住宅ストックを有効活用しようとする動きは、国はもちろん民間においても活発になっています。
中古住宅流通で大きな鍵となりそうなのが「安心R住宅」制度です。
DX(デジタルトランスフォーメーション)により、変化しつつある不動産業界ですが「安心R住宅」に象徴される、良質な住宅ストックの活用と健全な流通制度の整備が必須と言えます。
ここでは安心R住宅制度の位置づけについて考察してみます。
安心R住宅とは
中古住宅(既存住宅)は新築後の経過年数や雨・風などの自然条件により、劣化や性能低下があります。
その程度によりリフォーム・修繕の必要な場合や、軽い経年劣化で緊急な工事の必要がないケースもあります。
「安心R住宅」とは、建物の現状を専門家が劣化具合や不具合の程度を明らかにし(これをインスペクションと言います)、リフォームが必要な場合はリフォームを行うか、リフォーム提案がされた住宅に対し「安心R住宅」の標章を付与した住宅をいいます。
「安心R住宅」の標章付与は国が認めて登録した以下の団体がおこないます。
2. 一般社団法人リノベーション協議会
3. 公益社団法人全日本不動産協会
4. 一般社団法人石川県木造住宅協会
5. 一般社団法人日本住宅リフォーム産業協会(JERCO)
6. 一般社団法人住まい管理支援機構(HMS機構)
7. 公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連)
8. 一般社団法人全国住宅産業協会(全住協)
9. 一般社団法人ステキ信頼リフォーム推進協会
10. 一般社団法人耐震住宅100パーセント実行委員会
11. 一般社団法人住宅不動産資産価値保全保証協会
12. 一般社団法人日本木造住宅産業協会(木住協)
「安心R住宅」を購入したい場合や「安心R住宅」として売り出したい場合は、上記の団体に加盟している不動産会社に相談し、手続きを進めていきます。
流通面でのメリット
安心R住宅になると一般の物件よりも次のようなメリットがあります。
・専門家が調査をしているので信用ができる
・現況の写真やリフォームについての情報が詳しく購入後の参考になる
・既存住宅売買瑕疵保険の対象になる
・住宅ローン控除が築20年超(耐火建築は25年超)でも適用できる
このようなメリットがあるため、売主は高く売れる可能性があり、買主は安心して購入することができます。
インスペクションや新耐震基準前の住宅では耐震基準適合証明が必要なので、数万円~十数万円の費用が売主さんにかかりますが、メリットも大きいといえるでしょう。
二極化する中古物件
安心R住宅として標章付与可能な物件は、一定の品質が無ければいけません。
しかし中古市場には、安心R住宅としての基本的な要件を満たしていない物件もたくさんあります。
国土交通省は2020年11月27日、安心R住宅の実施状況を公表し、安心R住宅の制度開始以来、流通累計件数が3,325件であることがわかりました。
出典:R.E.port「「安心R住宅」、累計3,300件超に」
安心R住宅は2018年4月1日より運用されており、およそ年間平均1,300件程度が流通していると考えられます。
中古住宅の全体流通量からみると、0.5%程度でありまだまだわずかな量ですが、認知度が高まるにつれ安心R住宅制度の利用は高まるのではと思われます。
安心R住宅制度の目差すところは、中古住宅流通における健全な市場形成と、良質な物件の増加により住宅ストックを活用しようとするものです。
一方で安心R住宅には該当しない物件も多く存在し、中古住宅は良質な住宅として認定された物件と、認定されない物件の二極化が生じると予想できます。
不動産DXは良質な住宅を求める
不動産業界はDX(デジタルトランスフォーメーション)の本番を迎えています。
DXは新しい価値を生み出します。
逆にいうと新しい価値を生み出せない “モノ” は、DXにより形成されるビジネスモデルでは対象とならない可能性があります。
不動産に対する評価方法はAIの活用など、人間の感情的な要素がまったく入らない方法で行われるようになります。
大量のデータベースを根拠としており、恣意的な査定結果が出ることもなく、購入判断においても過度に期待値を重視するような結果は出ないでしょう。
人間の視点を除外した物件に対する判断にもとづき取引は行われます。評価はすべて数値化されまさに “デジタル” なものとして共通理解されます。
そのため「やってみなければわからない」とか「買ってみなければわからない」といった、不確実性の高い物件はデジタル化(数値化)しにくく、DXにより形成されたビジネスモデルに馴染まないものがあるのです。
中古住宅の性能や現状を調査しその結果次のように評価できると・・・
・性能を数値化できる
・調査そのものに信頼性がある
ビジネスモデルの基幹システムは、このような物件を求めるようになると考えられます。
安心R住宅制度の今後
中古住宅の現況を正しく把握しデータ化することにより、物件情報は透明化され情報共有が可能になります。
安心R住宅は良質な中古住宅のデータベースとなり、取り引きされた後も修繕・リフォーム履歴を蓄積する「住宅履歴情報(いえかるて)」との連動により、消費者・事業者が共通のプラットフォームとして活用できるようになるでしょう。
宅建業法の改正により2019年から導入された、インスペクション説明義務化は、積極的に活用する動きにはなっていません。
しかしインスペクションの普及は中古住宅の情報透明化に欠かせない要素です。
また既存住宅売買瑕疵保険適用住宅は購入者にとって、安心感を大きくさせる効果と引渡し後のトラブルを防ぐ期待があります。
安心R住宅は良質な中古住宅を評価する制度です。物件の隠れた情報がすべて公開され透明化が進んだ制度が、住宅ストックを真に活用できる社会を創りだすことになるでしょう。
まとめ
良質な中古住宅には古い住宅を適切に再生させた物件も含まれます。
一方、旧耐震基準で老朽化が激しい物件や、解体し更地利用が適切な物件など市場性の劣る物件もあり、住宅ストックは二極化されると予想されます。
安心R住宅は良質な住宅ストックを増加させ、中古住宅市場の活性化に大きく貢献する可能性があり、積極的な活用が求められると言えるでしょう。
そしてDXにより変化する不動産業界は、良質な住宅ストックを優先的に求めるようになることを認識しておかなければなりません。