入居者間のトラブルに管理会社はどこまで関与すべきか

アパートやマンションの入居者間でトラブルが発生することがあります。

多いのは “音” に関するものでしょう。

音は人によって “騒音” と感じることもあれば、何も感じない人もいます。

非常に個人差のある感覚ですが、トラブルになるとやっかいなものです。

このような入居者同士のトラブルに、管理会社はどこまで関与するべきなのか?法律上の視点からも解説します。

入居者同士でおこるトラブルに関わる法律

入居者同士のトラブルにオーナーや管理会社は対応する義務があるか?との疑問には「ある」とする考え方があります。

民法601条には『賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。』とあり、賃貸人は賃借人に対し「使用及び収益させることを約し」ているため、他の入居者が発する騒音により「使用および収益」できない状態になっているならば、オーナーは債務不履行に該当するという考え方です。

ここで問題になるのは、騒音が「使用および収益」できないほどのものかどうかの、客観的な判断ができるかどうかです。

我慢できる騒音かどうか?我慢できる限度を「受忍限度」といいます。

仮に騒音が受忍限度を超えるものであれば、管理会社から騒音を発する入居者に対し、是正を求める法律的な根拠はあるのでしょうか?

賃借人は民法594条で定める「使用用法の遵守義務」があるとされています。
条文は『借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければならない。』とされており、賃貸借契約書にも使用方法について細かく記載をするのが一般的です。

使用方法や注意事項あるいは禁止行為として、騒音の発生が記載されていれば契約条項に違反することになり、是正を求めることは可能といえるでしょう。

賃貸借契約書にそのような入居者の騒音に関する、注意事項や禁止事項が記載されていない場合は、騒音の発生元になっている入居者に是正を求めることはむずかしくなります。

しかしその場合でも騒音で迷惑している入居者に対しては、賃貸人は「使用および収益」をさせる義務があり、騒音問題を解消しなければならないといえるわけです。

受忍限度を超える騒音とは

「受忍限度」を判断するとしてもあいまいな評価になりがちです。

人によって我慢できない音には違いがあります。客観的な基準として使えるのは自治体が定めている「環境基準」です。

たとえば東京都の例をあげると次のような基準を設けています。

・静かな住宅地の場合、昼間55デシベル以下夜間は45デシベル以下
・静かな住宅地であっても2車線以上の道路に面する場合、昼間60デシベル以下夜間は55デシベル以下

住宅地においてはかなり厳しい基準になっていますが、幹線道路に面する空間については特例があり、以下のような基準になっています。

・昼間70デシベル以下
・夜間65デシベル以下

出典:東京都環境局「騒音に係る環境基準」

デシベルで表示されても実際にどのような音か理解できません。

わかりやすい例示を紹介します。

・70デシベル:地下鉄の車内
・60デシベル:銀行の窓口周辺
・50デシベル:昼間の高層住宅地域
・40デシベル:図書館の中

出典:環境省「生活騒音パンフレット」

環境基準を超えるような騒音は受忍限度を超えているといえます、しかしそのことだけで退去を求めることはむずかしく、退去には「信頼関係の破壊」による賃貸借契約の解除が前提になります。

入居者トラブルに対するスタンスの違い

法律的に賃貸人には「賃借人に使用及び収益をさせる」義務がある以上、入居者間トラブルにより「使用及び収益をする」ことが困難となる状況をつくり出さないよう務めなければなりません。

しかしトラブルが生じた場合は一義的にオーナーに責任があるというわけでなく、管理会社によっては「入居者間トラブルは当事者で解決を!」とするケースもあります。

公営住宅においては民間賃貸住宅と異なり、営利事業としておこなう事業ではないため、入居者間による解決を一義的としています。しかしながら貸主責任はどのような立場であっても免れることはできません。

そのため『他に著しい迷惑を及ぼす行為は禁止』などの注意喚起をし、状況により共同生活の秩序を乱す入居者には契約解除・退去といった強い姿勢をとるスタンスでいます。

入居者同士のトラブルについて賃貸人の責任が主張されるのは、前述の通り民法601条に根拠があります。

しかしながら明文化されているわけではなく“法解釈” によるものです。

そのため賃貸経営をおこなう主体によってスタンスの違いが生まれるのは自然なことといえます。

賃貸人責任にもとづく請求の種類

入居者間トラブルに関するオーナー責任に対し、入居者から何らかの請求をおこなうケースとして次のようなものが考えられます。

1. 騒音に悩まされた入居者が退去し、引越し代や新しい住まいの契約費用をオーナーに請求
2. 平穏な生活ができない代償として家賃減額の請求や家賃支払いの拒絶
3. 騒音発生元の退去を要求

迷惑を受けた方が退去するのは残念なことですが、トラブルが大きくなってしまい取り返しのつかないことになるよりは、オーナーにとっても管理会社にとってもホッとできることかもしれません。

しかしトラブルの元はそのままですので問題の先送りです。

一方、退去した方からの費用請求は、オーナーに直接的な原因があるわけではないので、応じられるものではありません。

また退去はしないが家賃の減額請求や不払いなどによる抗議は、騒音元に対する退去要求を強く求める意思の現われと考えられます。

以上のような請求が入居者からある事例は少なくありません。

騒音トラブルへの関りは避けてとおれないことといえるのです。

騒音発生元の契約解除と退去の可能性

入居者同士によるトラブルとくに騒音問題は、賃貸経営上も大きな問題になりかねません。

前述のとおり民法の法解釈によると、オーナーには他の入居者が発する騒音により、快適な住環境が損なわれる状態を改善させるよう働きかける義務があるといえます。

一方、騒音を発生させる入居者にも居住権があり、一方的な主張にもとづき契約解除および退去を求めるのは不当であり、合意による解決あるいは法的な判断にもとづく解決を図る必要があります。

入居者同士のトラブルは入居者同士で・・・といったスタンスを取った場合、トラブルが大きくなり人命にかかわる事件にまで発展する事例も実際におきています。

当事者同士による解決を期待することはきわめてむずかしく、管理会社が関与してトラブルを解決する働きかけることは必要なことといえるでしょう。

騒音を原因とする契約解除と退去請求は、最終的には裁判所に対しておこなう調停や民事訴訟になります。

そのためには騒音元の確定と、受忍限度を超えた騒音である証拠が必要です。

・騒音測定器を用いた騒音の記録
・騒音元周辺入居者からの証言
・騒音元入居者への改善要求交渉の記録

これらは実務として管理会社がおこなうことであり、証拠が揃ったところでオーナーが裁判所に申立てる流れになります。

賃貸借契約の解除および退去の請求が認められるには「賃貸人と賃借人との間で信頼関係が破壊」されていることがポイントです。

騒音発生に対する注意をたびたびおこなったにもかかわらず改善されず、迷惑を受けている入居者が退去してしまうなどの実質的な被害がオーナーにも発生しているなど、第三者が納得できる事実の積み重ねにより判断を仰ぐ必要があるといえるでしょう。

まとめ

騒音が原因となる入居者同士のトラブルについて、解決する場合の法律上の根拠などを解説しました。

トラブルの防止を効果的におこなうには、入居時における賃借人の意識づけが大切です。

賃貸借契約書には騒音に関する禁止事項を明確に記載し、トラブルが発生した場合には契約解除および退去請求があることを、充分に認識したうえで入居するよう働きかけたいものです。

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