内見時に不動産会社の担当者が立会いをしない「セルフ内見」が広まりそうです。
コロナ禍という事情もありますが、アフターコロナにおいても立会いなしが常識化する可能性があります。
現代はエンドユーザーが自らの意思で判断し選択するように変化しており、賃貸住宅の選択においても同様なことが言えます。
賃貸管理会社あるいは仲介会社の営業方法は転換点に来ているのではないでしょうか。
ここでは改めてセルフ内見のメリットとデメリットを分析し、セルフ内見へシフトすべき理由について考察します。
セルフ内見とは
2021年6月22日、プレスリリースプラットフォーム「PR TIMES」にて、不動産DXの先端企業イタンジ株式会社が運営する「OHEYAGO」に掲載された「セルフ内見型賃貸物件」が、5万件を突破したと発表されました。
OHEYAGOには5つのアピールポイントがあります。
2. おとり物件なし
3. 仲介手数料がリーズナブル
4. スタッフ同行なし
5. オンラインでの契約可能
従来の賃貸営業マンと接触することなく、自身のペースで物件を確認し選択ができるシステムです。
システムのリリースは2019年9月24日であり、2020年9月10日に1万件を突破してから9か月で5倍増を達成しました。
イタンジ以外にもセルフ内見に取組む仲介会社は数年前から存在しており、電子契約の普及により今後は増加していくと予想されます。
セルフ内見のメリット
セルフ内見は仲介会社にとって立会いや案内など移動を含めた業務が省かれるため、仲介手数料を無料もしくは低減するケースが多く、入居者にとっては大きなメリットです。
さらに内見者は自由に見学ができるため、立会いがあるのに比べ隅々まで念入りに点検することができます。
時間の制約もあまりなく自身のペースで、見たい時に見にいけることも大きなメリットでしょう。
気軽に内見できることから内見数の増加が期待でき、成約機会の増大は必然的に入居率をアップさせることにもなります。
業務効率の向上は1人あたりの生産性を高め、経営力が強化される要因ともなるでしょう。
セルフ内見のデメリット
営業マンが立会わないため設備の使用方法など、疑問点や不安点についてその場で確認することができません。
スマートキーやキーボックスなどの扱いに不慣れな人は、入室そのものがむずかしい場合もあります。
照明器具の消し忘れや窓の無施錠など、内見者には必要最低限の行動を依頼することになり、徹底されない場合には逆に物件管理の手間が増えることもデメリットになります。
営業マンの立会いがないため申し込みへのプッシュが出来ず、成約率が低下する懸念があるなど、仲介会社や管理会社には小さくないデメリットもあります。
内見時の不祥事
2021年4月、物件内見中に立会っていた賃貸営業マンが、案内をしていた女性客に対してわいせつ行為をしたという残念な事件がありました。
不動産仲介フランチャイズ本部は5月末のリリースにて、内見中は従業員の入室を控える旨を発表し、さらに女性客には女性従業員が案内する体制をとるとしました。
ビジネスの現場でおきたこのような事件に対し、企業側で採りうるガバナンスの限界を見る思いがしましたが、セルフ内見が社会的に支持される要因が生まれた瞬間とも言えそうです。
企業のコンプライアンスや社会的責任は自律的に向上することは少なく、不祥事が発生し社会的に広く伝播することにより、企業への社会的な圧力として戻ってきます。
その結果企業はすこしずつ「お行儀のよい会社」に変化してきました。
おそらくこの事件も仲介会社において、内省的なトピックとして捉えられることでしょう。
入居希望者は内見立会いを望まない
賃貸物件の内見に仲介会社や管理会社あるいはオーナーが立ち会うことを、入居希望者が望んでいるのかを考えてみます。
売買であれば物件や周辺環境などについて、疑問や不安な点があれば仲介会社の担当者や宅建士に質問したいという希望はあります。
しかし賃貸物件の場合は、現地にて質問しなければならない重要なものは少なく、現地でなくても構わないのが実際の現場で感じることです。
むしろ立ち会うスタッフがいないなかで、自由に思う存分細かなところまで確認できるセルフ内見は、多くの入居希望者が希望するものと言えるでしょう。
コロナ禍以前から行われていたセルフ内見の事例
2017年9月からセルフ内見を行っている金沢市の株式会社クラスコでは、セルフ内見希望者に鍵を渡して、内見終了後に店舗に戻っていただき鍵を返却してもらう方法を実施していました。
セルフ内見の利用規約をしっかり整備し、立会いがなくてもトラブルがおきないよう、以下のようなポイントを明記し管理しています。
・駐車方法
・損害賠償規定
・物件内での禁止事項
・消灯、戸締りなどの遵守事項
・鍵の取扱いに関する遵守事項
コロナ禍により注目されるようになったセルフ内見ですが、潜在的なニーズはすでにあったことと、メリットに対する一定の評価があるからこそ現在もつづいていると言えるでしょう。
セルフ内見がコロナ後もつづく理由
セルフ内見だけでなく不動産取引は、売買・賃貸の区別なくオンライン上で行われるようになります。
2021年~2022年は一気にそのような流れになることが確実です。
不動産ばかりでなくさまざまな取引は、eコマースで行われるようになり、商品は宅配ボックスに届けられる時代です。
不動産DXは古い習慣や体質の「不動産屋」が姿を消すことを意味しており、現代に相応しいイメージを持った業界に変ります。
・取引のプロセスが記録され検証が可能になる
・買う人、借りる人が正確に判断できる情報が増える
・不確実性の高い不動産に「視える化」が浸透する
・AIの活用により不動産選択のメソッドが確立
これらの変化は不動産を取得する・利用する人にとって、安心感を与え安全な取引を可能にするものです。
「話しが違う」や「そんな説明はなかった」など、トラブルになりやすい「言った、言わない」の食い違いは、対面での会話から生まれることがほとんどです。
メールやチャットなど交渉過程がデジタルで記録されるケースではおこり得ないトラブルが、これまでは対面だからこそ生まれていました。
商取引には「人間」が介在します。
そしてその人間には感情があるため、発する言葉にはいろいろな思惑が混じるものです。
テキストデータは客観的に相手の意図を把握することが可能であり、書いてあることと書いていないことが明確になります。
賃貸住宅の入居申し込みは商取引であり、より正確な判断にもとづき行われなければなりません。
セルフ内見は判断を下すのに不要な情報を遮断する意味があり、むしろ望ましいスタイルと言えそうです。
まとめ
入居希望者にとってセルフ内見はメリットが大きいものです。
しかし管理会社にとって管理上心配な点があるのは否めません。
そのため内見者の本人確認や身元確認の徹底は重要です。
しかし逆にしっかりした身元確認のできる人であれば、入居後のトラブルが少ない可能性もあり、管理上はむしろ都合がよいという面があります。
セルフ内見規約をしっかり整備し、損害保険の付保など管理リスクを軽減する方法により、デメリットを少なくすることが可能です。
セルフ内見導入により営業手法の転換を図ってみてはいかがでしょう。