令和2年12月15日より、賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律が施行され、サブリース事業に関する規制がおこなわれるようになりました。
国土交通省はサブリース事業適正化ガイドラインを策定し、関係する事業者への周知を図っています。
ここではガイドラインにもとづき、サブリース事業の規制内容について解説します。
サブリース新法の目的
「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」は2021年6月に完全施行されますが、2020年12月には同法のうちサブリースに関わる部分が先行して施行されます。
主要な法律の条文は『第三章特定賃貸借契約の適正化のための措置等』の、第28条~第36条になります。部分施行のため、この部分について「サブリース新法」と便宜上略称を用いているようです。
サブリース新法が生まれた経緯としては、次のような社会問題がありました。
2. 賃貸人とサブリース業者との間で締結された賃貸借契約において、賃料減額に関するトラブルが増加
3. サブリース業者からの一方的な賃貸借契約解除により、安定した賃貸経営が困難になるケースが増加
以上のような問題の多くは、サブリース業者や建設業者あるいは不動産業者が、賃貸オーナーになろうとする人に対しておこなう営業活動に問題があったと判断されています。
具体的には、過大広告的な文言や表現で勧誘をおこなうことや、長期間にわたって家賃保証されるかのよう誤解を与えて、物件取得させサブリース契約に及ぶなどです。
サブリースは住宅供給の面から有効な手法のひとつであり、業界が健全に成長することは望ましいことと言え、適正なサブリース事業の成長に新法施行は欠かせないことなのです。
サブリース事業適正化ガイドラインの内容
サブリース新法により規制を受けるのはサブリース事業者ですが、加えてサブリース事業を勧誘する者に対しても規制を与えるのが特徴です。
規制内容は、誇大広告の禁止、不当な勧誘等の禁止、そしてサブリース事業をおこなうために、業者と物件オーナーが締結するマスターリース契約に関することです。
以下にその詳細を解説します。
規制される対象業者や行為
サブリース新法の適用を受ける業者は次のとおりです。
2. サブリース事業をオーナー希望者に対し勧誘する勧誘者
「特定転貸事業者」とは同法第2条5項で『特定賃貸借契約に基づき賃借した賃貸住宅を第三者に転貸する事業を営む者』と定義されています。
賃借した個人が事情により第三者に転貸する場合は、事業にあたらないので法の適用を受けません。
また借上げ社宅も形式的には「転貸」ですが、サブリースには該当しないので同様です。
また用途は住宅に限定されるので、マンションを事務所として賃貸する場合は法の適用は受けません。
その他、賃貸人の親戚や法人所有の物件で、法人の役員などがサブリースするケースも適用はありません。
賃貸物件のなかには「民泊」として活用されている物件もあります。
民泊用途の物件であっても、現に宿泊者がおらず、宿泊者の予約や募集がおこなわれていない住宅は、法の適用を受ける住宅に該当します。
ウィークリーマンションについては、旅館業法の適用を受ける宿泊者がいる場合は、この法律の適用はありませんが、長期滞在で生活の本拠になっているケースでは、法の適用を受けます。
さらにサブリース事業をおこなう事業者と、サブリース事業を勧めて土地を購入させ、賃貸物件を建てさせようとする建設業者や不動産業者などが「勧誘者」として定義され規制を受けるのです。
勧誘者はサブリース業者からの委託により勧誘をおこなう行為はもちろん、明確な委託がない場合であっても、サブリース業者からの暗黙の依頼があった場合は勧誘者に該当します。
また勧誘者が第三者に再委託した場合も法の適用を受けるので、サブリース事業にかかわるビジネスは注意が必要になります。
誇大広告の禁止
法第三章の特定賃貸借契約の適正化のための措置等の、最初の条文第28条が「誇大広告等の禁止」です。
オーナーになろうとする人が誤解をし、あるいは勧誘に乗っかりサブリース契約に至る要因に、メリットだけを強調しデメリットを意図的に目立たなくする「誇大広告」があります。
また条文には “誇大広告等” と記載され、相手を欺く目的の「虚偽広告」も含まれます。
規制を受ける広告媒体は次のようなメディアが該当します。
2. 配布用チラシ
3. 新聞・雑誌
4. テレビ・ラジオ
5. ホームページ
とくにサブリース業者が自由に作成できる自社作成の配布チラシや、ポータルサイトではない自社のウェブサイト内での表現については、厳しい目が向けられる可能性があります。
広告は正確な情報を表示し適正な勧誘ができるよう、次の点について留意することが必要です。
2. 「利回り〇%」のような利回りを保証すると誤解される表示をしない
3. サブリース業者が実際におこなう物件の維持保全内容・頻度・実施期間を明示する
