- 不動産業界のDXって何?
- DXに取り組むメリットは?
- 不動産業界でのDX事例を知りたい
近年、不動産業界に限らず、ビジネスシーンでは”DX化”という言葉が聞かれるようになりました。
経済産業省でも2018年12月にデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)が取りまとめられるなど、各企業がよりDXに取り組めるように体勢作りがされています。
今回はそんな注目度の高いDXをテーマに、不動産会社がDXに取り組むことで生まれるメリットや実際の事例をご紹介していきたいと思います。
働き方改革による業務時間の短縮要請と同時に社員の生産性向上が求められています。
さらにAIやクラウド技術の普及で高度なシステムを安価に導入できる環境にあり、先進的な企業が次々とテクノロジーを活用して自社のビジネスを変革・拡大しています。
本書ではDXの事例や具体的な手法をご紹介していきます。
そもそもDX(デジタルトランスフォーメーション)とは何か?
DXとはDigital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)の略で、2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授によって提唱された概念です。
この定義では「進化し続けるテクノロジーが人々の生活を豊かにしていくこと」が挙げられています。
また、マイケル・ウェイド氏らによって「デジタル・ビジネス・トランスフォーメーション」という概念が2010年代に提唱されました。
デジタル・ビジネス・トランスフォーメーションでは、「デジタル技術とデジタル・ビジネスモデルを用いて組織を変化させ、業績を改善すること」と定義しています。
この2つの定義から「進化したIT技術を駆使して生活やビジネスを豊かにすること」と簡潔にまとめることができます。
不動産業界のDXとは?
「DX」とはデジタルトランスフォーメーションの略であり、IT技術の導入によって企業の活動や生活の質を向上させることを指します。
不動産業務では膨大なデータを扱う物件・顧客管理、書類手続きや内見対応をする入居業務など、まだまだ効率化できるものが多いですが、未だにシステムに移行せずアナログな手法が目立ちます。
近年では不動産探しも店舗を巡るより、まずはインターネットやスマートフォンを活用して探したり、書類を介しての契約からペーパーレスの電子決済に移行するなど、消費者ニーズに合わせて不動産会社側もITに移行する必要が出てきています。
DX化を進めていくことでそういった需要に応え、従来のやり方では難しかったパフォーマンスを実現していくことが求められています。
不動産会社がDXを推進するメリット
1.業務効率化
DXの最大の魅力はなんと言っても業務の効率化です。
物件の入力作業や帳票作成など、人手によって入力していたものが自動化されることで、業務時間を大幅に短縮することができます。
また、入力ミスや漏れなどのヒューマンエラーも減り、結果的に業務の質を上げることも期待できます。
他にもSFA(営業支援システム)やCRM(顧客管理システム)を利用すれば、営業に関連したデータも管理でき、商談の記録や顧客データを車内で共有できるため、社員間での確認作業や引き継ぎ業務が不要になり業務効率化にも繋がっていくでしょう。
2.人手不足解消
たとえば物件査定ですが、正確に価格査定するとなると高度なスキルや経験が求められるため、ベテラン社員が主に査定の担当となります。
限られたベテラン社員が物件査定に時間を取られることで、若手にノウハウを共有し育てる時間もなくなり、結果的に人材が育たず、仕事量も偏り、業務がスムーズに流れなくなってしまいます。
そんな時に「AI(人口知能)」を活用した価格査定システムなどを導入すれば、情報収集は膨大なデータから必要なだけピックアップし、レポート機能でグラフィカルな提案資料が作成できるなど、大幅に時間や手間を省くことができます。
操作方法を会得すれば経験の少ない新人でも即戦力となり、個人スキルによる成果物のバラつきもなくなるなどのメリットも期待できます。
3.コスト削減
新システムを導入することで、属人的だったり多くの労働力を費やしていた業務がシステムに移行され人件費の削減に繋がります。
