日当りのよい物件は人気がありますが、現実の売買では、すべての物件が「日当り良好」というわけにはいきません。
多少日当りの悪い物件であっても、どれくらいの期間日が当たるのかを説明するだけで、ずいぶんとお客さんの反応は違ってきます。この記事では、売却物件の日当りの度合いをどのように調査して説明するかについて解説していきます。
なぜ日当りのよい物件は高値で売れるのか
新築の建売分譲広告を見ていると、南側が道路に接する宅地は、他と比べて1割程度高い価格設定がされていることに気づきます。それだけ日当りの良い物件は人気が高いという証左なのですが、日当りの良い物件が人気になるのは、概ね次のような理由によります。
- 光熱費の節約になる……特に冬の時期は暖房費の節約になります。
- 洗濯物がよく乾く……あまり乾燥機を使うことがありません。
- シロアリの被害に遭いにくい……シロアリは湿気を好むので被害予防になります。
- 多様な植物や野菜を育てることができる……植物は日当りを好む種類が多いため、日当りがよい土地だと、自己敷地内で野菜や花を育てることができます。
また個人差にもよりますが、部屋が自然光で明るいと気分が爽快になるという人も少なくありません。
購入希望者に日当りの度合いをどう説明するのか
日当りの良い物件の人気が高いのは分かりましたが、現実の売却では、すべての物件が「日当り良好」というわけではありません。建売住宅や中古住宅では、北側が道路に接して、南側に他人の住宅が建っている物件も数多く売りに出されています。
こうした物件であっても、一定の日当りは確保されていますから、実際にどれくらい日が当たるのかということを具体的に説明できれば、売却に繋がることになります。購入希望者に日当りの度合いを理解してもらうにはどうすればいいのか、その方法を解説します。
実際に現地を確認してもらう
「百聞は一見にしかず」と言われるように、天気の良い日に実際に現地で確認してもらうのが最も確かな方法です。
ただし現地確認が最適な方法となる時期は限られています。たとえば1年中で最も太陽が高い位置にある夏至の日に現地を見てもらうと「あの時は明るかったのに、冬になると暗い」というクレームがつく原因になります。したがって、1年中で最も太陽の位置が低い冬至の日(12月22日頃)に現地で確認してもらい、納得をしてもらえば、日照に関してクレームがつくことはありません。
しかし必ず冬至の日に都合がつくわけではありませんし、その日が晴天になる保証もありません。その場合は、冬至前後それぞれ2週間程度の範囲であれば、冬至の状況と大きな違いがなく日影の状況を確認してもらうことができます。
机上計算から推察する
不動産の取引は、冬至の時期以外にも行われます。現地での確認が参考にならない時期は、机上の計算で推察する方法があります。
次の図のように南側に家が建っている場合の日影の影響を計算してみましょう。
住宅に日影を及ぼすのは、南側の住宅の軒先です。このため1年のうち何月から何月までリビングに日が射さなくなるのかを検討しようと思えば、売却物件の外窓と南側住宅の軒先との空き寸法を押さえる必要があります。ただし南側住宅に居住者がいる場合は、道路などから目測で判断します。
図に示しているように1年の内で最も太陽の位置が高いのが夏至です。夏至の日影の長さは高さの0.2倍です。
軒先の高さが地面から6mの位置にあるとすると、6m×0.2=1.2mの計算から、軒先から1.2mの位置に日影が落ちることになります。
また反対に冬至が1年で最も太陽の位置が低くなります。日影の長さは高さの1.7倍まで伸びますから、6m×1.7=10.2mの計算から、軒先から10.2m先まで日影が伸びることになります。
家庭菜園への影響をシミュレーションする
それでは上の図の物件を購入したいと考えているお客様が、家庭菜園への影響を心配しているケースを想定して、1年のうちで菜園に日が当たるのはいつからいつまでなのかを計算をしてみましょう。条件を次のように設定します。
- 敷地の空き寸法……南側住宅、売却物件共に敷地境界線から3mの空き
- 軒出寸法……60㎝
- 軒先の高さ……6m
- 外壁から1mの範囲で家庭菜園をする
両家の外壁の空き寸法は6mになります。そこから相手方の軒先が60㎝出ていますから、
6.0m-0.6m=5.4m、さらに菜園が外壁から1m出た位置ですから、軒先から4.4m離れた場所にいつから日影が及ぶのかを計算することになります。
夏至の影の長さの検証
夏至の影の長さは「6m×0.2=1.2m」で算出します。
軒先から敷地境界までは2.4mありますから、まだ日影は相手方の敷地の中に落ちており、対象物件の家庭菜園にはまったく影響がありません。
冬至の影の長さの検証
冬至の影の長さは「6m×1.7m=10.2m」で算出します。
軒先から敷地境界までは2.4mです。「10.2m-2.4m=7.8m」の計算により、敷地境界から7.8m入ったところまで日影が伸びてくることになります。家庭菜園ばかりか、リビングの中まで影が及ぶことが分かります。
期日の検証
それでは、いつから家庭菜園が影になるのか検証しましょう。日影の長さと家庭菜園の位置を図表にすると、次のような関係になります。
夏至の影位置から家庭菜園までの距離が、その先の冬至の影の位置までの何割を占めているのかを計算すると、1年のうちどれくらいの期間影を落とすかが分かります。
3.2m(夏至の日影位置から家庭菜園までの距離)÷9.0m(夏至の日影位置から冬至の日影位置までの距離)=0.36
これにより、1年のうち36%の期間は家庭菜園に日影が及ばないことが分かります。夏至から冬至までの日数を183日として、次の計算をします。
183日×0.36=66日
つまり夏至から66日目までは家庭菜園に日が及ばないことが分かります。夏至や冬至の日は年によって若干異なりますが、夏至の日を6月21日だとすると、66日目は8月25日になります。また66日前までの期間も日影が短くなっています。これは、4月16日です。つまり、この物件は4月16日から8月25日までの期間は家庭菜園に日が当たるということが分かります。
この時期に日が当たれば、小松菜、じゃがいも、スイカ、トマト、きゅうり、ゴーヤなどを育てることができます。一定日影になることが分かっても、これらの野菜を育てられることが判明すれば、この物件に興味を示す可能性がみえてきます。
まとめ
南側に建物が建っている物件は、どうしても日影の影響は否めません。それでも漠然と「冬場は暗いかもしれません」と説明するよりは、何月何日頃から、このリビングに影が落ちてきますと説明をする方が、お客様に安心を与えることになります。
日影の長さは、実測やシミュレーションによって割り出すことができますから、条件が不利な物件の売却を促進するめためにも、日影の検証に挑んでみてはいかがでしょうか。