リクルート住まいカンパニーは「2020年新築分譲マンション検討者意識調査」を発表しました。
コロナ禍により住宅に求める条件がどのように変化したのか、興味深いアンケート結果をみることができます。
とくにワークスペースに対する意識変化は、今後の住宅ニーズを考えるうえで外せない要素です。
意識調査は新築マンション検討者が対象ですが、一戸建てや中古マンション検討者にも共通する部分があります。
ここではアンケート結果から読み取った、今後の住宅販売戦略に必要な視点をご紹介します。
コロナ禍による住宅需要
ワークスペースのある間取りを望むのは、在宅ワークに加え子どもがオンライン授業を受けている世帯に多いことが、アンケートのうえでもはっきりと表れました。
親も子どもも同時にオンラインで仕事と学習をするには、同じ空間では都合が悪く、集中できないことは容易に想像できることです。
子どものオンライン授業はコロナ後に減少すると思われますが、塾や通信教育などではオンライン化が継続、あるいは増加することも考えられます。
したがって子どもにとって自宅でのオンライン環境は、今後も継続させる必要があると考えなければなりません。
在宅ワークについては、アンケートの結果「今の割合とあまり変わらない」と「今よりも多くなる」と答える人が、半分を超えておりワークスペースの確保はこちらも必要と考えられます。
ワークスペースへのニーズ
ワークスペースとして使用した空間については「リビング」が多く、リビング以外にスペースの確保が不可能であったことを物語っています。
一方、子どもの学習スペースとしては「自宅の空いていた部屋」や「クローゼットを改修した」あるいは「共用スペース」と、比較的多くが答えた結果は興味深いことです。
リビングを使わずに他の方法を採用したことは、在宅学習をリビングでおこなうことが適切ではないと考える一面もあるようです。
また今後「検討したい間取り」についての設問がありましたが、70㎡の住戸に5つのタイプを設定しており、70㎡の床面積では限界があります。
結果として「バランス型」の選択が多くなったと考えられ、必ずしも独立したワークスペースを望んでいないという結果とは考えられません。
床面積を広くしゆとりがある間取りの場合は、違ったアンケート結果になったと考えられ、ワークスペースの確保は重要なニーズであると言えるでしょう。
共用部や立地条件に対する変化
通信環境が充実していることは、ワークスペースが共用部であっても住戸内であっても、同様に高いニーズがあり重視すべき設備です。
とくに古いマンションは各住戸への配線がVDSL配線になっていることが多く、住戸数の多いマンションでは致命的といえるマイナス要素です。
共用部のワークスペースについて、オンライン授業ではニーズがあります。
しかし共用部の充実はマンションの分譲価格上昇の原因でもあり、事業として成立する物件は限られる可能性もあるでしょう。
つぎに住みたい街の条件変化については、次のような項目が上位にランキングされたことに注目です。
2. 防災対策がすすんでいる
3. 日常必要なものは歩く範囲でそろう
4. 徒歩や自転車で快適に移動できる
5. 周辺で散歩やジョギングができる
今後のマンション市場
上記の住みたい街の条件をキーワードで考えると、駅近、都心、安心、利便、健康、このようなキーワードが並びます。
加えてワークスペースや通信環境の優れた物件が求められるといえます。
2021年~2022年は半数近くのデベロッパーが供給数は増加すると予想しており、新築マンション価格は『上がると予想するデベロッパーが下がると予想するデベロッパーより多い』結果となっています。
マンション需要は当面継続するだろうと考えてよいでしょう。
また、駅近、都心、利便といったキーワードから見えてくることは、大都市圏では一戸建てよりもマンションが優位であることです。
人口減少の圧力は郊外から都心へという「コンパクトシティ化」と連動し、ますますマンション優位がすすむと考えられるのです。
新築市場に加えて中古マンション市場では、再生・リノベなどのキーワードで括られる業態が増加し、購入層にとっては選択肢が増え流通の活性化につながります。
そのなかでコロナ禍により生れたさまざまな手法が、アフターコロナでも継続・進展していくものがあります。
アフターコロナの不動産取引
マンションの購入や賃借で必ずおこなわれる内覧や内見は、オンラインでおこなわれるようになりましたが、IoT機器の精度が向上し現地確認の必要がないほどの性能になるでしょう。
現地確認する必要もなく契約まで至る場合もあり、アフターコロナでもオンライン内覧・内見はますます利用されることになるのではないでしょうか。
重要事項説明のIT化や契約文書の電子化が本格的に運用開始され、対面での契約手続きが不要になります。
契約までの効率化が図られ不動産会社の生産性はあがります。
顧客にとっては不動産会社を訪問する必要はなく、自宅や都合のよい場所で契約手続きを済ませることができ、時間や行動の拘束から解放されるようになるでしょう。
もちろん従来どおり対面での契約手続きも可能であり、選択肢が増えることは望ましいことといえます。
一戸建てかマンションか
新型コロナウィルスの感染が広まり、対策としてテレワークが推奨されたころは、都心のマンションから郊外の一戸建てや広めのマンションへと、ニーズの変化が起こるのではと推測されていました。
しかしそのような市場の変化は結果的に起きず、むしろ駅近物件のマンションや都心6区のニーズが増加するなど、コロナ禍以前との差はあまり見られないのが実態です。
引用:PR TIMES「~2020年 コロナ禍を受けた住宅購入意識調査~マンション購入需要はコロナ前と変わらず堅調。在宅時の危機管理意識から「小規模低層型」マンションのニーズが高まる。」
利便性のよい都心のマンションに対する需要は高い一方、郊外の一戸建てや中古を含めたマンションも立地条件のよい物件は好調といえそうです。
再生マンションや一戸建てリフォームのトレンド
ワークスペースを備えた物件には一定のニーズがあり、築年数の経過したマンションのリノベーションプランには、ワークスペースを考慮する必要があるでしょう。
ただしインターネット接続の各戸までの分岐が、光回線によりおこなわれている物件でなければなりません。
LAN配線やVDSL配線では、ワークスペースとしてのニーズを満たすことはむずかしいからです。
ワークスペースの設け方については、独立した個室以外にも家族共有で使えるカウンターを設置するなど、工夫によってはこれまでにない空間利用も可能になるでしょう。
一戸建てはマンションほどの制約条件は少なく、ワークスペースの設置はむずかしくありません。
リビングの一角や収納・クローゼットのリフォームにより、ワークスペースを設置した物件のほうが選択候補として評価される確率は増加します。
まとめ
コロナ禍が社会に与えた影響は小さくありません。
日本が実はデジタル後進国であったという事実に直面したのもそのひとつです。
住宅は家族の生活の器ですが、ときには仕事をするための重要な役割も担っています。
生活が多様化すると同時に、住宅も多様化する必要があるといえるでしょう。
住宅に関わる不動産会社の役割も多様化し、社会の変化に対し常に敏感でいなければなりません。
ご紹介したアンケート結果には、新しいビジネスチャンスを生み出すヒントがあるかもしれません。
是非参考にしてください。