個人が所有する私道は、本来、通行権がないと通行することができません。
私道に接する宅地を仲介する場合、通行権の有無を把握しておかないと、買主が通行を禁止されるという事態に巻き込まれるおそれがあります。
私道の通行権について事前に調査すべき事柄を解説していきましょう。
私道にはどのような制限があるのか
私道は、道路という公共性を有している一方で、個人が所有する土地という性格を持ち合わせています。
このため、第三者の通行に対して、さまざまな制限か加えられることがあります。
私道の通行に関してどのような制限をうける可能性があるのかを押さえておきましょう。
通行が可能なのは所有者が黙認しているにすぎない
土地が道路形状であれば、誰でも自由に通行できると思いがちですが、それは公道に限っての話であり、私道を通行するためには、原則として通行権が必要になります。
実際には、ほとんどの私道において、人や車が自由に行き交っていますが、これは所有者が黙認しているに過ぎないのです。
ただし、公道と公道を接続するような私道において、古くから不特定の人や車が自由に通行できる状態のものについては、道路交通法上の道路に該当するため、たとえ所有者であっても通行を拒否することはできません。
したがって、特に通行権が問題となるのは、特定の人しか利用しない袋地状の私道です。
私道の所有者が、自由な往来が好ましくないと考えて、第三者の通行を禁じた場合、原則として、周囲に道路がない場合の「囲繞地(いにょうち)通行権」、後述する「通行地役権」、賃貸借契約や使用貸借契約を締結した「賃借権等の債権契約上の通行権」のいずれかを有していないと通行できません。
ただし、これらの通行権がない場合でも、建築基準法の道路で、通行が日常生活上必要不可欠となっているといった事情があれば、通行の自由権を認められることがあります。
所有者は物理的な通行禁止措置が可能
位置指定道路や二項道路などの建築基準法上の位置づけがある道路の上には、建築物を建てることはできません。
建物がある土地においては、門、塀、フェンス、設備も建築物として定義付けられているので設置することはできません。
しかし所有者は、これらに該当しない工作物であれば、第三者の通行を禁止する措置をとることができます。
たとえば『関係者以外立ち入り禁止』という立て看板を設置することは可能です。
あるいは、特定の通行者に対して通行禁止を通知することもできます。さらにICタグ認識によるゲートを設置することも可能です。
他人が所有する私道の通行権はあるのか
私道は、一本の道に接する土地の所有者が共同所有していることがあります。
たとえわずかの所有区分であっても、所有権があれば通行権はあると解されますから、自由に通行することができます。
それでは、他人が所有する私道であればどうなるでしょうか。
はたして通行権があるのか否かについて解説をしていきましょう。
黙示の通行地役権がある
次のような土地を購入した場合、通行権はどうなるでしょうか。
この土地が四区画の分譲地として販売されたものであり、長年にわたって売主Aがこの私道を利用してきたのであれば、他の所有者が利用することを容認してきた黙示的な通行地役権が設定されたと考えられます。
通行地役権は、土地に付随する権利であるため、所有権が移転すると通行地役権も移転するという考えが一般的です。
したがって、買主が公道に至るまでのこの私道を自由に通行することは可能であり、たとえ私道の所有者であっても妨げることはできません。
車の通行は別
しかし、通行権があるケースであっても、車の通行が認められるのかは、別の観点からの検証が必要になります。
たとえば、売主がこの道路に車を乗り入れていなかった場合、買主が車の通行を規制される可能性は十分にあり得ます。
あるいは、道路の所有者同士が、宅地内にガレージの設置禁止の取り決めをしていた場合、たとえそれが法的根拠のない取り決めであったとしても、車の出入りが認められない可能性があります。
物理的に阻止されることもある
売却地の買主が私道所有者の意向に反して、車の出入りをした場合、BやDの所有者が、自己所有地に車やバイクを停めたままにしたり、車止めを設置したりといった対抗措置をとることがあります。
長時間路上に車を停めた場合、車庫法に抵触するものの、道路交通法上の駐車違反にはなりませんから、レッカー車によって強制的に移動させることはできません。
したがって、私道所有者の意向を無視して車の出入りを強行することは、事実上不可能です。
こうした袋地状の私道において、ストレスなく生活するには、私道所有者とのコミュニケーションが不可欠です。
言い換えれば、私道に接する土地での生活環境は、私道所有者の性格や思考に大きく左右されるということです。
中には、コミュニケーションを頑なに拒否する所有者もいますから、こうした物件を仲介する際には、考えられるリスクを買主に十分説明をすることが不可欠です。
まとめ
通り抜けが可能で、長年道路として多くの市民が利用してきたものであれば、たとえ私道所有者が強硬に通行拒否をしても、社会的に認められることはありません。
反対に強硬な通行止めをしたことで往路通行妨害として摘発されることもあります。
しかし、袋地状の私道のように、そのエリアの住民のみが利用している私道においては、所有者の意向が大きく反映されることになります。
私道所有者が車の通行を認めていないにもかかわらず、重要事項説明でその点にふれないまま売却をすると、買主から契約不適合として、契約の解除や損害賠償を求められる可能性があります。
このような土地を仲介するに際しては、事前に通行権の有無の確認はもとより、車の通行についても容認されているのかを調査しておきましょう。