内見をしたいと連絡すると「成約済です」と断られ、条件のよくない物件を内見させられ契約を迫られる、これはおとり広告を使った強引な営業手法のひとつです。
意図的におこなったものか、たまたま成約済物件がポータルサイトに掲載されていたのかわかりませんが、おとり広告であることに違いはありません。
おとり広告は業界内で注意喚起されているにもかかわらず後を絶ちません。
ここではおとり広告の最近の状況と、おとり広告の防止対策について解説します。
おとり広告の現状
2021年2月25日首都圏不動産公正取引協議会は、インターネット賃貸広告の調査報告を公表しました。
調査はアットホーム・CHINTAI・LIFULL・リクルート住まいのカンパニー、4社のサイトに掲載された賃貸住宅情報から、おとり広告の可能性がある物件を抽出した結果、36.1%がおとり広告でした。
出典:R.E.port「賃貸ネット広告、調査36社の36.1%に「おとり」」
おとり広告のほとんどは成約済の物件を掲載するケースであり、意図的に掲載したままにしているかデータを削除し忘れているかのどちらかと思われます。
首都圏不動産公正取引協議会は毎月「公取協通信」を発行しており、売買・賃貸における違反広告に対する措置を発表しています。
「公取協通信」バックナンバーから違反事例のうち、厳重警告と違約金の措置そして主要ポータルサイトに1か月以上の掲載禁止と重い処分を受けた事例(措置A)と少し軽い措置(措置B)の結果を2017年9月まで遡ってまとめました。(措置Bは2019年3月度からのデータです。)
広告の違反内容にはおとり広告以外に、記載内容に関わるものもあり広告の正確性については、より一層注意しなければならないことです。
おとり広告防止の取組
おとり広告の防止として公益社団法人首都圏不動産公正取引協議会は、お願い文書を発出しています。
この文書では一部おとり広告の原因と考えられることを指摘おり、以下に引用し掲載します。
不動産情報の伝達はインターネットによる割合がほとんどであり、ネット掲載情報がリアルタイムで更新される必要があるといえるでしょう。
しかし更新は自動化することが非常にむずかしく、とくにポータルサイトはサイト管理者と不動産情報提供者が異なり、サイト運営側で「商談中・成約済」といった取引状況を確認することができません。
不動産情報を掲載する側の「おとり広告防止」意識が高まることを期待するしかない状況と言えるでしょう。
悪質な違反広告事例
おとり広告は賃貸に限らず売買においてもおこなわれています。
公益社団法人首都圏不動産公正取引協議会が公表している違反事例のなかから、最近の事例で悪質なものについて紹介します。
1. 2021年3月度の事例
物件種別:新築1棟売りアパート
虚偽記載:建築確認番号が架空、劣化対策等級、容積率、接道状況
記載不備:セットバックの必要性、私道負担面積
2. 2021年2月度の事例
物件種別:賃貸共同住宅
掲載期間:おとり広告1年3か月以上~22日間
虚偽記載:ガスコンロ・防犯カメラ・ダブルロックなどの設備がないのに表示
記載不備:家賃保証会社との契約必須、保証料、鍵交換費用、駐輪場利用料
3. 2020年12月度の事例
物件種別:賃貸住宅
掲載期間:おとり広告4年3か月以上~2年8か月以上
虚偽記載:築年数が38年も異なる
4. 2020年11月度の事例
物件種別:1棟売りアパート
虚偽記載:建築確認番号が架空、1棟が1年2か月前に契約済であったのに「2棟一括」と記載、サブリースではないのに賃料保証を記載
5. 2020年10月度の事例
物件種別:賃貸住宅
掲載期間:おとり広告1年1か月以上~7.5か月以上
虚偽記載:防犯カメラ、ダブルロック、CATV
記載不備:駐輪場料金、鍵交換費用、家賃保証料
過去違反:1年半前にも厳重警告と違約金の措置を受けている
契約済物件の削除を忘れていたという単純な内容ではなく、意図的に虚偽記載やおとり広告をしていたのではと推測される事例です。
おとり広告の罰則
おとり広告は法律による罰則があります。
1. 宅地建物取引業法による罰則
宅地建物取引業法第32条では誇大広告等を禁止しており、この規定に違反した場合は第81条第1号において、懲役6ヶ月以下もしくは罰金100万円、またはどちらも科されることがあります。
2. 不当景品類及び不当表示防止法による罰則
不当景品類及び不当表示防止法第5条では不当な表示を禁止しており、この規定に違反した場合は第7条の措置命令を受け、第29条第1項の立入り検査を受けます。このとき必要な報告をせず検査を拒否するなどをした場合、第37条により1年以下の懲役または300万円以下の罰金に処せられます。
さらに宅地建物取引業法にもとづく、業務停止や免許取消しなどの行政処分もあり、くり返しおとり広告をおこなうなどは重大なルール違反となるのです。
おとり広告はなぜ生まれるのか?
おとり広告は意図せずに生まれるケースがあり、知らずにおとり広告になっていた不動産会社は措置を受けると、一定期間ポータルサイトへの掲載ができないなどのビジネスチャンスを失うことになります。
インターネット上の物件削除を忘れてしまうのは、元付業者よりも客付業者に多いケースも考えられ、元付けへの物件確認を怠っていると成約済み物件が掲載されたままとなります。
元付けから掲載許可した客付業者への成約連絡があるといいのですが、なかなかそのような連絡は期待できません。
知らずに成約物件を掲載したままにすることが、おとり広告を掲載することになり警告などの措置を受けるのです。
また事例であげた悪質なケースでは、意図的に不実記載がおこなわれたと想像できるものや、情報の正確性を確認しないまま掲載したと考えられるものもあります。
おとり広告や誇大広告は宅建免許取消しを受ける、重大な違反行為であることを再度認識する必要があるでしょう。
まとめ
不動産の広告は紙媒体からインターネットまで幅広いメディアがあります。インターネットは手軽に広告出稿ができ時間もかかりません。
それだけに更新も簡単にできるはずなのですが、うっかり成約済の物件が掲載されたままということもあります。
インターネットにより広告のコストパフォーマンスはよくなりましたが、おとり広告などが多くなると信頼性が失われてしまいます。
信頼感のなくなったメディアは役に立ちません。
信頼感を保つか失うかは、インターネットにより情報を発信する側の自己責任と言えるでしょう。