賃貸管理業務においては、現入居者と賃貸人との間で取り交わすことの多い書類に「合意書」があります。
すでに賃貸借契約が締結されたのちに、契約関係に変更があり新たに取り決めることが生じた場合に、互いに取決め内容を確認するために記名押印し保管する書面です。
そのほか賃貸条件の変更に関わる届出が必要になる場合もあり、ここでは代表的といえる賃料改訂合意書と、賃貸条件の変更に関わる届出書などについて、作成の方法や内容を解説します。
賃貸条件変更の手順
賃貸借契約において、締結後に変更する可能性のある条件には次のようなものがあります。
2. 連帯保証人
3. 同居人
4. 転借人
賃貸条件の変更は一方からの請求や通知にもとづいて、相手方が検討や審査を経て合意に至ったときに、書面に作成し互いに保管しなければなりません。
賃料改訂はどちらかからの請求に対し合意できなければ、最終的には裁判に至るケースもあります。
また、連帯保証人の変更や同居人の変更は、ほとんどの場合事前に審査が必要となるものです。
賃借人から禁止されている転貸希望が生じた場合などは、その理由や事情なども慎重に判断し賃貸人の判断を仰がねばなりません。
管理会社としては賃貸条件変更の必要が生じた場合、それぞれのケースに応じて対応方法を考慮しなければならないのです。
賃貸条件変更合意書の種類
賃貸条件の変更により合意書などを作成するケースとして、次の3つのケースについて解説します。
合意文書や届出書面を例示しますが、適宜、状況に応じ変更を加えて下さい。
2. 保証人・同居人変更届の例
3. 滞納家賃支払い確約書
賃料改訂合意書の例
【賃料改訂合意書の例】
賃料改訂合意書に記載する事項としては、次のような項目や内容が必要です。
2. 旧賃料と改訂賃料
3. 改訂する始期
4. 改訂賃料を適用する始期が遡る場合の差額
5. 根拠となる賃貸借契約の内容
6. 合意の日付
7. 賃貸人と賃借人および連帯保証人の住所と記名押印
このなかで重要なのが「改訂する始期」、つまりいつから変更になるのかですが、賃料の改訂が合意されるまでには協議が整わず、裁判所の調停による場合もあります。
たとえば大家さんから値上げの要求があり、賃借人が納得せず裁判所での調停を受けるまでに3ヶ月かかったと仮定すると、合意されるまでの3ヶ月間は従来の賃料を支払っています。
この場合、合意内容が最初に値上げ要求のあった3ヶ月前まで遡る場合には、従来賃料との差額を賃借人は支払う必要がでてくるのです。
地代や家賃の改定は次の場合、相手方に賃料変更を請求できると借地借家法では定められています。(借地借家法第11条、借地借家法第32条)
・土地や建物の価格が上下する経済的変動があった場合
・近傍類似の同種物件と比較し不相当となった場合
賃貸人から賃借人には “値上げ” の請求、賃借人から賃貸人へは “値下げ” の請求が一般的です。
国土交通省が公開している賃貸住宅標準契約書には、賃料改定について次のように規定しています。
1 土地又は建物に対する租税その他の負担の増減により賃料が不相当となった場合
2 土地又は建物の価格の上昇又は低下その他の経済事情の変動により賃料が不相当となった場合
3 近傍同種の建物の賃料に比較して賃料が不相当となった場合”
借地借家法では『賃料変更の請求権』について定め、契約約款では『協議により改訂できる』と定めているのです。
逆にいうと『賃料の変更を請求する権利はあるが、協議が整わなかった場合は改訂できない』ことを意味しています。
そのため賃料を変更する場合は、文書にて「合意書」を作成する必要があります。
また、連帯保証人の同意も確認しておく必要があり、連帯保証人は実印の押印と印鑑証明証の添付が望ましいでしょう。
保証人・同居人変更届の例
【連帯保証人変更届の例】
連帯保証人の変更は、連帯保証人の死亡または保証能力の欠如による場合が多く、保証能力の欠如には次のようなケースが該当します。
2. 認知機能の低下
3. 長期入院などによる緊急時対応の困難
入居審査時におこなったと同様の保証人審査が必要です。
また保証人変更届には「連帯保証人引受け承諾書」を併せて提出してもらいますが、実印の押印と印鑑証明書を添付し本人の意思確認を確実におこなわなければなりません。
【同居人変更届の例】
同居人の変更では結婚や出産など、同居を認めるのが当然な理由もありますが、ルームシェアや実質的な転貸に近い形のものもあります。
社会人の場合は続柄や勤務先などは必須情報としてキャッチしておきましょう。
また変更届には住民票の添付も必須です。
滞納家賃支払い確約書の例
【滞納家賃支払い確約書の例】
滞納がつづき未納家賃が嵩んでくると、短期間に正常支払状態にすることはむずかしく、ある程度の長期分割支払いとなります。
将来的に滞納の解消がむずかしいと判断した場合は、契約解除の申し出をしなければなりません。
協議により解除・明渡しができない場合には民事訴訟になります。
内容証明郵便による督促状は裁判においての証拠書類になりますが、連帯保証人も実印を押印した支払い確約書は証拠書類となります。
滞納額は総額を記載するのはもちろんですが、内訳も明記することにより滞納実績を可視化することもできます。
滞納している賃借人本人も、正確な滞納状態を把握していないこともあり、内訳明細は意外と説得力のあるものです。
支払方法も「〇回払い」などと漠然とした表現ではなく、支払期日を明確に記載する方が、より支払い義務を自覚させる効果があります。
そして、必ず記載したいのが「公正証書」に関する記述です。
公正証書は法的な強制力のある書面といわれますが、「強制執行許諾条項付き」の文言がない場合は、強制力は薄れてしまい裁判が必要になるので注意が必要です。
まとめ
賃貸借契約の変更に関わる3つのケースについて、必要な書類の作成方法や内容について解説しました。
2. 保証人・同居人変更届の例
3. 滞納家賃支払い確約書
他にも状況により必要な書類があります。
賃貸借契約は口頭でも成立するものですが、契約内容に疑問が生じトラブルになることや、約束事が守られずに争いになったときの解決がむずかしくなります。
契約後の変更事項についても必ず書面にして、保管しておくことが大切です。