インスペクションが普及しない原因と活用法

2018年4月からはじまった「インスペクション制度の説明義務化」は、まもなく3年が経過します。しかし中古住宅・中古マンションの売買取引における、インスペクションの実施例は少なく、宅地建物取引業法改正による同制度の意義がうすらいでいる感があります。

インスペクションの実施率が低い原因と今後の改善策や、売買取引での活用方法について考察します。

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インスペクション実施の現状

2019年9月に国土交通省がおこなった調査によると、媒介契約後にインスペクションのあっせん希望があった割合は以下の結果でした。

・売主からあっせん希望があった割合は5.95%
・買主からあっせん希望があった割合は0.57%
・実際に調査をおこなった割合は5.88%

出典:内閣府「既存住宅市場の活性化について」

宅建業者のあっせんによらずに、直接専門家にインスペクションを依頼したケースもあったと推測しても、非常に少ない実施率であることに変わりはありません。

国土交通省では次のような課題があると指摘しています。

・売主および買主の認知度や理解度が低い
・インスペクションのメリットがわからない
・買主がインスペクションを希望しても売主の同意が得られない
・契約までのスケジュールの関係で調査する機会が失われる
・マンションの場合は共用部の調査に関する管理組合の承認が必要
・調査技術者とのマッチングができない

以上のような課題がありながらとくに改善策を講じることなく、2021年3月末で3年となります。

宅建業法における制度設計の問題点

宅地建物取引業法ではインスペクションについて『媒介契約を締結したときに「既存建物の状況調査を実施する者のあっせん」に関する事項を記載した書面を交付する』ことと規定しています(宅地建物取引業法第34条の2第1項第4号)。

一般に売主との間では媒介契約を締結しますが、買主とは具体的に購入希望の物件がまだ見つからない時点では、媒介契約を締結することはありません。

つまり買主がインスペクションについて知る機会は、購入する物件が決定し売買契約前におこなわれる「重要事項説明書」のなかに記載されている『建物状況調査の結果の概要(既存の住宅のとき)』の説明を受けたときになるケースが非常に多くなるわけです。

また売買契約は重要事項説明のあとすぐおこなわれる、といった方法で手続きされることも多く、買主がインスペクションを希望したとしても、時間的制約によりできないことのほうが多いのが実態と考えられます。

もうひとつインスペクションが普及しない理由としては、売買取引に関わる不動産会社の担当者が、インスペクションについての認知度あるいは認識の低いことがあげられます。

インスペクションの概要

インスペクションは中古住宅の現況を点検し、劣化具合や性能面・機能面での不具合などを、依頼者に正確に伝えることを目的とした調査です。

点検方法は基本的に目視によりますが、非破壊検査器具や計測器などを用いて、結果が客観的に確認できるよう報告書にまとめあげ依頼者に提出します。

調査は数時間ですが報告書作成を含めると2~3日の業務日数となります。

調査報告書は点検部位・点検結果が対になった状態で記載します。
たとえば一例を示すと、下表のように劣化の有無をありのままに記載し、さらに劣化事象については写真を添付し説明文を加えることもあります。

点検部位 点検結果
基礎 ■劣化事象あり □劣化事象なし □確認できない
外壁 □劣化事象あり ■劣化事象なし □確認できない
屋根 □劣化事象あり □劣化事象なし ■確認できない

物件が居住中のためなどにより、確認できない部位がある場合には「確認できない」にチェックが入ります。また全面リフォーム済物件の場合は、リフォーム前の劣化状態の確認ができないため、やはり「確認できない」にチェックが入ってしまいます。

インスペクションは対象物件の耐久性能や安全性などを保証するものではありません。客観的に点検した結果を買主あるいは売主に報告するものであり、買主にとっては将来的なリフォーム工事の必要性について判断する参考資料になるものです。

インスペクションの活用法

ここまで述べてきたようにインスペクションは、専門家(既存住宅現況検査技術者)が売買対象となっている中古住宅を客観的な立場で点検調査し、現況の状態をありのままに結果報告するものです。インスペクションによって、対象物件の安全性や健全性を保証するものではありません。

またいわゆる「契約不適合責任」に該当する不具合が存在しないことを、証明するものでもないことについて注意が必要です。

しかし劣化状態や不具合の存在を確認できることから、購入後におこなうリフォーム工事の計画が立てやすくなるというメリットがあります。

またリフォームはおこなわないとしても、性能や機能面での現況を正確に知っておくことは、買主が納得して物件を購入する機会を与えるものともいえるのです。

2018年4月からはじまった「インスペクションの説明義務」ですが、インスペクションそのものは、不動産コンサルタント事務所「さくら事務所」が設立された、1999年から不動産取引の現場でおこなわれるようになりました。

2008年には「さくら事務所」が中心となり、日本ホームインスペクターズ協会を設立し、そのころから一部の建築士事務所に広まるようになりました。売買物件の内覧立会などの業務を含めた、買主支援サービスとしておこなわれるようになったものです。

その後宅建業法に組み込まれたことにより、専門家である既存住宅現況検査技術者の講習制度が整備され、全国に多数の有資格者が生まれました。

インスペクションは物件の性能面での保証をするものではありませんが、買主が抱いている漠然とした不安を取り除く効果はあります。

・購入しても問題のない物件なのか
・契約不適合に関する契約条項はあるが、責任期間が経過したあとはどうなのか
・建築の専門家ではない宅地建物取引士の説明だけで大丈夫なのか

など大きな金額となる不動産の取引では、買主にはさまざまな不安があるもので、そのような気持ちが購入決断に至らない理由にもなっているケースがあると考えられます。

前述したようにインスペクションは売主に対してのアナウンスはなされますが、買主に対してのアナウンスはなされにくい制度になっています。

買主に対してインスペクションの活用を図るには、物件案内時などにおいてインスペクションの内容について説明し、購入決断のキッカケづくりとするような、媒介業者の積極的な姿勢が必要だといえるでしょう。

リフォーム済物件のインスペクション

インスペクションを活用するにあたって、注意しなければならない一面があります。それは「リフォーム済物件」のインスペクションです。

買取り再販物件のようなリフォーム済物件が、中古住宅市場には一定の割合で存在します。インスペクションはリフォーム前の点検であれば有効ですが、リフォーム後は従前の状態を確認することができません。

小屋裏や床下などリフォームの影響がない部分の点検は可能ですが、点検できる範囲は少なくなってしまいます。そのため調査報告書では「確認できない」と表記される項目が増え、依頼者の要求に応えられないケースもあり得ます。

リフォーム済物件の場合は、買主に点検範囲が限られることを承諾のうえインスペクションをおこなうことが必要でしょう。

また「リフォーム済物件」については、インスペクションとは異なった位置づけで検査がおこなわれる「瑕疵保険」適用物件を勧めるといった営業方法もありそうです。

まとめ

宅地建物取引業法の改正により制度化されたインスペクションですが、この制度とは別に「ホームインスペクション」として、建築士事務所が任意でおこなっている買主支援サービスがあります。

本文で説明したように法改正前からおこなわれていたものであり、宅建業法とはリンクしませんので重要事項説明書において調査結果を説明する必要はないものです。

宅建業法において制度化されたインスペクションには、普及しない理由が制度上あることと、もうひとつはインスペクションを実施する専門家を探しづらい制度設計になっていることがあげられます。

売主や買主が自らの意思でインスペクションを依頼でき、売買する物件の現況について十分認識し、納得のいく取引ができるような仕組みづくりが求められているのではと思います。

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