建築ストック活用に欠かせない管理会社の役割

賃貸管理会社は不動産ストックビジネスにおける、重要なプレーヤーです。

オーナーと賃借人との調整役だけではなく、遊休不動産の活用を図り新規需要を掘り起こし、地域の活性化に大きな影響を与える可能性を秘めています。

賃貸管理業に係る経営環境の変化は、管理会社そのものの存在意義を問い直し、その役割を変えようとしています。

建築ストック活用ビジネスの将来性

不動産業界で起きたフロービジネスからストックビジネスへの転換は、2000年に入ってからのことです。

J-REITをはじめとする不動産証券化の流れがそのひとつでした。2001年にスタートしたJ-REITは現在63銘柄(2020年7月時点)、時価総額は約13兆円(2020年7月時点)となっています。

出典:J-REIT.jp「統計データ」

また1994年に施行された「不動産特定共同事業法」にもとづく不動産特定共同事業者は、現在(2020年6月時点)許可業者122社、小規模不動産特定共同事業者登録業者は17業者と、こちらもストックビジネスのプレーヤーとなるアセットマネジメントを目的とした法人が名を連ねます。

出典:国土交通省「不動産特定共同事業等について」

ストックビジネスは欧米では古くから成立していたビジネス形態であり、その中から生まれてきた概念のひとつが「プロパティマネジメント(PM)」です。

併せて生まれた概念が「アセットマネジメント(AM)」であり、アセットマネジメントにより策定された戦略を、実際の現場である不動産運営で実践するのがプロパティマネジメントという位置づけです。

管理会社が対象としていた顧客層はストックビジネスの拡大により変化し、特定の個人オーナーや賃貸事業法人ばかりでなく、J-REITの投資法人や不特定多数の出資者により構成された投資法人へと広がりました。

投資法人がアセットマネジメントの役割を担い、管理会社がプロパティマネジメント機能を担う、このような構造が標準となり定着していくと考えられます。

その中で管理会社の経営環境も大きく変わることが予想できます。

管理会社を取り巻く経営環境に変化

オーナーと管理会社との関係は、小規模な管理会社においては地域社会の人間関係により生まれることが多く、大手管理会社の場合は系列デベロッパーが開発する物件を、無競争で受託できる既得権益によるものでした。

しかし外資系プロパティマネジメント会社の参入や、ストックビジネスの拡大は管理業界の流動化を生み出しました。

大手管理会社は系列の枠を越えて顧客獲得競争を展開するようになり、中小の管理会社が確保していた領域も安泰とはいえない可能性がでてきています。

賃貸管理というと、共用部の清掃や定期的なメンテナンス、そして入居者の集金・契約管理業務が主たる業務とされてきましたが、今後はプロパティマネジメントによる投資物件の収益性向上に、どこまで寄与できるかが課題とされるようになります。

特に空き物件の活用方法開発は、管理会社のプロパティマネジメント能力を評価する大きな要素となるでしょう。

空き物件をいかに活用できるか

空き物件の活用方法を創出するには3つのアプローチがあります。

1. 新規需要の喚起
2. 既存の枠を越えたネットワーク構築
3. クラウドファンディングをはじめとする新しい資金調達方法

空き物件はアパートの1室や戸建賃貸物件ばかりでなく、空き店舗・事務所・倉庫などの単体建築物から、古家・長屋が集合して存在するひとつの区画が対象となることもあります。

既存の管理物件以外にも営業エリアには、新規需要に対応できる空き物件があるはずです。

物件ごとにターゲットとなる需要層は異なり、顧客開拓にはこれまでの不動産仲介業者の枠を越えた、幅広い人的ネットワークが必要となるでしょう。

空き物件をそのままの状態で活用することはむずかしく、リフォーム・リノベーションは必須になります。

そのための資金調達は、従来であれば所有者の与信枠内で、取引金融機関からおこなうのが常道でした。

しかしこれも担保評価の面など、既存金融機関での対応がむずかしいケースもあり、SNSを活用したクラウドファンディングなど、新たな資金調達方法に挑む必要がでてきます。

以上のように空き物件活用はアパートなどにおける「空室対策」を超えた、よりダイナミックでより広範囲な活動を必要とする、管理会社の基幹業務となっていくのです。

ストックビジネスを成功させるネットワークづくりが大切

今後は新規の開発案件は少なくなり、 “再生” がキーワードになります。

・地域再生
・古家再生
・マンションリノベーション
・街並み保存

既存のものの価値を見直し、新たに掘り起こす需要の受け皿にしていく作業は、管理会社だけの力では困難です。

・不動産仲介業者
・建築設計・都市計画専門家
・リノベーション事業者
・地方公共団体
・市民団体・NPO
・地元JC・異業種交流会
・地元金融機関

などをもとにしたネットワークがまず基礎になります。

情報収集や情報発信もネットワークがなければ不可能なこと。

ストックビジネスとして可能な物件情報を収集し、潜在需要の掘起しやマーケティングリサーチをおこない、新たな価値を創造しその魅力を伝えるプレゼンテーションも、ネットワークがあるからこそ可能になるのです。

建築物や地域の再生は専門家の存在なくして実現しません。行政機関とのタイアップや支援を必要とする場合もありますし、逆に地方自治体が抱えている課題に対し、解決の方向性が浮かびあがることもあります。

国土交通省が2016年に発表した「不動産ストックビジネスの発展と拡大に向けて」では、11例のストックビジネス事業を紹介しています。

1. 古長屋の再生事業(大阪府)
2. 不動産管理業からコンサルティング事業への転換(福岡県)
3. オーダーメイド賃貸(東京都)
4. NPO法人による街づくりネットワークの構築(福岡県)
5. バリューコンサルティングを展開するブルースタジオ(東京都)
6. UR都市機構の団地住棟をシェア型賃貸に再生(東京都)
7. 京町家の保存と継承ネットワーク構築(京都府)
8. 空き家オーナーのネットワークがまちづくりを実践(東京都)
9. 閉校となった中学校校舎をアートの拠点に再生(東京都)
10. 地元信金がリードしたサ高住の整備事業(鳥取県)
11. 有形文化財「南天苑」をクラウドファンディングにより再生(大阪府)

実例から読み取れることは、不動産管理会社や建築士事務所が主体であっても、幅広いネットワークの構築が事業を推進させた原動力になったことです。

競争が生まれる産業においては、必ず “寡占化” の動きがでるものです。

賃貸管理業も例外ではありません。すでに、1割の大手管理会社が9割の管理物件を確保しています。

9割の中小管理会社は現状維持に甘んじることなく、ストックビジネスの新規開拓に向けた努力が、必要になっているといえるのではないでしょうか。

まとめ

不動産投資の目的が、キャピタルゲインからインカムゲインに変化したことにより、賃貸管理業はストックビジネスという枠組みで捉えるようになりました。

ストックビジネスは「安定した」「継続する」といったイメージを持ちがちですが、実はおかれている環境は常に変化しているものです。

その変化を敏感にとらえることにより、次のビジネスチャンスが作られるのではと思います。

そして変化をとらえる為には、地域に根差したネットワークの構築が必要であるといえるのです。

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