賃貸経営でもっとも大きなリスクが家賃の滞納です。
支払の督促や保証人への連絡など管理会社の業務のなかでもストレスのかかる仕事です。
内容証明郵便を送っても何の返事もないケースもありますが、民事訴訟は意外とハードルの高いものです。
そこで滞納家賃を回収する方法としてあるのが、少額訴訟と支払督促です。
ここでは少額訴訟と支払督促の概要について解説します。
滞納された家賃を回収するには
家賃滞納への対応として一般的には次のようなステップを踏んで、家賃回収あるいは契約解除および退去処理をおこないます。
2. 滞納が3ヵ月以上となった時点で民事訴訟申立て
3. 裁判所にて審理し和解か判決を得る
4. 和解や判決に従わない場合には強制執行申立て
5. 強制執行
なお紛争対象の金額が140万円以下の場合は簡易裁判所、それを超えると地方裁判所での手続きとなります。
家賃の滞納はオーナーにとってもっとも避けたいトラブルです。家賃の回収に時間がかかるようでは、経営面にも影響がでてきます。
上記の一般的な方法では家賃の回収までに数ヵ月~半年間かかることもあり、最終的には滞納家賃は払ってもらえず強制執行のための費用もかかり、オーナーの金銭的打撃は非常に大きなものになります。
契約解除を求めず、家賃だけの回収を図りたい場合は、もっと短時間で解決できる方法があります。
少額訴訟
少額訴訟は60万円以下の債権回収をする場合に使える法的手段です。
簡易裁判所で手続きしますが、1日の審理で判決がでます。
被告が審理当日に出廷せず答弁書も提出しない場合は、原告の主張が認められ被告に対して未払い家賃の支払いをするよう判決がでます。
判決がでても被告が引きつづき家賃を支払わない場合、強制執行を裁判所に申立て差押などの方法をとることが可能になります。
被告としては答弁書を提出せず審理にも出廷しない場合は非常に不利になるので、答弁書を提出するなり審理当日は裁判所に出頭して審理に応じるほうが望ましいのはいうまでもありません。
被告には次のように2通りの対抗手段があります。
2. 少額訴訟の判決に不服がある場合は異議申立てを裁判所に対しおこなう
どちらの方法によっても裁判所は、通常訴訟に切り替えて審理をおこない判決をだすことになります。
少額訴訟の準備
少額訴訟は弁護士を代理人としなくても、オーナー自身で申立てのできる訴訟手続きです。
以下の書類を準備してもらいます。
約束どおりの期日までに家賃が支払われていない事実を記載し、それを証明する証拠を準備しますが、けしてむずかしい書類ではありません。
ダウンロードしたフォーマットに記載例を参考に記載するだけで終わります。
管理会社の担当者が書類作成時にアドバイスするのも望ましいでしょう。
書類が準備できたら簡易裁判所に赴き受付をおこなうか郵送します。
受付後審査がおこなわれ書類上の不備があれば速やかに対応し、審査がとおると口頭弁論期日が決定します。
滞納している入居者には訴状副本と期日呼出状が送られますが、入居者からの答弁書が裁判所に届くとその写しがオーナーのもとにも届きます。
答弁内容を確認し口頭弁論に臨むようにします。
また、少額訴訟は同じ簡易裁判所に申立できるのは年間に10回まで、となっていますので滞納者が多くたびたび滞納される場合には、訴訟回数に注意してください。
支払督促
支払督促は訴訟手続きではないので、原告や被告という用語は使わず「債権者」と「債務者」と当事者を呼びます。
また訴訟ではないことから裁判所へ出廷する必要はありません。
債権者の申立てに対し簡易裁判所書記官が認めると、債務者の言い分を調べることも無く、債権者の主張通りに支払い命令を発することができます。
債務者が支払督促の内容に納得いかない場合は、簡易裁判所に異議を申立てると通常訴訟に移行します。
支払督促が送達され2週間以内に債務者からの異議申立てがなければ、判決として確定し強制執行の申立てが可能になります。
債務者が支払督促に対抗する手段としてはひとつしかありません。
支払督促送達後の異議申立てです。
支払督促の申立ては簡易裁判所にて口頭でもできますが、正確性を欠くので書面によるほうが望ましいでしょう。
支払督促は少額訴訟よりも簡単です。準備するのは、裁判所ホームページからダウンロードしたフォーマットに必要事項を記載するだけです。→支払督促申立書のダウンロード
記載する内容は少額訴訟と同様に、記載例を参考にすると簡単にできるものです。
なおFAXによる申立書の送付は認められていないので、郵送か直接簡易裁判所に提出するかのどちらかにより申立します。
少額訴訟と支払督促どちらが効果的か
少額訴訟と支払督促とではどちらがよいのか、滞納中の入居者の状況により判断が変わります。
どちらも短い時間で判決または判決同様の支払督促を入居者に発することができますが、入居者が滞納家賃の支払いに応じない場合または、応じられない場合の対応を考えなければなりません。
支払督促は異議申立により通常訴訟に移行します。
異議申立がないにもかかわらず支払いがない場合には強制執行の申立に進みます。
しかし家賃を滞納する原因には経済的な事情もあり、強制執行によっても回収できないケースが考えられます。
対して少額訴訟の場合は審理の段階で入居者の経済事情を考慮し、分割払いによる和解を裁判所が提案してくる場合があるのです。
強制執行によっても回収できる見込みがないときは、分割払いにより確実に回収できる方法を選択することも賢い選択でしょう。
つまり支払督促は、支払うか支払わないかの2つの結果しかないのに対し、少額訴訟は「分割払い」という柔軟な結論を導きだすことも期待できるのです。
どちらがよいのか選択は慎重にしなければなりません。
まとめ
裁判所での手続きと聞くと「むずかしそう!」と感じる方も多いと思います。
しかしトラブルがおきたときに裁判所による判断によって、なんらかの法的な解決を図る手段は国民誰にも認められた権利です。
また裁判手続きに必要な費用は意外と少ないものであり、しかもわずかな時間を使ってできることです。
家賃滞納に対応する方法として、少額訴訟と支払督促を試してみることをお勧めします。