既存住宅瑕疵保険の利用状況と流通市場の問題点

中古住宅の流通比率が欧米に比較しまだ少ない日本です。

流通比率を高め中古市場の活性化を図るため、さまざまな施策が試みられています。

「既存住宅売買瑕疵保険」もその政策の1つとして捉えられますが、利用率があまり高い状況ではありません。

ここでは既存住宅売買瑕疵保険のしくみと、利用が少ない原因について分析し、中古住宅流通市場の問題点と改善方法を解説します。

既存住宅の売買における瑕疵担保の状況

既存住宅(中古戸建・中古マンション)の瑕疵担保については、2020年施行の改正民法により「契約不適合責任」と名称および概念が変わりました。

売主が宅地建物取引業者の場合は以前と変わらず2年間の契約不適合責任(旧 瑕疵担保責任)を負います。

一方売主が宅建業者以外の場合は、特約により瑕疵担保責任の期間を短縮または無責とすることが一般的です。

住宅には新築時に10年保証が義務づけされており、築10年未満の場合は新築時の10年保証が適用されるのですが、保証をおこなっている建設会社や分譲会社によって転売の場合は、10年保証を適用しないとするケースもあります。

また転売特約により新築時の10年保証が適用される場合でも、転売者がおこなったリフォーム工事などにより発生した不具合については、新築時の事業者に10年保証の義務はありません。

以上のように既存住宅に対しては売買時の状況に応じて、引渡し後の瑕疵について買主保護の観点から、何らかの瑕疵を担保する方法が必要となっています。

その方法の1つが既存住宅売買瑕疵保険です。

既存住宅に関する瑕疵保険の種類としくみ

上記のように万が一売買した物件において買主にとって契約目的を果たせない不具合などがあった場合、保険によって保証するのが「既存住宅売買瑕疵保険」です。

既存住宅売買瑕疵保険のしくみ

既存住宅売買瑕疵保険は次の5つの法人が国土交通大臣の指定を受け、保証保険事業をおこなっています。

既存住宅(中古戸建・中古マンション)の性能について専門家が検査し、合格すると保険を付保できるしくみであり、売主および保険を受ける被保険者の違いにより次の3種類の保険コースがあります。

1. 宅地建物取引業者が売主-宅地建物取引業者が被保険者
2. 一般個人が売主-仲介会社が被保険者
3. 一般個人が売主-検査事業者が被保険者

売主が自らの意思で保険の申し込みをできるのは「宅建業者が売主」の場合だけで、一般個人が売主の場合は売主または買主が、仲介会社や検査事業者に依頼し申し込みします。

保険期間は最長で5年間です。

既存住宅売買瑕疵保険の申込方法

売主が宅地建物取引業者の場合は2年間の契約不適合責任を負いますので、リスクヘッジの目的で既存住宅売買瑕疵保険に加入するケースは少なくありません。

宅建業者は売主であり被保険者になるので、前述のとおり申し込みは自らおこないます。

申し込みが面倒なのは売主が一般個人の場合です。

保証保険を付けたいと希望する場合、売主が希望するケースと買主が希望するケースの2とおりあります。

 

売主が希望するケースは、保険適用のためにリフォーム工事の必要がないなど、特別な費用負担の可能性が低い場合に限られることが多いです。

一方買主が希望するケースは実際には多いと思われますが、買主の希望で保険加入ができるシステムにはなっていません。

保険の申し込みをおこなうのは仲介会社または検査事業者になります。

そのため売主または買主が保険を希望する場合、まず仲介会社に相談するのが一般的になります。

仲介会社は売主と相談のうえ保険を申し込むことになると、仲介会社が被保険者になるか、検査事業者が被保険者になるタイプのどちらかを選択します。

既存住宅売買瑕疵保険の付保状況

2014年~2018年の既存住宅売買瑕疵保険の付保状況は、下図のとおりでした。

出典:内閣府「既存住宅市場の活性化について」

2018年に付保率が1割超えとなりましたが、売主が宅建業者である物件の付保率が高く、一般個人が売主の物件の付保率は低いと推測されます。

2016年~2017年のデータでは、既存住宅流通量の約2割が売主=宅建業者であり、付保率は3割と推測しています。

これから逆算すると一般個人が売主の物件では、付保率が3%程度以下とみられます。

既存住宅売買瑕疵保険は売主には瑕疵担保リスク低減を図ることができ、買主には取得後のトラブル防止や安心感を与えるメリットがありますが、残念ながら非常に低い付保率になっているのが現状です。

既存住宅売買瑕疵保険が抱える問題点

既存住宅瑕疵保険,利用状況

付保率が低い理由としてあげられるのが次のようなことです。

・検査の結果によりリフォームや修繕が必要な場合、売主の費用負担となる
・上記のリフォームに過大な費用がかかる場合、保険加入を取りやめても検査費用の負担はしなければならない
・リフォームの費用負担分を売買代金に反映させることがむずかしい
・個人間売買では契約不適合責任を無責にするか3か月程度とすることが多く、売主に瑕疵担保責任を負うという考え方がそもそもない

このような理由があり保険をかけるメリットが、売主にあまりないのが大きな問題と言えます。

さらに仮に買主が保険加入を希望したとしても、売主が検査に同意しなければ保険の申し込みそのものができません。

また被保険者は売主や買主ではなく、仲介会社または検査事業者になりますが、検査事業者タイプは売買取引に何の関係もないいわば “部外者” が係わってきます。

このことが制度として馴染みにくく、理解がむずかしい原因になっているとも考えられます。

一方仲介会社被保険者タイプは、仲介会社が売買取引に係わる当事者なので、売主や買主には受け入れやすいしくみですが、仲介会社にとっては事業上のメリットがあまりなく、積極的に保険を付保しようとする意識は働かないと言えるのです。

既存住宅流通促進の改善方法

既存住宅流通促進の観点から、一般個人が売主の物件について、既存住宅売買瑕疵保険はどのように位置づけられるのでしょうか。

一般的に木造住宅は築20年~25年を過ぎると、建物の評価額はほとんどゼロに近い算定となります。

しかし2000年基準で建てられた住宅が本年は築20年となり、その評価の方法を変える必要があるのでは思います。

1981年の新耐震基準は2000年に改正され、より耐震性能を高め耐久性能も大幅に向上させたのです。

もはや木造住宅は “築25年で評価ゼロ” とは言えないレベルにあり、流通市場においても適正な評価が得られるシステムを必要としています。

住宅の健全性を点検調査し一定レベルにある住宅で、適切にメンテナンスをおこなってきた物件は、相応の売買価格で取引されるしくみが必要です。

既存住宅売買瑕疵保険はそのしくみを担保する重要な制度と言えます。

瑕疵保険の付保率を高めるには売主にとってインセンティブが必要でしょう。

・売主が負担するリフォーム・修繕工事の資金調達を可能にする融資制度の創設
・リフォーム・修繕工事により上がった価値を売買代金に反映させる評価方法の創設

このような制度の整備により良質な既存住宅が正しく評価され、流通が促進されるしくみ作りが大切です。

まとめ

新築住宅は10年保証が義務化されていますが、中古住宅には何の保証もないのが現在の実態です。

個人が売主となることが多い中古住宅では、売主に保証責任を負わせることはむずかしいことです。

しかし買主の立場からは何らかの保証がほしいのは現実です。

売主と買主の保証に関する意識の違いを、第三者の保証によって調整するのが、既存住宅売買瑕疵保険の役割と言えます。

使い勝手の悪い現状の保険制度では、利用する売主の増加は望めません。

抜本的な保証保険制度の改善が望まれます。

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