
既存住宅の売買において、「この建物は建築確認済証が出ているので安心です」「住宅金融支援機構(以下 支援機構)の『適合住宅証明書』が発行された住宅ですから問題ありません」といった説明がなされる場面は、決して珍しくありません。
むしろ、実務の現場では“安心”を担保する常套句として用いられているとの印象すら受けます。
ですが、これらの説明は、法制度の趣旨や各書面の性質を踏まえれば、購入検討者に誤解を与えやすい説明だと言わざるを得ません。
建築確認済証は、建築計画の申請時点における建築基準法その他関係法令に適合しているかどうかを、行政または指定確認検査機関が形式的に審査した結果として交付される書面に過ぎません。
また、工事完了後に交付される検査済書についても、確認申請図書どおりに施工されているかを確認するための手続きに過ぎず、施工品質や構造的瑕疵の有無を実質的に検証したものではありません。
また、支援機構による「適合住宅証明書」についても、その位置付けは同様です。
これは、支援機構独自の技術基準に基づき、耐震性や耐久性など一定の基準に適合していることを確認した証であり、実際に完成した建物の品質や安全性などを証明する趣旨の書類ではないのです。
つまり、いずれの書面も「基準適合性」を示すにとどまり、瑕疵の「不存在」や「堅牢性」を保証するわけではないのです。
なお、2020年4月1日に施行された住宅の品質確保の促進等に関する法律(いわゆる品確法)により、それ以降に建築確認申請が提出された住宅については住宅事業者が、構造耐力上主要な部位および雨水の侵入を防止する部分に限り10年間保証することが義務付けられ、これにより多くの住宅事事業者が「瑕疵担保責任保険」を利用しています。

もっとも、この保険は不具合が生じた際、補修に要する費用を担保することが目的で、引受保険会社が平均2~3回の現場検査を実施しているものの、当該検査は施工品質や精度の保証を目的としていません。
つまり、求められる最低限の基準を満たしていれば適合と判断されるものであり、さらには検査において見落しが生じている可能性も否定できないのです。
したがって、これら書面の存在を根拠に「建物の品質や安全性が担保されている」と断定的に説明すれば、買主に過度な信頼を抱かせる結果となり、後に契約不適合が顕在化した際には重大な紛争リスクを内包することになるのです。
特に、建築基準法は1950年の制定以来、数十回の改正が実施されており媒介業者の多くが認知している大きな改正だけでも1971年(旧耐震制定)、1981年(新耐震制定)、2000年(いわゆる2000年基準)、2025年(省エネ基準義務化・4号特例縮小)などが挙げられます。
既存住宅は、どの時代に建築されたかによって適用された基準も異なり、現行基準との関係性においては「既存不適格」となる可能性があります。
したがって、既存住宅を扱う際には施工当時の技術水準はもちろん、経年劣化や改修履歴など多様な要因が建物に影響を与えていることを理解したうえで、買主に対して誤解のない説明を尽くす必要があるのです。
本稿では、建築確認済書や適合住宅証明書の法的・実務的な位置付けを整理すると共に、契約不適合責任で争われた裁判例を参考に媒介業者が実務上、どのような説明を行うべきかを具体的に検証していきます。
建築確認制度の本質と限界
既存住宅の取引においては、建築確認済証や性能を証明する各種書類が存在すれば安心という認識は根強く存在しています。

しかし、この理解は本質を正確に捉えたものとは言えません。
各種制度の趣旨を正確に理解したうえで説明したなら問題も発生しないでしょうが、例えば「BELS評価書がある住宅ですから断熱性も高く、居住した際に不具合が発生する懸念もありません」などと説明すれば、買主に過度な信頼を与え、結果として紛争の火種となる可能性は少なくないでしょう。
BELS評価書は建物の省エネ性能を第三者機関が格付けしたものに過ぎず、構造の堅牢性や安全性、耐久性を証明した書類ではないからです。
構造等については、建築基準法に基づく構造計算書や建築確認申請書はもとより、必要に応じてインスペクション(建物状況調査)等を実施し、建築物の状態を確認したうえで判断すべきものです。
先述したように、建築確認制度は建築基準法および関係法令に照らし、「建築計画」が法令に適合しているかどうかを事前にチェックする制度に過ぎません。
つまり、審査の対象はあくまで設計図書であり、実際に建築される建物そのものではないのです。
