賃貸物件で発生した事故に対するオーナー責任

賃貸経営をするオーナーそして、オーナーからの依頼を受けて管理業務をおこなう管理会社には、賃貸物件の建物や付属の工作物が原因となって発生した、他人への損害について賠償責任を問われる場合があります。

その法的根拠になっているのが民法717条の「土地の工作物等の占有者及び所有者の責任」です。

オーナーに責任が及ぶ工作物責任

賃貸住宅の入居者や来客者および周辺の隣人や通行人に、住宅が原因となりなんらかの被害を与えた場合、その責任は賃貸住宅の所有者はもちろんのこと管理会社にもおよぶことがあります。

民法717条には、土地の工作物等の占有者および所有者の責任を次のように定めています。

“土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。”

引用:WIKIBOOKS「民法第717条」

管理会社はオーナーからの委託を受け、建物の維持管理を担っていることがほとんどであり占有者と見做される場合が多いのです。

そのため賃貸物件が原因で他人に損害を与えた場合、管理会社が充分な注意を払っていればオーナーが、払っていなければ管理会社が賠償責任を負うことになります。

条文中にある「工作物の設置」とは賃貸物件の建築行為をいい、それにつづく「工作物の保存」とは賃貸物件の維持管理をいいます。

建築行為あるいは維持管理どちらかに瑕疵があることにより、損害を生じさせた場合の責任を明確に定めているのです。

なお、民法717条には第2項があり、ここでは「竹や庭木」などが倒れたことによる損害についても同様としているので注意が必要です。

また工作物には住宅建物本体はもちろん、門塀や物置・車庫などの付属建築物も含まれます。

瑕疵とされる建物の欠陥

「瑕疵」とは本来備えるべき性能などが欠けていることを意味し、地震・台風などによる自然災害によって起こる事故に対しも、被害の程度と本来備えるべき性能の度合いにより、責任が問われる場合もありえます。

外部階段の段板がサビており落下の恐れがある、手すりがぐらついており外れる可能性がある、これらは明確な「瑕疵」といえる状態です。

このようにわかりやすい瑕疵以外にも、オーナーや管理会社が瑕疵と認識しにくい状態が実際には存在します。

自然災害に対する建物の瑕疵

最近は世界的にも自然災害の頻度や激しさが高まり、日本においても大きな災害が毎年のようにおきています。

自然災害は人為的なものではないため、原則的には所有者などに損害賠償責任は認められないこととされています。

ある程度の強風では飛ぶはずのない屋根の瓦が飛んでしまう、ビルの壁に設置された看板が外れて落下する、などの原因により他人の家屋や身体に被害を与えることがあります。

本来飛ぶはずのない瓦や外れるはずのない看板は、定期的なメンテナンスをおこない適切に管理することが求められます。

そのような維持管理を怠って他人に損害を与えた場合は、工作物責任が問われ損害賠償請求をされるケースがあるのです。

建物の構造や設備に瑕疵がある場合

アパートやマンションは建築基準法において、共同住宅と分類され「特殊建築物」に該当します。

特殊建築物には、構造、防火、避難などの面でさまざまな規制があり、安全性の高い建物であることが求められています。

たとえば3階建ての共同住宅は「耐火建築物」としなければなりませんが、地階を駐車場とし、1階、2階に住戸のある木造アパートをよくみかけます。

しかし地階といいながら実質的には駐車場は1階であり、外見上も法律的にも3階建てとなる木造アパートが少なくありません。

これらは明らかに「建築基準法違反」であり、瑕疵が存在する建物になっています。

このような物件で万が一大きな火災が発生し、不幸にも亡くなる人がでた場合、亡くなった原因が「耐火建築物ではない違反建築物」であったことと認定されると、所有者は工作物責任を問われる可能性がでてきます。

共同住宅には規模により数種類の防火設備の設置が義務づけされています。

小規模な場合でもほとんどの共同住宅(150㎡以上)には「消火器具」の設置が必要であり、最低でも3年に一度の消防署への点検報告が必要です。

消防法にて定められているオーナーの義務を怠り、万が一大きな火災がおきた場合も「保存の瑕疵」が問われ、オーナーや管理会社に対し損害賠償請求の可能性があります。

以上のような「気づかなかった」「うっかり忘れていた」といったことであっても、工作物責任を問われる場合があるので注意が必要です。

既存不適格建築物に存在する瑕疵

貸家業は建物を貸す以上、必ず貸している建物の適法性が問われます。

違法な建物を貸して賃料を得、その建物が原因で入居者はじめ他人に損害を与えた場合は、所有者または占有者には損害賠償を請求される可能性があります。

建築物を規制するのは主に「建築基準法」になりますが、災害により大きな被害を受けるたびに法改正がおこなわれています。比較的新しい法改正の例として「シックハウス対策」があります。

2003年7月1日から施行された改正ですが、これ以降の新築・増築など建築確認申請が必要な建築物については「24時間換気」設備が義務づけされました。

逆にいうと2003年7月1日以前から使用されていた建物は、24時間換気設備がなくても「違反建築物」とはなりません。違反状態ではあるけれど使用できる「既存不適格建築物」とされるのです。

既存不適格建築物は実はたくさん存在しており、現行法令や基準に適合していない建築物は意外と多いといえます。

法的に適合していない部分は「瑕疵」であり、事故があった場合に工作物責任を問われる可能性は高いといえます。

ただし事故のあった物件について、新築したときには適法の状態であり、そのごも維持管理において瑕疵がない場合は責任を問われる可能性は低くなるようです。(裁判所の判断になるので、絶対ではありません。)

既存不適格物件のなかには、法的に非常に問題のある物件もあります。

・完了検査後に敷地の一部を売却し敷地内通路が確保されていない
・建築確認申請不要の範囲で増築したが消防設備設置の基準を超えてしまった

物件の所有者あるいは旧所有者が意図的におこなった行為により不適合となったケースでは、万が一の事故により大きな被害がでて、法的不適合が被害の拡大となったと認定される可能性がないとはいえません。

オーナーが新規物件を取得する場合や、現在所有する物件に対し建物や敷地に何らかの変更を加えようとする場合は、充分注意しオーナーも管理会社も責任を問われることのないようにしたいものです。

まとめ

土地の工作物責任は予想もしないケースで問われることがあります。

物件の維持管理など日常的に気配りし点検維持管理が必要ですが、万が一のときの保険としてあるのが「施設賠償責任保険」です。

建物の火災保険とは別に単独で加入できる保険です。

もし加入していないオーナーがいる場合には、早急に加入することを勧めてください。わずかな費用で加入できる保険です。

また自然災害により発生する被害も、最近は注目されるような大きなものがあります。

2019年に発生した台風19号によりゴルフ練習場の鉄柱が倒壊しましたが、民事訴訟などの有無について知ることはできませんが、もしも提訴されるとネットを下ろさずにいたので、工作物責任を問われる可能性は高いのではないかと思われます。

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