最大の山場である建築基準法がようやく終わり、ここからは都市計画法・建築基準法以外の法令についての解説です。「以外の法令」というまとめ方がなんとも大雑把な感じがありますが、ここで解説可能な法令というとそれはもうとんでもない量になります。入門編でお見せした図を再度お出ししておきましょう。
実はこの図でも全てを網羅している訳ではないのですが、記載された61項目だけでも全てを解説してしまうといつまでもマニュアルを完成させることができなさそうです・・・。そして恐らく書き上げても読まれない部分が大半ではないかとも思います。ですのでやはり事例数の多い法令に絞り込み、以下の5つを解説していきたいと思います。
- 土地区画整理法
- 公有地拡大推進法 & 国土利用計画法
- 農地法
- 宅地造成及び特定盛土等規制法
- 文化財保護法
土地区画整理法
まずは都市計画法の市街地開発事業の解説の中でさらりと登場していた土地区画整理法です。
ざっくりと言えば、道や土地の境界線が入り組んでいて雑然とした市街地をきれいに整えるために実施される土地区画整理事業について定めた法律で、住み心地や利便性の向上を図ることを目的としています。
土地区画整理法は出てくる用語が多くとっつきづらい印象を持つ方が多いと思いますが、全体を俯瞰して「何がどうややこしいのか」を知ったうえで紐解いていくと理解がしやすくなります。図をご用意しましたので、まずは図の右側に記載した全体的な流れ・用語をさらりとご覧ください。
「仮換地」や「保留地」などあまり見慣れない用語が多く、苦手意識を持っている方は多いのではないでしょうか。しかも、土地区画整理のややこしいポイントは他にもあり、進捗状況によって変化していく「土地の権利関係」と「建築制限」が、次の段感に進むタイミングが揃っていないことで一気に混乱される方が多いようです。なので、土地区画整理法は3層構造として捉えて、以下の順番で全体像の把握をしていくのがおすすめです。
- 全体の流れ、用語の理解
- 土地の権利関係
- 建築制限
①全体の流れ、用語の理解
土地区画整理事業は、都市計画法で定める市街地開発事業の一種です。つまりスタートは都市計画道路と同様に「計画決定」から始まります。ただその段階ではまだ大まかな計画があるだけで具体化はしてません。
次の段階としては事業主体となる施行者を決める必要があります。施行者は、区域内の地権者たちが組合を作る等「民間主導」となる場合もあれば、市区町村や都道府県等「行政主導」になる場合など様々なパターンがあります。それぞれのパターンによって若干手続きの流れや名称が変わるのですが、基本的には先述の地権者が組合を設立するケースが多いようです。この組合が設立し認可された時点で「組合設立認可の公告」がなされ次の段階に移っていきます。
施行者が決まったら次は換地計画の作成です。ここからは関連用語が多いので順を追って紹介させてください。
減歩(ゲンブ)
土地区画整理事業は「雑然とした市街地をきれいに整える」とお伝えしましたが、最も重要なのは計画的な道路網の整備でしょう。細く曲がりくねったような道ばかりだった地域を一旦リセットし、碁盤の目のように整然と道路を通すことができれば、土地の形状や接道状況などが区画整理前よりも改善され、区画全域で土地の価値向上が期待できます。
しかし、区画整理にはいくつかのデメリットも存在しており、その代表例として挙げられるのが「減歩」です。区画整理の中では道路を始めとして公園などの公共施設も開発していくのですが、何を作るにしても土地が必要です。この用地を捻出するために実施されるのが減歩で、区域内の地権者から一定の割合で土地を無償提供してもらって余白を作り出し、道路等の用地に割り当てていきます。
なお、減歩によってできた余白は公共施設だけでなく「保留地」という区画を捻出するのにも用いられます。保留地は第三者に売却され事業費を捻出する枠割を担っています。