それに伴い一人当たりの業務量も減るので残業も少なくなるなどのメリットもあります。
また、データ化することでペーパーレスになれば、書類やコピー用紙などの消耗品にかける経費も抑えられますし、保管スペースも必要ないため書庫や倉庫保管が必要だった場合はその分のコストも削減することができます。
4.顧客満足の向上
物件問合せの対応をチャットで受け付たり、VRを利用した内見の実施、リモートでの物件相談など、時間や場所問わず対応できる環境を整えることで、お客様の利便性も上がることはもちろん、会社としても働き方を多様化させることができます。
また、不動産賃貸契約や売買契約などの重要事項説明においては、2017年10月には賃貸取引に関するIT重説が解禁、2021年4月には売買取引においてもIT重説が解禁され、遠方のお客様でも大きな移動を伴わず契約できるなど負担が一気に軽減されました。
お客様と不動産業者間での日程調整の融通も利くようになり、両者にとってのメリットも非常に大きなものとなっています。
5.古いシステムからの脱却
経済産業省が2018年のDX(デジタルトランスフォーメーション)レポートで指摘した課題に「2025年の崖」というものがあります。
2025年の崖とは、「DXが進まなければ2025年以降、最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性も高い」と経済産業省がレポート内で指摘し警鈴を鳴らした内容のことです。
そしてここで「日本のインフラ整備や各企業がデジタル化の波に取り残され、古い技術のまま事業を続ける」点が問題視されています。
これはいわゆるレガシーシステムという、昔の古い技術が使われているソフトウェアやハードウェアを使っている企業は特に危惧しなければならない指摘になります。
レガシーシステムを使っていると今後起きる問題として
・レガシーシステムを維持、使い続けるための膨大なコスト
・レガシーシステムから新システムに移行する際の移行が困難(必要なスキルを持った人材の確保が必須)
・新システムへの統合ができず、競合企業に後れを取る
ことが考えられ、実際に2025年の崖が訪れてしまった場合、先ほど述べた2025年から毎年12兆円もの経済損失が生まれると予想されています。
この事態を回避するためにも、古いシステムに依存している場合は早い段階でDX化を検討し、他の企業に遅れを取らないよう、計画的かつ段階的にDX化を推し進める必要があります。
不動産業界のデメリット
1.前例の少ないDX導入の負担
まだまだDXに取り組んでいる不動産会社は多くないため、不動産業界に適したDXが何か、手探りの部分も多いのが現状です。
とは言え、大手不動産会社ではDXの取り組みや成功事例も増えてきており、不動産向けのツールも続々と登場しています。
自社の課題や改善点を見つめ直し、成功事例を参考にしながら条件に合うツールを探していきましょう。
2.ツール選定が難しい
現在不動産向けに様々な業務改善ツールが開発されています。
ツールの目的は同じでも、それぞれ違った特徴、メリット、料金プランなどがあるため、どれが自社に合っているか悩んでいる会社様もおられるかと思います。
必要なポイントとしては下記3点を意識して選んでいきましょう。
・操作性、サポート体制
・クラウドかオンプレミスか
適当に選んで導入してしまうと必要な機能が足りていなかったり、操作が複雑で使いづらかったり、結局使いこなせずに既存のシステムに戻ってしまうケースもあります。
ツールによっては無料のトライアルやお試しプランもありますので、実際に運用してみてから決めるのもおすすめです。
3.時間とコストがかかる
DXを推進し成果が出るまでには時間とコストがかかります。
DXの成功事例もまだ少なく、どの企業も試行錯誤の状態のためすぐに成功できる保証はなく、成果が出るまで時間がかかってしまう場合があります。
また、この後導入事例で紹介する三井不動産も、2016年9月にDX化に向けてのITイノベーション部を中心としたプロジェクト
チームを発足し、約2年半に渡った企画・構想・準備段階を経て、ようやく2019年4月に新システムの導入に至るなど、準備にもかなりの時間を要してDX化を推し進めています。
