賃貸管理業において避けて通れないのがクレーム対応だ。
最近、多くの管理会社の代表のかたや幹部のかたから話を聞くと、「管理業務の効率化」、「収益性の向上」に興味を持っているかたが多いことに気付く。
しかしながら、実際に賃貸管理業を行っている現場のメンバーからヒアリングすると、「クレーム対応が多くてなかなか業務効率を上げる取り組みができない」、「クレーム対応で一日の大半の時間が経過する」という話をよく耳にする。
経営層や幹部陣は「効率化」「生産性向上」を目指しても、現場にはなかなか浸透しないことが多いのは、この現場のクレーム対応時間に原因の一端があるように感じる。
ちなみに私自身、こうした賃貸管理事業の収益向上のための方法を依頼された場合、まず現場のクレーム対応の方法、そしてそれに関っている時間をヒアリングする。そしてクレーム対応のマニュアルを持っているかどうかの確認も行う。
興味深いことだが、賃貸管理業務が社内で標準化でき、かつ様々なツールを導入し、収益性が向上している管理会社は、ほぼクレーム対応のマニュアル化がなされている。現場のクレーム仕事を軽減することで、生産性向上を図っているということだ。
そこで今回は、賃貸管理業のクレーム対応をマニュアル化するためのステップを紹介したい。もしこうした対応マニュアルがない管理会社は是非参考にしてみてほしい。
賃貸管理業のクレーム対応をマニュアル化する方法とは?
1. クレーム対応の基本方針を明確にする
まず、クレーム対応の基本的な考え方や目的を社内で共有する必要がある。
「顧客満足度の向上」「迅速かつ適切な対応」「トラブルの再発防止」など、管理会社としての方向性を具体的に示すべきだ。この方針を全社員が理解していなければ、対応に一貫性がなくなり、さらなるトラブルを招く原因となる。
2. クレームの分類を体系化する
賃貸管理のクレームには「緊急性」「発生原因」「解決難易度」などの違いがある。これらを分類し、それぞれに対応する適切なフローを設定する必要がある。例えば以下のように分けると良いだろう。
緊急度が中程度のクレーム:騒音トラブル、ゴミ出しマナーの問題など
緊急度の低いクレーム:契約内容の確認、不満や提案など
分類によって、誰が対応すべきか、どの程度のスピードで対応するべきかを明確化する。
3. 対応フローを可視化する
入居者からのクレーム対応には迅速さと正確さが求められる。そのため、具体的な対応フローを視覚的に整理し、誰がどのタイミングでどのようなアクションを取るべきかを示す必要がある。例えば以下のようなフローを設定する。
- 受付:電話、メール、対面などでのクレームの受理。
- 分類:緊急度や内容に応じたカテゴリ分け。
- 一次対応:現場確認、簡易的な解決策の提案。
- 二次対応:専門業者や管理会社への依頼。
- 報告・記録:対応内容を記録し、関係者に報告。
- フォローアップ:クレームを発生させた根本原因の解消や再発防止策の検討。
これをフローチャートやテンプレートとして視覚化し、現場で活用しやすい形にすることが重要だ。
4. FAQとテンプレートの整備
多くの入居者からのクレームは、一定のパターンに収束することが多い。そのため、過去の対応事例を蓄積し、よくあるケースに対する回答例や対処法を「FAQ」や「対応テンプレート」として整備する。例えば、「漏水が発生した場合の初動対応マニュアル」や「近隣トラブルに関するテンプレートメール」などがあると、迅速かつ適切な対応が可能になる。
5. 社内外の連携体制を構築する
クレーム対応には、自社内だけでなく、外部の専門業者や関係機関との連携も欠かせない。例えば、設備のトラブルには設備業者、法律トラブルには弁護士など、それぞれ適切な専門家と迅速に連絡が取れる体制を構築する必要がある。また、社内でも各部署間の連携をスムーズにするために、情報共有のルールを明確にしておくことが求められる。
6. 記録・分析の徹底
対応履歴をすべて記録し、定期的に分析することが必要だ。記録は単なる報告書ではなく、「どのようなクレームが発生しているか」「どの対応が有効だったか」を把握するためのデータとして活用したほうが良いだろう。この分析を基に、再発防止策の策定やマニュアルの更新を行う。
7. 教育・トレーニングの実施
いくらマニュアルを整備しても、現場の担当者が理解していなければ意味がない。新入社員向けの研修や定期的なトレーニングを実施し、クレーム対応スキルを向上させることが求められる。ロールプレイング形式で実際の対応を練習させることも効果的だ。
8. 対応後のフォローアップの重要性
クレーム対応は、単に問題を解決するだけでは不十分だ。その後のフォローアップによって、顧客の満足度を回復し、信頼関係を維持することができる。「その後問題はないか」「改善策が有効だったか」を確認するプロセスを組み込んだほうが良いだろう。
9. 定期的なマニュアルの見直し
実際には、クレームの内容や社会情勢は時代とともに変化する。マニュアルも定期的に見直しを行い、新しい状況に対応できるよう更新する必要がある。過去の対応事例や最新のトラブル傾向を反映し、現場の声を取り入れることで、実効性の高いものにするべきだ。
これらを実行することで、賃貸管理業におけるクレーム対応のマニュアルを効果的に整備することができる。マニュアル化は単なる文書化ではなく、現場で実際に役立つツールとして機能させることが最も重要だ。また冒頭で紹介したようにこうしたマニュアルを作成することが、より賃貸管理業務の生産性、収益性を向上させる最初のステップになり得る。是非参考にしてみてほしい