土地区画整理は減歩により土地面積が減ってしまうデメリットはあるものの、地域一帯が整然と整備され接道条件も改善することで土地の価値は上がりますし、道路網が整うということは上下水道等のインフラも整うことになります。将来的な維持管理や資産性を思えば、基本的には恩恵が大きい事業だと言われています。
換地と仮換地
土地区画整理では、進捗に応じて土地の形状や権利関係が徐々に変化していきます。まず、事業の施行前から地権者が持っていた土地を「従前の土地」、事業完了後に手に入る新しい土地は「換地」といいます。
理想を言えばサクッと工事が終わり、サクッと「従前の土地」が「換地」に切り替われば制度もシンプルになっていいのですが、現実はそうもいきません。基本的に土地区画整理事業は、場合によっては何十年というかなりの時間を要する大事業です。最終的に土地が換地に切り替わるまでには様々な手順が存在しているので、いきなり切り替わるのではなく一旦は「仮換地」という暫定的な状態におかれることがほとんどです。なお、将来的に仮換地はそのまま換地になるのが原則です。
清算金
換地計画ではここまでに挙がった「減歩はどのくらい必要か?」「公共施設・保留地の確保はどうする」「換地の割り当ては?」といったことを決めていった最後には「清算金」を定めます。
換地はなるべく不公平のないよう割り当てを行いますが物理的な制約がある以上、完璧に平等な割り当ては不可能と言っていいでしょう。形状や位置関係等について、従前の土地と換地の間に差ができてしまうことはあり、そうした場合に差を金銭的に解決するのが清算金です。従前の土地よりも条件が悪くなってしまう場合には清算金を交付しますし、良くなる場合には徴収して不均衡を是正します。
「なぜ土地区画整理は何十年もかかるのか?」
都市計画道路も非常に大掛かりで時間のかかるものでしたが、土地区画整理もそれに匹敵するくらい、場合によってはもっと困難な道のりになることもあるようです。というのも、都市計画道路が難航する場合は「土地を道路に取られたくない」「環境の悪化が懸念される」といったように反対派が何かしらの負担を強いられることに反感を抱いている状況といえます。
対して、土地区画整理ですと減歩等の負担だけでなく、新しく手に入る土地、つまり利益も分配しなければなりません。同じ区域内であってもどうしても換地ごとに条件には差ができてしまいますので、「向こうの換地のほうがいい」であるとか「公園との位置関係が気に食わない」「なぜあの人のほうが優遇されるのか」といった不平不満が噴出しやすいのも難易度を高める要因となるようです。心理学でも「自分が損をしてでも相手が得をするのを阻止しようとする」という人は一定数いると言われています(ご興味のある方は「スパイト行動」でお調べください)。なるべく不公平のないように調整し、全ての地権者から負担についても利益についても納得を得るというのは、とんでもない根気がいる事業なのです。
さらにいうと換地の割り当て後には、既存の雑然とした町並みをリセットするために建築物の移転除却をしなければなりません。つまり、住んでいた方々には立ち退いてもらわねばならないのです。工事着手の数年前から説明会が実施されたり、移転時期や補償内容といった立ち退き条件の交渉がなされるなど、多くの手順が必要になります。土地区画整理を進めるためには、一筋縄ではいかないハードな交渉事が盛り沢山なのです。何十年もかかってしまう大事業になるのも無理からぬことでしょう。
※立ち退き交渉についてはこの場では詳細は省きますが、念のため下記に参考サイトを記載します。
仮換地の指定
さて、無事に換地計画も定まり立ち退き交渉も進んだら、ようやく本格的な工事に着手していくことになります。まずは建築物の移転除却を済ませ、次に道路等の公共施設を整備します。そして道路・上下水道などのインフラが整ったタイミングで「仮換地の指定」を行い、地権者に対し仮換地の位置や面積等の詳細を「仮換地指定証明書」などの書面で通知します。