そしてそのためには長期的な視点でプロジェクトを推進できる、予算やリソース確保も必要不可欠になります。
ただ、予算を抑えてDX化を推進しても、有効な手段が取れず中途半端なものに終わってしまったり、余計に時間が掛かってしまうなど良い結果は望めません。
必要な資金を用意し、念入りな準備期間を経て計画的にDX化を推進していきましょう。
4.新システム導入後の問題
新システム導入にあたっての懸念点としては下記が挙げられます。
・システム運用のための費用増大
・旧システムからの新システムの移行に膨大な時間がかかってしまう
旧システムからの移行にはかなりの時間を要す場合もあるため、準備期間を長めに取るなど計画的に行うことが大切です。
また、新システムを使うにあたり事前に研修をする、マニュアルを準備するなど導入後のシーンを想定した準備も怠らないようにしましょう。
不動産DXの導入事例
三井不動産のDX事例
1.決裁・会計システムの刷新
三井不動産では独立していた決裁システムと会計システムを統合して、フルクラウド化を実現しました。
BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)を徹底し、ペーパーレス化やモバイル化、脱ハンコを進めたことにより、受発注・会計業務の大幅な削減(35%、約58,000時間)に成功しています。
2.法人向け多拠点型シェアオフィス「ワークスタイリング」の提供
多様化する働き方に応える法人向けシェアオフィス「ワークスタイリング」では、QRコードを用いた非接触システムで入退館ができ、1人用個室には音環境やプライバシーに配慮したサウンドマスキングを完備しています。
また、個室特化型の「ワークスタイリングSOLO」ではコンシェルジュによるオンラインサポートが受けられるなど、ICTを活用したサービスを拡充しています。
野村不動産のDX事例
契約書類の電子化
野村不動産株式会社は、新築分譲マンシ ョン・一戸建て事業において、2020年8月より不動産売買契約時の顧客ごとに異なる必要書類の生成やステータス管理、契約書類 の署名・捺印等の手続きを電子化する「Musubell(ムスベル)」を導入。これによりお客様の契約手続きにかかる負担の軽減、契約業務の効率化等を実現しました。
契約関連書類の電子化も同年9月より開始し、契約の電子化、そして最終的には非対面でのオンライン契約の実現を目標に、ITを活用したお客様の利便性向上に繋がるサービスの開発に力を入れています。
不動産DXを実現させるためには
不動産DXを実現するためには、実情を見直し、課題、改善点を明確にした上で、自社に合った適切なツールを導入することが重要です。
そのためにはこれまで述べてきたことを踏まえ、業務者の負担を増やさないためにも一気にではなく移行できる業務から徐々にDX化していくことも大切だと思います。
その際には他社の成功事例を参考にし、導入するツールは比較検討、本格導入前にトライアルで運用、移行・導入には充分な期間を持つなど、計画的に行なっていきましょう。
【E-BOOK】DXによる不動産仲介事業の成長戦略
働き方改革による業務時間の短縮要請と同時に社員の生産性向上が求められています。
さらにAIやクラウド技術の普及で高度なシステムを安価に導入できる環境にあり、先進的な企業が次々とテクノロジーを活用して自社のビジネスを変革・拡大しています。
もはや一部企業だけではなく、あらゆる企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を通じて自社の競争力を高めることが求められています。
本書ではDXの事例や具体的な手法をご紹介していきます。
まとめ
不動産業界ではFAXを用いた書類のやり取りや、紙ベースでの顧客管理やエクセルでの情報管理、対面のみの営業などのアナログ方式が根強く残っています。
その中でも大手企業は先駆けてDXへ取り組み、新たなサービスの提供や成功事例が増えてきているのは確かです。
現状の業務フローの見直し、改善点の洗い出し、導入までのツール検討など必要な作業は多々ありますが、DX化していくことで受ける恩恵はそれ以上に大きなものがあると思います。
業務改善はもちろん、新たなサービスやビジネスモデルの創出にも繋がるかと思いますので、DX実現に向けてできるところから取り組んでいきましょう。