オーナー都合の賃貸借契約解除と退去交渉を原因別に解説

賃貸借契約は借地借家法にもとづき賃借人の権利が強く守られています。

賃貸人からの契約解除は制限されており、簡単には契約解除ができないしくみになっています。

そのようなしくみであっても、賃貸人からの契約解除をすすめなければならない事情があった場合、管理会社はどのような点に注意を払い契約解除手続きをおこなうのか、について解説します。

家賃滞納者の契約解除

家賃の支払い期限はほとんどの場合、翌月分を当月末(27日前後)に設定することが多いでしょう。

翌月初めには入金管理事務をおこない滞納者が明らかになります。

管理会社がおこなう管理業務のうち、家賃督促業務は非常にストレスのかかる仕事ですが、放っておくと滞納が重なりますので早めに対応するのが鉄則です。

しかし、それでも滞納を重ねる入居者はおり、2ヶ月滞納状態となると法的手続きを視野に督促業務をおこなわなければなりません。

具体的には以下の文書を賃借人本人と連帯保証人に送付します。

1. 内容証明郵便による家賃支払の督促
2. 契約解除の予告通知

これらの書面による督促を繰り返し3ヶ月が経過するようになると、裁判所への訴訟手続きに移行します。

ほとんどの場合は訴訟前に、賃借人や連帯保証人からなんらかの反応があり、滞納状態がすこし改善しまた滞納を繰り返すという状態がつづきます。

管理会社としては忍耐強くつき合うしかありません。

強制的な解約・退去などは望めないことです。

くり返しの督促によっても改善されない場合は、いよいよ民事訴訟になります。

民事訴訟の手順

未払い家賃の支払いと明渡しを求める訴訟は、賃貸人または法定代理人しかできません。

管理会社は賃貸借契約においては「代理人」になるケースはありますが、民事訴訟においては管理会社が代理人として訴訟を起こすことは「非弁行為」と看做される恐れがあります。

弁護士に依頼するのは費用もかかることなので、賃貸人本人が出廷する前提で訴訟申立てをします。

申立てする裁判所は140万円以下の事件は簡易裁判所になります。

1. 訴状(賃貸人本人が作成するのがむずかしい場合は、司法書士に作成依頼する方法があります)
2. 賃貸借契約書
3. 賃貸物件の登記事項証明書
4. 固定資産評価額証明書
5. 内容証明郵便と配達証明書
6. 収入印紙と切手

賃貸保証を利用しているケースでは、訴訟手続きも委託業務に含まれるので、管理会社が特に手続きをおこなう必要はありません。

建替・大規模修繕の退去

建物の老朽化が著しく建替えや退去を伴う大規模修繕が必要になった場合、賃借人は退去しなければなりません。

「建て替え」が正当事由として認められるどうかの判断については、借地借家法第28条の「建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件」において、賃貸人の「建物の使用を必要とする事情」に建て替えが該当するかがポイントになります。

判例では正当事由とされた例はほとんどなく、やはり「立退き料」による正当事由の補完が必要になると考えるべきでしょう。

手続きとしては6ヶ月前に契約解除・退去明け渡しの申出をし、立ち退き交渉をおこなっていきます。

また、建て替え後に再入居を前提とする場合は、賃借人の理解も得やすくなると考えられます。

老朽化による建て替え、特に旧耐震基準による古い建物では、耐震性能を向上させる目的があり、理解されやすい面もありますが賃借人にとっては、あくまでも “大家の都合” であることは否めません。

