家族計画」をイメージすると同時に、売り手の「想い」を正確に伝えられるかを念頭に置く必要があります。 - 適切なメディア選択:
綿密に練られたストーリーとポータルサイトは親和性が高くありません。
文字数制限などの影響で「想い」を伝えることが難しいからです。
そのため、SNSや自社ホームページ、専用サイトなどストーリーが伝わりやすい媒体を選択する必要があります。
このように「売却・購入ストーリー設計」は、一般的な広告展開の概念を超え売主の想いと買主の未来をつなぐ役割を果たし、長期滞留状態を解消する手段となり得るのです。
付加価値を生み出す再商品化の実務
売却・購入ストーリー設計によって物件の魅力を適切に伝えることができれば、長期滞留物件が動き出す可能性は高まります。
しかし、ストーリー設計だけで解決できるとは限りません。
「再商品化」が必要なケースも少なくはないからです。
再商品化とは、物件が持つ潜在的な価値を再評価して、用途や見せ方を工夫することで新たな需要を創出する手法です。
具体的には、次のような方法があります。
1. 軽妙なリフォームによる印象改善
長期滞留物件の多くは、第一印象が大きく影響しているケースがあります。
例えば、雑多に生活用品が散らかっている状況を改善するだけで内覧者の印象は変わりますし、空き家の場合ならクロスや照明器具を交換するだけで好印象を与えられます。
もっとも、築古物件ではよく「大規模なリフォームを実施したほうが高く売れますか」と所有者から相談されますが、建築費が高騰している現在ではお勧めできません。
売却価格にその代金が上乗せできるとは限らず、持ち出しになるケースが多いからです。
また、水回りのデザインや機能性は好みが分かれる部分ですから、リフォームの実施が必ずしも好印象を与えるとは限らないといった問題もあります。
それよりも費用対効果が良く印象改善につながる清掃の徹底やクロス交換、照明器具の刷新や電球交換などを行うほうが、良い印象を与える効果を得られやすいでしょう。
2. 用途転換による価値創出
住宅としての需要に乏しくても、用途を変更することで価値が生まれる可能性があります。
例えば次のような変更はその典型でしょう。
◯空き家→シェアハウス
◯古民家→カフェやアトリエ
◯空き地→駐車場や資材置場
特に近年は在宅勤務の普及や個人事業主の増加により、小規模事業用地として住宅を再利用するケースが増えています。
このような社会環境の変化を踏まえて提案することで、従来とは異なる購買層へのアプローチが可能になります。
3. リノベーション提案型販売
リノベーションという言葉が一般的に普及し、築古物件の販売資料や広告でも見受けられるようになりました。
ですが、その多くはリフォームと表現すべき工事をリノベーションと表記している、あるいは必要な工事内容を明らかにせずリノベーションの実施を推奨している場合が多いのです。
これでは購入検討者は、判断に戸惑います。
そのため、インスペクションの実施報告書を提示すると同時に、必要な補修箇所を具体的に提示し、かつ概算工事価格を提案することで、差別化が図れるのです。
具体的には次のようなものです。
◯区分ごとの工事概算金額を提示
◯見積もりを作成した施工会社の紹介
これらの提案を行うことで、購入希望者は将来の生活をイメージしやすくなるのです。
ですが、この方法には注意点も存在します。
人件費や資材価格高騰による工事価格の上昇は皆さんご存じのとおりですが、加えてイラク・中東情勢の緊迫化によるエネルギー価格上昇によって、今後さらに上昇する懸念があるからです。
極端に言えば、先月取得した見積価格では、広告等で提案したリノベーション工事を実現できない可能性が生じるのです。
そのため、リノベーションプランを提示する際には「工事金額はあくまで概算であり、諸般の事情で変動する可能性がある」旨を確実に説明しておく必要があります。
より高度な知見が不可欠な時代
不動産媒介業務において「物件が売れない理由」を価格だけに求める時代は終わりつつあります。
市場環境や顧客ニーズが多様化する中で、単に情報を掲載するだけでは反響を得ることが難しくなっているからです。
例えば、同一エリアで同規模程度の住宅が2軒存在し、一方は認定長期優良住宅でもう一軒が一般的な住宅の場合、見た目が同様でも販売価格に差が生じて当然です。
ですが、認定長期優良住宅についての説明と優位性、さらには実際に暮らした際の快適性を担当営業が顧客に説明できなければ、価格で物件が選択されてしまうでしょう。
認定長期優良住宅の建築費は通常より割高で、それには歴然とした理由が存在します。
ですが、再販時に価格のみで判断されれば認定長期優良住宅が長期滞留物件となってしまう可能性が生じるのです。
ですが、売却ストーリー設計によって物件の魅力を言語化し、再商品化によって見せ方や用途を再構築することで勝機が見いだせるでしょう。
そして、言語化に必須とされるのが豊富な知識・知見・語彙力・比喩力です。
◯知識と知見:言語化の「素材」となります。これは日々の経験や読書、考察によって生まれる「独自の視点」と言い換えることができます。
◯語彙力:素材を表現する「選択肢の多さ」に直結します。同じ事象であっても、異なる言葉に置き換えられれば、状況や場面に即した内容をより正確に伝えることが可能になります。
◯比喩力:抽象的な概念や専門用語を、実際の暮らしや利用シーンが思い浮かぶ具体的なイメージに変換することで、「この物件でどのような生活ができるのか」を具体的に想起させる役割を担います。
アインシュタインが少年から「相対性理論って何ですか?」と質問され、「熱いストーブの上に1分間手を置いていると1時間のように感じられるけれど、可愛い子と一緒に1時間座ったとしても、1分間のようにしか感じられない。それが相対性だよ」と回答したエピソードは有名ですが、この話は秘書が一般の人に分かりやすく説明するために作った例え話と言われています。
ですが、これこそが比喩力です。
私たちは時に、専門用語をより多く口にすることがプロであると誤解しがちです。
しかし、そのような説明では顧客の理解を得られません。
言語化は、多様な価値観を持つ私たちが互いの知識格差を解消するために必要な能力なのです。
特に今後は、人口減少や空き家の増加に伴い「そのままでは売れない物件」が確実に増加する一方、公示価格や建築費の増加でさらに価格が上昇する地域、いわゆる二極化が顕著になっていきます。
だからこそ、媒介業者には「売れない理由を分析する力」と「価値を再構築する力」、さらには顧客が理解しやすい売却ストーリーを構築するための言語化能力が不可欠だと言えるのです。
まとめ
本稿で考察したように、再商品化には特別なノウハウや大きな投資は必要ありません。
物件を深く理解すると同時に売主の想いを汲み取り、買主の視点で価値を再構築するという、媒介業者の原点に立ち返る取り組みです。
長期滞留物件は、見方を変えれば「付加価値を創出できる余地が大きい物件」とさえ言えるのです。
そして、再商品化という視点を持つことで、これまで動かなかった物件が動き出し、売主・買主にとって満足度の高い取引を実現できます。
そして、その実績は媒介業者自身の価値向上に直結し、競合状態が激化する時代において揺るぎない差別化を実現する礎となるのです。
これからの媒介業者は「ただ情報を流す」のではなく、「共に価値を創り出すパートナー」であることが求められているのです。