4. 物件の維持保全に必要な費用の負担について明記する
5. サブリース業者側からの一方的な賃貸借契約解除があり得ることを明記する
6. オーナー側からは正当な事由がない場合の契約解除ができない旨の明記
7. 打消し表示を認識できるように表示する
8. 事実と著しく異なる表現や、実際よりも優良・有利と認識させるような表示をしない
以上のような留意点が指摘されています。
かぼちゃの馬車事件では多くのオーナーが、自己破産に追い込まれる状況に陥りましたが、その原因に誤解を招く広告宣伝があったと考えられ、サブリースにかかわる事業者の意識変化が必要といえるのでしょう。
禁止される不当な勧誘
誇大広告とともに問題であったのが、サブリース事業への不当な勧誘です。
誇大広告を見ただけでは簡単に誤解を生むことは無かったのかもしれません。
虚偽広告とともに強い勧誘があることにより、誤解が真実だと思い込むようになります。
そのため第29条では「不当な勧誘等の禁止」を規定しています。
規定内容としては次の2項目あります。
2. サブリース業者との契約にあたって、強引に契約締結をさせようとする行為(オーナー保護に欠ける行為)を禁止する
とくにガイドラインでは「オーナー保護に欠ける行為」について、わかりやすく具体例をあげています。
・「なぜ合わないのか」「契約しないと帰さない」などと声を荒げて面会を強要する、あるいは拘束して動揺させるような行為
・マスターリース契約を強要するためにおこなう迷惑行為
・夜間や早朝などに電話を掛け契約を迫るなど、迷惑と感じるような時間帯におこなう行為
・マスターリース契約の勧誘を深夜または長時間おこなう行為
・オーナーが勤務中に訪れ長時間勧誘行為をおこなう、あるいは自宅を訪れ深夜になっても帰らず勧誘する行為
・オーナーが契約締結を拒絶する意思を無視する行為
(オーナーが「お断りします」「結構です」などの意思表示により、契約締結をしない旨の示しても引きつづき勧誘をつづける行為)
このような行為は禁止事項に違反するものと認定されます。
マスターリースの重要事項説明と契約
マスターリース契約はサブリースのプロである事業者と、賃貸事業に関してあまり経験のないオーナーとの間での契約になることが多く、またオーナーは高齢者であることも想定されます。
したがってサブリース事業適正化ガイドラインにおいては次の点について留意するよう求めています。
2. 重要事項説明からマスターリースの契約までは、オーナーになろうとする者が契約内容を充分理解できるよう、1週間程度の期間をおくことが望ましい
3. 上記の期間をおくことができない場合は、重要事項説明前に説明書を送付し一定期間後に説明することが望ましい
4. オーナーになろうとする者の目的を理解し、マスターリース契約に存在するリスクを説明する
5. オーナーになろうとする者が高齢の場合は、判断力の衰えなどに考慮し慎重な説明をおこなう
さらに重要事項説明書の作成方法については、以下のように具体的な文字の大きさや、記載事項についても指定しています。
・書面の内容を十分に読むべき旨を太枠の中に太字波下線で、日本産業規格Z8305に規定する12ポイント以上の大きさで記載すること。
・書面の内容を十分に読むべき旨の次に、借地借家法第32条、借地借家法第28条の適用を含めたマスターリース契約を締結する上でのリスク事項を記載すること。
・書面には日本産業規格Z8305に規定する8ポイント以上の大きさの文字及び数字を用いること。
・サブリース業者がオーナーに支払う家賃の額の記載の次に、当該額が減額される場合があること及び借地借家法第32条の概要(契約の条件にかかわらず借地借家法第32条第1項に基づきサブリース業者が減額請求を行うことができること、どのような場合に減額請求ができるのか、オーナーは必ずその請求を受け入れなくてはならないわけではないこと等)を記載すること。
・契約期間の記載の次に、借地借家法第28条の概要(借地借家法第28条に基づき、オーナーからの解約には正当事由が必要であること等)を記載すること。”
引用:国土交通省「サブリース事業に係る適正な業務のためのガイドライン」
重要事項説明書の作成にあたっては「特定賃貸借契約 重要事項説明書<記載例>」が、ガイドラインに添付されていますので、これにしたがうことが望ましいです。
マスターリース契約は必ず書面の交付が義務となっており、法第31条には契約書に記載すべき項目を定めていますが、国土交通省が定める「特定賃貸借標準契約書」を参考にすることが望ましいとしています。
まとめ
「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」のサブリースに関する部分について解説しました。
賃貸管理会社が通常の管理業務を委託される以外に、サブリースによるオーナー支援策を選択する場合もあると考えられます。
サブリース新法に準拠した適正なサブリース事業がおこなわれ、オーナーと管理会社が良好なビジネスパートナーとして継続できることを願うものです。