2021年4月からは売買取引においてもIT重説の本格運用が決定しました。
いよいよ不動産業界は新しいステージに入ります。
電話とFAXで仕事が完了していた業界は、これから新しいルールにもとづき、さまざまなITツールを活用する時代になります。
その変化を最近では「不動産業界のDX」と称しています。
ここでは、IT重説を契機として一気に進む業界のDXの姿を概観してみます。
売買取引での重説電子化社会実験開始
2021年3月10日から売買取引における重要事項説明書など、書面を電子化する社会実験が開始されIT重説は本格運用されます。
同時に賃貸取引における同様の社会実験も、期間を延長することになりました。
これまでITによる重要事項説明の社会実験は、賃貸取引に関しては実施件数が少ないのですが、売買取引に関しては十分な実績がありトラブルが無いと回答したアンケートは9割に達しました。
この結果、書面の電子化に問題がないことが確認できたといえるようです。
今後はIT重説を可能とする関係法規の改正等の手続きにより、本格運用される流れが決定しました。
IT重説が実用化されると不動産業界には、なお一層のIT化に向けた動きが大きくなります。
不動産業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)が本格化します。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは何か?
最近よく目にし、聞くことの多い「DX」とはデジタルトランスフォーメーションのことです。
『デジタル技術による変革』といった意味であり、IT技術が社会に浸透していくと、個人の生活から社会のしくみまで、さらにビジネスの方法やあらゆる産業のあり方まで変革される状態を「DX」の短い言葉で表現しています。
不動産業界ではすでに次のようなIT技術が普及しています。
・物件情報ネットワークシステム(REINS)
・SNS
・Web会議
・VR内見
・オンライン内見
・電子書面
さらにビジネスの効率化を図ることができる、さまざまなクラウドコンピューティングサービスが開発されており、不動産業界はDXの真っ只中と言える状況です。
不動産業界におしよせる変化
不動産業におけるDXはどのような変化を生むのか、ひとつは「新規参入業者」の増加です。
新規参入する新興企業に特徴的なことは「不動産テック」を掲げていることです。
一般社団法人不動産テック協会に加盟する企業・団体は、2021年3月現在106あります。
三井不動産や三菱地所など大手不動産会社も加盟していますが、不動産売買や仲介などの典型的な不動産業ではない企業が増えています。
つまり宅地建物取引業者ではない企業です。
下表は106の企業・団体から「不動産テック」を積極的に進める企業を、会社設立年次の新しいものから順に並べたものです。
62の企業がありますが、半数以上が2011年以降に設立された新しい会社です。
会社設立 | 社名 | 都道府県 | IT関連事業 |
2020年 | GMO ReTech(株) | 東京都 | 賃貸管理アプリ |
2019年 | リーテックス(株) | 東京都 | デジタル契約 |
(株)Re-Tech RaaS | 東京都 | ロボットアウトソーシング事業、AI事業 | |
(株)NOW ROOM | 東京都 | 短期賃貸アプリ「NOW ROOM」 | |
2018年 | リース(株) | 東京都 | フリーランス賃貸アプリ |
グルー(株) | 東京都 | 土地探し顧客の集客・接客・追客支援 | |
2017年 | (株)アクセルラボ | 東京都 | AIホーム、 IoT機器、アプリの開発・販売、メディア運営 |
コモングッド(株) | 東京都 | AI × 資産形成 | |
(株)PID | 東京都 | 不動産管理ツール | |
(株)スタイルポート | 東京都 | オンラインVR接客システム | |
2016年 | iyell(株) | 東京都 | 住宅ローンプラットフォーム |
リマールエステート(株) | 東京都 | 不動産売買業務支援システム「キマール」 | |
2015年 | (株)Strobo | 東京都 | IoT家電の開発 |
ベルフェイス(株) | 東京都 | オンライン営業システム「bellFace」 | |
ナーブ(株) | 東京都 | パノラマオンライン、VRホームステージング、VR内見 | |
2014年 | (株)Tryell | 東京都 | オンライン内見 |
(株)R.connect | 東京都 | グループ会社R.solutionにて情報管理 | |
(株)シンカ | 東京都 | 顧客コミュニケーションシステム(カイクラ) | |
(株)ライナフ | 東京都 | スマート物確、スマート内覧、スマートロック、スマートブッキング | |
(株)Housmart | 東京都 | 自動追客ツール「プロポクラウド」、不動産プラットフォーム「カウル」 | |
リーウェイズ(株) | 東京都 | 不動産取引エコシステム、オンラインメディア「Gate.Channel」 | |
2013年 | (株)タスキ | 東京都 | 不動産価値流通プラットフォームTASUKI |
2012年 | AAAコンサルティング(株) | 東京都 | コールセンター |
(株)スマサポ | 東京都 | 入居者アプリtotono、スマサポ内覧サービス | |
(株)ポート | 東京都 | 不動産投資営業インターネットツール | |
(株)Goldkey Co.,Ltd | 愛知県 | マンション管理アプリ | |
2011年 | (株)コラビット | 東京都 | AI不動産査定 |
稲葉総合法律事務所 稲葉譲 | 東京都 | FinTech企業支援 | |
(株)エボルゾーン | 東京都 | アセットマネジメント、クラウドファンディング | |
(株)ブリッジ・シー・キャピタル | 東京都 | アセットマネジメント、クラウドファンディング、PM・BM事業 | |
