物件調査をした宅地に擁壁があれば、安全性の確認が必要です。
その擁壁が何トンまでの荷重に耐えられるように設計、施工されているかが分からないと、建築に制約がでるため、取引価格にも影響することがあります。この記事では擁壁の安全確認の方法と無許可擁壁の対応策について解説していきます。
擁壁の強度に関する調査
擁壁が正式な手続きによって建てられたものであれば、安全性の確認は容易にできます。
ただし申請の方法は規制内容によって異なりますから、まず調査地が宅地造成規制区域内か外かの調査から始めます。
規制区域の内外で、それぞれどのような申請が必要になるかをみていきましょう。
宅地造成規制区域の擁壁は1m超
調査地が宅地造成規制区域内に位置している場合、擁壁の高さが1mを超えていれば、宅地造成等規制法による許可申請が必要です。地方自治体の宅地造成等規制法を所管している部署で許可の有無を確認したうえで、検査済証の有無を確認します。
宅地造成規制法を取り扱っているのは基本的に都道府県庁ですが、政令指定市においては市役所になります。
宅地前提に設計されたものであることを確認する
検査済証があったからといって安心はできません。その擁壁の構造計算の前提条件となる積載荷重の設定が問題になります。将来の土地利用を深く考えず、工事費用を安くあげるために駐車場や資材置き場を前提に設計をしていることがあるからです。
この場合、擁壁への負担が大きい建物を建築しようとすれば、擁壁の造り替えや基礎の大幅な掘り下げが必要になります。費用負担も高額になるため、取引価格にも大きく影響をしてきます。
宅地造成規制区域外の擁壁は2m超
宅地造成規制区域は、山麓周辺の傾斜地に指定されていることが多く、周辺が平地である場合は規制区域外である可能性が高くなります。
調査の結果規制区域外であれば、2mを超える擁壁が建築確認申請(工作物)の対象になります。
無許可・無確認の擁壁はどうなる
擁壁の場合、宅地造成規制区域で1m以下、区域外で2m以下であれば申請を要しません。このため合法であっても無許可、無確認の擁壁が多く存在しており、建築の際には、安全性を立証するうえでの課題が発生します。
また許可を得た擁壁であっても、駐車場として許可を受けている擁壁であれば、実際に建物を建てる際には、強度不足の扱いになります。
具体的にどんな点が課題になるのかをみていきましょう。
宅地の安全性の検証を求められる
建築物が擁壁に負担をかける設計である場合は、擁壁の安全性の検証が必要になります。施工写真や構造計算書によって、建物の荷重に耐えられる設計であることが確認できれば、建築確認済証が交付されますが、安全性の検証が不可能な場合は、建築確認済証が交付されない可能性があります。
擁壁の安全性を確認するにはどうすればいいのか
無許可・無確認の擁壁の安全性を確認するためには、擁壁の設計書や施工写真によって、どれくらいまでの荷重に耐えられる擁壁であるのかを検証する必要があります。鉄筋の太さと間隔、コンクリートの強度が分かれば、構造計算によって算出は可能です。
擁壁に関するデータが何もない場合はどうすればいいのか
擁壁に関するデータが何もない場合は、擁壁に負担をかけない設計をする方法があります。擁壁に負担をかけない設計とは次の図のようなものです。
地盤の安息角度内に基礎の荷重をかけることで、擁壁の負担が解消されるので、擁壁の安全性の検証は不要になります。この場合、理論上は擁壁が崩壊しても建物への影響は、まったくないということになります。
安息角度は土質によって異なるため、土質試験やその他の調査方法によって土質を確認する必要があります。土質ごとの安息角度は次のとおりです。
土質 | 安息角度 |
軟岩(風化の激しいものを除く) | 60度 |
風化の激しい岩 | 45度 |
砂利、真砂土、関東ローム、硬質粘土 | 35度 |
その他 | 30度 |
他人の擁壁が無許可で建て替え不可になることがある
自己敷地の安全性が検証できたからといって安心はできません。周囲に第三者が違反で造成した擁壁がある場合、建築不可の敷地になることがあります。
いわゆる崖地条例と呼ばれるもので、地方によって規制内容は異なりますが、多くの自治体では崖の高さの2倍以内の距離の建築を禁じています。この崖の定義には、擁壁も含まれるため、いくら見かけが立派な擁壁が建っていても、無許可で安全性の検証ができない場合は、次の図のように擁壁下の建築が不可になります。
安全に関わることですから、危険とされている範囲に強引に建物を建てる必要はないのですが、従前から住んでいるなどの理由でどうしても建て替えが必要な場合は、崩れが想定される土砂の土圧に耐えられる擁壁を自己敷地内に築造することで建築が認められることがあります。
まとめ
擁壁は敷地の高低差を解消するためには欠かせない工作物です。そのため土圧に耐えられる強度を維持する必要があります。
もし敷地に安全性が確認できない擁壁が存在している場合は、要注意です。特に本来塀として用いるべきコンクリートブロックを擁壁として使用している場合は、まず土圧に耐える強度はないと考えるべきです。
安全性が確認できない擁壁がある宅地は、使用範囲が制限されることから取引価格にも大きく影響してきます。現地調査においては、擁壁の有無を確認するとともに、安全性についてもしっかり確認をしましょう。