成熟期に至った不動産テックと不動産DXの現状

不動産業界におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)はスピード感をもって進んでおり、不動産テック企業はさまざまなソリューションを開発してきました。

不動産テックは現在「プロップテック3.0」の段階にあると位置づけられ、まさに成熟期に入った各ソリューションの実用化がはじまります。

ここでは大きな変革を遂げようとしている不動産DXの現状と、今後に期待される可能性について概観してみます。

不動産DXの現状

2014年のこと国土交通省は「ITを活用した重要事項説明等のあり方に係る検討会」を6回にわたり開催し、不動産取引におけるIT活用を本格的にすすめるようになりました。

以来7年が経過し不動産テックは取引に関するさまざまなシーンはもとより、物件検索や内見などのユーザーサービスにおいてもITを活用したソリューションが提供されるようになりました。

不動産会社では2022年に本格化する「電子契約」に合わせ、ほとんどの企業で社内におけるDX推進を図っています。

不動産テック協会は2021年7月16日、不動産業界のDX推進状況調査の結果を公表しました。

その内容を要約すると

・DXの推進をおこなった不動産事業者は昨年の1.5倍になり多数が「業務効率化」を目的とした
・DX推進にあたり苦労したのはDX人材の確保であった
・DX年間予算は100万円以上が半数にのぼり1,000万円以上が2割弱あった
・導入の多いツールやシステムは非対面接客やテレワーク
・電子契約システムは検討中が多く今後導入が進む

参照:不動産テック協会「不動産事業者のDXは昨対1.5倍の90%超、DX予算規模も明らかに」

この結果からは「業務効率化」による経営改善といった姿勢が窺えますが、不動産DXにはAI活用によるニュービジネスの創出やP2Pによるクラウドファンディングなど、これまでの業態とは大きく変貌する姿も期待できるのです。

不動産テックは成熟期に入った

不動産テックと称されるソリューションのカテゴリーには、不動産カオスマップで規定している次のようなものがあります。

・VR・AR
・IoT
・スペースシェアリング
・リフォーム・リノベーション
・不動産情報
・仲介業務支援
・管理業務支援
・ローン・保証
・クラウドファンディング
・価格可視化・査定
・マッチング
・物件情報・メディア

不動産カオスマップは一般社団法人不動産テック協会が作成しているもので、2021年7月8日に第7版を公開しています。

参照:不動産テック協会「不動産テックカオスマップ第7版」

カオスマップ第7版の公表に併せてウェブセミナーがおこなわれ、カオスマップ第6版と第7版の違いから、不動産テックの開発状況に変化が見られると言います。

注目されるポイントとしては次のようなことです。

1. 非対面やリモートサービスが増加した
2. 不動産情報カテゴリーと価格可視化・査定カテゴリーの新サービスが生まれている
3. スペースシェアリングなどのシェアリングサービスが増加
4. 業務支援系サービスは引き続き増加している
5. クラウドファンディングシステムやシェアリング管理システムなどの基幹システムが出始めた
6. 既存の不動産会社が不動産テックサービスへ参入する動きが増加
7. SDGs・ESG・BCPなどの「持続可能性」をテーマとした関連サービスが生まれている

一方、不動産テックのスタートアップ企業は減少しており、反対に不動産テックへの投資額増大傾向はつづいています。

このような変化から不動産テックは “成熟期” に入ったと不動産テック業界では考えられています。

今後は

・UIの進化
・基幹システムの深化

などにより、不動産テック企業が既存の不動産事業者にとって代わるのではなく、不動産テック企業と既存の不動産事業者が融合し、さまざまなソリューションが実用化され、別次元の不動産業界が形成されていくと考えられます。

不動産テックが成熟期に入ったことにより、既存の事業をおこなう不動産会社は、今後どのようなアクションをおこす必要があるのでしょうか。

考えられるのはこれまでの “不動産業” という枠組みを超えたビジネスの創出です。

例えば・・・

・金融-リバースモーゲージ
・観光-民泊、サブスク賃貸

などはすでに実例があり、不動産会社が異業種の領域で新ビジネスを展開する可能性が非常に高くなると言えるでしょう。

不動産テックの成熟度

特定の技術の成熟度や社会への適用度を推測する方法として、米国のガードナー社が提唱した「ハイプ・サイクル」があります。

下図は東京大学連携研究機構不動産イノベーション研究センターが2020年8月11日付けで公表した文書に掲載された「不動産テックのハイプ・サイクル」です。

不動産テック,不動産DX,現状

引用:東京大学連携研究機構不動産イノベーション研究センター(CREI)「不動産テックとPropTechの現在地」

このハイプ・サイクルで定義する各カテゴリーの内容は以下のとおりです。

・「分析」は例えばAI査定に代表されるような分析ツール
・「ビジネスプロセス」は不動産マネジメントやワークフロー管理などの管理ソフト
・「スマート不動産」はスマートビルやスマートホームなどのIoTを活用した不動産など
・「モデリング」はBIM(ビルディング インフォメーション モデリング)などのツール
・「不動産フィンテック」は暗号通貨やクラウドファンディングのブロックチェーン技術
・「建設テック」はプレハブ技術など

上記のハイプ・サイクルが発表されてすでに1年が経過し、「分析」は生産性の安定期に入っているものとみられ、次いで「ビジネスプロセス」「スマート不動産」「モデリング」は幻滅期から啓発期へ移行する時期ではないかと想像できます。

「不動産フィンテック」と「建設テック」はすこし遅れて、ピーク期またはまもなくピーク期にさしかかるあたりかと推測され、不動産流通に係わる不動産テックはすでに生産性の安定期に入っていると捉えていいのでしょう。

「不動産フィンテック」がやがて「啓発期」へ移行すると、より大きなビジネスチャンスが訪れると考えられます。

*「ハイプ・サイクル」の詳細や用語の意味については「ハイプ・サイクル」で確認してください。

不動産テック協会がウェブセミナーにて説明した「不動産テックの成熟期」は、ハイプ・サイクルの「生産性の安定期」とも符合するものであり、不動産会社にとって現状の不動産テックは、効果が期待できなおかつ導入のしやすいものになっていると言えそうです。

まとめ

不動産テックはおよそ7年間の歴史があり、現在はフェーズ3.0にあたるといいます。

新型コロナウイルスによる感染拡大がその実用化を早め、2022年には電子契約が本格化します。

従来の不動産業の枠組みを超えた新しいビジネスが期待され、これまでとは異なる “業界像” を見ることになると思います。

また不動産テック市場そのものの経済規模は、2025年には1兆2千億円を超えるとの予測もあり、不動産業の発展は不動産テックの成長に拠るところが大となりそうです。

なお、この記事の執筆にあたっては、不動産テック協会が開催したウェブセミナーの解説記事『サービス数は前年比127% 不動産テック協会が発表の最新版カオスマップ「成熟期に入り、次のステージへ」』を参考にさせていただきました。

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