(株)プレイド | 東京都 | インターネットユーザーデータウェア | |
(株)クラッソーネ | 愛知県 | 工事一括見積 | |
アヴァント(株) | 東京都 | システム開発、AI、IoT | |
2010年 | (株)サービシンク | 東京都 | Webアプリ・システム開発 |
パレットクラウド(株) | 東京都 | クラウド入居者管理システム | |
FANTAS technology(株) | 東京都 | ライフシミュレーション、クラウドファンディング、AI査定、空き家プラットフォーム | |
2009年 | (株)MFS | 東京都 | オンライン住宅ローン |
2007年 | (株)UPDATA | 東京都 | DXSaaSとDXコンサルティング |
2006年 | (株)リブセンス | 東京都 | AI査定、不動産営業アプリ |
(株)インサイト | 東京都 | 口座振替 | |
(株)じげん | 東京都 | 賃貸、不動産売却、リフォームマッチングサイト | |
(株)プライムクロス | 東京都 | ネット広告、Web開発、デジタルマーケティングコンサルティング | |
2005年 | 弁護士ドットコム(株) | 東京都 | 電子契約サービス |
2004年 | 野村不動産ホールディングス | 東京都 | ノムコム |
リビン・テクノロジーズ(株) | 東京都 | 不動産マッチングサイト | |
2001年 | アルヒ(株) | 東京都 | ARUHI家の検索、住宅ローン |
(株)ランディックス | 東京都 | マッチングコンサルタント | |
2000年 | (株)ハッチ・ワーク | 東京都 | クラウド月極駐車場、シェア会議室 |
ジェイネッツ(株) | 東京都 | 通信環境関連ソリューション | |
(株)ファミリーネット・ジャパン | 東京都 | マンション専有部IoTサービス | |
(株)タス | 東京都 | 不動産マーケット分析「ANALYSTAS」 | |
1999年 | (株)ネットデータ | 岡山県 | 土地バンク |
(株)ボルテックス | 東京都 | 不動産小口化商品 | |
1998年 | (株)コプロシステム | 東京都 | マーケティング |
ハウスコム(株) | 東京都 | ライフスタイルサーチ、オンライン内見 | |
1997年 | 日鉄興和不動産(株) | 東京都 | 次世代の暮らしを見据えた商品開発を行う「Co-Creation BASE(コ・クリエーションベース、通称:コクリバ)」 |
1994年 | 日本情報クリエイト(株) | 宮崎県 | 不動産BB、WebManagerPro、賃貸革命10、入居者アプリ |
1986年 | リーシング・マネジメント・コンサルティング(株) | 東京都 | 競合物件調査、楽賃ルートナビ、賃貸エージェントBB |
1969年 | SCSK(株) | 東京都 | システム開発、検証サービス、ITインフラ構築、ITマネジメント、ITハード・ソフト販売、BPO |
1966年 | 大和不動産鑑定(株) | 大阪府 | 土地評価支援システム DACSUS(ダクサス)シリーズ |
1963年 | (株)クラスコ | 石川県 | Renotta、TATSUJIN |
1936年 | (株)リコー | 東京都 | 通信コミュニケーション、ITインフラ、SIアプリケーション |
DX(デジタルトランスフォーメーション)の全体像
不動産DXの全体像を把握するのはむずかしいことです。
現在進行形で増加するスタートアップ企業は、不動産業に焦点をあてることが多く、業界のDXが進むほどまだまだ増加していくでしょう。
そこでDXの全体像を把握するため視覚化する方法が用いられます。
一例がカオスマップです。
上図は不動産テック協会のサイトに掲載されているカオスマップですが、2018年3月作成のものです。
不動産テックは日々変化しており、現状を表現しているとはいえません。
全体像を把握するのに便利な情報があります。
前述の不動産テック企業一覧にある、リマールエステート株式会社が提供するサービスで、不動産テック比較サイト「不動産テック案内所」です。
このサイトでは現在、全388のサービス(2021.03.13現在)を紹介しており、その内訳は次のとおりです。
*()内はサービス数
・管理業務支援(67)
・物件情報・メディア(49)
・マッチング(44)
・不動産情報(11)
・クラウドファンディング(15)
・ローン・保証(14)
・価格可視化・査定(26)
・スペースシェアリング(27)
・リフォーム・リノベーション(22)
・VR・AR(24)
・IoT(39)
不動産業界のDXは従来の不動産業者が主役ではなく、いわゆるIT企業がリードする状態になっています。
さらに従来の不動産業もおこないつつDXをリードする企業としては、次のような会社があげられます。
・SREホールディングス
・センチュリー21
・ハウスドゥ
・ハウスコム
・クラスコ
このなかで「GAテクノロジーズ」は不動産テックを最大活用して、不動産取引業者として成長したリーディングカンパニーといえるのです。
今後も不動産テックはどんどん進歩し、従来の不動産業界の構図は大きく変化するかもしれません。
自動車業界でもトヨタやGMなどの自動車メーカーが、GoogleやAppleの下請メーカーになるような変化が予想され、不動産業界でもDXにより想定できない変化が起こる可能性もあるのです。
まとめ
不動産業界のDXについて簡単ですが、全体像を俯瞰してみました。
1年後、2年後には、さらに変化した姿になっていると思います。
不動産仲介の現場においても、業務に使うツールが変化するだけではなく、ビジネスモデルさえも変化する可能性があります。
ITやDXなど苦手という方が多いのもこの業界ですが、最早そのような言い訳はできない時代になっていることを、自覚しなければならないようです。