賃借人との間で立ち退きを合意したにもかかわらず、賃借人が建物から退去しない場合には、法的手続による明け渡しの実現を検討する必要があります。
具体的には建物明渡請求訴訟を提起するということになりますが、どのような流れで手続きが進むのかについては、馴染みのない方も多いでしょう。
この記事では、建物明渡請求訴訟の流れや、それに伴う弁護士への依頼などについて詳しく解説します。
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1. 建物明渡請求訴訟の流れ
建物明渡請求訴訟を提起する場合の流れについて解説します。
①まず弁護士に相談する
訴訟は専門性の高い手続きになりますので、まずは弁護士に相談をして、現在自分が置かれている状況について話を聞いてもらいましょう。
弁護士との相談の中で、訴訟においてどのような主張をすべきか、どのような根拠に基づいて建物の明け渡しを請求できるかなどを整理・検討した上で、訴訟の準備を進めていくことになります。
②裁判所に訴状を提出する
建物明渡請求訴訟は、裁判所に対して訴状を提出することにより開始します(民事訴訟法第133条第1項)。
訴状においては、請求の趣旨と原因を記載することになります。
「請求の趣旨」は、訴状を提出する人(原告)が裁判所に対して求める判決の内容を記載します。
建物明渡請求訴訟の場合は、「被告は原告に対し、建物を明け渡せ」となります。
「請求の原因」としては、請求の趣旨を基礎付ける要件事実を記載することになります。
賃貸借契約の終了に基づく建物明渡請求訴訟の場合は、以下の事実を記載することになります。
・賃貸借契約が終了したこと
・賃借人が建物を占有していること
また、明渡期限を過ぎて賃借人が建物を占有している場合、それによって生ずる損害の賠償についても、同様の要領で訴状に記載することになります。
③主張書面(準備書面)の作成・証拠の準備、裁判所への提出
訴状を提出したら、第1回口頭弁論期日の前に、原告の主張をまとめた書面(準備書面)を作成して裁判所に提出する必要があります。
訴状には請求を基礎付ける最低限の事実を記載しますが、準備書面においては、より具体的かつ詳細に原告の主張を記載することになります。
また、訴状や準備書面において主張する事実を裏付ける証拠についても併せて準備の上、裁判所に提出する必要があります。
建物明渡請求訴訟の場合、必要となる証拠としては以下のものが挙げられます。
・建物賃貸借契約書
・賃貸借契約の終了に関する書面(立ち退き合意書など)
また、賃貸人と賃借人のあいだのやり取りの記録が残っていれば、補強的な証拠として提出することもできます。
準備書面と証拠の準備は早めに行うに越したことはないので、訴状の提出前から少しずつ進めていくことになるでしょう。
④第1回口頭弁論期日
準備書面と証拠が出揃ったら、裁判所が指定した期日において第1回口頭弁論が行われます。
第1回口頭弁論期日では、裁判所が原告と被告の言い分をそれぞれ聞き、判決の内容を決めるための判断材料とします。
第1回口頭弁論で議論が出尽くさなければ、第2回以降の口頭弁論が設定されることもあります。
しかし、特に事実に争いがない場合には、第1回口頭弁論期日で審理が集結するのが通常です。
なお、第1回口頭弁論期日において被告が欠席した場合、特に被告から準備書面等が提出されていなければ、原告の言い分が全面的に認められることになります。
⑤ 判決、確定
訴訟における審理が尽くされた後、裁判所により判決が言い渡されます。
判決文は被告に対して送達され、送達から14日後に判決が確定します。
原告の請求が認められた場合、原告は確定判決を債務名義として強制執行の手続きを申し立てることができるようになります。
2. 建物明渡請求訴訟の弁護士費用は?
建物明渡請求訴訟の処理を弁護士に依頼する場合、どのくらいの費用がかかるのかについて解説します。
実は、弁護士費用については決まった基準はなく、各法律事務所が自由に報酬金額を定めています。
そのため、報酬金額や算定方法は法律事務所ごとに異なります。
ただし、多くの法律事務所では、①着手金、②成功報酬の2段階で報酬が発生するシステムを取っています。
着手金は弁護士に正式に依頼をする時点で支払い、成功報酬は訴訟等により明渡が成功した時点で追加で支払います。
それぞれの金額は、着手金が20万円~40万円、成功報酬が20万円~60万円の範囲に収まっている例が多いようです。
詳しくは弁護士に確認してみましょう。
複数の弁護士に相談して、費用を比較してみることも有効です。
3. まとめ
建物の明け渡しを賃借人が拒否している場合には、明け渡しの手続きにも手間がかかってしまいます。
早めに問題を解決して不動産経営を円滑化するためにも、弁護士に相談して、アドバイスを求めてみてはいかがでしょうか。