地権者は仮換地の指定がされたら、自身の仮換地に自宅を建てるなど使用収益が可能になります。仮換地は原則そのまま換地になりますし、土地の位置や面積・形状も確定していますから「建物を建築する準備は整った」と言えるのがこの段階でしょう。
換地処分
施行区域内の全ての区画について工事が完了し、清算金の計算も終わったら次は換地処分です。地権者へ改めて換地の詳細や清算金の明細等を通知し、同時に都道府県知事への届け出も行います。届け出を受けた知事は遅滞なく換地処分があった旨を公告しなければなりません。そして公告の翌日は節目で、まず仮換地は正式に換地になりますし、清算金の交付・徴収も公告の翌日から実施されます。
さらに、従前の宅地にあった登記を全て換地に移すのもこのタイミングです。登記の件数が膨大になりますので換地処分に伴う移転登記は、まずは地域全体の登記簿を閉鎖してまとめて作業を進めます。閉鎖期間は規模によってまちまちですが数ヶ月はかかり、閉鎖期間中は抵当権設定など新たな登記は一切できなくなります。この期間内は、売買やローンの借り入れ等は難しくなりますので注意しましょう。
以上が土地区画整理事業の流れです。いくつかの用語と流れ、それぞれの節目で起きる出来事を把握しておきましょう。
② 土地の権利関係
さて土地区画整理法は関連用語の多さもさることながら、進捗状況によって変化していく「土地の権利関係」と「建築制限」が噛み合っていないことも厄介だとお伝えしていました。なので弊社では、あえてバラバラに切り分けて理解していくのを推奨しています。まずは土地の権利関係です。冒頭の図を少し改変し再掲します。
土地区画整理事業の中ではチェックポイントが2つあり、それぞれのタイミングで土地の権利関係に変化が生じます。
- 仮換地の指定
- 換地処分の公告
まず、元からあった従前の土地は単純に「一般的な所有権を有している」だけであり、何も特殊なことはありません。しかし「仮換地の指定」がされることで状況が変わります。所有権は従前の土地に残ったままですが、使用収益する権利だけが仮換地に移動し、従前の土地は使えなくなってしまうのです。
仮換地の整備まで終わっていれば、物理的には従前の土地はその位置・形状を残しておらず、見た目は既に仮換地になっているはずです。その状態で「元々はここまで自分の土地だった!」などと古い土地境界を認めてしまうと、区画整理した意味が全くありません。「整然とした町並みになった以上、新しくきれいな街区で「自身に割り当てられた範囲だけを使いましょう」というだけのことです。
ただ、換地処分を経てまとめて登記されるまでは所有権を移転させられませんので、登記簿上は従前の土地のままにしておくしかありません。しかし「換地処分の公告」がなされれば、仮換地は正式に換地となり所有権は従前の土地から換地へ移動しますので、換地は「使用収益する権利」も「所有権」も備えることになります。こうして換地に「一般的な所有権」が整うことで土地の権利関係もきれいに区画整理を完了することになります。
③ 建築制限
次は「建築制限」についてです。今回もイメージをつけやすいよう図を少し改変し再掲します。
建築制限については段階によって2パターン存在しており、チェックポイントは3つです。
- 都市計画決定
- 施行者認可等の公告(事業決定)
- 換地処分の公告(事業完了)
土地区画整理事業は、都市計画法に定める市街地開発事業の一種でした。なので事業のスタートは都市計画道路などと同様に計画決定です。ですので計画決定後は、都市計画道路の区域内に土地がある場合に受ける制限と全く同じ「都市計画法 第53条」による建築制限を受けることになります。建築制限の内容は、下記より重説への記載例をご覧ください。
次のチェックポイントは施行者認可等の公告です。この時点で事業決定の段階へ移りますので、建築制限も計画決定の区域に対するものより厳しくなります。ちなみにこの段階では、都市計画法でなく「土地区画整理法 第76条」による制限を受けることになります。※制限の内容は下記参照
