売却される物件の平均築年数が年々古くなる理由

既存住宅(中古住宅・中古マンション)が取引される中古市場では、築年数の古い住宅ほど売れ残る「高齢化」とも呼べる現象が起きています。

この傾向は年々大きくなっており、リノベーションなどにより再生させる手法の必要性を指摘する声もありますが、マンションの建替えを促進しなければ、深刻なマンションの空き家問題にも発展します。

ここでは10年後に予想される高齢化マンションの建替え対策と、中古市場の構造変化について解説します。

データから推測できる空き家の増加

東日本レインズは2020年の新規登録・成約状況を公表しました。

その結果、新規登録物件の平均築年数と成約物件の平均築年数の開き(乖離率)が年々大きくなっており、築古物件ほど売れ残る可能性があることを物語っています。

売却,平均築年数

引用:REINS TOWER「築年数から見た首都圏の不動産流通市場(2020年)」

乖離率は一戸建てよりもマンションのほうが大きく、売れ残りが空き家となり建て替え時期が来ても、管理組合にて「建替え決議」ができないなどの問題が生まれることを予想させます。

下図は国土交通省が発表した分譲マンションの空き家率です。

築年数の古いマンションほど空き家が多いことを確認できます。

売却,平均築年数
引用:国土交通省「分譲マンションの現状と課題」

もうひとつ同じ国土交通省の発表データから、建築時期別ストック数を2015年時点で推計したものを示します。

売却,平均築年数

引用:国土交通省「分譲マンションの現状と課題」

2035年には築40年超となるマンションは61%を占めると考えられ、中古市場にも一定数の築40年超マンションが占め、空き家マンション数の増加を裏付けるデータと言えるでしょう。

なお、上記のREINS TOWERのデータにもとづいた、こちらの記事『中古マンションの成約物件・新規登録物件における築年数の推移』も参考にしてください。

2030年から変わる築古物件の性能

現在築40年超になる物件のほとんどは、下表のように1981年5月以前の旧耐震基準の物件になります。

1981年基準 2000年基準
2019 38 19
2020 39 20
2021 40 21
2022 41 22
2023 42 23
2024 43 24
2025 44 25
2026 45 26
2027 46 27
2028 47 28
2029 48 29
2030 49 30

しかし2030年になると旧耐震基準の物件は経済的耐用年数を迎え、耐震補強を含むマンション再生をおこなわない限り、市場からの撤退を余儀なくされるでしょう。

その時点での選択肢は次の3つです。

1. マンション再生
2. 建替え
3. 除却して敷地を売却

この3つのどれも選択できない場合は、深刻な空き家マンションとして社会問題化していきます。

上記の表で注目しなければならないのは、2030年を迎えると「2000年基準」で建設された物件も築30年になることです。

2000年基準の物件は耐震性能上も1981年基準より上回っており、質の高い物件と言えます。

築30年を超えたマンションの行く末

質の高い2000年基準のマンションといえども、築30年を迎えると将来的な「建替え」を考えなければならない時期がやってきます。

建替えの検討から工事完了までの期間には、管理組合の組織状況によりバラバラであり、古いデータでは22年かかったという事例もあります。

築30年時点で検討を開始し建替え事業の開始時期を10年後とするか、20年後とするかなど先見性のある管理組合もあれば、まったく無計画な管理組合もあるでしょう。

どちらの場合であっても築30年を経過すると、売却時期を探る動きが活発になり売却物件が増加する原因ともいえます。

マンションの建替え促進策の必要性

分譲マンションは管理組合の総会において、4/5以上の賛成があると建替えを決議することができます。

建替えには莫大な費用がかかり、一義的には各区分所有者が負担するものです。

建替えプロセスは2とおりあり、管理組合が主体となる「建替組合」がすすめるパターンと、等価交換方式によりデベロッパーが主体となるパターンがあります。

どちらのパターンでも建替えを成功させるには、事業的な優位性がなければむずかしいことです。

具体的には容積率が数十年前の新築時よりも増加するなど、区分所有者以外の購入希望者に分譲できる規模が多ければ多いほど建替え事業はうまくいきます。

「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」は2020年6月に改正され、建替えのさいに容積率の緩和を受けられる要件は、次のようになっています。

1. 1981年5月以前の旧耐震基準で建設されたマンション
2. 1981年6月以降の新耐震基準で建設されたマンションであっても、外壁の剥落危険性があるか、バリアフリー性能が確保されていないマンション

上記2点に該当しないマンションの建替えにおいては、容積率緩和が適用されず事業的なメリットがないため、経済的な面で建替えが困難になるケースもでてくるでしょう。

2030年を迎えると旧耐震基準マンションの多くは経済的耐用年数を迎えると予想され、敷地売却が可能性として高くなります。

新耐震基準マンションは外壁の危険性やバリアフリー不適合以外については、建替え促進を図る新たな法整備が必要となるでしょう。

空き家を防ぐ鍵は乖離率の縮小

マンションは経済的耐用年数の到来前に建替えするのが望ましく、管理組合が正常に組織できている期間中に建替え計画がすすむと、空き家の発生は抑えられるでしょう。

建替え計画が具体的になると中古市場にでてくる物件は少なくなり、新規登録される築古マンションの増加は減少する可能性があります。

2030年を過ぎると築30年を経過した物件であっても、耐震性能も含めた品質・性能に見劣りする物件は少なくなり、成約率が高まることも乖離率を小さくする方向に寄与します。

1棟リノベーションなどマンション再生事業が広まることも、築古マンションの成約数を増加させ、空き家の発生を抑える効果が期待できるでしょう。

また建替えマンションが中古市場にでてくる可能性もあります。

権利変換方式で建替えされた場合は、余分な登記費用の負担がなく工事期間中に引越しした物件にそのまま居住し、新しくなったマンションを売却する方法も考えられるでしょう。

このように現在みられる乖離率の拡大は、良質なマンションが増加する市場構造変化の過渡期であり、2030年を過ぎると乖離率の縮小に向かう可能性が高いと言えます。

ただしそのためには、マンション建替えに関する法整備を、現在よりもさらに建替えしやすいものに変更しなければならないのです。

まとめ

空き家問題は一戸建て住宅がクローズアップされますが、分譲マンションのほうがより深刻です。

相続登記の義務化が2024年より施行される予定ですが、区分所有マンションの相続未了は管理費・修繕積立金の滞納につながり、管理組合にとっては頭の痛い問題です。

相続することにメリットのある物件であれば可能性は低いですが、相続しても負担ばかりという物件の場合、空室の増加は防ぎようがありません。

限界集落ならぬ “限界マンション”が生まれる恐れもあります。

分譲マンションは管理状態が健全なうちに、建替えや除却がスムーズにおこなえるよう法的整備が急がれるといえるでしょう。

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