2階建てアパートではあまり該当しませんが、中層以上の賃貸マンションになると、防火管理者を選任しなければならない「防火対象物」に該当することがあります。
平成30年3月末の総務省消防庁の調査では、防火対象物に指定される共同住宅のうち防火管理者選任済の物件は77.4%であり、全国には約4万棟に近い未選任の物件があります。
防火管理者未選任のマンションにおいて、火災により大きな被害がでた場合、真っ先に責任を問われるのは物件オーナーです。
ここでは賃貸物件における防火管理制度と管理会社の役割について解説します。
防火管理が必要な防火対象物とは
共同住宅で収容人員数が50人以上の場合は防火管理が必要とされ、居住者数の合計が50人以上となる共同住宅では防火管理者の選任が必要です。
共同住宅とはアパートやマンションを指すものですが、分譲マンションも同じです。
賃貸物件のなかには1階や2階にテナントが入り、3階以上が住宅といった物件もあります。
テナントが事務所などであれば、共同住宅と同様「非特定防火対象物」に該当し、全体の収容人数が50人未満であれば防火管理者の選任は必要ありません。
しかし次のような特定の用途に使われる場合は、さらに厳しい「特定防火対象物」になるケースがあります。
「特定防火対象物」となるテナント用途は次に該当するものです。
(下記は東京消防庁の資料にもとづき一部編集しています)
・ 老人ホームや老人介護施設などと軽費老人ホーム(避難が困難な要介護者を入居させる施設)
・ 救護施設、乳児院、障害児入所施設・障害時支援施設などの避難が困難な要介護者を入居させる施設
2. 収容人数が30人以上で防火管理者が必要な種類
・ 劇場、映画館などや集会場など不特定多数の人が出入りする施設
・ キャバレー、カフェなど飲食を供する施設
・ 遊技場やダンスホール
・ 性風俗関連の店舗
・ カラオケボックスや個室ビデオなど
・ 待合や料理店など
・ その他飲食店
・ 百貨店やマーケットなど小売店舗や展示場
・ 旅館、ホテル、宿泊所など
・ 病院、診療所、助産所
・ 老人デイサービスセンター、軽費老人ホームで避難が困難な要介護者を入居させない施設
・ 更正施設
・ 助産施設、保育所、こども園、児童養護施設などの同様施設
・ 幼稚園、特別支援学校
・ 児童発達支援センター、情緒障害児短期治療施設、放課後等デイサービス施設など
・ 身体障害者福祉センター、障害者支援施設で避難が困難な要介護者を入居させない施設、地域活動支援センター、福祉ホームなど
・ サウナなど
飲食店、クリニック、デイサービスセンター、こども園などは、マンションの1階テナント部分に入居するケースは珍しくありません。
オーナーが物件を購入し、管理委託を受けたときには防火管理責任者の選任必要性をチェックする必要があるでしょう。
防火管理者の資格
防火管理者になるには消防署などが実施する講習を修了すると取得できます。
防火管理者は甲種と乙種の2種類あり、甲種は2日間の講習、乙種は1日間の講習になっています。
講習後はテストがありますが、むずかしいものではなく、居眠りせずに講習をきちっと受けていると合格できる程度のものです。
講習の修了により次のような修了証が発行されます。
なお防火管理者資格と同等の、防火管理上必要な知識・技能を有している学識経験者等に該当する場合は、講習を受けることなく防火管理者に選任される要件を満たすことができます。
学識経験者等とは次に該当する人をいいます。
・市町村の消防職員で管理的又は監督的な職に1年以上あった者
・労働安全衛生法第11条第1項に規定する安全管理者として選任された者
・防火対象物点検資格者講習を修了し、免状の交付を受けている者
・危険物保安監督者として選任された者で、甲種危険物取扱者免状の交付を受けている者
・鉱山保安法第22条第3項の規定により保安監督者又は保安統括者として選任された者
・国若しくは都道府県の消防の事務に従事する職員で、1年以上管理的又は監督的な職にあった者