事業決定されてから事業が完了するまでは、継続して76条の制限が適用されますが換地処分の公告をもって事業完了となり、仮換地は換地に、つまり一般的な土地になります。この時点で土地区画整理法による制限から開放され、以降は通常の土地として取引ができるようになるのです。
用語が多く土地の権利関係と建築制限が異なるタイミングで変化していく土地区画整理事業。改めて整理し明文化してみるとその複雑さを痛感します。一旦ここまでで全体像の解説はできているので、冒頭の図を再掲しておきたいと思います。
調査方法と確認すべき項目
ここまでの解説を踏まえ、調査対象地が土地区画整理事業の区域内だった場合の調査方法と調査項目をお伝えしたいと思います。まずは調査方法ですがそもそも「対象地が区域内か?」という点については、恐らく都市計画図の閲覧時など「役所調査を進める流れの中で気付く」というのが通常だと思います。わざわざ「土地区画整理事業に該当していないか?!」と確認するようなことは考えにくいでしょう。したがって、調査のスタートラインは「対象地が区域内だったら次は何を調べるのか?」だと思われます。
まず確認すべきは事業の進捗です。進捗次第で調査先も調査項目も分岐しますから優先度が高く、特に以下3つのチェックポイントを通過しているかどうかが重要です。
- 施行者認可等の公告
- 仮換地の指定
- 換地処分の公告
①を通過していなければ、計画決定しかしておらず「まだ施行者はいない」という状況なので市区町村の都市計画を管轄する窓口で必要な情報の確認はできることがほとんどでしょう。事業の初期段階なので調査項目も少なく済みます。
- 調査項目:施行者認可等の公告前
- 名称
- 施行者認可や事業決定等、事業が進む目処がたっていればその時期・状況
- 案内資料があれば取得
しかし、既に①を通過済であれば「施行者が決まっている」ので、それ以降の調査は基本的に施行者の窓口へ行かなければなりません。施行者の概要と調査先の窓口を確認してください。調査先が確認できたら以下の内容について確認を進めていきます。
- 調査項目:施行者認可等の公告後
- 名称
- 仮換地の指定は済んでいるか?
- 街区番号等
- 仮換地図、仮換地証明書等の資料を取得
- 換地処分の公告は済んでいるか?
- 公告の年月日
- 清算金の有無、徴収か交付か
- 組合の財政状況、賦課金を徴収される可能性はあるか?
- 案内資料があれば取得
これまでの解説で、事業全体の流れや土地の権利関係の変動、建築制限についてなどが把握できていれば余り難しく考える必要はありません。「今はどこまで進んでいるのか?」を軸に枝葉の情報を集めていけば調査は完了できます。最後に経験上、慎重に調査すべきポイントを補足して土地区画整理の単元を終えたいと思います。
揉めやすさNo.1「清算金 & 賦課金」
個人的に土地区画整理事業で一番恐いのは清算金と賦課金です。というのも、徴収額がかなり高額になってしまうようなこともあり、過去には売買取引後に確定した清算金があまりに高額で裁判に至ったような事例も存在しています。
特にバブル期に換地計画ができた事業は注意が必要です。当時、地価は「上がるもの」でしたから減歩や保留地の確保が多少楽観的になっても仕方のない状況でした。しかし、バブルは崩壊し地価は思うように上がらず、少子高齢化・人口減少の影響もあり住宅地は供給過多になるなど、状況は厳しくなっていきます。そんなこんなで保留地が期待していたほどの財源にならず、財政が逼迫している土地区画整理事業が実在しているのです。
土地区画整理法では財源が不足する場合には組合員から賦課金を徴収することを認めています。区域内の土地を所有していることを理由に、区画整理の事業費を徴収される可能性がありますので、清算金・賦課金の調査時は「有無が決まっているか?」だけでなく、「組合の財政は逼迫していないか?」「徴収される可能性はあるか?」まで踏み込んで調査しておいたほうが良いでしょう。
※以下より「財政が逼迫している場合」の例文も含む土地区画整理法に関連した重説の記載例を閲覧可能です。