ブラックボックスだった不動産価格が透明化される

宅地建物取引業法の制定からおよそ70年、公正な不動産取引実現のため役割を果たしてきましたが、宅地建物取引業界には社会の変化に対応した大きな転機が訪れようとしています。

社会の変化とはインターネットによるインフラの変化と、AI(人工知能)の実用化です。

そしてそこから生まれるのが “不動産流通の透明化” という現象です。

不動産流通の透明化はすでに政策として着手されていましたが、AIの発達によりますます現実味を帯びてきました。

不動産査定の役割

宅地建物取引業法は、不動産の取引に関わり「仲介料」などの名目で商売をする「不動産業者」を、法律により規制し取引におけるトラブルを防止し、不動産購入者の利益保護と不動産流通を円滑にするため制定されたものです。

そのため不動産業者のうち主に仲介業をおこなう業者は「宅地建物取引業者」という、法的な呼称で分類されるようになりました。

宅地建物取引業者の業務は『宅地建物の売買・交換・貸借の代理や媒介』と定められ、付帯業務として売買物件の価格を算定する「不動産査定」をおこなうようになったわけです。

不動産取引は売主と買主との間で取引価格を自由に決める「相対取引」です。

そのため本来は相場価格に影響されることはないのですが、不動産には取引や所有に対し課税される制度があり、課税には「評価額」が算定根拠になっています。

評価額の存在は取引価格にも影響を与え、自然に評価額にもとづいた相場価格が形成されます。

売主や買主が共通の指標にもとづいた相場観を持っていると、取引価格を決めることは困難ではありません。

しかしほとんどの場合、売主はできるだけ高くそして買主はできるだけ安く買おうとし、基準価格のような目安がなければ取引は成立しません。

不動産査定はこのような目安としての基準価格を売主に提示し、取引が円滑にすすむような役割を果たしているといえるでしょう。

不動産査定のしくみ

不動産査定は「不動産鑑定」と異なり法律にもとづくものではありませんが、ほぼ同様の方法により不動産価格を算出しています。

不動産査定に用いられる不動産価格に関するデータには次のようなものがあります。

1. 固定資産税評価額
2. 相続税路線価
3. 公示地価
4. 建物再調達価格
5. 地域別家賃相場
6. 成約事例

不動産会社の実務では上記のデータにもとづき、対象不動産の査定額を計算できるよう独自にフォーマットを作成するか、有料サービスの不動産評価システムTAS-MAPを利用するケースもあります。

上記のデータのうち「成約事例」以外は公開されたデータを活用でき、不動産会社に依頼せず売主が自ら査定することは可能です。

問題は成約事例であり、最新の成約事例にはその時点での相場観が反映されているといえ、不動産価格を決定するうえでの重要な要素になっています。

売主自らが査定する場合において、成約事例はブラックボックスになっており、不動産会社に査定を依頼しなければ実勢価格に近い査定が不可能になっているといえるのです。

不動産流通の透明化政策

成約事例は宅建業者のネットワークであるレインズにアクセスすることにより、売買された物件の詳細を知ることができます。

しかし一般の方が最近売買された近所の中古住宅について、いくらで取引されたのかを知ることはできません。

これは情報格差であり「情報の非対称性」ともいえる状態といえるでしょう。

インターネットの普及により情報格差がすくなくなっている今日ですが、不動産取引の成約事例は「個人情報保護」の観点からも公開はされていません。

しかし不動産流通の透明性を確保するには、成約事例の公開が必要とされています。

国は不動産流通を透明化するため、2つの施策を実行しています。

2007年4月から運用開始された「不動産取引情報提供サイト(RMI)」は、ブラックボックスとなっていた「成約事例」の一端を消費者に情報開示するものです。

また住宅履歴情報蓄積・活用推進協議会「住宅履歴情報 いえかるて」は、住宅が新築された時点からの情報を蓄積し、将来所有者が変わっても当該住宅に関するデータが共有され、透明な流通を可能にする目的で創設されました。

これらの情報公開は中古住宅の流通活性化に欠かせないもので、次の効果を生み出す期待を持たれています。

1. 住宅の所有者や中古住宅を購入しようと検討する人たちが、自身で売買される適正価格を知ることができる
2. 売買対象である中古住宅の地盤調査結果をはじめ、住宅の性能に関わるデータやリフォーム・修繕などの履歴を共有することにより、客観的で安心できる情報にもとづいた取引が可能となる

セルフ査定の普及

無料のAI査定サイトが立ち上がり、大手仲介FCではAI査定を入口とした集客をおこなうなど、一般の方が自ら不動産査定をおこなえる環境が整ってきました。

AI査定の算定根拠ともいえる取引データには、成約価格か売出し価格かの違いがあり、どこまで実勢を反映した結果が算出されるか疑問な部分もあります。

しかし所有不動産の相場価格の目安を把握するには十分といえ、媒介契約時の売出し価格の決定には参考になると考えられます。

前述の「RMI」における蓄積データが拡大すると、AI査定の結果とRMIによるエリア内の成約事例により、かなり精度の高い価格の把握は可能になります。

そのためこれまでおこなってきた、不動産査定を入口とし媒介契約締結まで誘導してきた、ビジネスモデルは成り立たなくなってくる可能性があります。

仲介会社は媒介物件の獲得方法を見直さなければならなくなってきました。

不動産仲介会社の役割

これまでレインズに蓄積される成約登録データは、専門業者である宅建業者しか活用できないようになっているため、より正確な査定をおこなおうとすると宅建業者に依頼するしかありませんでした。

しかし不動産取引情報提供サイト(RMI)では取引物件の特定はできませんが、エリアの絞り込みは可能でありデータ量が多くなるほど、より正確な査定に近い結果を得ることができます。

不動産査定は不動産の売却を予定している人にとって、次の2つの目的があります。

1. いくらで売れそうかを知る
2. 売却を依頼する不動産会社を決める

一方、不動産会社にとって不動産査定の目的は1つです。

媒介契約を締結する!です。

目的は「媒介契約」なので、不動産査定は媒介契約を得るための手段になっています。

そのため不動産査定の時点では、売れそうもない高値での査定をおこない、媒介契約を締結しようとする事例がみられます。

さらに契約後は囲い込みをおこない時間をかせぎ、いわゆる「干す」や「値こなし」などの手法を駆使して、両手仲介を狙うなどの悪習が業界に存在します。

不動産流通の透明化とりわけ不動産価格の透明化は、このような不動産業界でおこなわれてきた悪習を終焉させる効果があります。

不動産の売却をしようとする人の目的である「いくらで売れそうかを知る」については、不動産査定をおこなわずとも知ることができるようになると、もうひとつの目的である「売却を依頼する不動産会社を決める」ためには、査定以外の方法が可能になります。

したがって不動産流通の透明化により、次のような能力が不動産会社には求められるのです。

・中古物件の性能を正確に評価できる知見と能力
・不動産ストックの有効活用ノウハウ
・早期売却を可能にする情報量
・不動産資産管理や運用のノウハウ

まとめ

インターネットとAI活用による「不動産テック」の発達は、長い間つづいた不動産仲介業のあり方を変え、単に不動産の仲介で終わることなく新たな価値創造を生みだす職能となっていくと考えられます。

そのひとつのキッカケになるのが不動産流通の透明化です。

不動産価格が透明化され、不動産査定から媒介契約へとすすむ、これまでのビジネスモデルは変化するでしょう。

不動産仲介会社は変化に対応するため、新たなビジネスモデルの構築が必要とされるのです。

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