・警察官又はこれに準ずる警察職員で、3年以上管理的又は監督的な職にあった者
・建築主事又は一級建築士の資格を有する者で、1年以上防火管理の実務経験を有する者
・市町村の消防団員で、3年以上管理的又は監督的な職にあった者
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防火管理者の責務と管理会社の役割
防火管理については最終的な責任を負う立場になる人を「管理権限者」といいます。
防火管理者は管理権限者が選任することになっており、防火管理者には次の役割が与えられることになります。
2. 消火訓練、通報訓練、避難訓練
3. 消防用設備などの点検と整備を有資格者におこなわせる
4. 火気使用や取扱いに関する監督
5. 避難上または防火上に必要な構造や設備の維持管理
6. 収容人員の管理
7. そのた防火管理上必要とされる業務
管理権限者は賃貸住宅の場合物件のオーナーが一般的です。
公営住宅などでは自治体の長や住宅供給公社が「管理権限者」になっています。
民間賃貸住宅ではオーナーに代わって、管理を委託される管理会社が「管理権限者」になることもあります。
管理会社が管理権限者となった場合、管理会社が防火管理者を兼ねることもできますし、別に定めることも可能です。
たとえば管理会社の代表者が管理権限者になり、物件担当者が防火管理者になるようなケースです。
オーナーが管理権限者となり、管理会社に防火管理を委託するケースもあるでしょう。
この場合でも管理会社が実質的に、防火管理者としての責務を果たすことに変わりはありません。
管理権限者は前述のとおり、大きな責任を負うことを認識しておかなければなりません。
消防計画の作成と管理責任
実際に防火管理者としておこなう業務のなかで基本になるのは「消防計画」です。
消防計画のフォーマットは自治体が公表しているので、記載例にしたがい作成することができます。
たとえば東京消防庁が公開している消防計画作成マニュアルはたいへん参考になる資料です。
作成にあたって留意したいのは、区分所有マンションを想定したマニュアルなので、自治会や管理組合などの文言があり、管理権限者=管理組合理事長の前提で書かれています。
適宜、実際の状況に合わせた表現が必要になります。
このような書類は「形式上」と受取られ勝ちですが、万が一のときの「管理権限者」が問われる責任はきわめて大きいものです。
物件オーナーまたは管理会社の代表者がそのような立場になる可能性が高く、形式的な体裁を整える書類という認識は非常に危険なことといえるでしょう。
管理会社の係わり方
防火管理制度における管理会社のかかわり方は一律的なものではありません。
オーナーが管理権限者として、防火管理を業務としている専門のビル管理会社に対し、防火管理者の選任を含め委託するケースがあります。
この場合は賃貸管理会社が防火管理制度にかかわることはなく、避難訓練などの必要がある場合のみ防火管理者に協力するようなことが考えられます。
オーナーが管理会社に「管理権限者」としての責任も含めて管理を委託する場合は、賃貸管理会社の防火管理にかかわる責任は大きく、消防計画をはじめとした入念な準備が必要です。
また、管理会社が「管理権限者」となり、実際の防火管理にかかわる業務を専門のビル管理会社などに委託する方法もあります。
以上のように賃貸管理会社と防火管理制度との関係には、さまざまなケースが考えられ、もっとも実効性のある方法をオーナーに提案することが重要です。
まとめ
防火管理制度における賃貸管理会社のかかわり方について解説しました。
管理会社の立ち位置にはいくつかのパターンがあります。
会社が持っている人材や経験及び能力を勘案し、最適な方法をオーナーに提案することが大切です。
また防火管理者の選任が必要でありながら、なんら対策を講じていない物件が管理物件の中にある場合は、早急に対策をおこなうようオーナーに提案することが必要です。
そのことがオーナー自身を守る意味もあることを忘れてはなりません。