新規取得した物件に居住する滞納者との契約解除

新規取得した賃貸住宅に悪質滞納者がいる場合、今後も滞納が継続する可能性があり、オーナーとしてはできれば退去してもらいたいと願うものです。

しかしながら滞納者といえども、簡単に退去請求をすることはできません。

滞納者が存在する賃貸物件を購入後に、賃借人との間で契約解除のうえ、退去させる方法と手順について解説します。

賃貸人の地位承継と所有権移転

賃貸物件の売買では物件の所有権移転のほかに「賃貸人の地位」が承継されます。

本来、所有権と賃貸人の地位は別々の権利であり、賃貸人の地位には権利ばかりでなく賃借人に対し「使用収益させる」義務があります。

したがって売買取引により所有権が移転されると同時に、賃貸人としての義務も移転するので、本来であれば賃借人との賃貸借契約にもとづく権利義務の移転・承継も、併せて契約により明確にする必要があるのです。

しかしながら賃貸借契約の目的物は、所有権の移転により賃貸人たる地位は当然に買主に承継されるものと判断され、特段の契約や賃借人の承諾を必要としないとされています。

このとき滞納家賃に対する債権は承継されることなく、売主が保有したままとなるのが一般的です。

また売主である旧所有者が保有する滞納家賃債権は、売買取引と同時に新しい所有者に承継させることも可能であり、債権をどちらが保有するかによって、契約解除や退去請求の時期が変わってきます。

滞納者への債権が旧所有者にあるケース

前述のとおり売主である旧所有者が滞納者に対する債権を保有しており、新所有者には所有権移転前に発生した滞納家賃に対する請求権はありません。

そのため旧所有者(旧賃貸人)は直接賃借人から滞納家賃を集金するか、新所有者に入金された滞納家賃分を、新所有者から旧所有者へ振り込むなどの覚書を取交わす必要があります。

賃借人へは所有権移転直後に、速やかに所有者変更(賃貸人変更)の通知をおこなうので、家賃の支払先が変更されることは認識されるはずです。

その時点で滞納している賃借人には、新所有者への家賃支払い債務と、旧所有者への支払い債務と二重の債務が発生するわけです。

賃借人がどちらの債務を優先させるかは賃借人の判断になりますが、新所有者への支払が滞る可能性もあります。

家賃滞納による契約解除と退去請求は、3ヵ月以上の滞納履歴がなければむずかしいと一般に言われます。

つまり新所有者が滞納を理由に契約解除するには、賃貸人の地位承継後3ヵ月以上の滞納状態になるまで待たなければなりません。

債権譲渡を受ける

旧所有者から滞納家賃にかかわる債権を、所有権移転と同時に譲渡してもらう方法があります。

いわゆる債権譲渡です。

債権譲渡を受けると、所有権移転前に発生した滞納による家賃債権は新しい賃貸人の債権となり、仮に3ヵ月滞納している場合は賃借人に対し債務履行を促す請求権が生じます。

また3ヶ月の滞納履歴にもとづき民事訴訟も可能となります。

債権譲渡の対抗要件を満たすには債務者の承諾が必要ですので、滞納している賃借人からの債権譲渡承諾書を準備します。

そのうえで所有権移転後に滞納分の債務履行を催告し、応じない場合に賃貸借契約の解除および退去請求を行うことが可能です。

一方、旧所有者である売主が債権譲渡に応じることは、譲渡する債権の対価を求めてくる可能性もあります。

たとえば売渡し価格に反映されるケースもあれば、譲渡したとしてもほとんど回収の見込みがない債権については、対価がゼロになるケースもあると考えられます。

債権譲渡にかかわる書類の作成や滞納者との交渉など、売買取引で通常必要としない事務手続きがあり、旧所有者の理解を得なければ選択できない方法です。

ただし滞納する賃借人の退去請求をできるだけ早くと考える場合は、滞納家賃の債権譲渡を受けることが有効な方法といえるでしょう。

賃貸人の地位を承継する手続き

新所有者が賃貸人の地位を承継し、賃借人との間における債権債務が生じる時期は「所有権移転登記」が済んでからになります。

売買契約後に一定期間を経過して売買代金の決済および引渡しがおこなわれます。

引渡し当日に所有権移転登記申請をおこなうのが一般的ですが、それから数日して登記は完了します。

第三者に対抗するためには登記が必要であり、登記によってはじめて賃貸人としての地位を得るといえるわけです。

登記が完了すると賃借人には「賃貸人変更のお知らせ」文書を交付し、家賃の支払先・振込先変更を通知します。

併せて管理会社の変更を通知する必要のあるケースもあるかもしれません。

賃借人はこの通知がくるまでは、賃貸人の変更について知らされていません。

本来は債権債務の関係がある賃貸人と賃借人との間では、賃貸人が変更することについてあらかじめ同意が必要ともいえるのですが、最高裁判所の判例における『賃借人の承諾を必要としない』により、所有権移転登記により賃貸人の地位は承継されるとしています。

参考:公益社団法人 全日本不動産協会「旧賃貸人に対する賃料不払いと解除の可否」

新しい賃貸人への所有権移転登記が完了し、賃借人に上記の「賃貸人変更のお知らせ」を通知することにより、正式に賃貸人としての地位を得ます。

滞納者の契約解除と退去請求

滞納家賃の債権譲渡を受けていない場合は、所有権移転登記完了の日から賃貸人としての債権債務が発生します。

滞納している賃借人が引きつづき滞納する場合、新しい所有者にとっての最初の滞納は、登記完了の日が属する月末になります。

以降、翌月末さらに翌々月末にも滞納をくり返し、3ヵ月滞納がつづくと「信頼関係の破壊」と判断できる状態といえるでしょう。

ただし3ヵ月経過するのを待つのではなく、滞納後1ヶ月経過した時点、2ヵ月経過した時点と適宜、家賃支払いの督促を「内容証明郵便」など、証拠能力のある書面にて債務履行を促すことが必要です。

このような手続きを経て3ヵ月経過しても滞納状態が改善されない場合は、裁判所が賃貸人の主張を認めるケースが多く、賃貸借契約解除と退去請求の判決あるいは、調停・和解などの法的解決に至る可能性が高くなります。

契約解除と退去請求は時間と手間がかかるものです。

滞納継続中の賃借人が存在する物件を買受けるオーナーは、売買契約前に売主が提出するレントロールを確認し、管理会社と事前に相談することが望ましいといえます。

相談を受ける管理会社は、仲介する不動産会社からできる範囲で、滞納中の賃借人についての情報を収集する必要もあるでしょう。

・職業や勤務先
・連帯保証人の属性
・滞納履歴状況

などにもとづき、契約解除と退去請求をおこなう手順や方法を、シミュレーションすることが大切です。

まとめ

家賃滞納にはさまざまなケースがあります。

・1ヶ月遅れの状態が長くつづいている
・1年間の間で遅れることが数回あるが滞納がつづくことはない
・2ヵ月滞納状態になると慌てて1ヶ月分だけ解消する

など退去請求できない場合もありますが、ここでは3ヵ月滞納をつづける賃借人を想定して、契約解除と退去請求をおこなう手順について解説しました。

旧所有者との間で「債権譲渡」がされる場合とされない場合によって、契約解除請求の時期が変わってくることに注意してください。

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