不動産を購入できる経済的な余裕のある人に「不動産が欲しい」と感じているタイミングで出会うことができれば、非常に高い確率で不動産は売れます。
不動産の新規開拓営業の極意は、そんな顧客との”偶然の出会い”の機会を増やすことにあります。
カスタマージャーニーマップとは、顧客によって認識され、比較検討され、相談を受け、契約にいたるまでの全てのプロセスを1枚のシートにまとめたものです。
ここ数年、マーケティング業界で流行っている手法のひとつで、どのようにして見込み顧客を獲得して、そして契約まで辿り着くのかを分析するうえで非常に便利なツールです。
この記事では、不動産の新規開拓営業にカスタマージャーニーマップを活用することによって、不動産を購入する顧客との”偶然の出会い”を数多く生む方法を解説します。
投資用不動産や個別株式など特定の金融商品にこだわらず、幅広い投資に関する記事を執筆。
外資系金融機関の日本進出をサポートするなど、金融業界のマーケティング戦略パートナーとしての業務も行う。
不動産の営業に使えるカスタマージャーニーマップとは
カスタマージャーニーマップとは、商品を購入するまでの顧客の行動を把握して、各ステップごとにどのようなアプローチが必要なのかを分析するマーケティングツールです。
不動産の購入までのプロセスに当てはめると、ひとりの顧客はまず営業マンと出会い、他社との比較を行い、希望や悩みを相談し、具体的な物件を紹介され、そして売買契約に至ります。
もちろん全ての顧客がスムーズに各ステップを進んで契約するわけではありません。
具体的な物件を見た後で全く別の希望を伝えられることがありますし、他社の提案する物件との比較検討をすることもあるでしょう。
また、いくつもの物件の情報を見ることを希望して、購入検討のステップに長く留まり続けるケースもあります。
このように各ステップをウロウロする顧客の動きは、まさに「ジャーニー(旅)」という表現がぴったりです。
営業マンの仕事のひとつは、旅をしている顧客が次のステップへと進むように背中を押し続け、目的地である契約のステップまで辿り着かせることにあります。
カスタマージャーニーマップの後半に行くにしたがって、不動産市況や見通し、おすすめする物件の優位性などの不動産に関する知識や情報を求められる機会が多くなります。
不動産の営業において日頃の勉強の成果が出てくるのは、この後半部分ということになります。
新規顧客と出会うアンテナを張り巡らせよう
業界のなかにいると、どうしても不動産は古臭い業界であるように感じてしまいますが、実は不動産業界はカスタマージャーニーマップに関しては、その大半を既に実行している数少ない業界のひとつです。
特に不動産の比較検討を行うための物件資料は、業界内での統一化が進んでおり、顧客にとっては非常に利便性の高いサービスが提供できています。
また、宅建業法などの法律の整備と相まって、不動産の売買のためのルールや手続きも十分に制度化されており、契約から所有権の移行までの手続きは非常にスムーズです。
不動産業界の仕組みそのものは最新のマーケティングツールであるカスタマージャーニーマップに当てはめてみても、他の業界よりも優れた部分が多いと言えます。
その一方では、カスタマージャーニーマップの前半部分については、昔ながらの気合いや根性が重視される古い体質が残っていることも事実です。
もちろん電話営業をはじめとしたダイレクトマーケティングの手法は、これまで数多くの実績を残してきたものですので、その効果を否定することはできません。
しかし、カスタマージャーニーマップの起点となる「顧客との出会い」の部分が、電話営業やダイレクトメールなどに限定されているのであれば、やはり営業マンとして不十分な状態であると言えるでしょう。
自らが動くことで積極的に顧客を獲得していくという手法のほかに、顧客の方から連絡が来るという”待ちの営業”によって顧客と出会う可能性を高めていく必要があります。
いわば「顧客と出会うアンテナ」のようなものをあちこちに立て、新たな顧客の情報を掴んでいくという仕組みを、営業マンは張り巡らせていかなければなりません。
最も強力なカスタマージャーニーは「紹介」から
では、具体的に営業マンが個人で力強いカスタマージャーニーマップを構築するには、どのような顧客との出会いのアンテナを立てれば良いのでしょうか。
一般的な顧客との出会いのパターンは大きく分けて3つで、「ダイレクトマーケティング」「相談・問い合わせ」そして「紹介」というグループに分けられます。
ダイレクトマーケティングは既に書いた通り、電話営業やダイレクトメールなどの営業マンによる積極的なアプローチから顧客との出会いが生まれるものです。
また、相談および問い合わせは、ウェブサイトからの問い合わせが代表的なものですが、セミナーに登壇したり、相談会に出席したり、書籍を出版するなどして専門家としての情報発信を行うことによって、顧客が自ら営業マンに会いに来てくれる機会を生みます。
そして最後が、紹介による出会いです。
紹介者の種類は実に様々で、税理士や会計士などの専門家、銀行や証券会社などの他社、友人などの個人、既存の顧客、また非常に稀ですが同業他社の不動産会社から紹介を受けるケースもあります。
このなかで最も成約に至る可能性が高いのは、圧倒的に紹介です。
特に既存の顧客からの紹介であれば、かなり高いケースで契約に至ることは不動産業界では共通の認識であると思います。
いかにして既存の顧客からの紹介を受けるのかについては、売買契約後も顧客との関係を深める「カスタマーサクセス型の営業」を解説した3回の連載のなかで詳しく説明していますので、合わせてご覧ください。
いずれにしても不動産の新規開拓営業を行う営業マンは、積極的な営業方法に加えて、”待ちの営業”のためのアンテナを立て、顧客との出会いの3つのパターンを全て揃えるように工夫するように心掛けるようにしましょう。
不動産の新規開拓営業のカスタマージャーニーマップまとめ
カスタマージャーニーマップのようなマーケティング分析ツールは、業界全体の顧客との付き合い方を分析するために非常に有効な手段です。
不動産業界では意外にも後半部分については、ほぼ完璧なカスタマージャーニーが描かれており、顧客にとって利便性の高いサービスが提供できていると言えます。
ただし、業界内での統一化や法整備が進んでいるということは、競合他社との差別化が難しいということも意味しています。
このような見方をすれば、不動産業界にとって新しい顧客との出会いを生み出す営業マンの存在が、どれほど重要であるのかが分かるでしょう。
整備された不動産業界の仕組みをフル活用するために知識や情報の収集が重要であることは当然として、出会いを生み出す3つのパターンを揃えられるように日々の努力を惜しまないようにしてください。
”顧客との偶然の出会い”が生み出せるかどうかは全て、営業マンの戦略にかかっています。