もちろん、近年は審査の厳格化や電子申請の普及などにより制度運用自体は進化していますが、それでもなお、施工工程における細部の品質や施工精度までは担保されておらず、現行制度が整備される以前に建築確認申請がなされた建物については、その限界はより一層大きいものと容易に推察されます。
同様に、工事完了後に行われる「完了検査」も確認申請図書どおりに建築されているかを確認する手続きに過ぎず、限られた時間の中で目視可能な範囲を確認するに留まり、不可視部分に関する施工不良や構造的問題について検証されているわけではないのです。
つまり、性能を評価する書面も含め、いずれも申請された書類上適合している、あるいは「計画どおりに建築された」ことを証明するに過ぎず、瑕疵の存在や計算上の省エネ性が確実に達成できる、あるいは堅牢性が担保されていることを直ちに意味するものではありません。
そのため、媒介業者は「法令適合性」と「品質・安全性」が別次元の概念であることを正確に理解しておく必要があるのです。
例えば建築基準法は、その時代における技術水準に基づき国民の生命・健康・財産を守るために必要な最低限の基準を定めた法律に過ぎません。
したがって、基準に適合していることは「違法に建築されたものではない」ことを示したに過ぎず、「優れている」「確実に安全性が担保された」という積極的な評価は意味していないのです。
この点を誤解したまま書類の存在を根拠に「優位性が担保されている」との説明を行えば、購入検討者は「不動産取引のプロがお墨付きを与えた住宅」と受け取ってしまう可能性があるでしょう。
そして引き渡し後に、不同沈下や雨漏り、構造的な不具合などが発覚した場合、「説明と違う」として紛争に発展するリスクが高まるのです。
特に既存住宅においては、このリスクが顕著となります。
なぜなら、建築当時は適法であったとしても、法改正や経年劣化、さらにはリフォームや増改築の影響によって建物の状態が大きく変化している可能性があるのです。
過去の紛争事例には、エアコン配管の貫通により筋交いが欠損したことで、堅牢性が損なわれたとして争われた事例も存在します。
したがって、媒介業者は書類や各種証明書等の存在を根拠に安全性を説明することは慎み、書類等の意味と趣旨、さらにその限界を説明することが不可欠です。
◯建築当時の法令には適合したと推定されること。
◯それが現在の品質や安全性、耐久性を保証するものではないこと。
◯確認済証が交付されていても、壁量等が建築基準法を満たしていることを裏付けるものではなく、瑕疵が存在しないことを証明する趣旨のものではないこと。
◯契約不適合の担保責任に関しては、「売買契約書に記載された契約不適合責任各条項に基づくこと」。
といった点を、誤解の余地がないように整理して伝える必要があるのです。
無論、これら書類や証明書の存在は基礎情報の一つとして一定の参考資料となるものではありますが、その位置付けを誤り、購入検討者に過度な期待を抱かせれば、かえってリスクの温床となり得るのです。
検査済証の誤解と実務上の落とし穴
前章では、建築確認済証や各種性能評価書の法的性質とその限界について整理しました。
本章では、実際に契約不適合責任(事例の紛争時期によっては瑕疵担保責任)が争われた裁判例を踏まえ、媒介業者に求められる説明義務の具体的内容と、実務において配慮すべき対応方法について検証します。
その前に、裁判例において共通して見受けられる特徴を紹介しましょう。
それは、紛争の多くが「説明したか否か」ではなく、「どのように説明したか」によって帰結が分かれている点にあります。
例えば、既存住宅の売買において媒介業者と売主が、買主から「建築確認申請がなされていない違法建築である旨の説明をしなかったことは、重要事項の説明(告知)義務違反にあたる」として損害賠償を請求された事件(東京地判 平31・4.24判決 ウエストロー・ジャパン)では、買主が複数の投資用不動産を所有しているなどの属性に照らし、裁判所は買主の請求を棄却しました。
裁判所は、建築確認済証や各種性能評価書などの有無は建物を購入するか否かの判断に影響を与えることから、媒介業者には善管注意義務の一内容として説明すべき義務があるとした一方で、本件では重要事項説明書に「現況と建築確認書に相違が生じている可能性がある」旨の記載はあるが、それをもって媒介業者が建築確認書の存在を肯定したとまでは言えず、かつ口頭ではあるが「検査済証がなく建物の法令適合性に問題ある」との説明がなされた事実を踏まえ、税理士資格を有しかつ投資運用会社の勤務経験がある投資家であれば、書類の保存状況について確認するのは容易であり、さらに疑義があれば、自ら確認すれば足りると判断したのです。