交渉が難航する場合には、次項で触れる「和解申立」も視野に進めていくことになるでしょう。

大家都合の契約解除

「家族や親類を入居させたいので退去してほしい」などの理由は、賃貸人が自ら使用する必要のある事情ではなく、典型的な “大家都合” の契約解除です。

正当事由にはあたらず相応の立退き料が必要なパターンとなります。

契約解除の手順としては、いきなり立退き交渉をはじめると立ち退き料が膨れ上がる可能性があるので、賃借人の理解を求めながら時間をかけて慎重にすすめることが重要です。

真っ先にやるべきことが『契約解除の申入れ』を退去希望日の6ヶ月前、できれば1年前におこないます。そして本格的退去交渉は6ヶ月前の解除申入れ後にはじめます。

ここまでの手順は管理会社がオーナーの代行としておこなうことができますが、ここから以降の立退き料を含めた退去交渉は、弁護士以外の代理人がおこなうと「非弁行為」に該当する可能性があるので注意が必要です。

交渉は文書でおこなうことが大切です。

万が一裁判に発展した場合のことを考えると、証拠能力のある内容証明郵便が望ましいといえます。裁判といっても立退き請求による提訴ではなく、「訴え提起前の和解」を念頭にして交渉を進めていくのです。

『どうしても話がまとまらなかったら “和解申立” で解決する』と、ゴールを決めて交渉することが妥結の可能性を高めてくれます。

入居者逮捕の連絡が来たら

賃借人が刑事事件で逮捕されるケースがあります。

捜査の段階で事情聴取など、管理会社に捜査員が訪ねてくる以外は、管理会社が入居者の逮捕を知ることはありません。

あるいは賃貸物件内で逮捕劇があり、他の入居者が知らせてくれるといったことはあるかもしれません。

他に管理会社が賃借人逮捕の事実を知る経緯として、連帯保証人になっている家族や親族などからの連絡などがあります。

逮捕されたとしても起訴までは一定期間あり、不起訴となって釈放される場合もあります。

管理会社がとるべき対応としては、正確な情報を収集することです。

望ましいのは本人に会い直接話をすることですが、捜査中は接見できないこともあります。

その場合は連帯保証人と連絡をとり情報収集と、今後の賃貸借契約について協議する必要があります。

注意したいのは逮捕されたといっても、起訴され裁判で有罪となるまでは「推定無罪」であり、犯罪をおかしたことが真実ではないこともあるのです。

仮に有罪となっても、控訴審や上告審と時間がかかることもあります。

賃貸借契約においては特約により、犯罪に関わった場合の契約解除を明記しているケースもありますが、一方的に賃貸人からの契約解除はむずかしく、本人または連帯保証人との合意解除が望まれます。

もしも反社勢力だったら

賃借人が反社会的勢力の関係者であった場合、暴力団排除条例にもとづき契約解除が可能ですし、現在では賃貸借契約書の契約条項に、反社会的勢力と判明した場合の「無催告解除」が明記されています。

したがって反社勢力であると明確な場合は、一方的に契約解除できるのですが、相手方が素直に退去しない可能性もあり、対応は慎重にしなければなりません。

反社勢力と明確にわかる場合、あるいは明確ではないが怪しいと感じられるケース、いずれの場合でも早い段階で弁護士の介入が必要です。オーナーとも相談し、暴排関係に強い弁護士に相談するようにしましょう。

自ら解決をしようと考えるのは、トラブルを大きくしてしまうこともありますし、かえって解決が長引くことにもなりかねません。

無催告解除ができるといっても、民事訴訟による判決にもとづいて、強制執行を視野に進める必要がでてきます。

その過程で反社勢力であることの立証ができないと、無催告解除はできなくなります。

暴力団排除条例だけで、解決できるものではないことを認識しておきましょう。

まとめ

契約解除と明渡し請求は、賃貸人と賃借人との間で信頼関係が崩壊したときに必要となることです。

通常の人間関係のなかで起こることとは違い、予想しない展開になることもありマニュアル通りに進められる業務ではありません。

賃借人本人の人間性や置かれた環境、保証人との関係性や保証人の経済力など、様々な要素を考慮しながら解決策を見いださなければなりません。

日頃から法律やトラブル事例など、広い知見を得られるような努力も必要なことです。

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