埋蔵文化財包蔵地の土地では、建築をする際に事前に発掘調査が行われることがあります。
ところが、こうした事情を買主が理解していないと、大きなトラブルに発展しかねません。この記事では、埋蔵文化財包蔵地の土地は、どんな点に注意して売却をすればいいのかを解説します。
埋蔵文化財包蔵地とは何か
埋蔵文化財包蔵地は、地中に文化財が埋蔵されている土地とその周囲の土地を指します。
既に遺跡などが発掘されたエリアの周辺地であり、面的な遺跡や埋蔵物が発掘される可能性が高い場所です。
埋蔵文化財包蔵地に指定された区域は、既に埋蔵文化財が発掘された実績のある地であることから「周知の埋蔵文化財包蔵地」として、市町村の教育委員会などで遺跡地図としてその範囲を知らしめています。
埋蔵文化財の対象は、石器時代から江戸時代にかけてであるために、全国の都道府県にくまなく指定された地域が散らばっています。
埋蔵文化財包蔵地で工事をする際の手続は
埋蔵文化財包蔵地で土の掘削を伴う工事を行なう場合は、事前に届出が必要です。届出後にどのような展開になるのかみていきましょう。
着工前に届出をする
埋蔵文化財包蔵地で住宅の建築や開発工事などを行う場合は、文化財保護法の規定によって、工事着工の60日前までに埋蔵文化財発掘の届出を行う必要があります。
届出後に調査方法の通知がある
埋蔵文化財発掘の届出後は、文化財保護課が工事場所及び工事範囲、建物基礎構造から調査方法を判断したうえで届出者に通知します。それぞれの状況に応じて次の4種類の調査方法になります。
慎重工事
遺跡への影響がほとんどないと判断された場合は、慎重に工事をするよう指示されます。
立会調査
小規模な工事は、掘削の際に調査員が立ち会います。調査によって影響がないと判断されれば、ただちに工事着工ができます。
試掘調査
遺跡の有無や残存状況を確認して、発掘調査の範囲を決定するとともに調査に要する期間や費用を算定するために行う調査です。
発掘調査
試掘調査の結果から、工事を進めると遺跡が破壊されると判断された場合に実施します。埋蔵文化財包蔵地に影響のある範囲をすべて発掘調査します。
埋蔵文化財包蔵地で工事をすると何が起こるのか
物件が埋蔵文化財包蔵地にあれば、重要事項説明書の関係法令一覧で「文化財保護法」の欄にチェックマークを入れます。
しかしこの際に、工事着手時に起こり得る展開を買主に十分に説明しておかないと、後にトラブルに発展する可能性があります。
埋蔵文化財包蔵地で工事をする場合、どのような事態が起こる可能性があるのか解説をしていきましょう。
工事着工が大幅に遅れる
試掘調査の結果、本格的に発掘調査を行うことになれば、3カ月~1年程度は、工事に取り掛かることができません。
発掘費用の負担が発生する
発掘調査の費用は土地所有者が負担します。ただし予定建築物が個人住宅であれば、国からの補助金が出るので影響はありません。しかし建築予定物がマンションなどの事業用であると、補助対象にならないため、1平方メートル当たり約5万円を負担することになります。
地盤改良が行えない
土地が軟弱地盤であっても、埋蔵文化財包蔵地だと通常実施する地盤改良が行えないことがあります。この場合、擁壁を築造して盛り土をしたり、建物の規模を縮小したりすることになります。
古墳の上だった
文化財保護課の調査によって、当該地がかつての古墳の上にあることが判明することがあります。買主によっては、墓の上に家を建てることに抵抗を感じる人もいます。
埋蔵文化財包蔵地でトラブルなく売却するには
埋蔵文化財包蔵地の物件は、工事着工前に発掘調査が行われるリスクがあるために、スムーズに売却できないことがあります。また無事に売却できたとしても、買主に埋蔵文化財包蔵地であることの認識がないとトラブルに発展しかねません。この項では、埋蔵文化財包蔵地の物件をトラブルなく売却する方法を解説します。
重要事項説明では分かりやすく説明をする
埋蔵文化財包蔵地の物件は、重要事項説明書で「文化財保護法」にチェックマークを入れますが、これだけだと、ほとんどの人が何のことか理解できません。
埋蔵文化財包蔵地で建築工事をすれば、どのような事態が想定できるのかを丁寧に説明しましょう。発掘調査によって着工が伸びるといった負の情報ばかりでなく、個人住宅には補助金が出ることを説明しておけば、買主の安心材料にもなります。
現況の建物が建った経緯を調べる
都市によって時期は異なりますが、概ね1970年以降に建った建物であれば、建築確認済証に文化財保護課の付箋や意見書が添付されていることがあります。現況の古家の着工前に何らかの判断を下した痕跡があれば、今回改めて本格的な発掘調査を行う可能性は低いといえます。
歴史的背景を紹介する
埋蔵文化財包蔵地域の物件は、着工が遅れる可能性があるために、購入を見合わせる人がいます。しかし、それにもかかわらず、地価が大きく下がらないのは、埋蔵文化財包蔵地にロマンを感じる人がいるからです。
かつての集落跡や城館、あるいは石器や土器など、古代の人間活動に思いを馳せることで、心地よい居住環境を生み出すことも可能です。
文化財保護課の職員からのヒアリングや図書館、郷土資料館などの資料から、売却地がどういった歴史的背景があったのかを説明を添えることで、土地に対する愛着が増し、トラブルを未然に防ぐ役割を果たすことがあります。
まとめ
埋蔵文化財包蔵地で建築工事をするからといって、必ずしも発掘調査が行われるとは限りません。
市町村の文化財保護課では、埋蔵文化財包蔵地域内の位置や建物規模によって、どんな調査を行うかについては、ある程度の目途を立てています。
その中には明らかに「慎重工事」の指示のみが出される場所もありますから、あまり悲観的になる必要はありません。
一般的には建築確認申請書を作製した段階で建築士が文化財保護課の窓口を訪ねるのですが、売却前に職員からヒアリングをして、発掘調査の可能性を推し量っておくことも埋蔵文化財包蔵地の物件をトラブルなく売却できる有力な方法のひとつです。