現行の宅地建物取引業法においては、これら書類の保存状況について明確な説明を行うことは当然の義務とされていますが、書類が存在するからといって「公的機関が適切に検査したうえで、検査済証を発行した物件ですから安心です」といった説明をしてはなりません。
そのような説明は過度な信頼を惹起するおそれがあるため、厳に慎むべきだからです。
前章で述べたとおり、検査済証は完了検査の結果として交付される書面であり、その検査の目的は「確認申請図書どおりに施工されたか」を確認することです。
つまり、目的は“図面との整合性”であり、施工品質や構造的安全性そのものではないのです。
それでは、瑕疵担保責任保険を引き受ける保険会社の検査員によるチェック、あるいはインスペクターによる検査が万全かと言えば、必ずしも十分と評価できないのが実情です。
例えば、構造検査に合格した建築中の物件について施主が「工事の雑さ」に不安を覚え、一度確認して欲しいと依頼された事例では、主要構造部である土台と柱の補強金物が数カ所抜けており、さらに屋根の防水シートの被り厚不足や開口部の防水処理方法の誤り、ホールダウン金物の取付方法に不備が見受けられました。
ホームインスペクションの分野で定評のある「株式会社さくら事務所(東京都渋谷区)」は、2024年に実施した新築一戸建て完成検査1156件の不具合指摘率は、全体の76.4%に達したと公表しています。
同社は、このように高い不具合率が発生する背景には人手不足や施工管理体制の脆弱さがあると推測しています。
さらに、厳格さが求められる瑕疵担保保険の検査員に見落とされる背景には、時間的制約はもとより、検査ごとの確認範囲が定められているため、検査箇所以外の不適合は指摘されないといった背景もあるのです。
つまり、制度上の検査には構造的な限界が内在しているとの事実を、私たちは理解したうえで留意する必要があるのです。
特に、建築確認申請を適切に行わず増築したケースは注意が必要です。
ご存じのとおり、10㎡を超える増築をする場合は建築確認申請を行う必要があり、かつ防火地域や準防火地域ではこれ以下でも申請が必要となります。
さらに、建築基準法の改正により、新たに申請を要する増改築を行う場合には、構造計算や省エネ基準の適合が求められる点にも留意が必要です。
また、すでに建築確認申請を行わず増築された物件は、違法建築となります。
したがって、このような物件の取り扱いに際しては、通常以上に慎重な調査と説明が求められます。
裁判例に照らせば、重視すべきポイントは次のようなものです。
●書面の性質や限界について補足的説明がなされたか
●買主の知識や経験を勘案し、適切な説明が実施されたか
●不具合の内容等が予見可能か否か
つまり、書類の提示のみならず、取引の専門家として具体的な内容と限界まで踏み込んだ説明をしていたかが問われるのです。
「専門家としての信頼」がもたらす加重責任
媒介業者は単なる情報伝達者ではなく、不動産取引の専門家としての立場から説明を行うことが求められます。
これは、宅地建物取引士資格の有無によらず求められる責任です。
説明の際、トラブルの温床になりがちなのが「評価的説明」です。
例えば、
●「本物件は基準を満たしているため安全性に問題はありません」
●「これまで特段の不具合が発見されていないと告知されていることから、購入後も支障なく使用できる可能性が高いと考えられます」
といった説明は、一見すると営業担当者であれば誰しもが口にし得る一般的な説明の範疇にとどまっているように思われます。
しかしながら、これらは建物の品質や安全性について一定の保証的評価を受けたものと受け取られる可能性があり、その内容が事実と異なった場合には、説明義務違反や不実告知として法的責任を問われるリスクを内包しています。
こうしたリスクを回避するためには、「安心を与えることを目的に不確実な情報提供を行わず」、「誤解を防ぐために必要な、事実に基づく説明」を徹底することが必要です。
(1)書類の意義と限界までをセットで説明する
単に「建築確認済証があります」、「BELS評価書が存在します」と伝えるのではなく、
●設計段階での法令適合性を確認した書面であること。
●性能評価は「設計図書(計算値}に基づいている一方、実際のエネルギー消費量は住まい方や施工精度に大きく依存すること。
●実際の施工品質や現況の安全性を保証するものではないこと。
を明確に説明する必要があります。
(2)「現況の状態」については、別途専門家による確認が推奨される旨を説明すること
既存住宅においては、建築当時の適法性と現行基準との差異、さらには経年変化による影響を鑑みたうえで、現在の状態と切り離して把握する必要があります。
この点については、インスペクションの実施が適切な解決策の一つとなり得ます。

ですが、実務においては費用負担や売主の同意が必要であり、かつ診断結果を確認した購入検討者が契約を見合わせる可能性があることから、媒介業者が積極的に推奨できないとの背景があります。
実際、国土交通省が令和4年に実施したアンケート調査によれば、インスペクションを実施した割合は3割程度となっています。

インスペクションの実施が引き渡し後のリスクを回避するための有効な手段となりますが、それが難しければ、少なくとも経年変化の可能性、過去のリフォーム履歴やメンテナンス記録の継承、不可視部分のリスクについて言及する姿勢が不可欠です。
(3)契約不適合責任との関係性を明確にする
契約不適合責任は、売主が契約内容に適合しない目的物を引き渡した場合に適用されます。
買主は不適合を知ったときから1年以内に通知することで責任を追及できる一方、契約書に特約を設けることで、責任を完全に排除あるいは短縮できる任意規定でもあります。
さらに、あらかじめ売主から不具合を告知され、それを承知したうえで購入した場合には、契約不適合責任を追及することはできません。
これらは、民法第562条(買主の追完請求権)から第565条(移転した権利が契約の内容に適合しない場合における売主の担保責任)で条文化されているため、不動産業従事者はそれらの規定について理解を深めると同時に、説明責任を果たす必要があります。
その際、特に重要となるのが次に挙げる事項です。
●免責特約の有無と内容、特約の及ばない範囲
誤解されている方も多いようですが、仮に契約不適合責任を免責とする特約を設け契約が締結された場合でも、売主の責任が全て免責されるわけではありません。
つまり、免責特約は万能ではないのです。
その理由は、「信義誠実の原則(信義則)」および「消費者保護」の観点に基づき、一定の制約が設けられているからです。
例えば、民法第572条では、「担保責任を負わない旨の特約をした場合でも、知りながら告げなかった事実」があった場合には、責任を免れることはできないと規定しています。
また、売主が宅地建物取引業者である場合には、そもそも買主に不利となる特約(契約不適合責任を免責とする、あるいはその期間を2年未満とするなど)を設けることが禁止されています。
(4)記憶より記録
紛争時においては「言った・言わない」「説明した・されていない」といった争いが中心となるケースが少なくありません。
何より、記憶力の程度によらずそもそも人間の記憶は不確かであり、これは脳の構造的・機能的な仕組みに起因する避けられない事実です。
したがって説明時、特に購入の判断に影響を与える事項については、徹底的に記録する配慮が必要なのです。
最も有効なのはカーボン式の打ち合わせ記録書を常備して、日時・場所・時間・出席者・具体的な打ち合わせや説明内容を記載し、出席者全員が署名してそれぞれ保有することです。
また、説明や打ち合わせ時に提示した補足書類と紐づけ、メールやSNSの履歴もプリントアウトして保管しておくことで、少なくとも言った・言わないといった次元でのトラブルを回避できるでしょう。
記録量が多い場合には、スキャナーで取り込み電子書面化しておくことで、管理および検索性の向上に資するでしょう。
アナログな方法ではあるものの、往々にしてこの単純明快な対策が紛争予防の最適解となるのです。
まとめ
本稿で論述してきたように、媒介業者は建築確認済証や検査済証、各種性能評価書の存在が直ちに建物の品質や安全性を保証するものではないという前提を正確に理解しておくことが不可欠です。
無論、一つの目安であることは否定できませんが、あくまで「法令適合性」や「設計上の性能」を示す資料に過ぎず、現況の施工品質や経年劣化、不可視部分の不具合の有無まで担保されるわけではないとの現実を、実務に携わる者として十分に認識しておく必要があります。
したがって、媒介業者は過度に「安心」を与えるような説明は行わず、「誤解を生じさせない説明」を行うことに配慮する必要があるのです。
さらに、書類の意義と限界を正確に伝え、必要に応じてインスペクションの活用や追加調査の必要性を促し、契約不適合責任についても明確に示す姿勢も求められます。
紛争の多くが「どのように説明したか」によって判断され、かつ裁判においては事実関係の記録こそが判断材料となるのですから、客観的に検証可能な状態を確保しておくことが実務上のリスク管理として不可欠です。
既存住宅流通における媒介業者の本質的な役割は、顧客に過度な期待を抱かせることではありません。
取引の前提条件やリスクを正しく共有し、適切な意思決定を支えることにあるのです。



